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「――! いたた…!?」
「あ、目が覚めた? 大丈夫、ホシノクン?」
目が覚めると見慣れた貧乏くさい天井と線香の臭い
覗きこんでいた胡桃の顔ですぐに自分は往生堂のソファの上で寝かされていたのだ気がつくホシノ。
「心配したんだよ、まさか街中で魔物が出て襲われるとか本当に運が悪いね。あ、そうそう鍾離先生が君を運んできて手当てもしてくれたんだよ?ちゃんと後でお礼言ってね?」
鍾離先生が? …そう言えば、意識を失う直前に彼を見たような気がする…幸い、あの時は変身が解けていたのでアギトの姿を見られずに済んだはず。あれ、でもどうしてあそこにいたんだろう?
『全く、千岩軍はなにしてるんだが…』とまた事務作業に戻る胡桃の背中を見送っているとジャックンがふよふよと漂ってきた。
『喜べ、何処かの誰かが貴様を助け、あの亀どもは退散したようだ。だが……』
「倒せてないんですね。」
『ああ。行方は千岩軍が追っているがまあ無駄骨だろうな。』
やはり、トータスロードは仕留め損なっていたか。大地を泳ぐ亀は元素視覚を持つ人間とて追うことは不可能だろうし…あの時、油断しなければ……
『そう言えば、あのお前が助けた小僧。あの亀どもを相手どるため準備をしているらしいぞ。全く、小便くさいガキかと思えば案外、肝が据わっている…』
なんだって!? 起きあがるホシノは痛みに呻きながらも外に飛び出さんとするが、眼前でジャックンが制止した。
『待て、今の貴様で何が出来る? 手負いの状態ではまた埋められるのが関の山だぞ。それに、あの小僧も神の眼を持つ身…身のこなしからして弱いわけではない。自惚れは死を招くぞ。』
「…俺は、俺のやるべきことをやるだけです。」
だとしても…ホシノは止まらない。
例え、テイワットという異世界でも『仮面ライダー』として人々を守る使命は変わらないのだから。何よりも、自分の世界からやってきたロード怪人が悪さをしている以上は責任を果たさなくてはならないのである。
崩れた身なりを直すと、ホシノは驚く胡桃を尻目に夜闇に包まれていく璃月の街へ駆け出していくのだった。
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璃月には……まあ別に璃月に限った話ではないが、『秘境』と呼ばれる異空間が人の住む街の外に散在している。洞窟だったり、遺跡ダンジョンだったり、建築物だったりとバリエーションは多種多様だが…魔物や宝盗団、最悪の場合はアビスの魔術師等といった碌でもない連中が住み着くこともある人々の悩みのタネだったりもする場所。
されど、裏をかえせば外界から隔離された秘境は多少の無茶苦茶だって出来るという利点もあるのだ。
「……さて、準備は上場だね。」
それに目をつけていた行秋。彼は所属する飛雲商会が確保していた遺跡系の秘境に陣取り…広場にあたる部分で呑気に読書をしていた。その隣には世話役であろう付き人の男がオロオロとしている。
「ぼ、坊っちゃん。本当に来るんでしょうか?」
「ああ、経験則からして…あの手合いの魔物は逃がした獲物に執着するタイプだ。そして、人里離れた秘境に籠もるなんてわざわざ獲物が逃げ場を絶ったように見えるだろう。奴等からしたら、そんなチャンスを見逃すはわけがない。」
行秋は自分を狙うトータスロードを誘き出すつもりだ。
別に千岩軍に任せて保護してもらっても良かったのではないかという意見もあるだろうが、それは尻尾をまいて敵から逃げると同じ道理…彼の古華派の門弟としての矜持がそんな無様を許さない。最も、そんな選択肢は最初から考えてすらいなかったが…
「さあ、下がるんだ。もう時期、亀が釣り針にかかる。」
「……ご武運を。」
付き人から祭礼の剣を受け取り、彼を下がらせた。
ボロボロにされた万一の護身用の鈍らではない、敵を斬り裂くための本気の武器を馴染ませるように一振りすると…秘境の出入り口を鋭く睨む。
「―――来るか。」
『グルアァァァァ!!』
現れるはトータスロード・銀。読みどおり現れた怪人はアギトから受けたダメージが回復せず、堅牢な甲羅には亀裂が入ったまま……
行秋は本をしまい、剣を構える。折角の客人、饗してやろう。
「さあ、思い知れ。古華の剣を。」
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バイクに乗れない仮面ライダーなんて、名折れも良い所だとホシノは痛感する。
「これじゃ、仮面ライダーじゃなくて仮面ランナーだよ…」
アギトに変身して行秋が陣取る秘境がある山を登ってきたは良い。ただ、竹藪やヒルチャールの集落やら割とあるものでこれらを走って突っ切るしかなかった上に結構な体力を使ったわりに時間もかかってしまった。
勿論、アギトであるホシノにも愛車はあった。――過去形である。
往生堂に拾われてから捜してはみた…そして、璃月港から程近い浜辺で見つけた。……見つけたものの、『変身』していない素の状態ではただのバイクでしかないので、当然ながら海水に耐えられるわけもなくお釈迦になっていたのである。
それでもなんとか回収を試みたものの、よりにもよってファデュイの見廻り部隊に見つかり、横取りのような形で押収されてしまったのは不幸中の不幸だった。――あんまりである。
じゃあ、テイワットに一般的に普及している風の翼は?という話だが、基本的に高所から滑空するという性質上は登りには向かない。あとそもそも持っていない。
(俺のバイク… トホホ…)
悲しくなるだけだ、考えるのはやめよう。
取り敢えず、秘境の石門の先からトータスロードたちの気配を感じる…はやく行かなくては……
「――あら、レディを見ぬ振りなんて礼儀に欠けるんじゃなくて?」
「!」
上ッ! 石門の上に腰掛けていたのは凍てつくような視線で見下ろす赤と白のドレスを着た女…その威圧感は只者ではない。
「はじめまして、アギト…それとも黄金夜叉って呼んだほうが良いかしら? ファトゥス第八位の『淑女』…と言えば、理解出来る?」
ファトゥス……ファデュイの執行官!?
