原神✕仮面 〜アギト、『契約』の地にて〜   作:ジュンチェ

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正義Ⅳ

 

 

『クハハハハ! 流石は王子! 貴方様の手にかかれば【憎き星のアギト】も形無しですな!』

 

「…」

 

 璃月港近郊にひっそりとある洞窟の秘境…アビスの魔術師のケラケラとした笑い声が響き渡り、連れのヒルチャールたちも意味を理解しているかは謎だがゲラゲラとそれに続く。

 一方、当の賞賛の対象であるG4を纏っていた金髪の少年…『王子』は気にする素振りすらなく、須晶と話をしていた。

 

「約束通り『星のアギト』の命は奪わず封じるに留めた。次は貴様らの番だ。」

 

「…」

 

 相変わらず仮面で素顔を隠している素顔だが、あまり乗り気ではなさそうにやれやれと溜め息をつく。

 

「俺等があのG4(アギトモドキの鎧)を貸してやったのに随分とデケェ態度じゃねえか。まあ良いが…それで、この勢いで璃月港に攻めたとしてだ。岩神モラクスが出てこなかったらどうするつもりだ?」

 

「ならば、そのまま璃月を落とすまでだ。」

 

 王子の狙いは璃月に打撃を与え、岩神モラクス…すなわち、岩王帝君を炙り出すこと。そのために目下、大きな障害になりうるホシノを命を奪わずも無力化したのである。

 彼等、アビス教団の最終的な目的なんぞ須晶からすれば知ったことではないが……彼等の手段に溜め息が洩れてしまう。

 

「おぉおぉ怖いねえ。やっぱり、何処の世界だろうと『信じる者が違えば殺し合うしかない』というわけか。」

 

 ――最も、自分が言えた口ではないのも事実だが。

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 場所は代わって再び不卜盧。人目につかない奥の病室にホシノは居た。虚ろな目で蹲り、ジャックンが心配そうに周囲をふよふよと浮遊している。

 

『ショウイチ、しっかりしろ。今、あの医者が調べている。お前がアギトになれなくなった理由も時期にわかるはずだ。』

 

「……アギトって、いらないのかな。」

 

『なに?』

 

 戸惑うジャックン…急に何を言い出すんだコイツは?

 どうもG4と戦ってからというもの様子がおかしいとは思ってはいたが…思いの外、重症のようだ。往生堂のクビ騒動も追い打ちをかけているのだろうがホシノは消耗が激しい様子。されど、『要る』『要らない』 などとそう簡単に片付けられてはジャックンとしてもたまらないのだ。

 

『何を腑抜けたことを。我との【璃月を護る契約】を反故にするつもりか。』

 

「アギトにも変身出来ない、往生堂も追い出されて根無し草…俺に何が出来るって言うんですか?」

 

『……何をイジけている? 海を漂っていたお前が生きているのは我との契約があってこそ。それを捨てるということはお前は再びあの干からびた死に損ないに戻ることだぞ?』

 

「………良いじゃないですか。ジャックンも『契約』を結んでくれる別の人を探せば良い…璃月の人たちはアギトなんか居なくたって十分に強いしアンノウンだって倒せる。俺がわざわざ戦う意味なんて最初から無かったんだ!」

 

 叫ぶやいなや頭を掻きむしり、寝床に丸まるホシノ。そして、不卜盧に啜り泣く声が響く…

 

 よくよく考えれば、無理もない。見知らぬ土地でやっとありつけた衣食住も失い、アギトとしてのチカラも消えた。身も心も追い詰められてしまうのは仕方ないことだろう。特に後者はアイデンティティの喪失と言って他言ではない。

 

『ホシノ…… フン、勝手にしろ。』

 

 残念ながらその全てを仙霊であるジャックンには理解することは出来ない……ついに愛想を尽かしたとその場を後にする。

 

 ――そして、物影で聞き耳をたてる『不届き者』の前に回りこんだ。

 

 

『驚いたな、最近の医者は盗み聞きをするのか?』

 

「これは失敬。主治医として患者のことを知っておきたいと思うのは当然のことですから。」

 

 白蛇を首に巻く胡散臭い緑髪の眼鏡が微笑んでいる……彼は不卜盧の主『白朮』。薬師として璃月に名を馳せる青年だが、その素性を詳しく知る者は少ない。あと首の喋る白蛇は『長生』…ホシノの窮地を救ったのは彼女である。

 ただ、医者と喋る蛇…その珍妙な組み合わせと意味有りげな振る舞いがどうにもジャックンの警戒心を刺激してしまうのだが。

 

「ああ、そんなに警戒しないで下さい。患者のプライベートに干渉するつもりはありませんし、千岩軍や七星に引き渡すつもりもさらさらありません。」

 

『……では、何が狙いだ?』

 

「別になにも。ホシノさんとこちらとの関係はあくまで、医者と患者。それ以上でもそれ以下でもない。強いて言えば…治療の邪魔を貴方にはしないで頂きたいですね。」

 

『なんだと?』 

 

 ジャックンの言葉に怒気が篭もる。

 されど、仙霊程度の怒りなど屁でもないのか白朮は涼しい顔を崩さない。

 

「彼が一番、消耗し病巣と化しているのは他ならないの彼の心・精神です。今迄は表面的に取り繕ってきたようですが……どうやら、限界に達してしまい今に至る。本来なら安静にしているべきところを…恐らく、預かり知らぬところで心身に負荷がかかり過ぎていたのでしょうか。」

 

『!』

 

 心身への負荷…ジャックンに過ったのはホシノをアギトとして戦わせてきた日々。でも、ホシノは気丈に笑っていた…だから、大丈夫だと思っていた。自らの見込みに違わぬ『強さ』を持っていると……

 

「仙霊である貴方には解りえないかもしれないですが、人は弱いんです。孤立・孤独・喪失…どんな強靭な肉体や素質を持ってしても、ふとしたことで簡単に壊れてしまう。

 そして、心の傷から膿んだ病は薬だけではどうにもならない。癒やすには時間と安寧が必要となる。『契約』が何かは知りませんが、貴方が彼に与えてきたのはそれらと真逆のモノでは?」

 

『…』

 

 何も言い返せなかった。

 命は繋いだ…しかし、その実与えたのは生き地獄。ホシノの背負ってきた苦しみなんて知ろうとも思わなかった。

 そんな傲慢さを白朮は許せなかったのだろう。

 

「そっとしてあげてください。今は彼に何よりも休息が必要なんです。」

 

 そして、白朮はジャックンを残しホシノが泣きじゃくる病室へ……

 

 残されたジャックンは立ち尽くすようにふよふよと浮き続けるばかりだった……





★ジャックンとの『契約』について

ホシノ「俺がジャックンとした『契約』は、『命を助けてもらうかわりに、璃月を迫る危機から救うこと』。ジャックンと初めてあったのはテイワットに転移したばかりで、海に放りだされた時だったんだ。あの時は無我夢中で…」

★白朮について

ホシノ「俺の主治医だね。璃月に来たばかりの頃は甘雨さんと同じくらい世話になってさ。そうそう、薬膳料理とかの話題で盛り上がったりしたんだよ。胡桃ちゃんは何か面白くない顔をしてたけど……」

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