……ホシノの魂は今、『過去』に連れ去られた。
暗い降りしきる雨の下、アギトはG3-Xと相対する。
彼とはずっと一緒に戦ってきた。立場は違えど、チカラの由来は違えど、共に人間を護る仮面ライダーとして共に手を携えてきた………
…………そのつもりだった。
「氷城さん…アギトは人類の敵じゃない!お願いします、信じてください!」
「…」
しかし、ジャキッと向けられる銃口。寸分違わずアギトを捉えている。そして、紡がれる冷たい言葉…
「全てのアギトが信頼に足る存在だとでも? お人好しなのは知ってましたが、まさかここまでとは……」
「氷城…さん……」
「貴方とそのお仲間は手厚く『保護』させてもらいますよ。さあ、手荒いことは避けたいので…早くこちらに投降を。」
………信じていたのに、どうして
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「―――し、い―! 目を覚ましなさい!! 死にたいの!?」
「!」
我にかえったホシノが目にしたのはビートルロードのメイスを片手剣でなんとか防ぐ刻晴だった。華奢な少女の身体で筋骨隆々とした怪人の一撃を受け止め続けるのは見るからに限界に近づきつつあり、慌て変身すべく腹に手を当てる…が……
「!?」
オルタリングが出てこない? いくらやってもいつものように現れる気配は無く、沈黙に焦るホシノ。一方、その様子に同じく困惑したのは刻晴も同じだった。
「アンタ、もしかして…アギトじゃないの!?」
彼女はホシノがアギトだと推察していた……そもそも、千岩軍を連れて拘束に向かったのもそのためだった。そして、自分の目の前で変身すれば確実に言い逃れが出来なくなると踏んでいたが、予想外の展開にその目論見は崩れてしまう。
無論、そんな事情なんぞビートルロード側からしたら知る由もないので2人纏めて叩き斬るためにメイスに力を込める。
『潰レテ死ネ、小娘!!』
「くっ! 舐めるなッ!!」
一瞬、圧されかけた刻晴…だったが、同時に雷影を残しその場から消えた。次の瞬間、四方八方から雷の斬撃が襲いかかり大きくビートルロードは仰け反った。
『グ…ァ……!? 人間ガココマデ、強イトハ… ダガッ!!』
「!」
それでも、致命に至らず。態勢を立て直し再び刻晴を叩き潰すためメイスを握る。
タフな奴だ。だが、刻晴の目には勝算が浮かぶ。相手は見た目に違わず甲虫らしいパワータイプ…それでいて動きは機敏ではない。少なくともスピードと手数を活かす自分が苦手のようだ。
(……ここは取り敢えず、コイツを逃さないと…)
ならば、非戦闘員のホシノを逃がすべきだろう…後ろに視線を流し……
「! 前ッ!!」
「――え?」
その僅かな隙が戦いにおいて、全てをひっくり返すことにもなりうる。
『ォォオ!!』
「――しまっ…」
気がついた時にはビートルロードは既に眼前。巨体に似合わない瞬発力で一瞬で間合いを詰め、突進の勢いを利用できる盾で殴りにかかる。
完全な誤算、まともに受けたら大ダメージは確実…彼女は防御すら間に合わず……
――ガッ!!
★ ★ ★ ★ ★ ★
「……ぁ… ぁぁ…」
立ち昇る土煙…… 遮られた視界……
終わりだ。―――助けられなかった。
ホシノは自らの不甲斐なさに膝をつく。ただの人間がアンノウンに勝てるわけがない…それは、いくら神の目を持っていようとこのテイワットでも覆ることはないのだ。だから、アギトである自分が戦わなくてはいけなかったのに…!
「……なんで… こんなはずじゃ…」
「―――何を呆けている。戦わないなら邪魔だ。」
――え?
聞き覚えのある声… 再び我にかえると、晴れていく土煙の中から刻晴……そして、ビートルロードの突進を抑えつけるタトゥーがある人影。そう彼は…
「貴方は確か…降魔大聖さん!?」
護法夜叉…そのひとりであり、先日はアギトとも(すれ違いがあったが)刃を交わすことになったショウ。予想外の登場はビートルロードにとっても同じで、真っ向から盾を抑えつける彼に『ヌゥゥ!』と怒りを露わにする。
『何者ダ…』
「黙れ。妖魔風情が白昼堂々と…岩王帝君が人々に授けたこの地で無法を働くなど万死に値する。消えるが良い。」
神に仇なす下郎に騙る名どなし。そのまま、力任せにビートルロードを投げ飛ばすショウ…そこから、槍を手に取り夜叉の仮面を被ると猛禽の滑空のように鋭く、マシンガンのような槍捌きが炸裂。咄嗟に盾でガードをするビートルロードだが、刻晴を凌駕するスピードとパワーに為す術なく削られていく。
反撃など許さない…一方的な戦いに刻晴は息を呑むばかりで、ホシノも呆然としていた。
「降魔大聖……あれが、御伽に出てくる夜叉?」
「…」
そして、戦いは決着へ近づく… 盾を空中に放られ、肩で息をするビートルロードへショウは切っ先を向ける。
「さあ、ここまでだ。」
『何故ダ、何故ソレダケノチカラガアリナガラ、矮小ナ人間ノ味方ヲスル!?』
「…言っておくが、人間はそこまで弱くはないぞ?」
瞬間、ビートルロードは空中に旋風によって打ち上げられ…宙を舞ったと同時に凍結の矢がバシュッ!と貫いた。同時に頭に光輪…すなわち、ロード怪人が見せる最期の輝き…どうやら、これが致命傷になったようだ。
『グッ、ゥ!? 無駄ダァ…貴様ラハ…【神】ニハ勝テヌゥ゙…ァァァ゛アァァ゛!?!?』
直後、盛大に爆発四散。
火と氷が撒き散らされ落ちていく様をショウが見届けていると……彼の横に走ってくる人影が。見知った青い髪に角…弓を抱える様子からあのトドメの一矢は彼女が射たものなのはわかっていた。
「甘雨か……」
「降魔大聖! 申し訳ありません! 岩王帝君に任された璃月の地でこのような失態……」
「落ち着け、責めるつもりはない。」
酷く狼狽した様子の甘雨を宥めるショウ。そんな彼を『本物…?』と刻晴は訝しげな表情で覗き込む……無理もない、元より何の接点も無いのだから。暫くして甘雨から『降魔大聖にその態度は失礼』の一言で言い争いに発展するのだが、そこはもう重要ではない。
ただ置いてきぼりをくらったホシノは尚も放心したように動けずにいた……
「………なにも…できなかった…」
『オイ… オイ! オイ、小僧! こっちだ!』
え? 足許を見ると何か喋る白蛇がこちらに話しかけている。
『今ならあの小娘たちが此方に気がついておらん!今のうちに逃げるぞ!』
「……は、はい?」
白蛇に促されるまま、その場を立ち去るホシノ。
ここから10分ほどで彼の逃走に気がついた刻晴だったが……全てが後の祭りだった。