ハリー・ポッターと忌まわしき一族   作:深田ハス

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14: 三の兆候

 

禁じられた森から帰った次の日、レオノールはしっかり寝坊した。

悪い夢を見た気がするのだが、起きた時には覚えていなかった。

なかなか起きてこないレオノールにドラコは肝を冷やして、昼前に談話室に降りたレオノールは寝起きのまま散々ドラコに文句を言われた。

レオノールはあの夜単純に疲れ切った頭で考え事をしていただけだった。そんなわけだから、ハリー達にも散々心配されたが、なんだか申し訳なく思った。

ハリーはあの夜に見たフードの中身がヴォルデモートだと確信しているようだった。

レオノールもそれには異存なかったが、スネイプが賢者の石を盗もうとしているという説には賛同できなかった。が、ハリー達はレオノールがいるとスネイプの話はあまりしないのでレオノールがその話をする機会はなかったし、そもそもみんな石について話している余裕はなくなっていった。

いつの間にか学校はすっかり試験ムードだった。

 

ハーマイオニーはヒステリックになっていつでもどこでも教科書を開くし、近くにいる人誰彼構わずに問題を出させてくるのでハリーとロンはうんざりしていた。ドラコもハーマイオニーほどではないが同じような状態になった。図書室は普段いない人で溢れかえり、レオノールはできるだけ寮に籠った。パンジー達も勉強に必死なようで、談話室にいても変な視線すら向けられなかったので案外心地よく勉強に没頭できた。

試験は筆記試験と実技試験があった。

筆記はいくつかあやふやなところがあり、なんとなくそれっぽいことを書いて埋めた。

実技はもうちょっとマシで、呪文学の試験ではパイナップルはちゃんと机の端までタップダンスして最後にはお辞儀までしたし、変身術の試験ではネズミは胴の部分にびっしりと細かいアラベスク模様の入った嗅ぎタバコ入れになった。先生の顔を見るに、実技では悪くない点数を取れたとレオノールは思った。

最後は魔法史の試験で、教科書に書いてあったことそのままを覚えている限り答案紙に書き込んだ。

そんな感じで、レオノールの人生初の学年末試験が終わった。

試験が終わるや否や、レオノールはあの禁じられた森での夜のことを考えた。

あの夜から、試験勉強中も、少しでも暇があるとずっと、自分の腕が勝手に呪文を放ったときのことを考えていた。

本当に、勝手に自分の身体が動いたのだ。

あの時の身体は自分のものであって、自分のものではなかった。まるで自分以外の意思が中から動かしているようだった。そもそもレオノールはあんな呪文を知らない。今までの授業でも教科書でも聞いたことのない呪文だった。

どうして自分の身体が勝手に動いたのか、あの呪文はなんだったのか。ずっと調べたくてうずうずしていたのだが、晴れて試験は終わったのでもう我慢する必要はどこにもない。

「レオノール! 試験はどうだった?」

大教室から校庭に出た生徒の群れの中でレオノールを見つけたハーマイオニーが声を掛ける。

「んー、半分はできてるはず」

「私、思ってたよりずっと優しかったわ。焦ってあんなところまで覚える必要なかったみたい」

試験の話をするハーマイオニーの横でロンがげっそりした顔をしている。ハリーはなんだか難しい考え事をしているみたいに眉間に皺を寄せていた。

「盾みたいな防御が出せる呪文って知ってる?」

「え、なにそれ、知らないわ。そんな呪文試験に出てきた? 私覚えていないわよ」

レオノールの質問にハーマイオニーが真っ青な顔をする。

「試験の問題じゃなくて。ちょっと気になってて」

「なんだ、そういうことね。びっくりしちゃったわ。私は聞いたことないかも。二人はある?」

「ハーマイオニーが知らない呪文を僕達が知ってるわけないさ」

ハーマイオニーの問いかけにロンが肩を竦める。

「そっか。じゃあね」

「どこ行くの?」

「図書室」

「うへー」

校舎に向かうレオノールとは反対に、三人は湖の方へと降りていった。

図書室に行くのは久しぶりだった。

試験が近づくと普段図書室に寄り付かない人達が沢山集まるものだからなんだか居心地が悪くてしばらく行っていなかった。

レオノールは無自覚だったが、試験勉強で寮に籠っている間、一人で出歩くなというスネイプの忠告を図らずも守ることになっていた。

案の定、図書室に向かう廊下から誰一人生徒がいない。試験期間中にできていなかった光合成をしようとほとんどの生徒が校庭に出ているようだった。試験が終わった瞬間から図書室に向かうのは稀有なようだ。

