原神✕仮面 〜アギト、『契約』の地にて〜   作:ジュンチェ

36 / 58

 ゼンレスゾーンゼロはじめました…

 あと今回、話長くなりました。(ワォ…


暖炉を飛び出した火の粉 Ⅷ

 

 

 

 

 ―――それは……ずっと、ずっと、遠い日の記憶。

 

 

 

 フォンテーヌのポワソン町付近の野原にて…

 

 

 

 

 

「シン、その…君の『お父様』から話は聞いていると思うが…」

 

 

「…」

 

 

 

 中年の髭男…身なりが良いが一般人ではない出で立ちで今より幼いシンに話しかける彼はカーレス。この時ではまだ現・棘薔薇の会会長である。マルシラックも彼に付き従っており、ふたりの会話の様子を静かに見守っていた。

 

 目の前の野原では彼の娘であるナヴィアが黒い髪の同い年の女の子と遊んでいる…… そんな彼女たちを眺めながら改めて口を開く。

 

「私の養子になる気はないか? 君を孤児院暮らしをさせておくには惜しい。ナヴィアもきっと喜ぶ。」

 

 シンは孤児だった。暖炉の家は表向きは孤児院である以上、構成する子供は孤児なのは必然……そして、里親として彼を引き取りたいという申し出は喜ばしいもの。――そう、『普通の孤児院』なら。

 

「それは無理です。俺は『ファデュイ』なんです。いくら表向きは孤児だからって普通の理屈は通らないのはわかっているでしょ?」

 

 シンの所属する暖炉の家は表向きは孤児院…しかし、その実際は身寄りのない孤児を集めてファデュイの構成員として育てあげることが目的の施設。それは、フォンテーヌの裏を知る者たちにとっては公然の秘密でマフィアの長であるカーレスも知っているはずなのだが…

 

「カーレスさん、アンタにはアンタの家族がいるように俺にも家族がいる。暖炉の家の兄弟たちやお父様を裏切ることは出来ないんです。――話はありがたいけど、それだけは諦めてください。」

 

 ありがたい話だが、シンは氷神の国の私兵でもあるファデュイの構成員で既にデッドエージェントとして任務に就いている。自分は彼の瞳に映るような不運ながらも前を向いて生きている少年ではないのだ。

 何より組織を抜けた者には凄惨な末路が待つ。裏切りは『死』と同義… かつて仲間や家族と親しんだ者たちが命をつけ狙う。それだけじゃない、もし素性がバレれば一般人からは白い眼で見られてとても普通に生きていくことは出来ない。

 

「シン…」

 

「すみません、失礼します……」

 

 シンは逃げるようにカーレスの元から駆け出す。

 頬を伝い流れる涙を見られないように……

 

 マルシラックが引き留めようとしたが、それすらすり抜けて……

 

 

「俺はファデュイなんだ! ファデュイなんだ!! あんな優しい人たちのところにいちゃいけない!! これで良いんだ! これで良いんだ!」

 

 自分が居るべき場所は暖かい日向やスポットライトが当たる舞台じゃない、暗い暗い、誰もが目を背ける闇の中。命を繋ぐために幸せを捧げた、罪深いことにだって手を染めた…いつか、そんなことが必要無くなる日のために。自分を受け入れてくれた大切な人たちが幸せで生きれるように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあああ!! お父様! 目を開けて!!」

 

 

 ―――どうして……どうしてだよ!!

 

 

 歌劇場の舞台にて尊敬するカーレスは命を散らした。

 

 謂れのない濡衣を着せられ、『決闘=仮面裁判』で自らの潔白を訴えるも文字通りに斬り伏せられて己の血で出来た沼に沈む。ナヴィアが叫ぶも愛娘の叫びが届く場所にもう彼の魂は無い。 

 

 それから、棘薔薇の会は大衆に後ろ指をさされながら一気に没落していき、陽の光があたる場所にナヴィアや彼女たちの部下の居場所は無くなった……

 

 自分はどうすることも出来なかった……

 それでも、せめて…残されたナヴィアたちのチカラになろうとしたが……

 

「――あんたはファデュイなんだから、私たちに手を貸す義理も道理もない。もうお互いにいい歳で立ち場があるんだし、馴れ合いはここまでにしましょ。」

 

 拒絶。――解っている、棘薔薇の会の立て直しとあう茨の道に巻き込む気はないという意図だろう。

 

 それからは失意の中、ファデュイとして任務を続ける日々。きっと世界が良くなると信じて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、虚ろな理想に縋る日々もシンに安寧は与えない。

