ハリー・ポッターと忌まわしき一族   作:深田ハス

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12: 秘密は闇の中

 

真夜中の廊下でハリーは頭から被った透明マントをしっかりと握り直した。

「こんな真夜中にうろつくなんて!罰則です!さらに、スリザリンから二十点減点!」

目の前ではマルフォイがマクゴナガル先生に捉えられていた。

「先生、誤解なんです。ハリー・ポッターがドラゴンを連れてくるんです!」

「なんという嘘を!」

誤解なんです、誤解なんです、、と繰り返しながらマルフォイはマクゴナガル先生に引き摺られていった。

「マルフォイが罰則!」

ハリーの後ろでハーマイオニーが嬉しそうに囁く。ハリーも踊り出したい気分だった。ハグリッドの小屋でノーバートが生まれるところをマルフォイに見られてからずっと気を揉んでいたのだ。あとは天文台でチャーリーの友人達にノーバートを引き渡せばここ数日間ハリー達を悩ませていた問題とはおさらばになる。

そんなことを思っていたから気が緩んでいたのかもしれない。

ハリー達は透明マントを天文台のてっぺんに忘れてきてしまい、螺旋階段を降りたところでフィルチに捕まってしまった。

「こんなことは前代未聞です!」

ハリーとハーマイオニーは、かんかんになったマクゴナガル先生の前で俯くしかなかった。ハーマイオニーの隣では、同じように並ばさせられたネビルが震え上がっている。ネビルはマルフォイがハリー達を捕まえようとしているのを知ってハリー達に危険を知らせようとして廊下を彷徨っていたらしい。

「どんな事情があっても夜に学校を歩き回ることは認めません。五十点、グリフィンドールから減点です。一人五十点ですよ」

完全に打ちのめされたハリー達はぐうの音も出なかった。

そこにスネイプがマルフォイともう一人小柄な生徒を連れてくる。

「レオノール?」

ハリーは思わず声を出してしまった。

「全員罰則です。ミス・ペベンシー、貴女もですよ」

悔しそうに顔を歪めるマルフォイの横で、感情の読めない顔をしたレオノールがマクゴナガル先生を見上げていた。

「今までは大目に見てきましたが、集団生活をしていく中でルールを身に付けられないようでは困ります。再三注意をされたはずですので、けじめとして貴女にも罰則を受けてもらいますよ」

いつもの無表情でマクゴナガルを見上げているレオノールが何をしでかしてここにいるのかハリーにはわからなかった。

 

翌日からはハリーにとってまさに悪夢だった。これまでクィディッチの試合で二回も続けてヒーローになり、グリフィンドール生だけでなくハッフルパフ生やレイブンクロー生にも人気のあったハリーは一夜にして一斉に彼らから嫌われるようになってしまった。

試験が近づいているので、ハーマイオニーと復活したロンも合わせて試験勉強に打ち込むことで周りからの視線になんとか耐えた。

不幸中の幸なのはマルフォイが他のスリザリン生と一緒にハリーをからかってくることがなかったことだ。ハリー達ほどではないが減点と罰則をくらったマルフォイは、他のスリザリン生達に目をつけられないように大人しく勉強に励んでいるようだった。

意外にもレオノールは何もかったように過ごしていて、ハリー達やマルフォイのようにこそこそせずに一人で食堂に入ってきた。最近レオノールがマルフォイ達と一緒にいるところを見ていない気がする。

目があったハリーが小さく手招きをすると、レオノールはしれっとグリフィンドールのテーブルに着いた。

「ドラゴン渡せたの?」

レオノールが聞いてくる。

「うん」

まさに悪夢の中にいるハリー達だが、肝心のドラゴンの件は表沙汰にならずに済んだ。

事の発端を引き起こしたハグリッドには後でしっかりお礼と謝罪をしてもらわないと気が済まない。

「チャーリーってだれ?」

「あれ、言ってなかったけ。僕の兄さんで、ルーマニアでドラゴンの研究をしてるんだ」

「そうなんだ」

「昨日はなんでレオノールもいたの?」

「昼から図書室で本読んでて、気づいたら夜中だった」

言っていることがよく理解できなかった。

「え。お昼からずーっと本読んでたの?」

ロンがありえないというように聞く。

「うん」

「夜ご飯は?」

ハリーも聞く。

「んー、また食べ忘れちゃった」

()()

