原神✕仮面 〜アギト、『契約』の地にて〜   作:ジュンチェ

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 ちょっとした思いつき。
 書いてみたら意外と膨らんだので投下。



流者 前編

 

 

 曇天の空の下

 

 光と闇が今、雌雄を決そうとしている。

 

 荒れ果てた廃墟、降りしきる雨も辺りを焼く業火を止めることかなわず、炎に映えさられふたりの『戦士』が相対する。

 

 

「人は生きていける、たとえ『神』に見捨てられても!」

 

 ――ひとりは『アギト』……覚醒せし、赤と白銀の姿。光と火を宿す人類の守護者。

 

「違う、人は『神』のもとにあるべきだ。故にお前は邪悪だ。」

 

 ――もう片割れも同じく『アギト』……しかし、覚醒したのは無機質は灰。闇と絶望を纏う異形。歪な不揃いの角が彼の在り方を示しているのだろう。

 

 お互いの主張は相容れない、故に決着は互いに超常の存在でありながら原始的な方法が選ばれるのは当然。片方が腰をおとし、ゆっくり構えると相手も応じるように鏡映しに構えをとった。

 

 

「「はぁぁぁ…!」」

 

 そして……

 

 

「ハアッ!!」

 

「アアァ!!!」

 

 

 飛びあがったふたりは互いの必殺たる右脚と左脚が交錯させる形でぶつかり合う。衝撃は火花を散らして炎を生み出し、純白と暗黒のエネルギーが激しく揺らめいて…空間がその負荷に耐えられずピシピシとヒビ割れ……

 

 

 

 バリイィィィィン!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 な、なに!?

 甘雨が目を覚ますとそこは自分の事務机……が目に付く草スライムより深い緑のポヨポヨとしたクッションの上。自分はこの上で寝ていたらしいが、こんな私物持ち込んだ記憶はない。おかしいと思いつつ、寝ぼけ頭でひっくりかえしてみると『鶴』の刺繍が優しいそよ風のようなまじないと一緒に縫われている……それだけでおおよそは把握出来た。

 

「……来ていたんですね。もう、折角降りてきたなら起こしてくれても…」

 

 『育ての親』がどうやら自分が昼寝をしてしまった最中に来てしまったらしい。根っからの仙人である彼女は基本的に山から降りてこないが、本当に気まぐれか有事の時に人里にまで降りてくることがある。それこそ100年に一度あるかないかだが、滅多にない機会…いくら眠くて忙しくても茶で一服するくらいは付き合ったというのに。

 事務机には置き手紙。手に取り開けばまあサラサラと息災かどうかなどと文章と綴られており……

 

「『幾百年かぶりに可愛い寝顔を見られたからヨシッ!』……ですか。ふふっ、

 

 ………………なにもよろしくありません!!」

 

 思わず顔にを真っ赤にひとり漫才をしてしまうくらいのことが書かれてあったが当人は今頃、山でニヤニヤしていることだろう。文句はいつになるかわからない里帰りに手土産のついでに言ってやることで我慢しよう。

 

「風にあたってきましょうか。」

 

 取り敢えず、雑念を祓おう。良い仕事はまずはコンディションから…それはこの国を担う璃月七星に名を連ねる天権・凝光の下、ワーキング・オブ・モンスターズのひとりと影で囁かれる甘雨とて気分転換は時に必要だ。

 同僚に『見廻り』をすると伝え、群玉閣を出る。外は穏やかな快晴……璃月港はいつものように人の往来で活気づき商売繁盛の音があちこちでする。

 

 甘雨はそっと人混みに紛れるとあちこちから飛び交う声を一句一句と耳で拾い歩く。

 

 

 ――なぁ、もうちょい値段どうにかならねえのかよ?こんなんじゃ、モラがいくらあっても足りねえぞ!

 

 ――聞いた? あそこの家にお子さんが産まれて…

 

 ――そろそろ帝君からの信託が下るころだな。去年より繁盛すればいいんだが…

 

 

(…)

 

 人々の生活はいつもとかわらない。甘雨としてもそれは喜ばしい…… ただ…

 

 

 

 

 

 

 

 ―――なあ、また出たらしいぞ。『神罰殺人』。

 

 

 

(…!)

 

 神罰殺人、その不吉な単語が全てを台無しにする。

 いつからか、璃月に流れるようになった噂。誰がそう呼び始めたかもわからない…いや、もう実際に『死人』が出ている時点で噂では済まされなくなってきているのだが。

 甘雨自身もそれらとおぼしき現場の検証に七星・秘書官として立ち会ったことがある。そのどれもが酷く見るに絶えず、また常人には行えないものばかり…例をあげれば、『水場の無い陸地で溺死』『木の洞に埋められ圧死』『突然、火もない場所で人体が灰になり崩れおちる』などなど。……そして、

 

(……決まって狙われるのは『神の目』を持つ者やその血縁者。パターンはわかってはきていても犯人の目星も目的もわからない。

 不安に思う民の中には七星への叱責や『仙人』を疑う者も出てきてしまっている。)

 

 七星への叱責はともかく、この国を見守る役目を岩王帝君から任された仙人たちに限ってそれはありえない……だが、神罰殺人の手口は仙術に匹敵するほど異質なもの。いったい、誰がなんのために……

 

「あ、甘雨さぁ〜ん!」

 

「ん?」

 

 ふと、自分を呼ぶ声に足を止める。 

 屈託ない笑顔を浮かべながら、ブンブンと手を振りこちらにやってくるまだ垢抜けきらないほどの若い青年。黒髪と顔立ちは稲妻人のようだが、瞳が視認しづら糸目が相まって少し狐のように見える。

