オレは、学に言いつけられた理科室の掃除を終えて帰るところだった。
しかし、Aクラスの二人は教会に掃除しに行ってるようで。
二人の帰りが遅いから、そちらも手伝えとのお触れが出た。
しかし堀北の担当である、美術室は想像以上に大変だったようだ。
そちらは生徒会でフォローし、オレ一人で教会に足を運んでいるというわけだ。
恐らく正規のルートでないところから来てしまったのか。
入口が見つからずキョロキョロと教会の近くを彷徨っている。
この施設、思ったよりも大きいな、と思索していると、入口らしいドアが半開きになっている。
そのドア越しに聴こえる、耳触りの良い神父の声。
どうやら、静希が神父と何やら話しているようだ。
静希が、告解室に入っていく。
告解。罪を神に告げることで、神からの赦しをえる行為。
ある意味では、人間は罪を犯す生き物であるということが前提にあり、
従って。
告解とは、ある種では最も人間らしい行為と言える。
オレは聞き耳は良くないと思いつつも、この雰囲気で入っていくのは気まずいし、静希の話に関心が湧いてしまったため、思わず立ち止まり聴き入ってしまう。
学が言ったこと。
オレと静希は、経歴が似ているらしい。
だからこそ、彼のことに少し興味を持ってしまった。
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「では、私から静希君にお尋ねします」
「貴方はなぜ、山から下りてきたのですか?」
「山の中にいれば、貴方は幸せだったでしょうに」
無言。
それが俺の回答だった。
永遠にも感じる時間。
ともすれば、このまま朽ち果ててしまいそうな。
長い無言が二人の間を貫く。
だが、俺は直感で、この神父からは逃れられないことを本能的に確信していた。
故に、観念して告解しようとしたまさにその時。
「ふぁ~」
と小さく、かわいらしくあくびをかきながら、少女が目覚めた音。
その声に、俺は幾らか安堵する。
この神父との約束は、有栖が起きるまでの時間までのはず。
「彼女が起きてしまいましたね」
神父はそう告げる。
「では、続きはまたいずれ」
そう言い残し、彼は告解室から離れた。
俺も、無言で部屋を出た。
「有栖、少し疲れたかい?」
「はい。普段、肉体労働はあまりしませんので」
「なら、もう帰ろう。掃除も終わったんだ」
神父も頷いている。
有栖は眠気眼をかきながら。
「そうですね。じゃあ、おんぶしてください」
と、珍しく甘えてきたのだった。
「じゃあまた。教会はいつでも、迷える子羊を歓迎しております」
そう神父に言われ、合田教会(後から知った名だ)を後にする。
有栖は本当に疲れているのだろう。
大人しく運ばれるのを、よしとしているようだ。
「有栖、さっきはありがとう」
「なにがです?」
「俺が神父からの質問に答えられないときだよ。わざと声を出してくれただろ?」
「そんなの知りません。寝てましたから」
あくまで有栖はこのスタイルを貫くようだ。
俺も、その方が助かる。
もしかしたら、そのちょっと前から寝たふりだったのかもしれないな。
暫く無言で歩く。
背中には確かな温かみがある。
しかし、心配になりそうなほど彼女の体重は軽い。
「ですが、もし」
有栖が、歌うように告げる。
「もし、私の寝言で。静希君が助かったと思っているのなら。いつか私が困ったとき、助けてください」
彼女はそう告げた。
いつも思う、彼女の優しさに救われていると。
きっと、俺に余計な重荷を感じさせないようにと。
あくまで貸し一つとしてくれた。
これ以上、気にしなくていいと優しく伝えてくれた。
「もちろん。約束だ。魔法使いが相手でも、絶対に助けにいくよ」
掃除用具を指定された場所に返し、あとは自由時間。
生徒会長から報酬として一人5000ポイントいただいたので、有栖と食料の調達を開始する。
もう昼ご飯にしては少し遅いので、軽く食べて夕飯に備えるといった形だ。
二人での夕飯はつつがないものだった。
ちょっとした探検だったからか、いつもより有栖はお疲れの様子で、俺の部屋で本当に眠ってしまった。
明日も休みのため、これはこれで構わないのだが、男女が同じ部屋に寝るのがよくないのもまた事実。
俺はどうしようかと懊悩していると、葛城から話したいので部屋を訪ねてよいかとの電話が。
渡りに船と思い、そちらの部屋なら大丈夫と返答すると、いつでも来てくれとのことで、有栖をベッドに寝かせ、書置きしてそっと部屋をでる。
葛城が門限ギリギリに部屋に呼ぶということは、可及的速やかに話したいことなのだろうか。
「最近生徒会長とよく一緒にいるらしいな」
開口一番それだった。
「たまに絡まれるんだ。ちょっと迷惑してる」
今日会ったことも話した。生徒会の命令で教会を清掃したことだ。
「俺も、会長に名を覚えていただきたい。俺は生徒会に入りたいんだ」
「葛城なら入れるんじゃ?」
「そう思うか?本当に?」
眼をくわっと開いてそう訊いてくる。
「まあ、そう思います」
「なら一生のお願いだ!堀北会長に、葛城康平の存在を伝えてほしい!!!」
まあ、それくらいなら。
ありがとう、としきりに感謝された。
その後は世間話をして過ごした。
定期試験も、葛城が中心になって俺のような勉強ができない勢の面倒を見てくれるらしい。
葛城の明るさを目の当たりにして、教会で訊かれたことを忘れてしまった。
忘れたことにした。
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静希と坂柳が帰ったのを見計らい、オレも教会を後にする。
しかし。
「盗み聞きは、よくありませんよ」
そう、神父に捕まり、普通に道徳を説教されてしまい、帰宅が少し遅れた。
「君も迷える子羊のようだ。また、いつでもいらっしゃい」
帰路につきながら考える。
静希は言っていた。
電気の通らない場所から来たと。
時計のない場所で生きてきたと。
とてもすごい田舎だったのだろう。
毎日、本当に大変な生活だったのだろう。
だが、しかし。
現代日本で、本当にそのような所が残っているのだろうか。
確かに、悪魔の証明ではある。
無いことの証明は難しい。
しかし、常識で考えてないだろう。
人は便利なモノを求める。
電気、水道などのインフラが、一切入らずに残った山村が、この21世紀の日本に、本当にあるのだろうか。
もしあるのだとすれば、それは意図的に作られた空間。
誰かが意図的に調整し、隔絶山村を形成し、その中で子供を教育していたとしたら。
それはもう。
あの