そして舞台が始まり、有希子と蘭と雪泉はキラキラした顔で舞台に見入り、闇影は「ほう〜。」と感心した様子で同じく舞台に見入っていたが……
新一「ふあぁぁ〜。」
蘭「ちょっと!せっかく来たんだから、まじめに見なさいよ!」
新一だけはあくびして、つまらなさそうにしていてそれを蘭に咎められた。
新一「こんなんどこが面白いんだよ?ギリシャ神話に引っかけたラブコメだろ?」
闇影「それは聞き捨てならないな。」
雪泉「ええ、全くです。」
アリサ「同感ですね。」
新一「えっ?」
新一の言葉に、闇影と雪泉とアリサは眉間にシワを寄せて睨みつける。
闇影「この舞台が出来るまで、脚本家は何十回下手すれば何百回と台本を書き直し、舞台に立つ者はこれまた何百回とリハーサルをしてきたはずだ。」
雪泉「それだけではありません。衣装さんや大道具さん、その他大勢の人がこの舞台の成功を願って頑張ってきたんです。それなのにその言い方はなんですか?」
新一「あっ、いや…(汗)」
アリサ「君に分かりやすく例えてあげるわ。先ほど舞台裏で蘭さんから聞いたけど、貴方はホームズが好きらしいわね?」
新一「はっ、はい…。」
アリサ「なら、そのホームズを題材にしたラブコメ舞台があり、当然ホームズ好きの貴方はそれを見に行った。でも、隣の人が『こんなんどこが面白いんだよ?ホームズの話に引っかけたラブコメだろ?』って言われたら、どう思う?」
新一「嫌な気分に…なりますね…。」
闇影「そういう事だ。お前の言った言葉は、この舞台を楽しみにしていた高揚感を落としてしまう発言なんだ。」
雪泉「例え、本当につまらないと思っていても顔に出さず、声に出さず、心の中で思っておくだけにした方が良いですよ。」
新一「はい…すいませんでした。」
闇影、雪泉、アリサに叱れた新一は自分の非を認めて蘭、有希子、アリサに謝罪し、再び舞台に視線を向ける。
そして、舞台はヒース扮するトロイアの王子の正体が大天使ミカエルで、そのミカエルが鏡から出てくる1番盛り上がるシーンに差し掛かっていた。
アリサ(ん?あれは……まさかレーザーサイト!?)
アリサ「有希子さん、ちょっと失礼します。」
有希子「えっ?アリサ?」
舞台上部の席から放たれているレーザーサイトに気づいたアリサは、この場を有希子に任せてレーザーサイトが放たれている席へと向かった。
アリサ「……。誰もいない?」
そして悲鳴が聞こえて舞台を見ると、鏡の裏からヒースが現れているが、当人は胸を撃たれて絶命していた。
アリサ「少し遅かったか。」
新一「おい、あんた何してんだ!?」
アリサ「それはこっちのセリフよ!!武器も持たずにこんな所に来るな!!」
―ゴツンッ!!
新一「痛ってぇ!!そっ、それならあんただって……(泣)」
アリサ「私は最初から犯人と事構えようなんて考えてないわよ。遠目から犯人見て、後から来る警察に証言しようと思ったの。」
新一「なっ、なるほどな。ん?薬莢か。」
アリサ「勝手に遺留品に触れないの!!(怒)」
―ゴツンッ!!
新一「痛ってぇ!!」
アリサに叱れ、頭を殴られた新一は涙目になりながらも側に落ちていた薬莢を発見し、ハンカチに包んで手に取る。しかし、またしてもアリサの逆鱗に触れてしまい、再び頭に拳骨を落とされた。
―数十分後
(本物の)レッドウッド警部とその部下が到着し、警部はヒースが殺害された事に驚愕する。有希子が事件が起きた時の一部始終を話していると……
―ギュッ。
レッドウッド『痛たた!!』
新一「あっ、やっぱり本物か。」
アリサ「やめなさい!!」
―ゴツンッ!!
