「――さてさて、ついてきてしまったものの…」
どうしたものか……首を傾げた万葉。
ホシノと胡桃があの見るからに自称・侍志望の怪しい商人に連れて行かれた料亭の前…を窺える物陰までは来た。何かこううまく口には出来ないが、あの福郎なる男のにおい立つ不気味さは人とも妖怪とも違う…
あの盾を割り、斬られたと錯覚させる剣捌きもそう…あれは、果たして人が至れるものなのか? 研鑽の果てに到達する達人の領域とはまるで異質。神の目も使った様子も無い…
(稲妻人ならあれだけの使い手、知らぬはずが……ん?)
「――ここだな?」
「――ああ、間違いない。しっかり、例の侍気取りが入るのを見たからなァ。おい、裏口を抑えておけ。見張りもつけろ。」
料亭の前に急に人が集まりはじめる……客にしては、格好も粗末で汚い上に武器類まで持っているではないか。『怪我したくなかったら離れろ!』と荒っぽく人ばらいまではじめて…
「これは、まさか…!」
集まる人間たちの狙いに気がつくと万葉は走り出す。中にいるホシノたちが危ない…!
★ ★ ★ ★ ★ ★
「今一度、考えて欲しい…ホシノ殿に胡堂主。是非、是非…決して悪い話ではない……む?」
なんだ? 急に口を止めた福郎は視線を外して目つきを鋭くする。
ほぼそれと同時に店の戸を勢いよく開け、ワラワラと荒くれ者たちがなだれ込んできた。異常を察して出てきた店主やウェイトレスには刃物をチラつかせ、席に座る他の客たちも囲まれて動きを封じられてしまう。まだ客足も多い時間に強盗…というわけでもなさそうだ。金品を狙う素振りはない。
「むむ…これは……」
「毎度ォ毎度ォ、お騒がせいたしますぅ!飛雲商会の『行秋』が通りますよぉ!!」
続けてやって来たのは行秋……っぽいヅラと服装をした中年の男。
行秋本人を知るホシノと胡桃は思わず『え゛?』と声を洩らしてしまうくらいのクオリティで、年頃の美少年にはあってはならない筈のはみ出したスネ毛と無精髭…形だけでも似せようという気概すらない有様。
この変装男…便宜上、エセ秋とでも呼んでおこう。彼は福郎を見つけるなりにんまりと下品に笑う。
「おおぅ、会いたかったぞ新顔ォ?」
知り合い? 胡桃が福郎に視線を向けるが首を横に振る。
そのまま、エセ秋はドカッと福郎の隣に座るとテーブルに足をかける。――一応、行秋は育ちの良い坊っちゃんの筈なのだが。
「へぇ、良いところで飯を食ってるじゃねえか。この俺様への挨拶すら差し置いて…なぁ?」
「失礼ですが、どちら様で?」
「飛雲商会の行秋だって言ってんだろがァ!?あぁん!?」
最早、口調もゴロツキのそれ。
唾をとばして怒鳴る様は無関係な客たちはビクッと震えるが、対照的に全く動じない福郎。むしろ、少しずつ眉間に皺が寄りつつあった…
「おお、では行秋殿。ワシのような駆け出しの端くれに何用で?」
「ふん。―――お前さぁ、この璃月港に誰に許可をとって商い始めようとしているワケぇ?」
「? 既に、総務司や各所に届け出は済ませておりますが…何か問題でも?」
「オイオイオイオイ、ふざけるにしても笑えねえぞぉ? 商売をやるからにはなぁ、ちゃ〜んと、そのシマを管理している人間に挨拶して、それからしっかり『包んで』納めるのが筋ってもんだろ??」
あ、この流れ…
ホシノは察した。ドラマとかで見たことがある…『みかじめ料』だ。反社が言い掛かりをつけて、一般の商売人からお金を巻き上げるアレ。普通に恐喝だし金を払った側も罪に問われる。無論、それはひいては璃月だって変わりは無い。
「お前さぁ、調子に乗りすぎなんだよぅ。オークションで一発芸して見たり、凝光さまに気安く話しかけたり…ハッキリ言って、よそ者の物知らずと言っても無理がある。
