「――凝光さま…」
警戒を露わにする甘雨。無理もない、アギトと目される人間が白昼堂々とファデュイ…あまつさえ、執行官と共に天権の前に立つなんて。強かなのか、それとも無知な阿呆なのか…
凝光としてもまだ判別はしかねるところだが、少なくとも心象は最悪なことに変わりは無い。それに、タルタリヤ側も一体どんな思惑があるのか。ファデュイは決して無償で他人に助力などしないのだから。
さて、当のタルタリヤはと言うと…
(へえ? 絡んだのは俺からとはいえ、本当に良い度胸してるね福郎さん。)
実はコンタクトを取ったのはタルタリヤから。昨日のホシノたちとの異様な空気を醸すやり取りから、福郎を只の稲妻かぶれの商人ではないと察した。すぐに、執行官自ら追跡して話を聞くと、『訳あり』だが商人らしい……とりあえず、北国銀行の銀行員として話を聞くと…
―――「金は確かに入り用でありますが、それよりまず必要なのは…ああ、『盾』ですな。武器屋で売られているような木を束ねた粗末なものではなく、鉄で編んだ最新の盾を。」
―――「何に使うかですと? 勿論、『斬る』ためでございます。斬れぬ刀に価値などありませぬ故。」
試し斬りに盾を寄越せと? 当たり前のように言ったあの顔…
面白い…ならば。タルタリヤは偶然にも手許にあった『最新の盾』を用意してステージに上がる。
「これから、こちらタルタリヤ殿にお持ち頂いた盾を斬らせていただきます。」
会場からどよめきがあがる。福郎が斬ると宣う盾は高身長である彼の半身を余裕でカバーできるサイズな上に、明らかにギミックがあると彷彿させる機械仕掛けなデザイン……何よりも明らかに細身の太刀が通るとは到底思えないほど分厚い。
良くて刃毀れ、最悪の場合は刀身が折れて怪我人が出るかもしれない。正気じゃない挑戦だが、福郎は臆さず、商品であるはずの刀を手にとってみせる。
「――では、これからこちらの用意して頂いたこの盾を叩き斬ってみせましょう。刀の本懐は『斬れて』こそですからな。では、タルタリヤ殿…盾を置いてくだされ。―――タルタリヤ殿?」
促されても、タルタリヤは盾を手放なさなかった。
いたずらっ子のような笑みで、彼は盾の裏側に仕込まれたトリガーを引くと、カチャカチャと音をたてて変形をはじめる。両サイドから翼が生えたにパーツが飛び出し、流れた水元素がシールドを形成して更に面積を拡げた。
何それ…困惑する福郎に対し、タルタリヤは語る。
「いやさぁ、最新式の盾をご所望だったから用意したんだ。まだ名前すらついていない試作品…スネージナヤの最高峰の技術を詰め込んだ盾をね。」
「――おお、なんと。」
たぶん、そこまでのものを要求したつもりなんて無かったのだろう…きょとんとする福郎。首を捻る、なんでわざわざ…ああ、そうか。
(いくら稲妻の名刀って言ったところであんな盾を割ることなんて出来っこない。もし、逃げれば天権の前で恥をかくことになる…そうなったら、商人としては終わりだ。)
或いは…自分の『素性』に勘づいているのか。
噂に聞くファデュイの執行官『公子』、やはり善意で流れ者の商人に近づく理由は無い。自分にチカラを使わせてこの場を切り抜けさせると同時に暴いてしまうか、失敗したらしたで北国銀行の『特別なお客様』の末席に連ねてしまおうという腹か。―――成る程、成る程…
「――面白い。」
受けてたつぞ若造?
スッ…と腰を落として、居合の構え。
「今一度、盾を置いてくだされ。うっかり刃が滑って、称号が公子から『毒蛇』になっては格好がつきますまい。」
「お気遣いどうも。でも、盾の本懐は『護れて』こそだろう?」
「……では、恨みっこなしで宜しいですな?」
ほう…その威勢やよし。
ここからは、互いに喰うか喰われるかの死合だ。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「――甘雨!」
「わかっています」
すぐさま甘雨は凝光の隣から飛び出した。驚く胡桃たちを跳び超えて向かうはステージ…アレは両者ともに殺しても構わないと思っている勢いだ!このまま流血沙汰になれば、もうイベント進行どころの話ではない!!
「お二人とも、やめなさ…!」
――斬ッ
その時、白刃が煌く。
彼女が制止が届くより先に、鋭い居合が迸った…
「ぁ……」
十字に割れる盾… 崩れ落ちるタルタリヤ…
観客の悲鳴…
胴体だけが、支えを失い四肢とズレて床に落ちていく……
――カランッ
「おっと。」
寸前、よろけたタルタリヤの腕をとる福郎。
割れた盾だけが足元に落ち、五体満足の彼は散っていく水元素の光に照らされる満足げな笑顔を見る。
「大丈夫ですかな?」
その満足げな気遣いは、まだ尻の青いガキへ勝ち誇る実に大人げない言葉だった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
―――まさか、自分が『凄み』にアテられたのか?
