仮面裁判閉廷後…… ステージの裏側…
「ふざけんじゃないってのよぉ!!」
「ぎにゃあああ!?!? ゆ゛る゛し゛て゛ぇ゛!?」
憤怒の淑女と汚い悲鳴。棘薔薇の会/現・会長であるナヴィアは千織の弁護人である『シン』に関節技をキメていた。
棘薔薇の会…要はフォンテーヌに拠点に置くマフィアで義賊的な立ち位置ではあるのだが、思いっきり一般人(一応カタギ)に手を出しているのにはまあ理由があって……
「あんたねぇ、相手が仮面裁判を仕掛けてくること事態わかりきってたでしょ! それなのによくもまあ、モンスターの契約カードを忘れてくるなんてなに考えてんの!?万一、負けてたら棘薔薇の会のメンツは丸潰れだったんだから!!」
「…ご、ごめ…いだい゛いだい゛!? ギブギブギブギブギブ!!」
千織を全面にバックアップした棘薔薇の会としてはあの裁判は肝を冷やしたところだろうし、仕方ないだろう。まあ、本気の制裁ではないじゃれ合いみたいなもの…ナヴィアと彼とのこんなシュチュエーションはまあ昔から見できたと彼女の御目付役である老人マルシラックも苦笑して眺めていた。
「―――ナヴィア、そこまでにして頂戴。」
「千織さん!」
これを見兼ねた千織が制止。流石にシンの身を…
「服が痛むわ。服に罪は無いのだから、それ以上やるなら脱がせてからやりなさい。」
「そんなぁ〜!?」
いや、彼が着る自分が仕立てた服を案じてのことだった。無情。
そんな時……
「シン兄さん!」
「! ――リネ! フレミネも!」
ふらりとやってきた可愛い弟分たちに気がつくと彼はするりとナヴィアの腕から脱出して、キーッ!とまだ怒りがおさまらぬ彼女はマルシラックが『まあまあ、お嬢様…』と宥めにかかりかかる。 折角の家族との時間を邪魔をしてはいけないという配慮だろう。
しかし、彼は気がつく…
「あれ、リネットは?」
「ん? あれ、いつの間に… さっきまで一緒だったんだけど。」
妹がいない。実兄であるリネすら気がつかないとはどういうことか。
見かけ通り気ままな猫のような性分であるリネットだが、大事な兄の晴れ舞台の後に顔を見せないのはどうしたことだろう?もしかして……
「――リネットって、まだ俺が『家』を出たことを怒ってる?」
思い当たる節はひとつ……だったのだが、それを否定したのはフレミネだった。
「それはないよシン兄さん。僕たち、一緒に来たんだし…きっと、お手洗いとかじゃないかな?」
「そうか? そうかぁ……」
シンと…リネもまた釈然もしないという様子だったが、まあそのうちにひょっこり現れるだろうと気にはしなかった。外見通り猫のように気まぐれで愛おしい妹のことなのだから。是非、彼女から裁判の感想を聞きたかったが仕方ない。
「じゃあ、リネットは後で話すとして……取りあえず、俺の裁判はどうだった!? かっこよかったでしょ!?!?」
まずは同じく可愛い弟たちから。フレミネは『うん、とってもかっこよかったよ!』と屈託ない笑み。ふふ、やっぱり面と向かって褒められるのはまんざらでもない。一方、リネは……
「うん、全然腕は訛っていないようで安心したよ。やっぱり兄さんは凄いや。」
「………そっか。ありがとう。」
意識してか、無意識かは判らないが…どうやら、弟の目に自分は『弁護士』ではなく『兄』のままなようだ。家族として想っていてくれることは嬉しいが…反面、複雑な気持ちが胸に引っかかる。
今は仕方ない、でもきっといつか……
「――お取り込み中のところ悪いのだけれど、そろそろ報酬の話をさせてもらって良いかしら?」
「はっ!?」
報酬。千織からの言葉に一瞬で弟たちから離れて、依頼人へ向き直るシン。そのあまりの餌をねだる犬のような身軽さは弟たちとマルシラックからは苦笑、ナヴィアは頭を抱えるが今の彼にとっては今後の生活がかかった重要な話だ。