思わず後ずさりするアギト…噂で聞き齧ったくらいだが、彼女の名乗りが本当ならそのチカラは上級ロード怪人にも匹敵するだろう。そんな実力者がわざわざ出向いてきたのなら、仲良くお茶しようというわけでもあるまい。
「あら? もしかして、怖がってる? 御大層な通り名の割に大したことないわね?」
「…」
恐らく、今のアギトでは勝負にすらならない。
だが、逃げるわけにもいかない…トータスロードを放置するわけには……
「取り敢えず、逃げ回られても面倒だから凍りつきなさいな。」
「? …ッ!?」
ピキピキッ…という音に気がついた時にはもう遅かった。アギトの足元から強靭な氷が這い上がり自由を奪う。暴れて砕こうとしても、強力な凍結は炎も無しに力付くで破壊することは彼だとしても難しい。
そんなアギトをせせら笑いをしながら、ゆっくりと淑女は歩み寄り…息がかかる距離まで近づくとオルタリングを鷲掴みにした。
「さあ、貴方を試してあげる。私の炎に耐えきるか…それとも、灰が残らないまで燃え尽きるか。」
「うわああああああァァァ!?!?」
直後、ゴォォォ!!とアギトを業火の抱擁が包み込む。
灼熱の炎は今まで彼が味わってきた高熱の中で最も凄まじい。無機物だろうと容赦なく灼き尽くす紅の潮流…抗う術など何も無かった。
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「はああ…! やっ!」
『小賢シイ!』
行秋とトータスロード・銀の戦いは一進一退だった。先の戦いで甲羅がヒビ割れ防御力を大きく下がっている故に攻撃が幾分か通りやすくなっている。されど、怪人特有のタフさは顕在で祭礼の剣を用いた剣技であっても獲物を粉砕すべく突進してくることをやめない。
互いに決定打を欠く……しかし、それは行秋の計算の中。トータスロード・銀の甲羅に水元素がビショビショになるまで付着したことを確認すると、『頃合いか…』と呟きヒョイっと間合いをとって高台へ着地する。
「怪人、ここからが本番だ。とくと味わえ…璃月の民の怒りを。」
『? ――!!』
何いってんだコイツ…と見上げたトータスロード・銀。その時、バチチと雷元素の矢が甲羅に弾かれ放電。感電を起こし激痛に呻くと今度は容赦なく火炎弾が飛んできて過負荷の衝撃波が発生…その衝撃でゴロゴロと地面に転がった。
『ナ、ナニ……!?』
「『元素反応』…戦術を建てる最もな基本として抑えておくべきことだが、知らないのかい亀さん?」
元素同士がぶつかりあうことで起こる『元素反応』…それは、まさにトータスロードを襲った不可解で現象のことである。元素の組み合わせによって起こる反応は様々だが、このテイワット特有の摂理を異界の怪人が知る由もない。
「そら、おかわりだ!」
『グッ!?』
行秋が再び水元素の剣を振るい、またびしょ濡れになるトータスロード・銀。そして、仰け反ったやっと気がついた……遺跡の物陰に潜む複数の冒険者たちに。
そう、自分は追い込んだのではなく誘いこまれたのだと。
「くたばれ、バケモノ!」
「何が神罰だ、クソッタレ!!」
『ぬ、ヌゥ!?!?』
弓、法器や元素力を封じた小瓶による攻撃が霰のように降りかかる。ありとあらゆる元素反応が炸裂し、ゴリゴリと罠にかかった怪人を削っていく。今まで辛酸を舐めさせられ続けた人間からの猛反撃に手も足も出ない…それだけ心に積み重なってきたものがあった故なのか。
一方、行秋は冷静に戦況を確認している。武侠として伏兵に集団で袋叩きとかどうなのかについては、相手が仁義も無く人を襲う魔物なのでヨシ。
(飛雲商会名義で冒険者協会から雇った冒険者部隊は手筈どおり動いている。このまま仕留められればいいが…もう1体は何処だ?)
問題は敵の片割れが見当たらないこと。いくら優勢であるとはいえ、あの未知なる怪人は1体でも十分に流れをひっくり返すくらいは簡単に出来る見立て。どうして姿を見せない?
―――答えは簡単。
『シャァァ!』
「!」
獲物の不意をつくため。
床を砕いて、行秋の背後から飛び出したトータスロード・金が襲いかかる。やはり、地中を潜行する能力は秘境だろうと顕在らしく、冒険者たちをすり抜け獲物である彼を直接狙ってきたのだ。
これはとてもマズイ状況でもあった。
「坊っちゃん!」
「あっ しまった!? いま、助けに…!」
(いけない、部隊の陣形が!)
指揮する人間を狙われれば、当然ながら冒険者たちは浮き足立つ。連鎖して波状攻撃に乱れが生じ敵にも反撃の余地を与えてしまうということ…弱まった攻勢に耐えるばかりだったトータスロード・銀はゆっくり唸りながら面をあげる。よくもやってくれたな、下賤な人間如きが…叩き潰してくれる……
「――ハアッ!」
――ガッ!!
『グエッ』
しかし、態勢を立て直す寸前で何者かが銀の甲羅を踏みこえてシュタッと行秋の前に着地。トータスロード・金はその姿を見るや怒りの声を洩らす。
『アァァギィトォォ…!』
「黄金夜叉!」
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