そこでだ……『仲良し代』を頂けりゃ、アンタにふっかかる余計なゴタゴタを片付けてやらんこともない。どうだ? まずは、手付けとしてまずは100万モラから…」
「えぇ……ワシ、これでも警察官だったのだが。」
いや、仲良し代って……福郎も流石に呆れ顔。
仕方ない、店主に悪いが…と傍らに置いていた刀に手を……
「そこまでだ!もう千岩軍にはもう通報してある!神妙に縛につけ!!」
その時、店の戸を開け乱入してきたのは万葉。
見れば、足元には見張り番を担当していたとおぼしき男たちが倒れている。地獄に仏とはまさにこのこと!店を占拠したあれくれ者たちにも動揺が拡がり事態は終息に向かうと思われた。
しかし、エセ秋はつまらなげに溜息をつくと仲間たちに手をあげて合図をする。
「面倒増やしやがって……場所を変えるぞ?」
すると、懐から何かUSBメモリのようなものを取り出した。明らかにテイワットにそぐわないアイテムにホシノと胡桃は『なにそれ?』と呆気をとられ、一方の福郎はこれの危険性を勘づくやすぐにテーブルを蹴り飛ばしてエセ秋を怯ませ2人の腕を掴む。
「いかん、お二人とも、ここを離れるぞ!」
え、ちょっと!? 有無を言わせず、助けてくれた万葉すら置き去りにして店を飛び出す一行。
「ふ、福郎さん!?」
「話は後だホシノ殿!あれが、こんな街中で使われたら…」
『逃がすかよぉカモがァ!!!!』
「「「!」」」
説明する余裕など無く、背後から何処からともなく竜巻が迫る!
飢えた大蛇のようにのたうち回り、街並みを破壊しながらあっという間にホシノたちを呑む。
このあと、ホシノが記憶していたのは、全身をシェイクされ滅茶苦茶にされる平衡感覚と胡桃の悲鳴だけだった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
一行を呑み込んだ竜巻は、空高く舞い上がるとそのまま璃月港の外れにある丘まで飛んでいく。そして、巻き込んだ乗客たちを乱暴に吐き出すと、主であるエセ秋とその仲間たちを丁重に着地させて消えた。
地面に投げ出されたホシノと万葉…福郎はなんとか着地の姿勢をとり胡桃を間一髪で抱きとめて事なきをえる。
さて………面倒なことになった。
「さあ、これでわかっただろ?俺達と仲良くする利点が?」
ニヤつくエセ秋と手下たち。
今の竜巻は神の目によるものではない…ということは…
「ま、まさか… アギト…」
「いいえ、違いますぞホシノ殿。」
否。超常の能力はこのテイワットにおいて、神の目とアギトに至る者だけではない。そして、福郎は知っている…この超常の能力の正体を。
「『ガイアメモリ』…モンドで出回っているというただの人間を怪人へと変える珍妙な小箱。アビス教団も関わっている噂もある曰く憑きの品ですな。」
『お? なんだ、知っているのか?』と笑うエセ秋。その手には銀色に鈍く輝く『W』のメモリが存在感を放つ。
「そう、これはどんな人間も超人へと変える魔法のアイテム。その中でも最強とされる『天気(Weather)』!そんじゃそこらの神の目使いだってめじゃないぜ!!」
ガイアメモリ…テイワットともホシノの出身とも違う別の並行世界からもたらされた異端の技術。地球に刻まれた生物から無機物、現象から概念までありとあらゆる記憶を抽出し、使用者をスイッチひとつで怪人・ドーパントへと変える悪魔のアイテム。
これが、璃月の隣国であるモンドにどういうわけか流れ着き猛威を振るっていた…… だが…
「聞いた話によれば……手にした小悪党どもは分をわきまえずにファデュイに手を出して返り討ち、そこを西風騎士団が一網打尽、果ては手持ちのメモリの大半をアビス教団に巻き上げられて、命からがら逃げ出したとかなんとか。」
「!」
エセ秋の顔色が変わる。コイツ、最初から全て分かっていたのか?