「シン、貴方の活躍は見事だった。仮面裁判でのアクシデントは流石に肝を冷やしたけれども、おかげであの忌々しいウーサーと決着を着けることが出来たのだから結果オーライとしましょう。
というわけで、貴方たちへの報酬は色を付けさせてもらわ。」
そして、ドン!と置かれた大きい鞄にはぎっしりと積まれたモラが…
うひょっ!?と思わず声が洩れてしまう荘厳な輝きは一般人にはあまりに強烈でにちゃりと薄気味悪く口角が上がってしまうのも無理もない。これだけの金額があれば多少の贅沢したところで当面は生活にも困らないはず…
「千織さん、太もも……」
「こら! それはアンタのお金じゃないでしょ!!」
早速、手を付けようとしたシン…だったが、ナヴィアにその手をパシッと弾かれる。え? 確かにこれは自分への報酬だって……
「しっかりしてよ? 報酬は棘薔薇の会と北岡事務所と折半するのは説明したじゃない。マルシラック!」
「…かしこまりました、お嬢様。では、失礼して。」
困惑するシンをよそに自らの手帳と照らし合わせながらパチパチと算盤を弾いてくマルシラック。小刻みに連続する乾いた音はそれだけ金額が動いていることを意味する……
そして、暫くすると計算が終わり『ふむ…』と一息をついた彼は控えていた若い強面の相方のシルヴァに計算結果を見せた。
「では、シルヴァ…頼みますよ。」
「…」
すると、シルヴァは自らのカバンを開くなり手際よくモラを詰め込みはじめる。はちきれそうだったモラの山はあれよあれよと半分になり…悲鳴をあげるシンを無情に無視し、果てには3分の1すら残らないほどの小山となってしまう。
無論、これに不満が噴出しないわけもなく…
「ちょっと!? これ取り過ぎじゃない!?」
「…と言われましても、明細書もシン様の上司であるキタオカ先生に確認済みですし。そもそも、残ったモラの支払いも北岡法律事務所への支払いという形ですのでアナタ個人への報酬ではありませんよ?」
――それって、つまり…元よりヌカ喜びってコト!?
『そんなぁ…』とヘナヘナと崩れ落ちるシン。それを苦笑しながらリネとフレミネが肩をさすって励まし…ナヴィアが何度目かの呆れて溜息をついた。
何にせよ、裁判は終わった……待つのはまた慌ただしいいつもの平穏な日常のはず。しかし…
――キィィィ…ン……
「…」
隅に片付けられていた小道具の鏡……そこに一瞬だけ映り込んだ金色の仮面ライダー…。
何処かへ人知れず向かうその存在はフォンテーヌの地に虚像の世界から不吉な足音を響かせていた。
★設定解説
フォンテーヌの仮面ライダーについて。
→璃月のアギトとは違い、水神であるフリーナが決闘システムのテコ入れのために己の権能を用いて生み出したライダーシステム。しかし、その製作過程は謎に包まれ、ヌヴィレットすら事業化を一切把握しておらず寝耳に水という有様だった。
一般人ですら神の目を持つ者と同等以上のチカラを手にすることが出来、戦いのド派手な演出から大衆からのウケはかなり良く、フリーナの大きい功績と評価されている。
尚、ライダーデッキの常備を認められるのは認定を受けた決闘代理人のみである。
→フリーナ
フリーナ「残念ながら詳しいことは企業秘密だよ。神秘というものはそう気軽に暴いたりすれば相応の報いが待つものだろう?―――え? 作った本人もよくわかってないんじゃないかって? な、ななそんなわけないだろう!?」
→ヌヴィレット
ヌヴィレット「…公の場で口には出来ないが私はあれらについて良い印象は持っていない。フリーナのことを貶めるつもりはないが、あまりにも不可解な点が多過ぎる。
うまく説明出来ないが、どうにもあれが神の産物というより、テイワットにとって『異物』のような感触が拭えない……」
→千織
千織「私の故郷にも『仮面ライダー』と名乗る人はいたのだけれど、彼もカードを使っていたわねそういえば。彼もここにくれば生活には苦労しなさそうだけど…興味はなさそうね。」