新一「痛ってぇ!!何回殴るんだよ!?」
アリサ「あなたがダメな事をする度によ。」
レッドウッド『おぉっ、アリサ君。久しぶりだね!!この前の事件では君の証言のおかげで助かったよ!!』
アリサ『いえいえ、一般市民として当然の事をしたまでですよ。』
その後、新一に本物かどうか、頬をつねられはしたが構わずに現場検証を始めた。
雪泉「お兄様、どうしますか?」
闇影「必要最低限関わる。この事件、妙な事が多いからな。」
雪泉「分かりました。」
アリサ「ではまず、その妙な点の洗い出しからしましょうか。」
闇影「っ!?いつの間に?」
アリサ「新一君を叱った後に、4人の女優達の様子を見に行き、それを終えたのでここに来ました。」
雪泉「ではアリサさんも含めて話し合いましょうか。」
その後、アリサが念の為に楽屋での4人の女優達の様子を説明した後、妙な点の洗い出しを始めた。
ー数分後、舞台の端
アリサ「レッドウッド警部から聞いた分と合わせると、妙な点は3つ。1つ目、レーザーサイトの光。」
闇影「2つ目、首元の火傷。」
雪泉「3つ目、かすれた手のひらの血痕。」
アリサ「レーザーサイトの光のせいで、警部達はテラス席から狙撃したと思ってますが、私は違うと思いますね。レーザーサイトで狙えば、確かに狙撃成功の確率は上がりますが、同時に自分の居場所がバレる可能性があります。ちなみにテラス席にあった薬莢は前もって置かれていた物でしょうね。」
闇影「そうだな。そして2つ目の首元の火傷。舞台上では火傷を負うような場所は無い。なのになぜ火傷を負っていたのか?」
雪泉「3つ目のかすれた手のひらの血痕ですが、舞台上のどこにも血痕が付いた所はありません。」
警部から聞いた情報とアリサが見た事をまとめて、考え始める3人。すると闇影が……。
闇影「ん?新一君と蘭さんだな。」
アリサ「全く、勝手に舞台上に上がって!!後でまた拳骨ですね!」
雪泉「まあまあ、抑えて下さい…(汗)」
自分の後ろでそんなやり取りをしているのを無視して、闇影は新一と蘭がやっている事をジッと見ている。
そして蘭が新一から渡された舞台のパンフレットを頭に乗せて、例の守り神と言われている大鏡の前に立つ。
それを見た闇影達は……
闇影「そういう事か。」
雪泉「私も分かりましたよ。」
アリサ「そして、決定的な証拠のありかも。」
その後、〈闇の男爵夫人〉こと工藤有希子が新一から聞いた推理を話し始めて新一と蘭、闇影と雪泉とアリサは舞台袖でその推理を聞いていた。
蘭「ねぇ、新一。その推理、本当にあってるの?間違ってたら新一のお母さん、赤っ恥よ?」
雪泉「もしかして、蘭さんはまだあの4人の女優の中に犯人がいるという事が信じられないんですか?」
蘭「はい。アカネは跪いて、ローズは鏡の前で倒れていて、イベリスは尻餅をつき、リラは立っていましたけど煙で両手は隠れてなかったから、拳銃を出したらバレますよね?」
新一「その上、鏡の裏に隠れていたヒースを撃つ事は不可能だ。」
アリサ「ただし、本当にヒースが鏡の裏に隠れていたらの話ですけどね。」
蘭「えっ?」
闇影「遠目から見ていたが、ヒースの身長は蘭さんの身長に舞台のパンフレットを足した高さだ。だが、パンフレットは鏡からはみ出していた。しかも翼の仕掛けによって、かがむ事が出来ない。」
雪泉「だから、犯人は舞台特有の仕掛けである“あれ”を使用したんですよ。役者が突然現れたり、消えたりする“奈落”を。」
アリサ「ちなみに、この舞台では本来奈落を使う予定なんか無かったけど、急遽使う事になった理由は恐らく、ローズが鏡の上部を傷つけたから。それを見たスタッフ達は傷が付いた所を切り、枠を切り取って調整。だけど切り取った分、長さが足りなくなるから仕方なくヒースとローズに奈落を使う事を話したのよ。」
蘭「でも、奈落なんてありませんでしたよ?鏡の裏の少し横に、変な鉄のフタがありましたけど……。」
新一「バーロー、フタってのはそこに穴があるから付けるんだよ。だから、ああやってドーナツ状の床を動かせば……」
新一が、そういう直前に有希子は指を鳴らす。すると床が動き始め、例の鉄のフタが奈落になった。
そしてその中にレッドウッド警部の部下が入っていくと、薬莢と数枚の羽根を持って出てきた。
蘭「えっと、そこに薬莢があるって事は物凄く近くから撃ったって事?えっ?という事は……」
闇影「そう、犯人は鏡の前に倒れている演技をしていた…」
雪泉「美の女神アフロディーテこと…」
アリサ「ローズ・ヒューイットよ。」