対照的に福郎は余裕どころか、どこか愉しげに口角をあげていた。
「さて、何処のならず者商人に抱えられているかは知りませぬが…まあそれは追々どうにかするとして…」
まずは、お前達だ。稲妻で手に入れた妖刀をゆっくりと抜く福郎。宿す眼光は追い詰められた獲物にあらず。鳥の巣に配膳された卵を前にして、値踏みし舌舐めずりをする大蛇のようにどっしりと揺るがず、カチッと柄を握り締め…静かに構えをとる。
「超人にせよ、怪人にせよ、一線を越えたのなら…人の法も情も通じはしない。解っていますな?」
向ける切っ先に恐怖など微塵も無い。呑まれるのは己ではなく、お前達なのだと。その姿勢は無法者たちを怒らせるには十分すぎた。
「だ、黙れ!! 調子に乗るなよ侍被れごとぎが!!」
【 ウェザー!! 】
ガイアメモリを首筋に突き刺挿すエセ秋。挿されたメモリはそのまま、体内に侵入して内包されていたエネルギーを解き放ち、細胞の一片一片から使用者を異形の姿へ変えていく。
白い風雲を纏うような怪人『ウェザードーパント』となった彼は、旋風を巻き起こして頭上にて対空すると掌を天へ掲げた。すると、みるみる真っ黒い雲の塊が頭上に出来上がり帯電をはじめる…まるで、積乱雲のミニチュアだ。
『流石にキレちまったよ。テメェは塵一つのこさず消し飛ばしてやる!』
激しく鳴り響く雷鳴。言っていたように、神の目を持つ人間とて容易はたどり着けない大技を今まさに放とうとしている。
「に、人間が…アンノウンに!?」
「あれは、ドーパントですぞホシノ殿。下がっていてくだされ。」
一方の福郎。ふぅぅ…と息を吐き集中力を高め、腹に強く念じる と灰色のオルタリングが現れた。宿す賢者の石は赤黒く淀んだ輝きを魅せるそれは『オルタリング・ミラージュ』…則ち、彼は幻影たるアギトの系譜の証。
『くたばれぇッ!!』
「…」
直後、牙を剥く雷光。元素力に由来しない青白い光が一瞬で眼前に迫るッ! 常人には眼で追うことすら叶わない即死の一撃が…
「―――変身。」
――斬ッ!!!
★ ★ ★ ★ ★ ★
『――はは、ザマァ無いぜぇ!』
ウェザードーパントは高々に笑う。そぁら、見たことか!いくら刀の腕がたとうが、ただの人間がドーパントに敵うもんか!!
立ちのぼる黒煙に嘲りをたっぷりの哀れみを向ける。ああ、出しゃばらなければ、まだ長生き出来ただろう。愚かとはまさにこのこと!鍛錬をいくら重ねた時間と労力に比べて、自分がメモリを懐のモラをはたいて手に入れた程度に比べれば、ああなんと無情なことよ!
『さて、黒焦げになったそのご尊顔を仰がせてもらおう…か……』
……なんだ? 晴れていく煙に人影が見える。
しっかりと足で立ち、刀を握って……いいや、ありえない!?普通の人間が落雷の直撃を受ければ、全身黒焦げ、五臓六腑も焼け爛れ生きていられるわけがない!
『バカな… バカなバカな……』
それでも、奴は立っていた……
誤算はただひとつ、相手は『普通の人間』なんてか弱い存在では無かったこと。
『――雷を斬ったのは初めてだが…存外、いけるものか。』
妖しく光る妖刀を携え、黒煙の中から現れたのは灰のアギト…ミラージュシリーズ。歪な展開がされたクロスボーンの頭からポニーテールのようなパーツがなびき、赤黒い複眼は吊り上がって鋭い。
仮面ライダーと呼ぶにはあまりに異質。近しいとすれば、落ち武者か……
『では、改めて名乗らせて貰おう。
……『ミラージュ・アシュラ』、それがワシの名もう1つの名だ。』
幻影の刃、推して参る。
お久しぶりですッ(謝罪)
生きてます!! 何か思いのほか、長くなってしまった…
じ、次回は間が明かないようにしたい…