助け起こされたタルタリヤは自分の現状を振り返る。たしかに、四肢を断たれた凄まじい痛みと崩れ落ちる感覚はあった……はずだ。しかし、転がっているのは鮮やかに4等分された盾のみ。
幻術……いいや、違う。自分は斬られたと『錯覚』をしていたのだ。
「――良いですか、この場は…!」
「――いやはや、申し訳ない… しかし、見てくだされ…刃毀れひとつしておらんだろ?」
「そういう問題では…!」
甘雨に平謝りする福郎。確かに、届け出なしで刃物を大衆の前で振り回したのだから当たり前だろう。下手をしたら怪我人が出ていたかもしれないのだから、当然の対応と言えばその通りなのだが……
「―――1000万モラだ。一式買い取らせてもらう。」
観客からあがるひと声。
甘雨は耳を疑い、福郎はニタリと笑う。
「ま、待ってください!この競売は…」
「―――1200万モラ!」
「―――1530万モラ!!いや、1600万モラ!!」
「―――1930万モラ、どうだ!」
もう止まらない。燃え広がるように観客たちは大枚を払うと声を張り上げはじめた。今、眼前で起きた奇跡…その品を買い取りたいと財布を掲げ、我こそが我こそがと値を張り上げ続ける。
そう、負けたのは自分だけではないと悟るタルタリヤ。璃月のルールでさえ、焚き付けた民の熱で捻じ伏せる……今、ここで強引に競売をやめさせ福郎を叩き出したとしても、それはそのまま、天権への不満に繋がりかねない。
「やれやれ、完敗だ。」
溜息をひとつ。ふっかけた上に負けた敗者としてダサいこの上ないが、敗者は敗者なりにケジメをつけさせてもらおう。
「福郎さん、俺に買い取らせてくれ。―――3000万モラでどうだい?」
3000万モラ!? 会場で更なるどよめきが上がった。
大金も大金、流石に控えていたファデュイの女性隊員が血相を変えてステージへ駆け上がるなり上司である彼に耳打ちする。
「…(公子さま、流石にそれはマズイですよ!支給された活動費が干上がってしまいます!?)」
「3分の1は俺のポケットマネーで、もう3分の1は『傀儡』の研究開発費で落とそう。あの盾、もともと彼女が作ったものだし。」
「…(正気ですか!? 流石に怒りをかいますよ!!)」
図太い神経とかそんな次元じゃない。
しかし、もう遅い。
「3000万モラ、それより上の方はいらっしゃいませんな?」
流石にこれ以上は…と渋る観客たち。ああ、まずいまずい!
咄嗟に割って入ろうとした女性隊員だが、間に合わない。
「では、商談成立! 落札したのは北国銀行のタルタリヤ殿!!」
雷電五箇伝の流派武器一式、これにてお買いあげ。拍手喝采と共に商談は幕を降ろす。
そして、これらが遥か北の大地に存在するナド・クライのファデュイ技術開発局に領収書と共に送りつけられ、統括する執行官である傀儡の怒りが大爆発を起こすのは数日後のことである。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「凄いねえ、ファデュイの執行官を逆に手玉にとるなんて。」
感嘆する胡桃。文字通り、活路を切り拓いてみせたことは後々も語られていくだろう。その証明となる品をわざわざタルタリヤ自身が買い取ったのはせめてもの風評の軽減をするためか。
一方のホシノも思う…
(やっぱり、あの人…アギトなのか?)
アギトなら、あの剣技も頷ける。でも、どうやって確かめよう?
そんな彼等の後ろを笠を被った人影がスタスタ歩いていく…
「――?」
万葉だけが、その人影に気がついて振り向く。
正面は分からないが、後ろ姿から窺える出で立ちはまるで…
(――稲妻の人間?)
稲妻からの追手?いや、注意は福郎に向けられていることから自分を追ってきたわけではなさそうだ。それに、気配を消すように人混みを縫うように歩を進めていく様子は普通の人間ではない。
そんな人間が璃月になにを?
嫌な胸騒ぎがする。この先、何も起きなければ良いのだが…
海灯祭を祝して!
僕はコロンビーナに石を全突っ込みして、無凸持ち武器までは逝きました。残念ながら白馬仙人はお迎え無理ソ。よし、これからは来たるべきサンドローネのために石備蓄だァ!
――来るよね、サンドローネ?