――……ノ…さん! ホシノ……さ……
「ホシノさん!」
うおっ!? 呼びかけに目を覚ましたホシノが目にしたのは焚き火の眩く暖かい明かりに照らされた姉……ではなく甘雨の顔。あれ、どうしてここに?
脳内に再起動がかかると崖から落ちてからなんとか岸に這い上がって気絶したところまでは頭に浮かぶのだが。それとここは…ヒルチャールの集落?既に魔物の類はいないようだけれども…
「目を覚ましたんですね。 血相を変えた胡堂主が駆け込んできた時はびっくりしたんですよ。具合が悪かったり、どこか痛んだりはしませんか?」
「だ、大丈夫です… それより他の人たちは!?」
「全員、璃月港に避難しました。心配はいりませんよ。」
…なら良かったぁ。
安堵するホシノだったが、対照的に甘雨は浮かない顔をしている。
「甘雨さん?」
「申し訳ありません。また貴方を危険な目にあわせてしまって…」
「い、いえ! 俺は仮面ライダーとして当然のことをしたまでで!?」
「いいえ。いくら貴方がアギトであっても璃月の民であることには変わりはなく、本来ならば帝君より国の守護を任された私がやらなければならない役目を担わせてしまっている。そんな自分が情けなくて…」
彼女としては璃月の脅威に対抗するには本来、自分が担わなくてはならないのに…あろうことかホシノを再び命の危機にまで晒してしまった。例え抗うチカラを持つアギトであろうと彼には安寧を享受する権利はあるというのに…
「私が海から貴方を引き揚げた時、助かったのはきっと岩王帝君の御加護があったからだと思いました。でもそれは傷ついた貴方に安寧を与えるためであって更に過酷な役を押し付けるようなことは決して…!」
「か、甘雨さん落ち着いて!?」
あ、あれ何か重い方向に空気が流れ出した!?
そうだ! 話題を変えよう!
「そういえば、俺を崖を落とした『仙人』みたいな奴なんですけど甘雨さん何か知りませんか??」
「え?」
それから、ホシノは襲ってきた女性について甘雨に話す。長身で氷元素を扱うことを伝えると…『ん?』と彼女は眉をひそめ、獲物は長槍と思い返せば『んん?』と首を傾げ、アギトであっても堪らぬほどとても強い腕っぷしであったと溢せば『むむむ?』と顎を手に当てる。――もしかして、思い当たる節があるんです!?
「――そのホシノさんを襲ったという相手、実は私の知り合いに特徴が合致する方がいまして…いやでも何故……」
――ヒュゥゥゥゥ…
「「!」」
その時、凍てつく風のような気配ががふたりをなでる。咄嗟に『甘雨さんはここに!』と飛び出したホシノ…そして、ヒルチャールの集落目掛けまっすぐに『彼女』は長槍を携え歩いてきていた。
「…」
獲物を仕留め損なったことを勘づいたのか、その零度の視線はホシノを見据えている。
戦いはどうやら避けられない。仙人か魔物かは知らないが、ここには甘雨もいる…もう二度と『姉さん』を失ってなるものか。その感情に呼応すりように現れた腹のオルタリングは沸々と煮え滾る怒りを現すように紫色に輝く。
「……はぁぁ」
静かに…低く…息を吐き集中を高める。
迫る彼女は今、ホシノの視界ノ中でかつて大切な存在を奪いとったあの水のエルと重なっていた。守りきるのだ、今度こそ…!
「―――変し…!」
「申鶴ッ!! いったい何をしているんですか!?」
うぇ゛!? 不意に飛び出した甘雨の一喝にホシノどころか迫ってきていた『彼女』も驚いた様子で目を見開いて歩みを止めると口を開いた。
「甘雨姉さま?」
姉さま?? え?え?どういうことなの……どう見ても姉妹には見えないけれども?
困惑するホシノに対して説明する甘雨。
「ホシノさん、彼女は『申鶴』。私と同じ師の元で修業をしている私の妹弟子です。」
★ ★ ★ ★ ★ ★
……それから暫く、夜も明けて群玉閣。
申鶴と名乗る彼女共々、甘雨に凝光の前へ連れてこられたホシノ。墓地での騒ぎを凝光に報告して情報を擦り合わせて吟味する……そして、出た結果はというと…
「成程、つまり今回は不幸なすれ違いが起こした結果ということね。取り敢えず、大事に至らなくて良かったわ。」
「申し訳ない、こちらもいたずらに騒ぎを起こすつもりは無かった。改めて謝罪させてほしい。」
彼女は璃月を守護してきた仙人の弟子であり、基本的に璃月港に近づかないがため神罰殺人事件やホシノの素性などについては聞きかじったくらいしか知らなかったらしい。先の戦いも見慣れない魔物が墓荒らしをしている程度にしか思わず、まさかそれが璃月港で噂の『黄金夜叉』などと夢にも思わなかったとか……
その呼び方をされるとホシノは自身に対して『仮面ライダー』という呼称が定着していないのを実感して内心げんなりするのだが…それはまあ良いとして。
「――ホシノ、取り敢えず貴方も命には別状は無いみたいだし、今回は和解という形で良いかしら?」
「え? あ、ハイ……」
すぐに『和解』という解決を少し強めに推してきた凝光。璃月港の主として今このタイミングで仙人といざこざで波風をたてるのは避けたいという意図だろう。ホシノとしても特に申鶴を責めるつもりもない。
それとほぼ同時に胡桃と鍾離が駆け込んできた。
「ホシノくん、心配したんだよ! 怪我はない!? おかしなものは見えたりしない!? 葬式の準備は!?!?」
「取り敢えず大丈夫だよ、フーちゃん。」
「とんだ災難だったな、ホシノ。」
「いえ。おふたりには心配をかけました。」
騒がしいことだ。でもこれはこれで安心する。迎えにきてくれる人がいるのは嬉しいことだ……一旦、往生堂に帰って…
「ああ、待って頂戴。ホシノ、貴方には個人的な話があるの。他の人たちは帰っていいわ。甘雨、見送りをしてあげて?」
「え?」
凝光はホシノだけ残るように告げ、遠回しだが秘書官である甘雨さえ離れるように指示した。甘雨は困惑するも璃月港に不慣れな申鶴のこともあると思えば仕方ないと『承知しました。』と他の面々と共に群玉閣を出ていく。
さて、わざわざこんな人払いまでして天権である彼女は自分に何を聞きたいのか? ホシノは凝光へと向き合う。
「それで、俺に何か御用でしょうか?」
「ええ。ホシノ、改めて貴方には璃月港を護ってもらい感謝をしている。この国を統べる天権として、璃月の民のひとりとして。だからこそ可能な限り貴方のチカラになりたいと考えているわ。
――そのためには、しっかりと『契約』を私達、七星と結んでもらいたいの。」
「……つまり、俺に千岩軍に入れってことです? そういうことならお断りしたいんですが…」
恐らくこの場に甘雨や他の人間が居たらホシノの態度に正気を疑っただろう。一応、国の統治者に堂々と『ノー』と堂々と答えたわけなのだから。
しかし、凝光は怒るどころかクスクスと笑っていた。
「フフ、貴方らしいわね。別に貴方を千岩軍に引き入れるつもりは無いし、逆に入ったら入ったで刻晴の頭痛の種が増えるだけでしょうね。今まで通り往生堂に居てもらって構わないわ。」
「…?」
じゃあ、彼女は自分に何を求めているのだろう??
すると、凝光は『あくまで策のひとつなのだれど…』と前置きした上でホシノでさえ度肝を抜かれる提案をしてきた。
「――ホシノ、私の『愛人』にならない?」