3人がヒース殺害の犯人を言い当てるのと同時に、工藤有希子も犯人を言い当てていた。
蘭「でも、拳銃はかなり上から落ちてきましたよね?」
闇影「ヒースが纏っていた天使の衣装を使えば、それは可能となる。発砲した後に衣装のたるみに拳銃を乗せてヒースが上がり、止まった反動でまるで上から放り出されるというわけだ。だから、ヒースの首元に火傷があったんだ。」
雪泉「そして証拠ですが、これはアリサさんが仰っていた楽屋での話を聞いて分かりました。ローズさんは手袋を付けた状態で、缶ジュースを開けようとしていましたが、おかしいですよね?手袋を取れば簡単に開けれるのに。」
アリサ「それをしなかった理由はただ1つ。彼女の右手の手袋の内側や手に残っているからよ。ヒースの恨みのこもった血の跡がね。これがヒースの手のひらの血痕がかすれていた理由よ。」
ローズの手袋を裏返すと、血の手形が手袋とローズの手に付いており、決定的な証拠があらわとなった。
闇影「ただ、彼女が何故ヒースを殺害したのかは分からないがな。」
雪泉「アリサさんは何か分かりませんか?」
アリサ「恐らくですが、彼女が貼っていた写真に理由があるんじゃないかと。」
新一・蘭「写真?」
アリサ「リラやアカネは彼と仲良さそうな写真を貼っていたんです。でも、彼女が貼っていたのは……」
有希子『エンジェル。貴女が愛していたのは彼じゃなく、彼が演じていたエンジェルよね?』
有希子がそう言うとローズはニヤリと笑い、淡々と動機を話し始める。
ローズ『ええ、だから天使のまま封印してあげたのよ。彼以外の男があの天使役をやるなんて、私にはとても耐えられなかったから。』
ローズが語った動機は聞くに堪えない自己中心的な内容だった。そしてローズは高笑いしながら、連行されていった。
―劇場の外にて
有希子「それじゃ新ちゃん、蘭ちゃん。私、これから警察で事情聴取に付き合わないといけないから。タクシー拾ってホテル行って、蘭ちゃんとチェックインするのよ。」
新一「ああ。」
有希子「あっ、それと例の通り魔には気をつけるのよ。日系の男で長髪らしいから。」
新一「へーい。」
そして有希子はタクシーに乗って警察署へと、向かった。
新一「全く、いつまで経ってもガキ扱いだ。もう高校生だっつーの。」
闇影「日本の法律では高校生もまだ未成年だ。」
アリサ「さらに言えば、アメリカの法律でも貴方は未成年ですよ。」
雪泉「つまり、有希子さんの子供扱いは妥当という事ですね。」
新一「ぐぅ……。」
蘭「言い負かされちゃったね〜新一。」
アリサ「それにしても皆さん、今回は申し訳ありませんでした。せっかく来ていただいたのに、こんな事件に巻き込んでしまって。」
蘭「いえいえ、事件が起きたのはアリサさんのせいじゃないですよ!!」
新一「そうですよ。」
闇影「また来れば良いだけだしな。」
雪泉「ですので、そんなに落ち込まないで下さい。」
アリサ「皆さん、ありがとうございます。」
蘭「それじゃ、アリサさん。」
新一「闇影さん、雪泉さん失礼します。」
アリサ「ええ、またね。」
タクシーに乗り込んだ新一と蘭はアリサに、新一は闇影と雪泉に話しかけた後、タクシーを発進してもらってこの場を後にした。
次に闇影と雪泉が乗るタクシーが到着し、2人が乗り込み…
闇影「それじゃ、俺達もこれで。」
アリサ「はい。また来てくれるのを楽しみにしていますね。」
雪泉「必ず来ます。それでは。」
アリサと2人の会話が終了すると、タクシーは発進し、見送っていたアリサの視界から消えた。するとアリサは『フッ。』と笑うと、その場から離れていき人が全くいない裏路地に入っていく。
アリサ「やれやれ。まさか殺人事件に遭遇するとはね。“依頼内容”に無い事をするのは疲れるわ。」
―ビリビリッ!!
???「フウッ。」
人気の無い裏路地に入ったアリサが顔に手をかけると、ビリビリッと音を立てて変装が破れた。その正体はなんと、黒影から〈剛力破牛拳〉と〈土遁魔蠍拳〉を奪った???だった。
???「さて、依頼はまだ終わってないからね。さっさと“彼女”の元へ向かいますか。」
そう言って???はビルの屋上へと登り上がり、ビルの屋上から屋上へと飛んで移動していく。
推理の時、新一はほとんど話してないやんと思った方、すいません!!
闇影と雪泉とアリサに推理してほしかったので、新一のセリフを削りました。
そして、この話で???の正体が分かると前話で書きましたが、このまま書くとえげつない字数になるので後編を①と②に分けます。申し訳ありません。