原神✕仮面 〜アギト、『契約』の地にて〜   作:ジュンチェ

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守るべき場所

 

 

「――それで、鍾離先生はどこまでお見通しだったのかな?」

 

「フッ、人聞きが悪いな胡堂主。」

 

 

 麒麟仙女の公演が終わり、劇場を後にするのは胡桃。その隣にはどういうわけか、鍾離先生姿が。

 ホシノと甘雨にチケットを押し付けられ困惑する胡桃の前にあまりにタイミング良くふらりと現れた彼と共に特等席で観劇をすることになった。あまりの見計らったような登場と流れに訝しむ雇主に、当の鍾離はいつものように『俺はしがない凡人だよ。』と白々しく笑ってはぐらかす… ふ〜ん、まあ良いけど?

 

 

「ま、なんにせよだ。これでホシノくんもまた一歩前に進めると良いね。」

 

「……そうだな。」

 

 

 んん?笑ってはいるけど、あまり嬉しそうじゃない?何か考えてる??

 すると、鍾離はスッと切り出した。

 

 

「すまない、胡堂主。溜まっている有休を纏めて申請させてもらいたい。調べたいことがあってな…暫く往生堂を空けさせてもらう。」

 

「へ?」

 

 

 待って…と言いきる前に、『では、頼んだ。』と風のようにように彼は消えた。

 往生堂に有休は無……いや、あるにはあるけど、いきなり期間も具体的に告げずに消えるとか勘弁してほしい。

 

 

「うちの従業員、フリーダムな人が多過ぎない?」

 

 

 まあ、自分もそんな人間のひとりだけど。

 

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 夜が更ける璃月港……灯りが美しいこの場所を一望できる丘でホシノは腰を降ろす。隣には懐かしい人影が1つ。

 

 

「璃月港、いい場所でしょ…『姉さん』。」

 

 ――……

 

 

 彼女は答えず微笑ばかり。

 解っている、これは夢。死んだ人は戻らないし、そもそも彼女はテイワットにはいない。でも、きっと魂だけはずっと寄り添っていてくれたのだろう。弱い自分をずっと心配して…

 

 だから、もうお別れをしなくちゃ…

 

 

「俺はもう大丈夫。帰る場所もある、一緒に戦ってくれる人もいる。だから、俺はここで『アギト』として生きていくよ。」

 

 

 ―――これから、もっと辛いことが待っていても?

 

 

「うん。俺は戦う。きっとどんな困難だって皆と一緒に乗り越えられるから。」

 

 

 心も身体も弱いから、迷ったり傷ついたりすることもあるだろうけど…もう挫けない。前に進み続ける、仮面ライダーとして…この世界に生きるアギトの責任を持って…

 

 すると、彼女は安堵と少し淋しげに…微笑むと夜空へ溶けるように消えていく……

 

 

 今度こそ、やっと見送れた……

 

 

 

「ありがとう…さようなら、姉さん。」

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

 ……目を覚ますと朝日が差し込む不卜盧の休養室だった。

 

 

 ホシノは思い返す…昨夜の戦いのあと、申鶴を甘雨と共に手当てをすべく連れてきたのだ。申鶴自身は別に気にかける必要は無いと去ろうとしたが、甘雨に『大人しく受けなさい。』と圧をかけられ渋々手当てを受けることになったんだっけ?

 あとやっぱり、祭の夜ってトラブルが付き物。怪我人なら何やらの対応を自分も白朮先生を手伝うことになって……一段落ついて腰を降ろしてるうちに寝落ちしちゃったのか。

 

 そんな昨夜の流れをぼーっと思い返していたら見覚えのある人影が過ぎる。

 

 

「む? ああ、すまない起こしてしまったか。」

 

「申鶴さん!身体はもう大丈夫なんですか?」

 

 

 彼女は昨日に引き続き、不卜盧を後にしようとする様子。ただ、もう痩せ我慢をしているわけではなく、『もう平気だ。』と返す言葉に偽りなく、酷かった怪我の目立った痕跡も見受けられない。やはり、仙術とやらのおかげなのだろうか?