 

「うっ… ホシノ…さん……」

 

 甘雨はこの『ホシノ』なる男が苦手だ。

 色々とわけあって知り合いになったわけだが、好意のベクトルは彼からの一方通行。理由は簡単…

 

「甘雨さん、今日こそ俺の料理を食べてもらいますよ!」

 

「はぅ!?」

 

 どういうわけか、凄い勢いでグイグイと自分の作った料理を食べさせようとしてくる。何処からともなく両手に持つ料理は甘雨のために作られたもの。璃月料理でその出来栄えは料理人のそれと比較して申し分ないことは見た目と香りで解る…が、当の彼女は慌て距離をとった。

 

「こ、こほん!ホシノさん、前から申し上げていますが職務中の必要以上の飲食は厳禁で、申し訳ないですがご遠慮させて……」

 

「でも、食べないと力が出ませんよ!栄養管理もバッチリですから、さあさあ!ご遠慮なく!」

 

 …しかも、結構しつこい。

 

(悪い方ではないのは承知ですが……なんでこんなに私に?)

 

 

 

 

「こぉ〜ら〜! また甘雨様を困らせて!!」

 

「あ、胡桃さん。…ぐえっ」

 

 困り果てていたところにやってきたのは往生堂の主、胡桃。ホシノを見つけるなり否応言わせずクビ根っこを掴んでズルズルと引きずっていく。さながら、やんちゃな飼い犬と引き摺る飼い主のような絵面だ。

 

「大変失礼しました〜! それじゃ、ここらへんで!ほら、いくよ!」

 

「ちょ、ちょっと!? か、甘雨さ〜ん!?」

 

 

(大変ですね、往生堂の当代当主も……)

 

 

 ――ぐぅぅぅぅぅ〜…

 

 

「あ…」

 

 呆れ半分の苦笑で見送った甘雨…だったが、腹の虫が鳴いてしまう。ホシノの持ってきた料理に胃袋が刺激されてしまったことと、お昼時が丁度重なってしまったからだろう。

 こんなことなら、彼から料理を頂いても……いや、それは駄目だ。はじめて食べた時に『惨劇』が引き起こり、どれだけ苦労したことか。岩王帝君に璃月を任された者、食事もしっかりしなくては。

 

(岩王帝君、璃月の平和を取り戻し、必ずやあなたに任された役目を全うしてみせます!)

 

 

 

 

 

 ………尚、その頃、往生堂の『謎めく期待の大型新人』の青年がファデュイの執行官と優雅に豪華な食事をしていたのは知る由もない。

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

「…それで、めぼしい情報はナシ。手詰まりね。」

 

 璃月の街…その一角に刻晴の姿があった。

 千岩軍の部下数名を引き連れ、手元の地図を気難しい顔で眺めている。紙面には幾つもの赤い✕印と写真が数枚…あと備考欄代わりの小さい紙切れが貼り付けられている。

 

「刻晴様、こちらも収穫はありません。」

 

「神罰殺人、随分と目立つ手口なのに元素の痕跡すら残ってないなんて…これじゃ、追うにしたって方法が無いですよ!」

 

 部下からの報告と愚痴。まあ気持ちは理解出来なくもない…というより、彼女としてもこんなことに時間をとられるのは不本意の極み。

 しかし、璃月で無視出来なくなった神罰殺人は一向に解決の糸口は見えず、業を煮やした刻晴は七星御自ら捜査に乗り出したのである…のだが、事態は進展しない。刻晴とて素人ではないが、今迄の捜査方法でろくな手掛かりが一切でて来ないのである。

 

(……『神罰』なんて巫山戯た呼ばれ方しているだけはある。でも何かしら痕跡があるはずよ…)

 

 サラサラサラサラ…

 

(ただ見廻りだって限度がある…… 早急に新しい手立てを…)

 

 サラサラサラサラサラサラサラサラ……

 

「…ッッ!! さっきからなに!? 誰か火鉢でもひっくり返したの!?」

 

 今後の手立てについて思案していた彼女だが、何処からか風に流され顔にかかり続ける灰に苛立ち顔をあげる。一体、何処のどいつだ……

 

「おい、お前…」

 

「え?」

 

 サラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラサラ…

 

 部下のひとりが顔を引きつらせている。つられてもうひとりの方向…灰が飛んでくる方向を見ると……

 

「え、 あ? あぁ!?アァァ!?!?」

 

 ザァァァァ………

 

「な、なに!?」

 

 悲鳴をあげる彼の身体はぐずぐずと灰化していた。

 燃えているわけでもなく、意識はあるのにみるみる崩れおちていく顔や手……慄きながら刻晴に手を伸ばすも崩壊は止まらない。

 

「た、助けて刻晴さ……」

 

 ドサッ

 

 その腕は救いを求めた彼女を掴むことはなかった。

 数秒もしないうちにそこにあったのは人間だった灰の山と鎧のみ。

 

「う、うわあああああああああ!?!? 神罰殺人だァ!?」

 

「…っ!?」

 

 目の前で起きた『神罰殺人』。

 まさか、よりにもよって七星である自分の目の前で。発狂し逃げ出す部下を制止すら出来ず、予想外の事態に刻晴は硬直し部下だった灰の山を呆然と眺めることしか出来なかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヒヒヒヒヒ…』

 

 

 そんな一部始終を満足げに微笑みながら、物陰から立ち去る不気味な影……

 

 これから璃月に起きる災いを知るように重くも上機嫌な足取りで……そうまだはじまりに過ぎないと。

 

 

 





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