本当に久しぶりの図書室だからレオノールは忘れていたのだ。

いつも、どこで足音に追いかけられていたのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

湖の辺りの木陰に座ったところでハリーは両手で額を揉んだ。

「ここのところずっと傷が痛むんだ。こんなに長いこと痛むのは初めてだよ」

「マダム・ポンフリーのところ行ったら?」

ハーマイオニーが言う。

「寝不足じゃないのか? 試験勉強のしすぎだよ。今日ぐっすり寝たら治るって」

そういうロンは草の上に大の字に寝転がっている。

確かに最近よく眠れていなかった。でもそれは試験勉強からのノイローゼとかではなくて、フードを被った影が血を滴らせて覗き込んでくる悪夢を繰り返し見るからだった。

ハリーは首を振った。

「そういうのじゃないんだ。なんか、これはたぶん、警告なんだと思う。もうすぐ何か良くないことが起こるっていう知らせなんだ」

ハーマイオニーとロンは顔を見合わせた。

「ハリー、リラックスしろよ。石はダンブルドアが守ってる。それにスネイプだって顔が三つもある犬には敵わなかったじゃないか」

「それに、ハグリッドがダンブルドアを裏切ってスネイプにフラッフィーの手懐け方を教えるとは思えないわ」

「それはそうなんだけど、」

二人に説得されてもハリーはなかなか不安が拭い切れない。

ハリーもハグリッドがダンブルドアを裏切るとは思えなかった。

でも、なにか大切なことを見落としてる気がするのだ。

なにかとても大切で重要なことを。

この落ち着かない気分は、マルフォイに小屋を覗かれてからチャーリーにドラゴンを引き渡すまでの、いつ先生にバラされるかひやひやしながら過ごした数週間に似ているかもしれない––––

「それだ!」

急にハリーが大声を出したのでロンとハーマイオニーは飛び上がった。

「ドラゴンだよ! どうして気付かなかったんだろう!」

「なに? なんの話?」

「ハグリッドのところに行かなきゃ!」

ハリーは立ち上がって走り出し、ロンとハーマイオニーもその後を追う。

「ハリー、どうしたの?」

「ハグリッドはずっとドラゴンが欲しかった。でもドラゴンを飼うのは違法だ。なのに、たまたまドラゴンの卵をポケットに入れた人が、たまたまハグリッドに賭けを持ちかけると思う?」

ハリーの言葉にロンとハーマイオニーははっとする。

三人は全力疾走で森の前の小屋に向かった。

「やあ、お前さんたちか。お茶でも飲んでいくか?」

「っそれどころじゃないんだよ、ハグリッドっ」

小屋に着く頃には三人ともすっかり息が上がっていた。

「ノーバートをくれた人のこと聞きたいんだけど、その人のこと覚えてる?」

「覚えてるかってゆうてもなあ。フードをすっぽり被ったままだったから顔も見んかったよ。なんせ、ホッグズヘッドなんかにゃ怪しいやつがうようよしてる。そいつだってドラゴン売人だったかもしれん。そうだろ?」

なんでそんなとこで酒を飲むんだ、とは突っ込まなかった。

「その人とどんな話したの?」

ハグリッドは思い出そうと顔をしかめながら少しずつ話し出した。

「そいつは俺がホグワーツで森番してるって話したらえらく興味持ってな、、どんな動物飼ってるかって聞いてきたんでいくつか答えて、、それで、、俺はずっとドラゴンが欲しかったんだって話してな、そいつがドラゴンの卵をくれてもいいって言いよってな、ただしちゃんと飼えなきゃだめだって言うんで、俺はドラゴンなんてフラッフィーに比べたら簡単だって言ってやったんだ」

ハリーは自分がごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。

「その人はフラッフィーに興味がありそうだった?」

「そりゃそうだ。ケルベロスなんてそんじょそこらにいるもんでないからな。だから俺はフラッフィーなんてちょいと音楽を聴かせてやればすぐ寝てしまうって言ってやって、、」

ハグリッドははっと息を吸う。

「お前達に話しちゃいかんかった! 忘れてくれ!」

ハグリッドの声を尻目にハリー達はもう駆け出していた。

「大変だ!」

「今すぐダンブルドアのところに行かなきゃ!」

職員室に疾走したが、三人はまたもやそこで愕然と顎を落とす。

「ダンブルドア先生がいらっしゃらない、、!?」

ダンブルドアは魔法省から緊急の連絡が来て明日まで戻らないとマクゴナガルが言ったのだ。

ハリー達は賢者の石に危険が迫っていることを訴えたがマクゴナガル先生に相手にしてもらえず、結局追い返されてしまった。

「今夜だ」

グリフィンドールの談話室でハリーが唸る。

「フラッフィーの出し抜き方はわかった。ダンブルドアは明日までいない。きっと緊急の連絡っていうのもスネイプが仕組んだやつなんだ」

「でも私達にできることってあるのかしら」

「できなくてもやるしかないさ。ダンブルドアはいない。他の先生達は信じてくれない。僕達でできることをするんだ。ハーマイオニーは職員室の前でスネイプを見張っててくれ」