 

 

「改めて、世話になったホシノ。昨夜はまたしても不甲斐ない有様で申し訳ない。」

 

「大丈夫ですよ。むしろ、今回のことは俺にも責任が……」

 

 

 

「―――それはそれとして、お前に聞かなければならないことがある。」

 

 

 

 謝罪もそこそこに、改まる彼女。聞かなければならない…そう言われるような節はひとつしかない。

 

 

「昨晩の…貴殿と似たアギトらしき『アレ』は何者なのだ?」

 

「!」

 

 

 やはり、避けられなかった疑問。『ミラージュシリーズ』というアギトでありながら、アンノウンと共にあり敵対する存在を看過できるわけがなかった。そして、ホシノを『裏切り者』とミラージュサイズが呼んでいた時点で何らかの事情を知っているとみるのは当然だろう。

 

 ―――致し方ない。意を決してホシノは語る。

 

 

「アレは、ミラージュシリーズといって、俺と同じアギトです。多分、俺が元いた世界からやって来たんだと思います。」

 

「…」

 

「でも、信じて下さい! 俺はアイツらとは何も…!」

 

「落ち着け。甘雨お姉さまが信じる貴殿が、我等を裏切っているとは思ってはいない。」

 

 

 焦りを露わにするホシノを申鶴は肩に手を置き、落ち着かせる。優しい瞳は初めてあった時に向けられた凍てつく気配は何処にもない…表情の起伏こそ大きくは無いが、確かに微笑みを浮かべていた。

 

 

「甘雨お姉さまが貴殿についてよく話してくれた。お節介過ぎるほど他人に寄り添おうとするくせに、自分のことは独りで抱え込もうとする…おかしな人間だと。だからこそ、今は璃月を共に護れる『盟友』になれて良かったと。

 正直、驚いた。お姉さまにそこまで認められる存在なんてそうは居ない。」

 

 

 甘雨さんが? そうか、自分が寝ている間に…

 嬉しいけど、直接言って欲しかったなぁ。

 

 でも、自分はそんなに『盟友』と胸を張れるほど大層な立ち場じゃない。

 

 

「俺はただやるべきことをやって来ただけですよ。それに、俺は甘雨さんが居なければ今頃は海の藻屑で、助けてもらった後も自分の不甲斐なさで迷惑をかけることもありましたし……」

 

 

 テイワットに流れ着いた時、自分は海に落ちた。ジャックンが『契約』の下で命を繋いでくれはしたが、甘雨がたまたま見つけて引き揚げてくれなかったらこの命は無かっただろう。

 そんなホシノに『謙虚だな。』と一言。

 

 

「――では、私は行く。貴殿のことは、師匠たちにも伝えておこう。」

 

「今度は往生堂にいらして下さい!腕によりをかけた料理をご馳走しますから!」

 

 

 そして、彼女は風に吹かれたように姿を消した。

 恐らく、山に戻ったのだろう。そう言えば、仙人の弟子なんだっけ……師匠、つまりは仙人たちにアギトについて話をしてくれるというのなら、幾つかは揉め事の種が消えるのかもしれない。

 

 安堵しつつ、不卜盧の外に出て風を浴びるホシノ。

 爽やかで優しい風が港の活気を運んでくる……

 

 

 きっと、甘雨も同じ空の下…璃月港の何処かでこの景色を見守っているだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 麒麟仙女、成長した彼女は岩王帝君の元に馳せ参じ、忠義の元に戦い抜きました。

 

 やがて、戦いは終わり、彼女は岩王帝君から璃月の地を護り、人々の生活を見守ってほしいと命を受けました。それから、数千経つ今でも何処かで岩王帝君から任された使命に殉じていると言われています…

 

 

