原神✕仮面 〜アギト、『契約』の地にて〜   作:ジュンチェ

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 前話、タイマーセットし忘れた…


原神✕仮面 ―クウガ、『戦争』の地にて― ②

 

 

「――いや、脚色やりすぎだろ。少年漫画かよこのウォーベン。」

 

 

 一応、歴史的価値を持つ資料の端くれだろこれ。

 恐らく、娯楽性を持たせて目に留まるようにした物なんだろう…少年は読み終えた少し大きい絵巻ほどのウォーベンをグルグルと巻き上げると細長い保存箱へと戻してギュッと紐を縛る。内容の真実性はともかく借りた物は返さなくてはいけない。

 

 

「さて、日も昇ってきたし――出発だな。」

 

 

 寝巻きの軽装から服に手早く着替えて、毛先が赤い黒髪を後ろで結う。それから、空のバックパックを背負って暗い自室を後にする……うげっ、日光キツいなぁオイ。

 出るとすぐにライノ竜と畑作業をしていた二本角にピンク髪の少女がこちらに気が付き手を振る。

 

 

「あ、イオくん!おはよう〜」

 

「おう。昨日は世話になったなヴァレサ。それで、今日の荷物は?」

 

「えーっと、今日とれたての野菜たちを流泉の衆までお願いできますか?」

 

 

 幼馴染のヴァレサから依頼の伝票を受け取ると梱包された山盛りの荷物を確認する。

 配送なら懸木の民なりペトル竜やライノ竜あたりが普通は適任だが、前者は人間であり安定こそすれど故に配送量は限られるし、後者は配送ルートを縄張りとする野生の竜を刺激する可能性もありうるので一長一短。

 ―――そこで、コイツの出番だ。

 

 

「バイ……『双駆輪』の積載量ギリギリってところだな。」

 

 

 愛車のグレーの大きい二輪車。両サイドに積載用のフローターをつけた運搬特化したバイク。この世界で双駆輪と呼ばれるコレを乗り回せる人間はただ自分ひとり……あー、いや、もう『1柱』が正しいな。

 こだまの子の名高い職人・シロネンの開発した偉大なる発明品のひとつ……のデチューンモデル。されど、侮るなかれ…燃素で走るこのマシンは竜の頑丈さと積載量すら上回り、それでいて疲れを知らない。やろうと思えばナタを一周だって出来る。最大速度はまあユムカ竜の跳躍やクク竜の飛行速度には到底及ばないが、どんな悪路だろうと踏破出来ることを鑑みれば、長距離大量輸送にはもってこいなのだ。

 

 

「流泉の衆ならそこまで遠くはねえし、あとなにか運ぶ物はあるか?」

 

「…」

 

「ヴァレサ?」

 

「――へ? あ、ううん!大丈夫だよ!!」

 

 

 なんだ、ぼーっとして… まあ、いつものことか。

 特に気にかけず、手際よく荷物をフローターに積んで縄で固定する。よしよしこれで大丈夫だろう。

 

 

「んじゃ、オジサンにヨロシク言っといてくれ!」

 

「はーい、いってらしゃ〜い!」

 

 

 そして、彼と荷物を乗せて双駆輪は畑を飛び出し聳える火山の麓を走り出す。見えなくなるのはあっという間だった…

 

 残されたヴァレサ…彼女の表情は送り出した時の笑顔と打ってかわって複雑そうだった。

 

 

(いつも通り…だけど、もうすぐこのやりとりも出来なくなるのかな。イオくん……やっぱり、ナタを出ていくんだよね?)

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 魔神戦争……アビス勢力の大侵攻から実に500年…

 

 

 今、尚もアビスの脅威は燻る中で人々は炎神マーヴィカの加護の元で平和を謳歌していた。部族間の結束もナタの歴史上、前例がないほど固い。時代の移り変わりや統治者の炎神であるマーヴィカ自身の奔走など要因は数々あれど、その繁栄はナタ史上最高と言っても他言ではないだろう。

 

 

(―――さて… 書類の山は中々減らないものだな。)

 

 

 執務室…統治者である彼女は少し愚痴を溢していた。机の上に積み上がる紙の塔はアビスとは別の意味で難敵で、これもいつの時代も変わらない。一度は事務効率化のために隣国のフォンテーヌからタイプライターなる機械を取りよせたことがあったが、周囲の人間どころか統治者である自分も使いこなすことがかなわず、普及は諦めたことがあったり… 

 今、頼れる武器は長年の相棒の羽ペンだけ。やはり、これに限る。

 

 

「やれやれ、さっさと片付けるか…」

 

 

 

 

「――失礼します炎神様、キィニチです。依頼されていた件の報告にあがりました。」

 

 

 

 いざ、再び手をつけようとしたところで来訪者。『通れ。』と招き入れると緑と黄色を織り交ぜたバンダナをした懸木の民の少年『キィニチ』が入ってくる。その手には紙が数枚ある…頼んでいた件の報告書か。

 

 

「炎神様、これが今回の調査結果になります。調査完了した遺跡のうち2つは既に経年劣化や盗掘などの被害にあっており、ろくなものが残っていませんでした。比較的に保存状態がよかったもう1つの遺跡も炎神様が仰っていた『グロンギ』や『クウガ』とは無関係のようです。」

 

「――そうか。確かに資料もソレを裏付けているな。」

 

 

 サラサラとレポートに目を通すマーヴィカ…キィニチが理解しやすくまとめてくれたおかげで脳内処理もスピーディーだ。頭に情報を流し込むと考えに耽る……

 

 

(あれだけ大規模な戦いであったのにあまりに記録が少ない。多少、ウォーベンが多少は残っていてもマトモな遺構のひとつも見つからないとは…)

 

 

 

 500年の月日が記録媒体を風化させてしまったのか……あるいは、そもそも造られなかったのか?

