あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
此方、暴風雪に積雪が勢いを増して嫌な時期になりました…
それでは、最新話です。
「――お初にお目にかかりまする。南十字船団で世話になっておりました榎宮(えのみや)福郎と申します。こんなナリですが一応は商人の端くれで…」
「南十字? ――ああ、北斗船長のところの?」
商人を名乗る福郎なるこの男。凝光も南十字の名前には心当たりがあるらしく、におい立つ奇怪な雰囲気とは相反して身分はしっかりしているらしい。
それにしても、堂々と帯刀して歩くからには稲妻人だろうか?ホシノも聞き齧ったくらいだが、テイワットの海原を越えた先に雷神が治める国『稲妻』があるという。この稲妻にはなんと侍が存在し、雷神は統治体制として幕府を敷いているのだとか。
「ほ、本物のお侍さん?」
恐る恐る尋ねてみるホシノ。璃月生活は長くなってきた身だが、侍にはまだ一度もお目にかかったことはない。
すると、福郎は顎を撫でながら苦笑して答えた。
「まあ、その道…いや、術(すべ)を模索しているにわか侍といったところですな。ワシは稲妻の出身ではありませぬ故…」
そうなの? でも、璃月出身にしてはあまり空気に馴染んでいないというか何というか…
(この人、『日本人』っぽいけど…)
いや、そんなまさか。確かにテイワットに他の漂流者がいないかと思っていたことはあったが、商人として身分を確立しているなんて流石にありえな……
あー、そういえば、天権の愛人をしている異世界人がここにいましたねハイ。
「確か、ホシノ殿でしたな……ワシの顔に見覚えなどはありましたかな?」
「え? ――い、いや別に…同郷の人かなって思って……すみません。」
最初に顔をジロジロと見てしまったことを気にかけていたようだ。やはり、失礼だったのだろう…
ところが、福郎は咎めることはせずに『そうか…』と視線を反らして鼻で笑う。ホシノへの…というよりは、まるで自分を嘲笑しているような仕草。凝光は少し訝しむが、それを問うより早く彼は口を開く。
「実は、凝光さま。ワシの出品は明日になります故、その時にお目を少しでも向けて頂けましたら、とても光栄でございます。豪華な壺や名画に財宝と比べましたら、多少は見劣りはするかもしれませぬが…後悔はさせませぬ。必ずや、そのお目を奪うような品をお持ちいたします。」
「あら、大した自信ね? 天権の眼鏡は厳しくてよ?」
「実に、望むところ…」
天権を前に堂々とした啖呵を切る。下手な璃月の商人だって恐れ多いと尻込みするような行いをやってのけ、凝光も悪い気分はしないと不敵に微笑む。
そんなやり取りをしていると、周囲から視線がちらつく。ヒソヒソとした声、困惑や敵意を帯びた眼差し……良くない空気を察したのか福郎を身を翻した。
「では、天権さまワシはこれで。ホシノ殿、これからも『同胞(はらから)』として仲良くやっていきましょうぞ!」
「―――え?」
今、なんて言った?
「あっ、あの!」
「あそこよ、天権さまが買った傘は!」
「俺だ、俺にも1つくれ!あ、凝光さまもいる!」
「うわっ!? ま、待つでござるよ!? な、並んで!!」
すぐに呼び止めようとしたが、傘の話を聞きつけた民衆が殺到するタイミングと重なりそれは阻まれた。なんとか掻き分けて先を見たものの…もう既にあの奇怪な商人の姿は何処にもない。
人混みを見回したところで徒労に終わり、残ったのは胸のざわめく鼓動のみ。
「同胞(はらから)…」
福郎が残した言葉……一体何を意味する?
★ ★ ★ ★ ★ ★
「――クク、ワシを覚えておらんか。まあ、無理もない。」
道行く人混みの中で、福郎は不気味に口角を吊り上げる。
ああ、ある意味で『憧れ』に均しい存在に認知すらされていないなんて。己を嘲笑うべきか、哀れむべきか…
まあ、良い。自分は覚えているのだから。
『星のアギト』……そのチカラは幾星霜の星が降り注ぐが如く。
その振り翳す白銀に煌く刃は、如何なる者も防ぐことが敵わずに斬り裂かれたものだ。――あの時に受けた胸の傷みは尚もこの胸に息づく。
「機会があればいずれ……いや…」
それは止すか。まだ自分には為さねばならないことがある。リベンジマッチはやるにしても後々の最後だ。
「まずは、色々と買い揃えるか。―――む?」
そんな時、ふとある店舗に目が留まる。女性関連の装飾品を扱っているらしく、店先には髪飾りなどが並べられていた。
その中で、福郎の目を惹いたのは淡い色合いをした蝶の髪飾り。少々、値は張るが商人である今の自分なら手が届く値段だ。
「店主、すまん。この髪飾りだが…」
「は、はい、こちらですね? 娘さんにですか?」
「………まあ、そんなところだ。」
実子はいないが、渡したい相手はいる。
彼女は海を渡った遙か先…稲妻の地で孤独ながらも奮闘する淡い珊瑚のような可憐な少女。ああ、きっと今も周囲の期待に応えるべく心をすり減らしているだろう…
いつになるかは分からないが、再び稲妻の地に行く時はこれを届けよう………
―――雷神の首と一緒に。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「―――まあ、順当に考えればその福郎って人は、ホシノくんと同じ『日本人』、或いは…『アギト』なのかもね?」
そう、自分の考えを述べたのは胡桃。
場所は移り、往生堂。
ホシノと凝光は一時的に喧騒から逃れることと、考えを整理するために避難してきたのだ。すると、たまたま堂主である彼女もいたため、一部始終を話したところなのである。
「やっぱり、そう思うよね。アギトかぁ…」
複雑な表情を浮かべるホシノ。神罰殺人にアギトが関わっているかもしれないなんて思われた矢先に、同胞を名乗る男。流石にドンピシャなタイミング過ぎるとは思うのだが…
「まだ答を出すのは早計よ。まだ彼が何者かなんて判断出来るほど情報は集まって無いわ。」
とりあえず、結論を急くことは無いと凝光。確かにここで、モヤモヤを掻き回しても、真実なんて明らかになりはしないのだから。
そんな簡単に割り切れれば楽なのだけれども…
「とりあえず、明日は彼もオークションに出る以上、また接触する機会はあると思うわ。その時の情報収集はホシノ君に任せることになると思うけど、構わないかしら?」
「はい…」
アギトである可能性がある以上、疑わなくてはならない。神罰殺人に関係しているのか、そうではないのか?