 一時、人々の営みの中に馴染めない孤独に苛まれることもありましたが、今はひとりぼっちじゃありません。

 

 

 

 

 出会いと別れを繰り返し、麒麟仙女…甘雨は仲間と共にあるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――今日も良い天気ですね。」

 

 

 月海亭の執務室の窓、微笑む彼女の役目は押し寄せる書類の大波と格闘すること。今日も今日とて、筆をとる。

 

 さあ、本日も仕事日和だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 

 

「――はあ、はぁ、クソが!」

 

 

 アギト・ミラージュサイズ……から変身が解けたイズナはまだ生きていた。イキリ散らした上で不様に敗走し、璃月の雑木林を半ば這いつくばるように荒い息で進む。こんな有様では、宝盗団にだって勝てないだろう。

 そんな彼女の前に木の陰から現れたのは幸いにも『同胞』だった。

 

 

「よう。どうやら、その身をもって学んだらしいなぁ?」

 

「須晶のジジイ!」

 

 

 ニヤニヤと嘲笑う老人にギリリッと歯ぎしりするイズナ。まともに動けたら掴みかかってやるところだが、今は目の前でふんぞり返る奴に腕一本動かせない。せいぜい、溜まった怒りを吐き出すために口を動かすくらいが限界である。

 

 

「話が違うじゃないか!アイツは弱ってるって話だろ!?」

 

「間違っちゃいねえさ。ただお前が弱ってるホシノより弱いってだけだ。」

 

「!!?」

 

 

 なん…だと… 言葉を失うイズナ。確かに自分はアギトの中でも『ミラージュシリーズ』とカテゴリされるのは解っていたが、それでも強さを持っている自覚はあった。死神の鎌に恥じないほど、敵を葬ってきた実績もある………それなのに、完全なコンディションとは程遠い裏切り者にすら及ばないというのか?これが、『オリジナル』との決定的な差だとでも!?

 

 そんな動揺をする彼女を尻目に、須晶は自分の網膜に焼き付く記憶を眺めていた…

 

 

「ああ、アイツは強かったよ。誰よりも、どのアギトよりも。警察だが自衛隊だがそんな奴等も敵じゃないほどにな……」

 

 

 羨望が宿るように蕩けた光を帯びた瞳。

 一騎当千、そう断言できるあの最強の『白銀のアギト』。

 

 

 

 

「―――でも、アタシらの味方じゃなかった。そうだろ?」

 

 

 唐突なイズナの切り返しに、急激に須晶の焦点が眼前へ戻る。まるで、突然におもちゃを取り上げられた子供が戸惑うような表情を浮かべながら数秒…

 我にかえった須晶はまた口を開く。

 

 

「ホシノを正攻法でぶち抜くのは厳しい。おまけに、今の俺達には人も物も何もかもが足りんが、だからと言って『俺達の神』のお手を煩わせるようなことはあってはならない。ならば……」

 

「………集めるのかい、テイワット中に散ったアギトを?」

 

「ああ。『同胞』の手がいる。」

 

 

 ミラージュシリーズ……テイワットに潜む幻影はひとつではない。

 

 夢見る者たちが見せる悪夢はまだ序曲。

 

 

 

 ホシノや璃月の人々たちが預かり知らぬところで風向きは静かに変わりつつあった。

 

 

 

 





★次回予告

万葉「拙者は楓原万葉、しがない浪人でござる。」

ホシノ「辻斬り…!?」

 新たな出会い、それは新たなる波乱の予感…
 

???「旦那は死んでしまうかもしれんのぉ…」


 稲妻より舞い戻る、新たなる刺客。


北斗「アンタには船を降りてもらう…!」

行秋「侍のアギト…!?」


 璃月港に迫る血に飢えた凶刃。


刀のアギト『いざ、尋常に勝負。』


万葉「お主はただの血狂いでござるよ。」

ホシノ「…」


 次回、『迫る怪刃ッ!!』…再び目覚めろ、その魂!!

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