『夢』
「静希と鬼頭って仲良いんだな」
5月も中頃。今年の梅雨明けは例年よりも早かったようだ。
夏を想起させる背の高い雲が、照りつける太陽と空の覇権を取り合っている。
入学時にはお互いのことをあまり知らない状態で始まった俺たちだが、当然ながらこの頃にはクラス全員と一度は話したことがある、くらいにはなる。
クラスの隅で二人で談笑していた静希と鬼頭に話しかける。
「やあ、橋本。鬼頭は落ち着いていて、とても話しやすいから」
同級生の鬼頭。上背が高く、強面で、どちらかと言えば無口。
とっつき難いを地で行くようなこの男。
正直に言えば、俺はこいつが苦手だった。
「この前図書室に行った時、鬼頭も本を読んでいてね。その時かな、初めて話したのは」
「そうだな」
鬼頭が同意して頷く。
「鬼頭が、読書ぉ?」
全く想像できない。本よりも、金棒を持っている方が似合っている顔だぞ、と思ったが決して口には出さない。
「それまでも二、三回は図書室で見かけたからね。鬼頭はそこそこ常連なんだと思う」
「俺は雑誌が好きだからな」
鬼頭は雑誌が好き。それも知らなかった。
自称、情報通を謳っている(誰もそうは呼んでいないが)俺も、知らないことはまだまだあるモンだ、と心の声で独りごちる。
「なんの雑誌を読むんだよ?」
さぁ?と首を傾げつつ目線で鬼頭を見る静希。
鬼頭は少々躊躇いつつも、観念して自白した。
「…ファッション雑誌だ」
ファッション!?
「ファッション?」
「俺はファッションデザイナーになるのが夢だからな」
ファッションデザイナー!?
「へぇ、鬼頭はファッションが好きなんだね」
(いやツっこめよ!!!!!)
静希はいつも通りの笑顔でそう答える。
いやいやいや、おかしいだろ!この顔でファッション雑誌だぁ?
車、腕時計、バイクとか、漢らしさ全開!みたいに押し出した雑誌の方がまだ理解できるぜ!
俺が混乱の渦中にいる中、淡々と会話は続いていく。
「静希は何とも思わないのか?」
「と言うと?」
「俺がそんな雑誌を読んでいることだ」
うーん、と静希も考えている。
「すごいなって思うよ」
それは意外は言葉。
「すごい?俺が?」
「うん、素直にそう思うよ」
なぜ、と訊きたいのか、鬼頭は黙って言葉の続きを促す。
「自慢じゃないけれどね。俺はファッションについては疎い自信があるんだ。今思うと馬鹿みたいなんだけど、入学式の日に乗ったバス内で、赤い服を着た人が沢山いたんだ。 その服を、俺は都会で流行している衣服だと思っていたんだけど、実はこの高校の制服だったんだよ」
「「は?」」
俺と鬼頭は声を合わせて唖然。
「いつか、俺も都会のファッションについては勉強しなきゃと思っていたんだ。だから、俺の知らないことを知っている鬼頭がすごいと思ったんだ」
あくまで冗談でなく。
こいつはそう言った。
「静希、お前…」
鬼頭も流石に憐れんでいるようだ。
というか本当に自慢じゃない。
「それに」
無垢な青年には、まだ続きがあるようで。
「夢を持っているのが凄いなって。そう思ったんだ」
後日談。
俺、鬼頭、静希の三人で、服を買いに行った。
鬼頭は悔しいが、確かにオシャレだった。