問題児3人、ただし最強 作:狐大総統
「禪院、それはなんだ?」
甚爾がポケットから取り出した一枚の紙切れを見て、日車は不思議そうな顔をした。
「あん?おまえ、こいつを知らねぇのか。馬券っつってな、小遣い程度の金が大金に変わる夢のチケットさ」
「マジで!?すげぇな!勝ったのか!」
甚爾が日車の問いにニヤつきながら答えると、髙羽が食いついてきた。
そのリアクションに、甚爾は少し目線を上にやるとなにか思いついたようで、髙羽へある提案をした。
「…髙羽、この夢のチケットが欲しいか?」
「え!?くれんのかよ!」
「ああ、今なら5000円で売ってやるよ」
「ラッキー!…いや、よく見たら負けてんじゃねーか!」
2人の問答を見ていた日車は、訝しげな顔をした。
「競馬か。競馬法における勝馬投票券の購入可能年齢は20歳以上のはずだ。重ねて、髙羽への馬券についての詐欺未遂。禪院のやっていることは立派な犯罪行為だぞ」
「おいおい、俺は買ったなんざ言ってないだろ。コイツは通りすがりのオッサンに貰ったんだよ。あとな、誰も勝った馬券なんざ言ってないぜ。夢のチケットとは言ったけどな」
「なるほどな。なら、俺の領域で確認してみるか」
「忘れたのか?俺に領域は効かねぇってことを」
「その対策を俺が練っていないと思うか?」
日車は領域を展開すべく、呪力を練り始める。
甚爾は呪具を出すために、格納庫呪霊を腹から出す。
髙羽はアクション映画の監督の如く、サングラスをかけ、左手にカチンコ、右手に拡声器、自身の前に撮影カメラを用意する。
教室内には、今にも戦闘が始まりそうな張り詰めた空気が漂っていた。
だが、日車達3人とは別の声が、そのような空気を変えた。
「おい、お前たち何をやっている」
「いや、なんでもねーよ」
「おはようございます。夜蛾先生」
「あれ?アクション映画撮らないの?」
先ほどまでの一触即発な空気はどこへやら。
甚爾は机に肘をつきながら座っており、日車は礼儀正しく席につき、高羽はディレクターズチェアに座っている。
「…」
三者三様の態度に、夜蛾は今あったことは黙認することにした。
今後の担任生活は大丈夫だろうか?そのような悩みを胸中に抱えながら。
「…はぁ、頼むから問題を起こすんじゃないぞ」
◇◇
「夜蛾、きみには新入生の担任をしてもらう。2名は推薦入学の一般出身者、1名は御三家の一角『禪院家』の人間だ」
入学式の一ヶ月ほど前、夜蛾は学長から新入生担任の指名が降りていた。
「禪院家、ですか。私のような若輩者に、御三家の生徒の担任が務まるでしょうか?」
「ああ。本来ならば、まだ教育者として経験の浅いキミ以外の人間が抜擢されただろう。ただ、この生徒については少々ワケありでな」
「ワケありとは?」
「禪院家からは、難易度の高い任務に向かわせてくれと言われている」
将来有望ということだろうか?
入学以前に特別一級術師となっているものがいてもおかしくはない。
御三家の人間であれば、なくはないだろう。
その旨を学長に問うたところ、返ってきたものはNOだった。
「彼は4級だ。禪院家からは、死んでも問題ない。肉壁や囮にでも使ってくれと言われている」
夜蛾は愕然とした。
御三家が腐っているというのは認知していたが、あまりに予想以上のものであったためだ。
「…分かりました。ただ、教育方針及び抜擢任務の精査は全て私に任せていただきます」
夜蛾は、禪院甚爾に向けて理不尽が降りかかることを阻止すべく、彼の任務の精査を一手に引き受けることを決めた。
「いいだろう。生徒達をより良い方向へと導きたまえ」
学長からの許可も降りたことで、さっそく夜蛾が生徒達の詳細な情報に目を通したところ、驚くべき点が多々あった。
はじめに、先ほどの話に挙がった禪院甚爾についてだ。
彼は術式どころか呪力さえ無いとのこと。
非術師でさえ、少ないとはいえ呪力を持っているにも関わらず、彼は全く無い。
このことが、禪院家で冷遇されている理由だろう。
禪院家といえば、家訓に『呪術師にあらずんば人にあらず』という一文が入っていることで有名だ。
そのような家で、呪力のない人間がどのような扱いを受けるかなど、想像に難くない。
だが、代わりに天与呪縛として人並み外れた身体能力を持っているようだ。
補助監督の話によると、彼は特級を単独で撃破しているとのこと。
この件については、なぜか隠蔽されているようだが、隠蔽したものを調査すると禪院家ということが判明したため、夜蛾はこの理由を察した。
おそらく、禪院甚爾の活躍を認めたくないのだろう。
つぎに、一般家庭出身の髙羽史彦だ。
この生徒は、術式自体を理解せず用いているようだ。
だが、そのことも強さに繋がっている可能性があるため、教育は慎重に扱うべきとのこと。
想定される術式の系統としては、他者を巻き込むタイプのようで、特級呪霊をトラックで轢き殺したと記載されていた。
夜蛾は理解ができなかった。実際に、本人が術式を使っている様子を見て、確認しなければならないと考え、次の生徒に目を通した。
3人目は、こちらも一般家庭出身である日車寛見だ。
この生徒については、独学で一般家庭出身ながら、既に結界術の基礎、呪力操作の強化術を習得済みと記載されていた。
彼もまた、単独で特級呪霊を討伐しており、日車を見つけ、推薦した一級術師いわく、近いうちに反転術式も身につけるだろうとのことだ。
全員が、既に一級術師相当の力を持っている新入生だ。
夜蛾は、いかにして彼らを導くべきかについて、真剣に方針を固めていった。
だが、まだ経験の浅い教師であった夜蛾は、あるミスを犯していた。
能力値でいえば、彼の立てた方針は正しかった。
真面目な生徒であれば、良い成長の仕方をしただろう。
だが、その方針は彼らの性格がどのようなものかも考慮しないまま立てたものである。
方針を全て立て直ししなければならないことに気付くのは、新入生入学後にある初めての顔合わせのときだった。
夜蛾先生も、若いときはミスしてたと思うんですよね。
『黒い火花だって愛する相手くらい選びたい』とか『トロいわ、悟くん』もあるから、こっちは気分が乗ったときに次回書きます。