 

『GYAAAAA!!!』

 

「はああっ!」

 

 時と場所は移り、風神の国、モンド。風魔龍による度重なる襲撃で街は滅茶苦茶…シンもまたファデュイのデッドエージェントとして戦っていた。

 街の上空まで再びやってきた禍々しい邪竜を討つべつく、屋根を跳び移りながら風の翼などを駆使し戦い続けて暫く……暴風をもたらす厄災の龍にも勢いに翳りが見える。あとちょっとで倒すことが…

 

「――シン、そこまでだ! 奴を追う必要はない。」

 

 しかし、仲間のファデュイが行く先を阻む。

 

「何やってんだよ!? このままじゃ逃げられる!」

 

「冷静になれ! 俺達は慈善事業するためにわざわざモンドに来たわけじゃねえ。まだ風魔龍を殺すわけにはいかねえんだ!」

 

 そう、ファデュイがモンドに来たのは風魔龍討伐は建前。真の目的は別にある……故にまだあの邪竜の命を奪う時ではない。

 

『GYAAAAA!!!』

 

「ああ…!」

 

 そして、風魔龍はシンを尻目にモンドの空の彼方へ去っていく。一息遅れて、西風騎士団の団員とおぼしき水色髪の少女が大剣を担いで追いついてきた。その目には怒りが見て取れる…

 

「どうして、逃がしたの…!?」

 

「ち、ちがっ……」

 

 弁明の機会なく、彼女は風魔龍を追い行ってしまう。

 力無く項垂れたシン……そんな背中に同僚がかけた言葉は小さくひとつ。

 

「――割り切れ。」

 

 割り切れ?いったい、なにを割り切れって?

 

 なにひとつ世界は変わらないじゃないか。理不尽ひとつ跳ね除けることすらできないじゃあないか。

 ―――自分ひとりでは何も為せず、流されるままの歯車だったあの頃と何も変わらない。ファデュイの仮面を脱ぎ捨て『新しい仮面』を身に着けたところで結局、捻じ伏せられておしまいだ。

 

「俺は…… 俺は……」

 

 

 

 

「―― こ こ で 諦 め る の か ? 」

 

 

「!」

 

 突如、周囲は炎で包まれる。見覚えのある無慈悲なる孤高の業火…… その中心で脚を組み座してこちらに問い掛ける『彼女』を知っている。

 

「……お父様。」

 

 ファデュイの執行官『召使』……暖炉の家の子供たちを纏める親にして長。美しくも威圧的で恐ろしい彼女は立ち上がるとスッとシンの頬を撫でた。

 

「そんなものか、お前の覚悟は? 譲れぬ意思があったからこそ、私に挑んだのだろう? 揺るがぬ信念があったからこそ、お前を愛する家族に背を向け出てていったのだろう?」

 

「!」

 

 脳裏に過る記憶…… ファデュイとして待ち受けるさだめに自分が求めるものは何も無いと悟り、引き留める『家族』に背を向け召使に挑んだあの日。死力を尽くし、その果てに暖炉の家を出る権利を勝ち取ったあの時。

 やらなければならないことがある。恩人の免罪を証明、その名誉を取り戻し…行く先は世界を敷かれる理不尽を振り払うこと。弱者を救い、誰もが幸せに生きられるようにすること。

 

 ―――そのために選んだ弁護士と決闘代理人の道

 

 

「思い出したか? 自分が何の為にこの道を選んだかを。」

 

「そうだ… こんなこところで立ち止まっていられない!

   ―――俺は戦う! 自分が信じる『正義』のために!!」

 

 

 立て。過去は自分を圧し潰す十字架じゃない…未来へ進む糧だ。

 その意思に呼応するように『フッ…』と召使の姿は溶けるように炎となり、彼女がいた場所から1頭の真紅に輝く龍が舞い上がる。『主』の心が一瞬だけ折れかけたのかと心配していたようだが、気鬱だったと満足気にグルグルと唸っている。

 

「ごめんな、ドラグレッダー… 最初の一歩すらまだなのに躓くわけにはいかないよな!」

 

『…!』

 

 さあ、行こう相棒。

 まずは、『家族』に襲いかかる理不尽をブチのめすために。

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

「どうした、さっきの勢いはァ!?もっともっとオレを楽しませろォ!!」

 

 迫る王蛇。――しかし、フォーメーションが崩れたリネ兄妹とフレミネで相手どれるわけもなく、地に伏す様は今まさに蛇に食われようとしている子猫たちのようだった。

 舌舐めずりして近づく死。されど、このまま丸呑みにされるわけにはいかない…リネットは瞳を動かし辺りを見回すとある物を見つける。

 

(――シン兄さんのライダーデッキ!)

