『シャァァ!!!』
「あ?」
突然、襲いかかってきたアントロードの頭を押さえながら須晶は首を傾げた。これは何の真似だ?
ホシノをゆっくりと捜しまわるつもりだったが、どうにも様子がおかしい。周囲の働き蟻たちはパニックに陥ったように暴れまわりはじめ、あろうことかアビス教団の勢力にさえ襲いかかる。その様相に統率は無い……ということは、最悪の事態が起きたのだと悟る。
「――あの女王蟻め。大層な態度とりながらくたばりやがったか!」
まずい。そうなれば、無差別な攻撃は『同胞』にも向く可能性が高い。最早、アビス教団や岩神なんぞどうでも良い…G4は貸し付けてやったままだが、あれはどうせあったところでさして役にも立たないから捨ておこう。
アントロードを投げ捨て、須晶は合図に信号弾代わりの花火を打ち上げる。
激しく夜空に燃えて光るそれは『撤退』の意味。すると、璃月の渦中の街並みから影に紛れる鼠のように人影が次々と走り出す。
「ちっ……この状況で女王蟻を倒せるとしたら… 岩神、いやホシノのやつか。ええい、尽く邪魔をしてくれる。」
まだ足掻くか。だとしても…璃月港が落ちるのは時間の問題だろうが。
★ ★ ★ ★ ★
……ホシノの魂は、『過去』に目を向けた。
暗い降りしきる雨の下、アギトはG3-Xと相対する。
彼は…装着者の『氷城 勲(ひょうじょう いさむ)』とはずっと一緒に戦ってきた。立場は違えど、チカラの由来は違えど、共に人間を護る仮面ライダーとして共に手を携えてきた………
…………そのつもりだった。
「氷城さん…アギトは人類の敵じゃない!お願いします、信じてください!」
「…」
しかし、ジャキッと向けられる銃口。寸分違わずアギトを捉えている。そして、紡がれる冷たい言葉…
「全てのアギトが信頼に足る存在だとでも? お人好しなのは知ってましたが、まさかここまでとは……」
「氷城…さん……」
「貴方とそのお仲間は手厚く『保護』させてもらいますよ。さあ、手荒いことは避けたいので…早くこちらに投降を。
―――貴方にはまだ為すべきことがあるはずだ。」
「!」
同時にタイミングを図ったように空からG4が2体降下してくる。G3-Xの両サイドに着地すると武装を構える。
「やるじゃねえか、警察のエリートも。」
「此処からは我々が引き継ぐ。『バケモノ』の駆除は任せろ。」
ポン!とG3-Xの肩を叩き、耳許へ卑劣な言葉を投げかけ近づいていく黒い尖兵たち。仮にも人々のために戦った存在を害獣のように吐き捨て、アギトへと攻撃を…
――パァン! パァン!
「「!?」」
しかし、彼等は背後から撃ち抜かれ急所である背中のバッテリーから火花が激しく噴き出す。何事かと狼狽えながら振り向けば、そこにはまだ銃口から硝煙が揺れるG3-X。
「き、貴様! なんの真似だ!?」
「――なんの真似? それはこちらの台詞。保護をすると言ったのにあまつさえ、保護対象に武器を向けるとは何事ですか?」
「人間の皮を被るバケモノの信用する気か!?」
「人間だって元よりお互い信用ならない生き物でしょうに。
だが、『仮面ライダーアギト』は別だ。他人をために命懸けで戦ってきた彼を私は知っている。人を護る使命を帯びながらあまつさえ、クーデターを起こし混乱を招いた痴れ者が彼をバケモノなどと…恥を知りなさい!」
荒ぶる声。仮面ライダーアギトに投げつけられた侮辱をその弾丸が否と叩きつける。その愚行を許してなるものかと引き金にまだ指はかけられ、視線は背信者たちを見据えていた。
彼は違う。決して時勢に惑わされることよりも、共に戦う仲間を選んでいたのだ。
「氷城さん……」
裏切られた……そう一瞬でも思ってしまった自分を恥じるアギト。
しかし、当のG3-Xは彼に先へ行くように促す。
「ここは任せなさい。人類とアギトの分断を止められるのは貴方だけだ!」
「っ……必ず、戻ります!」
そして、込み上げる思いを胸に抑え、アギトはマシントルネイダーに跨りアクセルを吹かしその場から離脱していく。後ろで交戦する音が聞こえるが振り向きはしない。
信頼を…絶ち切れない絆を背負って英雄はゆく。
★ ★ ★ ★ ★ ★
―――どうして忘れてしまっていたのだろう。
G3-Xの仮面の下でホシノは思う。このチカラの本来の主は揺るがぬ正義の人であったことは、同じ仮面ライダーとして共に戦ってきた自分がよく解っていたはずなのに。
(また会えたら…謝らないとな。)
盟友にも… そして、迷惑をかけた胡桃にも……
でも今はまだやるべきことがある。さらなる混沌の渦に晒される璃月港を猛ダッシュで横断し、立ち塞がる異形たちは勢いで蹴散らして目指すは月海亭。燃え盛る群玉閣に繋がるあの場所が戦いの中心だ。彼処は七星たちが集う場所…つまり、あそこには甘雨も居る。
(甘雨さん…!)
テイワットの海に投げ出された自分を引き揚げ助けてくれた、璃月での最初の恩人であり…自分にアギトのチカラと使命を託して事切れた『大切な人』の面影を持つ人。
(姉さん……今度こそ助ける!)
―――もう二度と溢してなるものか。
「―――他愛ないものだな。七星の実力とやらも。」
「か…は……」
その頃、月海亭前の広場。甘雨はG4に首をひっ掴まれ吊るしあげられていた。
喉は締められ、脊椎が軋む…… 足は届かない。
蹴っても黒金の鎧はビクともせず、華奢な首を圧し折るためにチカラが徐々に強くなる……
(い、意識が………)
風前に揺らめく命の灯火。タイムリミットは近い。
―――走れ、英雄。
氷城さん→本名・氷城 勲(ひょうじょう いさむ)
ホシノの世界のG3ユニットの装着者担当。アギト原作の北條クンみたいな性格をしているように見えるが、ヘタレではない。ただホシノから『様子がおかしい人』と評価されるくらいに自称・エリート気質。アギトという種族に対しては懐疑的だったが、ホシノ=仮面ライダーアギトには強い信頼をしている。
G3シリーズの設定は殆どが原典アギトと共通。G4は映画のように警視庁からクーデターを起こした自衛隊の過激派に盗まれた上に人命軽視スペックはまま複数生産されアギト狩りに投入されている。『神』はこの事態を嘲り笑い、人の可能性を信じ自らに楯突いたホシノに勝利宣言し、残るアンノウンたちに無差別殺人を解禁させた。
人類を護るチカラとの触れ込みだったが、結果的に滅びの危機へと導くトリガーになってしまったのが今作のG4。一部がテイワットに漂着してアビス教団などに悪用されているのが今。