三人は思わず顔を見合わせる。

「…ねえ、それ何回目なの?」

ハーマイオニーが恐る恐る尋ねた。

「気づいたら夜中になってたのは、…三回目?かな」

そう言ってレオノールは今日のビーフシチューを頬張る。三人は知らないが、朝も寝過ごしたのでレオノールは腹ぺこだ。

「お腹空かないの?」

「空く。けど二食分抜きとかは慣れている」

ハリー達三人は改めてレオノールの育ってきた環境に戦慄した。

グリフィンドールのテーブルにいるレオノールを見て何人かのグリフィンドール生が露骨に嫌な顔をする。そんなことはないのに、ハリー達が馬鹿をやって寮の得点をこんなに減らしてしまうことになったのはあの小さいスリザリン生が悪影響を与えてるからじゃないのか、と一部のグリフィンドール生は本気で思っているのだ。

自分にも向けられた視線でハリーは身を縮めた。

「レオノールは平気なの?」

「何が?」

「ほら、寮でさ。減点されたこととか」

ハリー達同様レオノールも減点されたようで、スリザリンからはマルフォイの分も合わせて四十点引かれていた。

「ああ。平気だよ」

「なんともないの?」

「いや。元から雰囲気は最悪。でもスネイプ先生に人気のないとこに行くなって怒られちゃったからさ」

スネイプが賢者の石を狙っている。それはハリー達の間では十中八九確かなことになっていた。そんなスネイプでも被後見人であるレオノールのことは気にかけるのだろうか。それとも自分がこそこそやっていることをレオノールに見られたくないからだろうか。

いくら怪しくてもスネイプはレオノールの唯一の身内だ。ハリー達はレオノールの前でスネイプと賢者の石の話を何度も引き出すのに躊躇していた。

それでも一応は尋ねる。

「スネイプの様子はどう? なんか、変わったこととかない?」

「んー? わかんない。何回もクィレル先生に気を付けろって言われる」

「クィレル先生に?」

「うん」

なぜここでクィレル先生が出てくるんだ?

食べ終わったレオノールはハリー達の奥を見た。遠巻きに座っているグリフィンドール生達の何人かがこちらを、特にレオノールを睨んでいる。

「じゃあ私行くね」

そんな彼らを見てか、レオノールはさっさと立ち上がった。一人で食堂から出ていくレオノールをハリー達は見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

食堂を出たレオノールは仕方なく真っ直ぐ地下の寮へ戻ることにする。

 

昨日の夜、と言ってもほぼ今日だが、図書室を出て寮に向かっているところでレオノールはドラコを引き摺ったマクゴナガル先生に見つかった。また足音に追われていたレオノールからしてみれば先生に見つけられて逆に少しほっとしたのだが、ドラコのことで腹を立てていたマクゴナガル先生はさらにかんかんになって、二人をスネイプ先生に引き渡した。

スネイプ先生はマクゴナガル先生が連れてきたレオノールを見て深いため息をついた。そして静かにでも格別不機嫌な声で延々とレオノールを叱った。おかげでドラコはほとんど怒られずに済んでいた。

 

寮に向かって歩いているところで隣に並んできた誰かに話しかけられた。

「何やったんだ?」

セオドール・ノットだった。

レオノールは歩きながら答える。

「図書室で本読んでた」

「ポッター達といたんじゃないのか?」

「違うよ」

「図書室で本を読んでただけ?」

「うん」

「夜中まで?」

「うん」

何も言われないので見上げると、セオドールは怪訝な顔をしていた。

「どうかした?」

「いや、君やっぱり変なやつだな」

ど直球に変なやつと言われてレオノールはムッとする。

「とにかく、減点されないように気をつけろよ。さらに居づらくなるだろ」

「自分で稼いだ分が減っただけだよ」

細かくは覚えていないが、授業でよく点をもらうレオノールは一人で二十点以上はスリザリンの得点を稼いでいる。

それはセオドールもよくわかっているはずだ。

「それもそうだな」

談話室に入るとドラコがいた。部屋の隅で黙々と教科書と向き合っている。

ここ最近レオノールはまともにドラコと話していなかった。たぶんドラコ達がネビルを虐めているのを見た頃からだ。昨日先生にしょっ引かれて怒られた後も二人は話していない。

