原神✕仮面 〜アギト、『契約』の地にて〜   作:ジュンチェ

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迫る怪刃ッ!! Ⅹ

 

 

 時間は遡る……

 

 璃月港より海原を越えた遙か先……場所は雷神治めし侍の国、稲妻…その本島と海祇島を繋ぐ浜辺。

 

 かつての日本の江戸時代を彷彿させるこの国は内戦状態に陥っている。本島である鳴神島と海祇島との信仰の違いによる長きに渡る対立、過去の幾度となく繰り返された諍い、決定的になったのは雷神=雷電将軍による『目狩り令』の発令。神の目を所持者から強制徴収するこの法令は、海祇島の人間たちは格好の餌食となり、ついに両者は武器をとり衝突するに至った。

 

 

 

 

「――ぬぅん!」

 

 

 ババキッ!!と割ける鎧を着こむ案山子。笠が真っ二つになり、頭があるはずのところに太い刃がめり込んでいた。これがもし本物の人の頭蓋であればどれだけ凄惨な有様になっていたか…考えただけでもゾッとする。

 

 怖気づく海祇島の抵抗軍を尻目に、案山子を割った幕府軍の大男はガハハハ!と笑う。

 

 

「どうだ見たか、抵抗軍のムシケラどもが! 我が奥義『兜割り』の前に恐れを為したか!」

 

 

 この場は決闘。両者が旗を立て、これ以上に無益な血を流さないための計らいである。

 大男の披露した『兜割り』は、まず試合を始める前のパフォーマンスを兼ねた威嚇。これで、相手の士気を下げることを狙う。

 

 そして、実際に効果はあったようで抵抗軍の兵士はたじろきはじめる。

 

 

「さ、珊瑚宮さま…」

 

「落ち着きなさい、冷静さを保つのです。」

 

 

 由々しき事態だ。抵抗軍の軍師を担う少女…『珊瑚宮 心海』は思考を巡らす。もう整える暇もない淡い珊瑚のようなピンクの髪は抵抗軍の在り方をそのまま現しているようだった。

 ここ数日、押し込まれるに押し込まれ、戦線はずるずると後退。ただでさえ心許ない被害も人員・物資共にバカにならないところまで来ている。これ以上は幕府軍の上陸を許し、事実上の敗戦まで追い込まれてしまうだろう。

 

 

(九条沙羅、この決闘はせめてもの慈悲のつもりか…)

 

 

 この決闘は幕府軍側の指揮官である『九条沙羅』の計らいによるもの。両者、これ以上の血を流すならせめて最小限に留めるべきということだろう。勝者気取りが腹立たしくも、受けて立つしかなかった。

 

 一方の幕府軍側。先陣に立ち烏天狗の女性こそ噂の九条沙羅。彼女もまた思いを巡らせていた。

 

 

「珊瑚宮心海…ついに、ここまでか。」

 

 

 抵抗軍の数々の奇策やゲリラ作戦は今日まで幕府軍の攻撃を阻み続けていた……それも、彼等の軍師たる心海によるもの。だが、そもそもが自力が違い過ぎるのだ。離島の痩せた土地では兵力・兵站の質に量…その全てが幕府軍の総力に及ぶわけがない。いくら、軍師が優秀でも限界があるのだ。

 

 

(残念だ。珊瑚宮の生まれとはいえ、幕府に務めていればその才を活かせていただろうに…)

 

 

 こんな出会いでなければ、良き友人か同僚になれていたかもしれない。ああ、実に惜しい…

 

 

「九条様、ご覧になられましたか!もはや、この戦は勝ったも同然でしょう!ガハハハハハハ!!」

 

「…」

 

 

 せめて部下には恵まれたかった…

 この大男のような部下の名は『大門』という。万国商会の縁者らしく金持ちの育ち故か体躯と態度は見ての通りにやたらと大きい。しかも、金とコネで幅を利かす面倒な成金侍で、品がない上にあろうことか上官である自分に事あるごとにアピールを送ってくる始末。風の噂では『いつか、九条様は俺が娶る』など吹聴しているらしい…勘弁してくれ。