そして、自分は璃月の秩序を天権と契約した身。役割から目を背けることは……と、眉間に皺を寄せていたら、グイッと細い指先が額を引っ張った。胡桃だった。
「らしくないぞ、仏頂面なんて! 別に、アギトだから悪いヤツって決まったわけじゃないんだし、現に人間を護るために戦っているアギトがここにいるじゃん? まずは、信じてみようよ!」
「フーちゃん…」
励ましと笑顔。重くなる胸の内が少し軽くなった気がする…
そうだ、何も分からないなら良い方向に考えたって良いじゃないか!
「ゴメン、くよくよして。よし!! 明日への気合を入れるために腕を振るっちゃうぞ!!」
「そうそう、その意気! そのほうがホシノくんらしい…」
「――それじゃあ、今朝、漁師さんから譲って貰った新しい外道を捌いちゃうよ!」
「…え゛?」
――なんだって…って言うより早く、ホシノは台所から箱を持って来るなり開封。すると、アビスの魔物ともつかぬ刺々しくヌメヌメした『怪魚』を胡桃に見せつけた。ナマズか何かの類いか?或いは新種の妖魔か?
凍りつく胡桃に対し、ニコニコのホシノは意気揚々と『ほら、可愛いでしょ〜?』と抜かす。 おおよそ、まともな人間の感覚ではない。
「え、嘘でしょ?これ食べるの?見るからに毒ありそうなんだけど…」
「お、流石鋭い!このお魚さんのヒレの先には毒があって、刺さったら壊死しちゃうかもしれないんだけど、取れば大丈夫!」
「取れば大丈夫じゃないよ!?!? なんでわざわざ毒がある魚を食べなきゃいけないのさ!? こんなの出されたら、鍾離先生だって有休延長するわコレ!!」
まあ、そもそも『外道』という魚のカテゴリは毒等で食用に向かないものという意味合いもあるので、彼女の言い分は御尤もである。そんなゲテモノをわざわざ食すのは『飯使い』こと万民堂の看板娘くらいだ……………お前の影響かァ!
あと、往生堂の謎めく大型新人こと鍾離は魚介類が一切が駄目である。どれくらい駄目かと言うと、魚介類が食卓に並ぶ日には確実にタルタリヤと外食に行くくらい嫌がっている。
「そうだ、凝光さまもどうですか?」
「フフッ、ごめんなさいね。誘いは嬉しいけど、先約があるの。また今度ね。」
――― 嘘 で あ る 。
ポーカーフェイスの微笑みは隠す。このあと、食事の予定なんて別に無いし、なんなら秘書官を使って後々に好みのデザートを買わせる腹積もりだ。
いや、そもそも国の最高権力者に外道を食わせようとするんじゃぁない!
「それじゃ、私はここでお暇するわね。」
「う、うそ…待って、凝光さまぁ!!!」
その後、哀れな堂主を見捨てた凝光が往生堂の食卓にどんな料理が並んだかはついに知ることはなかった。
ただ、いつかはあの手合いの料理を食べさせられるかもしれない甘雨を思うと、同情とどんな反応をするか気になるという2つの気持ちがせめぎ合い、複雑な苦笑を帰路で浮かべていたという。
※アイテム解説
★蝶の髪飾り
→福郎が購入した髪飾り。少し値が張る珊瑚のような淡い色合いをした女性向けのもの。出来た溝を飛び越え、また手を取り合えると信じるのは勝手。しかし、羽ばたく蝶にとって伸ばされた手は、人間も獣も恐ろしいものであることには変わりはしない。
★外道の気分任せ・璃月編(ホシノのスペシャルメニュー)
→ホシノが作った毒魚を用いた料理の総称。毒があろうと、見てくれが悪かろうと人の知恵と技術で食べれるものはある。これは、彼が探求の果てに行き着いた料理のひとつ。
そう、きっと道に外れた存在も諦めなければ、誰かが受け入れてくれるはず…