雷蛍術師… その役につくファデュイは多くいる。
無論、彼女たちにも個人個人にも名前があり、その中でたまたま不運をもたらす星に目をつけられたのが『カタリナ・シュナイツェフナ』だっただけのこと。
任された任務は層岩巨淵と呼ばれる璃月港の郊外にある大穴の調査……移動は徒歩と経費削減の皺寄せをくらいながらも、偉大なる陛下のために文句ひとつ言わずに向かっていた。
………向かっていたはずだった。
「………ここ…どこ?」
なんで自分は旅館の一室とおぼしき場所で眠らされている?
ご丁寧に布団まで敷いて……
「あ、目が覚めました?」
「!」
視界の端に見慣れない男。誰だコイツ…
「俺、ホシノって言います。えっと、あなたは倒れててこの望舒旅館まで連れてきたんですよ。気分は悪くないですか?」
倒れていた? 自分に何があった?
――― 貴 様 ノ 肉 身 ヲ 貰 イ 受 ケ ル ゾ
「!」
過る記憶。黒い異形、奪い取られた身体、失っていく意識…
全てを思いだした彼女は押し寄せてくる恐怖に跳ね起き、身震いする。あの時、自分は何をされたのだ?
そんな震えるカタリナに察したのかホシノは優しくホシノは背中を擦る。
「大丈夫、取り憑いていた悪い奴は仙人が追い払ってくれましたよ。今はゆっくり休んでくださいね。あ、あとこれ食べてください!」
「…」
仙人? 取り憑いた? 色々と理解が追いつかないが差し出された盆には温かい小粥が乗っている。随分と親切じゃないか…ファデュイ相手に。自分で言うのも難だが、ファデュイはモンドをはじめ、各国で毒蟲が如く嫌われているのが常…そんな存在に料理まで用意してこの男は何を考えているのか?
「あ、フーちゃんが呼んでるんで俺はこれで!食べ終わったら、食器はそのままで大丈夫ですから!」
慌しい男だ。……弟とそんなに歳は変わらないくらいか。
悪意は取り敢えず無いようだが、今度はどう振る舞うべきだろう。
『気にするな、あれに悪意はない。暫く寝ておけ。』
あとなんか喋る仙霊までいる……もしかして、酷い悪夢の中なのかここは?
★ ★ ★ ★ ★ ★
「――逃がすか!」
アントロードを追うショウは霧深い森林の中に侵入していた。かなり望舒旅館から離れてしまってはいるが、ここで取り逃せば次なる事件の火種になりうるだろう。逆に確保出来れば神罰殺人への大きな手掛かりになるのかもしれない……最低でも、捉えられないなら倒すべきだ。
(このままいけば、巣なりアジトなりに着くはず……む?)
しかし、突然にアントロードは逃げるのをやめた。観念したのか、それとも………
「さ、ここからは俺の出番ってわけだな。」
「!」
すると、アントロードの背後からぬるりと人影が現れる。
何者だ? 雰囲気初老とまではいかないが、フォンテーヌ風な紳士の服装と佇まい…だが、顔は夜叉を模した仮面で見ることは出来ない。
彼は『いけ。』とアントロードを逃がすとゆっくりと拳を握り構えをとった。
「一応名乗っとくか。俺は須晶…お前らの敵だ。」
…敵。仮にも夜叉である自分にこの得体のしれない男は挑みかかるつもりか?