 

 

(父の言いつけが無ければ、とっくにつまみ出してやるものを…)

 

 

 『無下に扱うな』と父である現・天領奉行こと九条孝之の言葉は何か裏があるのだろう。欲しているのは金か商人へのコネか…とにかく、これが将軍様の目指す『一心浄土』へ続く道になるならこの程度甘んじて……

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――いやはや、大した芸ですなぁ。」

 

 

 

 

 その時、抵抗軍側からふらりと男が現れる。

 鎧らしいものは着ておらず、軽装で刀を傍らに刺してはいるが真っ当な武士の身分には見えない……浪人か?

 

 

「何者だ? 浪人風情がしゃしゃり出てくる場所ではないぞここは!!」

 

「おお、これは失礼を。ワシは福郎…珊瑚宮に雇われた身でございます。」

 

 

 福郎…そう名乗る男。足取りには怖じ気は無いし、顔はうっすらと余裕すら窺える笑みを浮かべていた。

 不気味だ。藪からしゅるしゅると舌を覗かせながら大蛇が現れた時のような嫌な感覚に苛まれる沙羅。あのギョロギョロとした目は怪訝な顔を浮かべる大門を敵として見ているようには何故か思えない。

 

 

(―――あれが、珊瑚宮が出してきた一人目か?いや…)

 

 

 何か揉めているぞ? 後方から心海と傭兵団の団長の北斗だったか……金切り声のような叫びをあげているが、当の福郎は呑気に手を振り返している有様。どうやら、意図していない人間が前に出てきたらしい…ああ、もう指揮すらままならないのか彼女は。

 

 一方、当の大門はやる気が満々だ。

 

 

「ほう?では、福郎とやら…珊瑚宮の味方ということなら、この場での相手は貴様で良いのだな?」

 

「む? お望みならば……ただ……」

 

 

 ――ただ?

 

 

「ここで披露できる『芸』を持ち合わせておらず…いいや、困った、困った…」

 

「は?」

 

 

 芸…だと?大門は愚か沙羅すら困惑した。

 すると、福郎は大門が叩き斬った案山子をピッと指差す。

 

 

「見せたであろう、あの見事な兜割り。城下町でなら、投げ銭の雨あられでございましょう。恥ずかしながら、この福郎…稲妻の決闘はまず一芸を見せるという作法を知らず…」

 

 

 誉めている………わけではない。

 言葉回しは一見、侮辱のそれは無いように思える。だが、大門は額に青筋を浮かべていた。

 

 

「おい、浪人…俺の兜割りを『芸』と言ったか?」

 

「…はて? あのような動かぬ木偶の案山子に鎧を着せて叩き割ったところで、まさかそれが人の命を奪う『術(すべ)』になるとでも?成金侍とはいえ、冗談が過ぎますなぁ。」

 

「ッ!!」

 

 

 技を嘲笑われ低い沸点に達した怒り…成金侍、プライドは一丁前。

 ああ、まずい。完全に相手のペースに呑まれている!?沙羅は声をあげた!

 

 

「落ち着け、大門! 奴は貴様を怒らせようとしている!」

 

「九条様、ここは引けませんよ。この大門正典、今迄生きてきた中で最大限の侮辱を受けました!! この浪人の頭、叩き割らねば煮え滾る腹からの怒りを抑えることが出来ませぬ!!」

 

「馬鹿者、だから乗せられるなと言っているのだ!下がれ!!」

 

 

 兜割りが大門の誇りとする技なのは知っている…だが、実戦では使い物にならないのは事実。いくら練度の低い抵抗軍とはいえ、動かない案山子などではない。だからこそ、精々威圧を与えるコケ威しには丁度良いとわざわざこの場に出したというのに…

