―――フォンテーヌには『死刑』が存在しない。
正確には死刑という審判を下された罪人がここ数百年はいないことは確かという話。相応の大罪を犯した者その尽くは決闘を選びその果てに命を散らすか、或いは大人しく終身刑を受け入れて水中監獄・メロピデ要塞にて服役するかだ。
ただ、やはりコイツは殺しておいたほうがマシなのではと思う奴はごくたまにいる……そう獄長のリオセスリでさえ思うことがあるのは事実。
「さて、厄介な『姫様』の様子は?」
「静かなもんですよ。まあ、拘束ギプスが無ければ途端に暴れ出すでしょうがね。」
監視カメラの映像を看守と確認するこの女の囚人もそう。
身体を動かせないよう口まで含めて全身をギプスの繭と鎖で拘束されながら眠る姿は姫の人形のようだが、見かけに騙されてはいけない。赤い髪と閉じた瞼に隠された蛇のような瞳はこんな有様になって尚も獲物を求めてギョロギョロと動いていおり、万一にも解放すればメロピデ要塞は瞬く間に血の海に早変わりしてしまうだろう。
彼女の凶暴性は大抵の囚人は手のかかる猫同然の扱いをする看護師長のシグウィンでさえ、お手上げと公言した程だ。
「……コイツは一体、何処から来たんだ? ん?」
その時、監視カメラの映像がプツンと消える。看守が操作するも特に反応する気配は無い。
「おい、どうした?」
「わかりません、故障かも…… おかしいな、まだ新品のはずなのに……」
―――嫌な予感がする。
すぐにリオセスリは身を翻して『看守たちを集めろ!』と言い残して彼女が拘束される牢屋へ一目散に走り出す。気鬱ならこしたことはないが、万一かつ最悪の事態が起こったら……
彼の表情には微かな焦りが滲んでいた。
そして、予感は的中する。
「…」
眠り姫は何者かの気配に目を覚ます。
重い瞼を開け、蛇のような緋色の瞳が映すのは覚えがある黄金の影……仮面ライダーオーディン。コイツが現れるということは新たな『ゲーム』の幕開けということ。
『ここから出してやる。新しい戦いだ。』
宣言と共にふわりと舞う黄金の羽根。…途端にバチン!バチン!とギプスは斬り裂かれて破壞されて忌まわしいベッドが喪失し、べたりと床に落ちてしまう眠り姫。その後、ゆっくりと関節を不気味に鳴らしながら身体を獲物を見つけた毒蛇のように持ち上げオーディンを睨む。
「…フン、どういう風の吹き回しだ?――まあ、丁度良い、暇を持て余していたところだ。オレのカードデッキを出せ。」
『…』
眠り姫…いや、最早そのギザ歯がチラつく口から流れる言葉と所作は獣性のそれ。文字通り眠っていたほうがマシだったなと溜息をつきつつ、オーディンは紫色のカードデッキを投げ渡す。
キャッチした彼女は表面に刻印された黄金のコブラの紋章にニタリと口角を開け、裂けるような笑みを浮かべる。
「会いたかったぜぇ、相棒?」
満面の笑みの彼女の背後に浮かぶ巨大な大蛇の影。
共に血肉を喰らい啜ってきた主は忘れていなかったらしく、嬉しそうにシュルル…!と舌舐めずり。ミラーモンスターでも信頼という概念があるのだろうか。
まあ、そんなことはどうでも良い。自分を海の底へ捩じ込んだクズとこの監獄の連中にたっぷりと礼をしてやらなくては。
「――さあ、楽しい楽しい祭りだ。」
★ ★ ★ ★ ★ ★
「はぁぁ…」
本当に馬鹿なことをしてしまったと後悔している。
リネットは手短なベンチに腰を降ろし、溜息を洩らす。幸せが逃げるような深い息はすぐに眼前のルキナの泉の流れにかき消されるが自らの過ちはそう簡単に洗い流すことは出来ない。
そう、本来ならば主の元にあるはずの『紅竜』のカードが自分の手元にある限り……
「なんでこんな馬鹿なことしちゃったんだろう…」
描かれているのは火竜・ドラグレッダー…龍騎と契約しているミラーモンスターである。仮面ライダーでなければ真価を発揮することはないこのアドベントカードはリネットにとって無価値な紙切れも同然だが……
自分はこれを盗んだ。裁判が始まる直前、主が目を離した僅かな隙にこっそり抜き取り自分のマジックの小道具セットに紛れこませたのだ。
魔が差した………ふと、裁判が失敗すれば暖炉の家を出た『兄』が戻ってくるのではなんて思ってしまったがばかりに。
(最低……)
止まらない自己嫌悪…… このあと自分はどうしたら良い?
はやく返さないといけないが、今頃はリネとフレミネに棘薔薇の会の面々もシンと一緒なはず。そこでカードを出したら間違いなくバレる。でもはやくしないと今度はカードの紛失のせいでシンの立場が危うくなるのも時間の問題…
―――はやく急げ、メロピデ要塞だ!
―――冗談だろ、リオセスリは何してたんだ!?
ううん、自分の保身なんてどうでも良い。罰は甘んじて受けるべき。自分の浅はかな行いは自分でケジメをつけなくちゃ…
――武器を持って動ける者は私に続け! 他は一般人の避難を!
………何かさっきから騒がしい。
シュヴルーズが特巡隊を率いてメロピデ要塞に向かってる。あの焦り具合は何かあったのだろうか?
「………もしかして、脱獄とか?」
まさかぁ?ありえな……
――ドガァァァァァァン!!!!
「!?」
爆発音。メロピデ要塞の方向からだ。
慌てて立ち上がり目を凝らすと煙が立ち上っている様子…
「――嘘でしょ?」
口は禍の元なんて言われたりするが、流石に悪い冗談が過ぎる。………これ、私は悪くないよね?
★フォンテーヌの仮面ライダーについて
フォンテーヌの仮面ライダーは全員、水神が認めた決闘代理人である。それ以外の仮面ライダーは存在しない。
―――しかし、『例外』は起こり得る。