どうしよう、とは思っている。別に今のままでもいいけれど、このままドラコと話さなくなってしまうのはいけない気もする。

「談話室に残る?」

だからといってどうしたらいいかはわかっていなかった。

「ううん、ベッドに行く」

「そう。じゃあな」

「バイバイ」

女子寮に上がったレオノールは、考えたくないことを後回しにしてベッドの天蓋の中でだらだら試験勉強を進めた。

 

罰則は夜行われるという。朝地下寮から出たところでレオノールはスネイプ先生に夜十一時に玄関ホールでフィルチを待つように告げられた。きっとドラコにも同じことを伝えたのだろう。

レオノールは早めに準備をする。談話室から出ようとしたところでドラコと目が合い、彼もついてくる。

「行くなら声かけてよ」

「別に合わせなくてもいいのに」

今から罰則を受けに行くのに時間ぎりぎりに着くのは印象が悪い。相変わらず体力のないレオノールが万が一を考えた時間なので、かなり早く着いてしまうだろう。

レオノールは暗い廊下を歩きながらなぜドラコを避けていたのかもう一度考えた。

レオノールはドラコがネビルをいじめているところを見て腹が立ったのだ。

自分でも酷いと思うけど、ドラコがネビルを虐めたから特別腹が立っていたわけじゃない。だって、それならばペベンシー氏やスワンさんが自分にしてきたことにもずっと腹を立てていなきゃいけなくなる。

ネビルを虐めるドラコに、というよりも、ドラコがネビルを虐めていたことを知らなかった自分に腹が立った。

それに気づいたレオノールは、なんだかすっと胸の閊えが取れた。

ドラコに腹が立ったわけじゃないんだ。ただ、ちょっぴりがっかりしたのだ。

 

思った通り、玄関ホールにはハリー達もフィルチもまだいなかった。

「罰則ってなんだと思う?」

フィルチを待ちながらドラコが言う。

「なんだろ」

レオノールは罰則の内容よりも、夜間に学校を彷徨き回った罰則を夜間にやるなんて矛盾してないか、なんて考えていた。

「夜にしかできないこととかかな?」

「ハグリッドが飼ってる夜行性の生き物の世話とか?」

「ドラゴンのことレオノールも関わってたんだろ?」

ドラコがレオノールの顔を見て言う。

「卵は見た」

レオノールはあっさり白状した。

ドラコは首を傾げる。

「あれ、ドラゴンを逃す手伝いをしてたんじゃないのか?」

レオノールは首を横に振った。

「じゃあ何してたんだ?」

「図書室で本読んでた」

「夜中まで?」

このやりとり何回もしたな、と思いながらレオノールは答える。

「うん」

「なんで夜中まで図書室にいるんだよ」

「気づいたらなってた」

ドラコもセオドールみたいに変なやつを見る目で見てくる。

だってしょうがないだろ、とレオノールは心の中で呟いた。

しばらくしてフィルチが来て、その後にハリーとハーマイオニー、ネビルが来た。

フィルチはレオノール達を連れてハグリッドの小屋に向かいながら、今夜の行先が禁じられた森だと告げる。

誰よりもドラコが震え上がった。ネビルも今にも倒れそうな顔をする。もっともネビルは玄関ホールに来た時からいつ倒れてもおかしくないんじゃないかという真っ青な顔をしている。

レオノールには森の怖さがいまいちピンと来ない。

森には人狼とか色々恐ろしい生き物がいるという。

夜は危険だから一人で出歩くなと言っておいて危険な生き物がいる森には送り出すのか、とレオノールはスネイプ先生の顔を思い浮かべた。

「夜明けに戻ってくるよ。こいつらの身体の残ってる部分だけでも引き取りに来るさ」

ハグリッドに引き渡しを終えて校庭を戻っていくフィルチを皆は暗い気持ちで眺めた。

「さて、お前たち、今日は森番としてしっかり忠告しとく。夜の森は本当に危険だ。気を緩めちゃいかん。なんせ、俺たちが今夜することは危険なことだ。しばらくは俺に着いてきてくれ」

そう言うとハグリッドは横に置いてあったレオノールとほとんど変わらないくらいの巨大な弩を持ち、森に向かって進もうとする。

森の外れまで先導すると、ハグリッドは森の中を指さした。

「あれを見ろ。地面に光っとるもんが見えるか?ありゃユニコーンの血だ。何かがユニコーンを傷つけちょる。今までに二回死骸を見つけた。今日のお前さんたちのすることは傷ついたユニコーンを見つけることだ」