 それはありえないはず。遺構は英雄譚を今生きる者たちに希望を見せると同時に過去を忘れぬための警鐘でもある。ナタの人間にとってそれは今も昔も変わらぬことのはずなのだが…

 

 

「ご苦労だったキィニチ。――引き続き頼む。」  

 

「…」

 

「――? まだなにかあるのか?」

 

 

 報告は済んだが立ち去らないキィニチ。すると、彼はおもむろに口を開く。

 

 

「イオ……いえ、御子息に最近、お会いには?」

 

「ここ暫くは顔を会わせてはいない。何故だ?」

 

 

 キィニチとしても他人の家庭の事情…ましてや、国の統治者である彼女の関係に口を出すのは躊躇いがあるのは事情だが、イオの友人としてどうしても気にかかることがあった。

 

 

「―――御子息がナタを出ていくつもりだという話は聞いてますか?」

 

「――!」

 

 

 その話題に一瞬だけ息を詰まらせたマーヴィカ。しかし、すぐに落ち着いてキィニチに向き直る。

 

 

「そうか、イオとも親交があるのだったな君は。――無論、既に本人の口から聞いているとも。これでも『親』だからな。」

 

「………止めないんですか?」

 

「あの子はもう立派に独り立ちしているし、本人も自分なりに悩み抜いたなりの結論だと言っていた。ならば、あえて止める必要は無いだろう。」

 

「…」

 

 

 

 

『――ハッ、所詮は腹を痛めて産まねえガキへの情なんてそんなもん…ぐぎゅッ!?』

 

 

 突然、キィニチのポーチから黄色いドット絵調の謎生き物が飛び出し暴言を吐いてきたが、すかさずキィニチの手で握り潰されまたポーチの奥底へ押し込まれた。仮にも最高権力者に不敬どころではない物言いにすぐさま『アハウが申し訳ありません。』と頭を下げるが、当のマーヴィカは苦笑していた。

 

 

「まあ、そう見えても仕方ないだろう。だが、私もあの子のことは実子同然に愛情を注いできたつもりだし、これからも我が子としての想いは変わらない。それは解ってほしい。」

 

「――わかりました。」

 

 

 ならば、もう改めて訊くことはない。キィニチは『失礼します。』部屋を後にし、残されたマーヴィカは椅子にもたれかかり、机上に置かれていた写真を手に取る……写るは在りし日の自分と幼い時の赤い髪をしたイオだ。今と違い、黒髪の部分は無い故か本当の親子のように見える。

 

 

「ままならぬものだな……イオ。」

 

 

 確かに血は繋がってはいない。そうだとしても、この10数年を多忙ながらも我が子として…ナタを生きるひとりの人間として恥じないよう育てあげ、向き合ってきたと自負している。

 

 ただ、自分は甘く見過ぎていた。炎神に育てられた子がこの土地にルーツを持たないということがどれだけの負担を心に背負わせるのかを。

 

 

「最強の炎神であっても…最高の母親にはなれないのか。」

 

 

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 ……イオはナタでは人々から色んな呼び方をされる。

 

 

 『配達屋のイオ』、『万屋(よろずや)イオ』 ――『炎神の子』。

 

 もしくは、『よそ者イオ』、『資格ナシのイオ』、『穀潰しのイオ』。

 

 後半は最早、誹謗中傷の領域だがまあそれなりに事実なのは否定出来ないし、カスどもの遠吠えは放っておけば良い。それに、結局どれもこれも本質じゃない。

 

 

「―――2度目の転生、ざっと見積ってそろそろ17年ってところか。」

 

 

 『転生者』、それが自分の本来のアイデンティティ…自分はそもそもナタどころかテイワットの人間ですらない。前世で恐らく肉体的には死んで、魂だけがどういうわけかこの世界に流れ着き受肉、赤子からの人生再再スタートを経て『イオ』という人間に成った。炎神マーヴィカの気まぐれによって彼女に育てられ、衣食住にも不自由せず、友にも恵まれた。だが……

 

 

「……もうそろそろ、この国ともお別れか。」

 

 

 自分はこの新しい故郷を去る。いや、去らなくてはならない。

 

 双駆輪で火山の麓を走り抜け、空に昇る噴煙に見送られて流泉の衆へ…… その際に何人か屯するナタの民とすれ違ったが、その視線は冷たいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  原神✕仮面 ―クウガ、『戦争』の地にて―

 

 

 いつか、その物語が語られる日が来るかもしれない。

 

 

 

 






 実は、このあとムアラニが出てくる話とか戦闘シーンも描いていたのですが、本編そっちのけ過ぎたのでここまで!

 いつか、描けたらいいなぁ。
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