……璃月港からまたまた離れ、無妄の丘。
険しい山道が敷かれた崖の上に往生堂が管理する墓地がある。
ジメジメと薄気味悪い山林は基本的に誰も近づかないのだが、今日は違う。黒い喪服に身に纏う人々が参列し、墓石の前では胡桃がお経を唱え続けており…皆、手をあわせて死者の冥福を祈っている。その中にはホシノの姿もあった。
(―――ちゃんと見送るんだ。俺が救えなかった命を。)
弔われているのは先のアンノウン・アビス連合の襲撃で命を落とした人たち。失ってしまったものは戻らない……ならばせめて、仮面ライダーとして痛みと重さは背負わなければ。
「―――ホシノ。」
「…鍾離先生?」
いつの間にか隣にいた鍾離。ポンッと肩に手を置く……
「胡堂主や俺も含めて璃月の多くの人々がお前の味方だ。全て独りで背負うとすることはない…辛い時は頼ってくれ。」
「先生……」
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「―――今まで黙っててごめんなさい!俺、アギトなんです!」
時は少し巻きも巻き戻り璃月港襲撃の後。ホシノは自分がアギトであることを意を決し往生堂のメンバーに打ち明けた…のだが……
自らの事務机で作業していた胡桃と傍らで修復した古びたお経や資料を整理していた鍾離は『んん?』と顔を見合わせる。その表情は困惑している様子……無理もない、いきなりそんなこと言われても信じろというのが土台無理な話…
「 ――― 知 っ て る よ ? 」
……はい?
「あ、えェ?? え、えーとフーちゃん…今なんて?」
「だから、知ってるって。何を今更。」
当たり前だろ?そう言わんばかりにどっしりと構えている胡桃…反対に完全に予想だにしない展開にあわてだしたのはホシノ。今まで必死に隠してきたつもりだった…それでも、ワケありの自分を受け入れてくれた彼女に不義理だと思い悩みに悩んだ結果だというのに……
「あ、あの…いつから?」
「う〜ん?『最初』から?」
……ああ、そう。
割と早い段階で自分の正体は見抜かれていたらしい。待てよ?
「…ということは鍾離先生も?」
「無論だ。とうに気がついていたとも。」
嘘ん。……何かもう馬鹿馬鹿しさと安堵感が込み上げて足のチカラが抜けてヘナヘナと座り込んでしまった。自惚れていたつもりはなかったが、本物の天才たちの前では自分は利口とは程遠い存在だったようである。実に情けない。穴があったら入りたい…この際、墓穴でもなんでも良い。
そんな彼へ胡桃は席を立ち、屈んで目をあわせた。
「ホシノくん、聞いて。私たちはあくまで君が『アギト』であることを触れてほしくないことだと思っていたから触れずにいたんだ。拾った時、君は心身ともに死の淵にあったしね。」
「…」
「だから、鍾離先生と相談して自分から話してくれるまで待つことにしたんだよ。」
そ、そうだったのか…
確かに璃月に流れ着いた当時、『最後の戦い』で受けた傷と大海の荒波に揉まれた身体は水死体と間違えられるくらいの有様だった。身も心も擦り切れながらも再び立ちはだかるアンノウンと戦う…そんな日々だった。
ある程度、回復してからもアギトであることが露呈すれば人々からも拒絶される恐怖もあった。かつて、自分の世界の人類がそれを選んだように…
「大丈夫、何も変わらないから。ホシノくんは今もこれからも往生堂の一員だよ。」
「!」
でも、もうその心配はない。
ありのままの自分を受け入てくれて、帰れる場所がある。
「……ありがとう。」
星野ショウイチ=仮面ライダーアギトが戦うもう理由は義務感と人の証明だけじゃないのだ。
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(――でも、アギトであることは他の人には秘密にするって凝光さんとも約束したし、そこは気をつけないと!)
―――『 神 罰 ハ 下 ル !』
「!」
…って思う側から! ゾクッとする不吉な気配に辺りを見回すが敵の姿は無い。―――なら、
(上か!)
見上げた先にはスーッと尾を引く飛行機雲。一見らなんの変哲もない光景ではないが…ここはテイワット、飛行機なんてあるわけもない!
大気を音速で突き抜け、空を切り裂き迫る黒い翼。
『フフフフフ…!』
狙うは参列している岩元素の神の目を持つ少女だ。
すぐに気がついたホシノは『危ない!』と彼女を突き飛ばし、間一髪のところで急降下してきた化け物の一撃が空振りに終わる。
『……アァギィィトォ!』
「! ――お前は!」
獲物を取り逃がし、頭上から睨みつける羽ばたく怪人には見覚えがあった。烏を思わせる両腕の翼に嘴のような鉤鼻…『クロウロード』がこちらを見おろす。
その飛翔能力を活かした突進で獲物を殺害することが特徴の怪人だが、ホシノが驚く理由は……
(『また』倒した怪人だ…!)
このクロウロードはホシノが『元いた世界』で倒したはず。しかし、テイワットに来てから倒したはずの怪人が度々現れているのである。理由は定かではないが、放置するわけにはいかない!
「フーちゃん、この娘を!」
「はいはい! さぁ雲菫さん、こちらへ! 後は任せたよ!」
胡桃に少女を託し、いざ。ここからはアギトの領分。
「――変身!!」