「ユニコーンを襲ったやつが森にいるの?」

ドラコとハーマイオニーが明らかに戦慄する。レオノールの背筋にもぞわっとするものが走った。

「そうだ。はぐれるなよ。俺やファングと一緒にいればこの森のものは無闇にお前達を襲ったりはせん。さて、ここらへんで二手に別れるぞ」

口から覗く長い牙を見たドラコがさっとファングの脇に寄る。見た目の割にファングが臆病なことを知っているハリーとハーマイオニーは生暖かい目でそんなドラコを見た。

「よかろう。そんじゃハリーとレオノールは俺と行こう」

たまたま両脇にいた二人をハグリッドが指名する。

「ハーマイオニーとネビルとドラコはファングと一緒だ」

ハーマイオニーとドラコが同時にぎょっとした顔をする。ネビルには表情を動かす余裕さえなさそうだった。

「ユニコーンを見つけたら緑の光を打ち上げるんだ。もし困ったことがあったら赤の光を打ち上げるんだ。ええか?」

二手に分かれてからハリーとレオノールはハグリッドと一緒に血痕を追った。

ハグリッドが持っていた松明は合流地点の目印にと置いてきていたが、血痕は月明かりに照らされて銀色によく光った。

「人狼がユニコーンを襲うことってあるの?」

ハリーが聞く。

「あいつらはユニコーンほど機敏には動けん。ユニコーンを捕まえるのは難しいんだ。ユニコーンが怪我したなんて俺は今まで聞いたことすらなかったよ」

不自然に右へ左へと蛇行した血痕は、追うにつれて次第に銀色から鈍い鉛色へと変わっていった。

「血が乾いてきちょるな。こっちにはおらなんだか」

そのとき前方の開けたところで明らかに何かが動いた。

咄嗟に弩を番えたハグリッドだったが、その影の主が月明かりの下に出てきたのを見て弩を下ろした。

「お前さんか、ロナン」

現れたのは馬の足に上半身は人間の、そうあのケンタウロスだった。御伽噺や神話に出てくるやつ。

ハリーとレオノールはぽかんとその赤毛の人?を見上げた。

「こんばんは、ハグリッド。私を撃つつもりでしたか?」

「用心に越したこたあねえ。何かが森の中を彷徨いとるんでな。こっちはハリーとレオノールだ。二人さんとも学校の生徒でな」

ケンタウロスはじっとハリーを見下ろすとしばらくして「そうか」とだけ呟いた。

そしてレオノールに目線を移すと意外なものを見たとでも言うように眉を上げる。

「久しいな」

「…私?」

どう見ても自分が話しかけられているがまったく心当たりがないレオノールは首を傾げた。ケンタウロスの知り合いなんているはずがなかった。

「まだ()()()()()()のか」

栗毛のケンタウロスは目を細めてレオノールを見つめた。

「ところでロナンや、最近森の中で変わったことはなかったかね?」

ハグリッドの声かけには答えずにロナンは空を見上げた。

「今夜は火星が明るい」

「ああ。だが、俺はもうちいと身近な話がしてえ。森は変わりないかい?」

「闇は暗さを増す」

「その闇の中にいつもと違うなんかがおらんかったかい?」

「罪なき者は闇に呑まれやすい」

「ああ…。傷ついたユニコーンは見なかったか?」

「闇を増した森は秘密を覆い隠す」

苛立ちを紛らすように一つ大きくため息をついたハグリッドは二人に目配せをして弩を担ぎ直した。

「そんじゃあ、もしなんかあったら俺に知らせてくれ、頼むよ。さあ、行こうか」

ハリーはハグリッドの後に続きながら、見えなくなるまで何度もケンタウロスを振り返った。

「ただの一度も、ケンタウロスからはっきりとした答えをもらったためしがない。えらく頭は良い連中だが、どうも話は通じん」

ハグリッドが苛立ちながら言う。

「よく会うの?」

「そりゃケンタウロスはこの森に住んどるからな。あまり人前に姿は見せんがたくさんおるぞ」

ハリーはもう一度後ろを振り返ったがもうケンタウロスは見えなかった。

 

 

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