 

 視界の端…変身解除の際に落としたとおぼしき、龍騎のブランクデッキ……あれに自分が持つ契約カードがあれば万全の龍騎となり戦うことが出来るはず。

 打開策には十分だが、本来なら認定された決闘代理人しか使えないこれを使えば自分がカードが盗んだことも露呈するし他にどんなペナルティが待つかは分からない。それでも…!

 

(今は…!)

 

「あ?」

 

 走り出すリネット。傷ついても尚、他者の追随を許さないスピードで駆け抜け、ライダーデッキを拾い上げると素早く契約カードを戻して構えをとる。

 

「変し――」

 

 

 

 だが、それは甘い判断。

 

 

 ――メキッ

 

「え?」

 

 右足……そこに地面から生えてきたゾンビの腕が巻きつき、華奢な脚を握り潰している。

 一瞬、何をされたか理解出来なかったリネット…数秒後、遅れてやってきた激痛と自分の身体の一部に行われた残酷な仕打ちが脳に認識され、彼女は悲鳴をあげた。

 

「あ…あ? あ!? あああぁあああああ!?!?」

 

「リネット! 貴様ァァァ!!」

 

 妹への凶行へ激昂するリネ…しかし、冷静さを一瞬だけ失った隙を突き、頭上からレイドラグーンが覆い被さり拘束する。フレミネも『マズい!』向かおうとするがこちらもハイドラグーンがワラワラと通せんぼを仕掛け行く先を遮り進むことが出来ない。

 

 そんな兄たちを尻目に悠々と王蛇は足をおさえのたうち回るリネットに近づいていく。

 

「フン、お前が正規の龍騎だったのか? まあ良い…オレは猫がなぁ大嫌いなんだ。」

 

 振り上げられるゾンビブレイカー……血に飢えた回転刃が唸りをあげ勢いよく振り下ろされ…

 

「む?」

 

 その直前、王蛇は気配を感じ反射的に顔面をゾンビブレイカーで盾にすると飛来してきたエージェントの刀が弾かれる。この僅かな隙にリネットを何者かが掻っ攫い距離をとると同時に、ドドドドドド!!と凄まじい岩元素の砲撃が襲いかかった!

 

「ぬっ!?」

 

「ローズクラッカー!!棘薔薇の会の特注版、遠慮なく喰らいなさい!!」

 

 後方、ナヴィア率いる棘薔薇の会が用意した大砲による支援砲撃。これにより、次々とハイドラグーンやレイドラグーンが一掃されていき、王蛇も身動きがとれない。 

 

 さて、一方のリネットを助けた人物は……

 

「ふぅ… ふぅ… リネット、大丈夫か?」

 

「シン兄さん!?」

 

 血みどろの痛々しい姿は明らかにすぐの治療が必要だろう。されど、彼はカードデッキを手に立つ……

 

「ごめんな、ちゃんと話をしないで暖炉の家を出ていったから怒ってたんだよな。本当にゴメン…」

 

「――まさか、最初から気がついて…!?」

 

 リネットにアドベントカードを抜かれたことを最初から気がついていた……あえてそれを見ぬふりしていた。それが、一方的に自分を慕う弟・妹たちに背を向けて暖炉の家を抜けた自分が受けとめるべきことだと思っていたから。

 

「あとでちゃんと話そう。今は……」

 

 

 

 

 

 

 ――ギュイイィン!!!

 

「アイツをやっつけてくるから。」

 

 けたたましいチェンソーの駆動音と共にナヴィアともども棘薔薇の会が衝撃波で弾き飛ばされた。

 王蛇による反撃。苛烈な砲撃を受けても尚も止まらない…そんな彼女の前にシンは立ち塞がる。

 

「あァ? まだ生きてたのか?」

 

「よくも可愛い弟と妹に手をあげてくれたな。ぶん殴った後にもう一度、監獄にぶちこんでやるよ。」

 

 兄の怒りの前に多少の怪我なんぞ瑣末な問題。

 再召喚したVバックルへ金の龍が描かれたカードデッキをスライドさせる。

 

「変身!!」

 

 浮かび上がるドラグレッダーのような変身エフェクト。そして、燃え上がる炎と共に紅きドラゴンライダー、『仮面ライダー龍騎』が君臨。正義の国にて無法をはたらく悪を討つべく、『しゃぁっ!』と怒りの拳を握った。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。