見たところ、神の目どころか武器すら見当たらない。――ただ、身体には異様な岩元素を感じるのは何故だ?まるで元素生命体のような……
(―――待て、まさか…)
ふと過る…神の目を持たず、体内に元素力を宿す人間といえば、ホシノもそのひとり。ということは…
その直感の答え合わせをするように須晶は口角をフッと吊り上げた。
「―――変身。」
「!」
弾ける光、ショウですら怯む眩さの中で須晶はその姿を異形地味たそれへと変身させていく。筋肉隆々としたボディに赤い複眼…翼のような角……それは、まるで……
「……アギトだと?」
★ ★ ★ ★ ★ ★
その頃の望舒旅館…
胡桃の努力はなんとか功を奏し…とまではいかずとも支配人を交渉の席に座らせるまでは成功し、粘り強く営業をかけている。しかし、相手も相手で老舗旅館を取り仕切るだけありそう簡単に首を縦には振らない。一進一退、交渉の駆け引きは続く…
まあ、ホシノとしてもそんな場に立ち会っても出来ることはないので厨房を覗き見している。
(これがこの世界の旅館の厨房かぁ…大きいけど、やっぱり冷蔵庫とか電子レンジとかは無いのか。)
「…悪い、気が散るんだ。何処か行ってくれないか。」
「あ、すみません!」
そんな覗き見も台所の主である厳つい大男に追い出され、今度こそやることがない。さて、どうしたものか…
「―――ねえ、アンタ。」
「! うお!? ファデュイの人!」
不意にかけられた声。振り向けば、雷蛍術師…カタリナがそこに。素っ頓狂な声をだすホシノに『私にはちゃんとカタリナって名前があるんだけど…』と溜め息をつく彼女。もう動いて大丈夫なのだろうかという心配をよそにふ〜んとつまらなげに鼻をならす。
「アンタが何者かと思ったけど、本当に呆れるほどのお人好しのようね。一応、礼は言っとくわ。」
「あ、ありがとうございます?」
「ところで、支配人はどこ? さっさと立ち去るべきなのはそうだけど、挨拶ひとつくらいはしとかなきゃね。」
もう出て行くつもりらしい。まだ安静にすべきだろうが、客や従業員など周囲からくる彼女への視線は確かに歓迎のそれではない。ファデュイは鼻摘まみ者とはいえ、仮にも怪我人にあんまりじゃないかとホシノは思うのだが…
「ま、いないなら仕方ないか。私も暇じゃないしアンタから伝えておいてよ。」
「待って、まだ歩きまわるなんて無茶…」
当の本人は慣れっこなのか気にする素振りもなく玄関へ歩いていこうと……
―――ドクン!
「!」
その時、ホシノの脳裏に警鐘が響く。
アギトとしての本能が『敵』の存在が間近に迫っていることを教えているのだ。しかも、1体や2体なんて生易しい数じゃない。
「いけない、皆逃げて!」
『『『シャァァ!!!』』』
もう遅い。旅館の中へ何処からか現れた次々とアントロードの群が雪崩れこみはじめ、一気に旅館内はパニックとなりあちこちで悲鳴があがる。ホシノはなんとか生身で応戦し、カタリナも咄嗟に雷蛍を召喚し放電によって蹴散らす。
「ちょっと、コイツら何処からわいてきたの!?」
「カタリナさんも避難してください!ここは俺が…」
アントロードは単体ならさして強い怪人ではないが、生身の状態でこのように数の暴力で訴えられれば流石にホシノとて手に余る。だとしても、ファデュイであるカタリナの前で変身しようものならその情報はタルタリヤへ直行し今度こそ言い逃れは出来ないだろう。
八方塞がり…しかし、現場は無情に悪化していく。
「うわああああああ!?くるな!くるな!!」
「!」
悲鳴に振り向けば、バルコニーでアントロードに追い詰められている従業員らしき姿。腰から引っ提げている神の目からするに、神罰殺人の犠牲者の列に連ねさせるつもりなのは明白…もう正体がどうなど悩んではいられない!
ホシノは組みつくアントロードを振り払い、バルコニー目掛けて走り出す。
「変身!!」
アギト・グランドフォームに変身すると今まさに従業員を手に掛けようとしたアントロードを蹴り飛ばし救ったものの、途端に次々の他の個体が飛びついてきて坂の雪玉のようにバルコニーから転げ落ちてしまう。
「う、うおぉ!? チィ!」
しかし、この程度のピンチは幾度となく経験済み。オルタリングのスイッチを叩きフレイムセイバーを召喚、飛びだした剣はブーメランのように飛び回り纏わりつくアントロードたちを斬り裂くと主の手におさまった。
これで開放されたアギトはフレイムフォームへとフォームチェンジし着地。地上まで落ちる形にはなったが、やはりここも蟻たちによる阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
「…」
―――オ前達ハナニモ理解シテイナイ…神ノ寵愛ヲ失ウトハコウイウコトダ。モウ貴様ラヲ庇護スル者ハ誰モイナイ。滅ブガイイ、オ前タチアギトヲ見捨テタ人間諸共!
アギトの脳裏に過る悪夢……恐らく、元の世界で仕留め損なっていた『女王蟻』が何処かにいるはず。奴を倒さなくては働きアリの無限わきは止まらない…
これ以上の暴虐をねじ伏せ、何より続く因縁に決着をつけるために剣を握りなおし……迫りくる新たな黒い大群へアギトは走り出した。
お久しぶりです……
体調不良とか諸々で執筆がマジでスローペースでした…
実は望舒旅館編が終わったら、次はG3−Xをなんとかして出したいと悩んでいた次第でございます。で、構想がある程度形になったので執筆を本格的に再開しようかと思い現在に至ります。
更新は前ほどのスピードは無理そうですが、少しずつ進めているので次回もお楽しみに!