「…はっ! たあっ!」
『ヴッ!?』
アギトは素早い格闘で剣持ちのジャガーロードを圧倒していく。
パンチ、キック、繰り出される一撃一撃が鋭く重く、反撃を許さない。速さも技も捻り潰すチカラ…七星である刻晴すら一瞬の油断で追い詰められた相手を粉砕するような戦い方に、甘雨は刻晴を助け起こす傍らで驚嘆していた。
(…恐らく、あのパワーは身体を巡る岩元素からくるもの。でも、あれだけの使い手なら記憶にないはず……)
あのアギトと呼ばれる彼は誰なのか。
どうして怪人と敵対しているのか。
「…」
(! こっちを見た…)
戦いの最中、一瞬だけ甘雨たちを見たアギト。しかし、特に何もすることはない…
そして、この隙をジャガーロードたちは逃さない。
『シャァァ!』
『アギトォォ!!』
右側面から剣持ち、左頭上から飛びかかる素手のジャガーロード…されど、アギトは焦らず軽く突き出された刃を仰け反っていなし、すり抜けた切っ先はあろうことか仲間の腹にズブリと突き刺さる。
『グェェ!?!?』
『!?』
「ハッ!」
同士討ち。ここで一気に畳み掛けるべく、アギトは自らの黄金の双角、クロスホーンに畳まれたもう4本の角を展開。その瞬間に何が来るか察した剣持ちジャガーロードは『ム!?』と叫ぶなり愛剣も仲間も見捨て、一目散に逃げ出す。
無論、逃がすアギトでもなく忘れ物だと言わんばかりに相方のほうを掴み上げ投げつける。これで怪人たちは揉みくちゃになり動きを封じられ、離脱は封じられた。
…さあ、トドメだ。
「ハアアァ……」
アギトは足を開くながら静かに腰を落とす構えをとった。
同時に金色に輝く彼の顔のような紋章が地面に浮かび上がり、その両足へ収束していく…
甘雨は察す。
「まさか、元素爆発!? っ!」
元素爆発とは神の目を持つ者の最強の切札。人それぞれ多種多様なれど、場合によっては人間を纏めて消し飛ばすくらいは出来ることもある。
このアギトがどんなそれかは分からないが、余波で被害を被る可能性は大いにある故に彼女は刻晴を抱きかかえて素早く近くの岩陰に滑り込み身を隠す。
「ハアアァ…はっ!」
それを見計らったようにアギトは地面から飛び上がり、ライダーキックの姿勢をとり右脚を突き出した。流れ星の如く、真っ直ぐに敵へ目掛けて翔んでいく奥義。もつれる怪人どもに回避なんて出来るはずもなく、為す術もなく仲良く喰らい、地面をゴゴゴゴ!とめくりあげながら引きずりまわされた挙げ句に木へと勢いのまま叩きつけられた。……獲物とした刻晴にそうしたように。
『『ぎゃ、ギャァァァアアァ!?!?!?』』
数秒後……ジャガーロードたちは頭に光輪を出現させると大爆発を起こす。
甘雨はなんとか岩陰で身を縮ませ衝撃波と礫をやり過ごし、一方のヒルチャールの仮面男は『もうここまで力を取り戻していたか…』と捨て台詞を残して退散していった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
……翌日
事の一部始終は璃月七星の面々に知れ渡ることになる。
――神罰殺人に大きく関わるであろうヒルチャールの仮面男とその配下とおぼしき謎の怪人
――刻晴の怪我
――そして……甘雨たちの危機を救った奇妙な戦士『アギト』
(……と、報告はしてみたものの、あまりにも荒唐無稽ですよね。)
自分の事務室にて甘雨は思いかえす。戦いの痕跡は千岩軍を派遣して確認したが、それらを確実に裏付ける証拠などは存在しなかった。凝光や他の七星も話は聞くには聞いたものの、困惑するしかない様子で七星の秘書官である自分の立場がなければ世迷い言と片付けられていただろう。
一方、刻晴は命に別状はなかったものの、怪我をおしてまで仕事にあたろうとしたため医者に止められたとか。この際、ゆっくり休んで欲しい……え?自分が言えたことじゃない?
あとはアギト…… 彼は足跡をギリギリまで追跡したところ、なんと璃月港近くでその痕跡は途絶えていたのである。
(怪人はともかく、アギトは璃月港の何処かにいる? ということは、岩元素の神の目を持つ誰か…もしくは仙人?)
それなら、いよいよ七星天権の秘書官かつ半人半仙の自分が把握していないのはおかしいのだが…
本当にわからないことだらけだ。
(……わからないことだらけだけど、
もし…アギトが私達たちの味方なら…)
可能性はある。あのジャガーロードとの戦いの最中、明らかにこちらの様子を気にする素振りがあった……もしも、彼が窮地に陥った自分たちをたまたまではなく、璃月港から己の意思で出向いて助けに現れたのなら…
(それは都合よく考えすぎでしょうか。何はともあれ……)
神罰殺人は新たなる局面を迎える。それだけは間違いない。
★ ★ ★ ★ ★ ★
『ショウイチ、はやく飯の用意をしろ。』
「はいはい、わかりましたから大人しくしててくださいねジャックン。」
往生堂の台所…古ぼけて質素な作りのここにはブンブンと飛び回る琥珀色の仙霊に催促されながらホシノがエプロンをつけて調理鍋を弄っている。グツグツ煮え立つ肉・野菜…それに続く香辛料などの香ばしい匂いは葬儀屋には誠に似つかわしくない小洒落さを醸し、外に漏れたそれらにふと店の前を行き交う人々がふと足を止める。
璃月は諸外国からわざわざ料理を食べに来る旅行者がいるくらい美食が発展した都だが、流れてくる香りは璃月人や美食家が慣れ親しんだものとは違う。興味は唆られるが、往生堂は葬儀屋…おいそれと気軽に入れたものじゃない。
『今日のそれはなんというのだ?』
「ええっと、これはですね……」
献立どおりに出来上がる仙霊に説明するホシノ…今日は自身作、店の皆も喜ぶだろう。
そんな彼のエプロンには『アギト』の紋章が刺繍されている。
そう、彼の名前はホシノ…『星野ショウイチ』。
―――またの名を……仮面ライダーアギト。
★星野ショウイチ
種族…人間
神の目…無(アギトのグランドフォームは岩・物理扱い)
命の星座…アギト座(アギトのライダークレスト)
往生堂に居付いた謎多き居候。その正体は並行世界の仮面ライダーの系譜を受け継いだ神の力を宿す青年。その傍らにはよく岩元素の仙霊が彷徨いている。
・この世界(テイワット)の神について
→人間と一緒に生きてきた神かぁ。俺が元々いた神様に比べたら優しすぎてびっくりしたよ。いや、あれは『愛し方』が違うのかな。
・甘雨について
→この世界に来た時に死にかけて…その時助けてもらったのが初めての出会い。その恩を返すために料理を振る舞ったことがあったんだ。それから、どうしてか避けられるようになったんだけど…
いつか、もう一回料理を食べてもらいたいな。あの時の幸せそうな顔がもう一度見たい!
刻晴「あっ…(察し)」
甘雨「…(目逸らし)」
・往生堂について
→胡桃さんには行く宛が無かった俺を引き取ってくれたことには感謝しかないよ。それはそれとして、扱き使われるし怒られるし…鍾離先生はマイペースだし…