 しかし、福郎という浪人はその全てを見抜いている。だからこそ、人を斬れない技を『芸』と評したのだ。

 

 

「立ち会え、浪人!!刀の錆にしてくれるわ!」

 

「おお、なんと。では、こちらの一芸は後にまわしましょう。」

 

 

 もう止められない。最早、興奮した猪が如く顔を真っ赤に刀を握る大門に福郎もまた刀を……抜かない!? 『ま、これくらいで丁度いいか。』と手にしたのは落ちていた流木の太枝である。

 

 

「ふむふむ、悪くない。悪くない。では、いざ尋常に…」

 

「貴様ぁあああああ!!!!」

 

 

 何処までも舐めきった態度に激昂した大門。大振りで斬りかかり、狙うは無礼者の頭だ!かち割ってくれる…ッ!?

 

 

 ―――ゴッ

 

 突如、顎からくる衝撃。脳まで揺れて、視界が揺らぐ。

 

 

「あ…!?」

 

 

 数秒後、ドシャッと尻もちをついてしまった。激痛、目眩…何があったのだ?

 

 

「波に揉まれ、日に晒された流木は存外、痛むものでしょう?さて…この勝負、ワシの勝ちで宜しいですかな?」

 

 

 焦点が戻る視界が映すのは、見下ろす誇らしげな福郎の顔。

 つまり、たかだか流木を振り回した相手に一撃で倒されたのだ。それは、コケ脅しの実態が露呈したということ…萎縮した抵抗軍たちも士気を取り戻しはじめる。

 

 

「すっ、すげえ…刀も使わずにあの侍を…」

 

「というか、あの侍はそんなに強くなかったんじゃないか?鎧や刀ばかり大層で…そういえば、成金侍とか言っていたな。」

 

 

 剥がれるメッキ、変わり始める風向き。

 されど、抵抗軍の陣に控える心海は胸騒ぎを覚えていた。 

 

 

(なに……この違和感? 何を私は恐れているの?)

 

 

 対戦相手を幼子のように弄ぶ挑発。その数々は間違いなく抵抗軍の士気を取り戻させ、幕府軍に冷水をかける行いだが……本当にそれだけなのか?心海にとて、今ここで勝ちを獲られれば故郷を護る一歩になるのは理解しているし勝たなければならないのはその通り。

 しかし、このまま戦わせては何か取り返しがつかないことがおきると予感が告げる。

 

 

 一方の沙羅……

 

 

「(頃合いか…やれやれ。)勝負ありだ。下がれ!」

 

 

 大門は負けだ……しかし、ある種の安堵が胸にある。

 あそこまで不様な負けぶりは想定外だったが、まあ良い。あんな部下だが死なれれば寝覚めが悪いし、父への弁明を考える時間と精神力に比べたら勝ちの1つなどあまりに安い。残りの勝負で勝てば取り返せる……むしろ、浪人とはいえあれだけの実力者をこの場で消化させてしまったのはプラスだろう。

 

 

「次ッ、出ろ!」

 

 

 呼びかけに応じて、『はっ!』と新しい侍が前に出る。落ち着いた足取りは微かな緊張はあるが、実力も知っている…負けはしまい。

 福郎も自分に軍配があがったのを悟るや、『ふっ…』と鼻を鳴らして背を向けた………

 

 

「くっ……うおぉぉぉおァァァ!!!!」

 

 

 ――!?

 

 突然、大門が再び立ち上がり刀を持つなり、福郎目掛け突撃。

 奇襲。勝敗が決した相手の無防備な背に斬りかかる、卑怯どころの話ではない…最早、『非道』の所業。あまりのことに皆が驚き、制止も悲鳴も間に合わない。

 

 

「――福郎さっ…!」

 

「――馬鹿、よせ……」

 

 

 交錯する心海と沙羅の声。

 

 そして……

 

 

 

 

 

「ニィィィ……」

 

 

 ―――迫る刃に鬼は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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