「私が?」

「この三人の中なら君が適任だね。『私、最後の問題ができているか心配で、、、』って先生全員に言って回っても君ならみんな信じるさ」

「失礼ね」

ハーマイオニーはロンを睨め付けたが、ハリーも内心同意した。

ハーマイオニーは渋々見張りを引き受けた。

「あなた達はどうするの?」

「僕達は四階の例の廊下の見張りに行くよ」

ハリーとロンは四階に向かった。

着いてすぐに足音が向かってきたので二人は飛び上がりそうになったが、現れたのはマクゴナガル先生だった。

「いい加減になさい!ホグワーツの教授陣の護りがそれほどにも信用できませんか!これが最後です!次この廊下で見かけた時には五十点減点です!ええ、一人五十点ですよ!」

仕方なく二人はすごすごと寮に戻る。

二人がソファに腰掛けしばらくしたところでハーマイオニーも戻ってきた。

「ごめんなさい。スネイプ先生に何してるのかって聞かれてフリットウィック先生に試験の質問をしたいって伝えたら本当にフリットウィック先生呼ばれちゃって今までずっと話してたの。スネイプ先生がどこに行ったのかわからないわ」

「じゃあもう僕が行くしかない」

二人が見つめる中でハリーが言う。

「行ってどうするの?」

「なんとかして石を先に手に入れる」

「でもどうやって? 今行っても廊下でマクゴナガルに見つかって減点だよ」

「透明マントを使うよ。塔に置き忘れてきたのが戻ってきたんだ」

「三人入るかな」

意味が掴めずハリーは怪訝な顔をしてロンを見た。

ロンは肩を竦める。

「やめろって言ったって今の君は聞かないだろ。一人で行かせるかよ」

「そうよ、私達がいなきゃ先生達の魔法の罠はくぐり抜けられないわ。私、今のうちに色々調べてくる」

そう言ってハーマイオニーは女子寮を駆け上がっていった。

一人、また一人。談話室から人が消えていく。

最後の一人が談話室に上がるのを見届けてから、ハリーは隠していた透明マントを取り出す。

「三人入り切るかな?」

クリスマスの夜にレオノールと出かけた時は多少足がはみ出ていたとしても気にしていなかったが、今夜は違う。

「何してるの?」

誰もいないと思っていた肘掛け椅子の影から声がした。

「ネビル」

「また外に出るつもりなんだろ」

「ネビル、そこをどいてくれよ。これは大事なことなんだ」

「どかないよ。これ以上グリフィンドールから減点させない」

ネビルは談話室の入り口に立ち塞がる。

ハリーとロンは助けを求めてハーマイオニーを見た。

「ごめんね、ネビル」

ハーマイオニーの杖の一振りでネビルは硬直し、そのまま倒れた。

「確かに君がいなきゃ最後までくぐり抜けられない気がするよ」

「そんな弱気でどうするのよ」

文句を言いながらもハーマイオニーは少し嬉しそうにしている。

「レオノールはちゃんと寮に帰ってるかしら」

寮を出たところで、そういえば、とハーマイオニーが呟いた。

意外にもレオノールは、実技だけで言えばハーマイオニー以上に長けている。

ここにレオノールが加わればなお心強い。

でも今から地下のスリザリン寮を訪ねている暇はなかった。

「ここにもいないのか?」

思いもよらない声がして三人は文字通り飛び上がる。

物陰から金髪が現れた。

「マルフォイ!」

グリフィンドール寮の前にいるマルフォイはなんとも場違いな雰囲気が甚だしい。

「なんでここに!?」

マルフォイ本人も気まずそうだ。

「レオノールが帰ってきてない。図書室にはいなかった。それならここにいるかと思ったんだ」

マルフォイは苦い顔をして言う。

あのマルフォイがレオノールを心配して夜に学校を歩き回った上にグリフィンドール寮まで訪ねてくるなんて。ハリーは単純に驚いた。

「レオノールはここにはいないわ。試験の後、図書室に行くって言って別れたきりよ」

「今行ってきたけど、図書室は誰もいなかった」

そんなはずないと思いたいのに、嫌な予感がする。

「それより今からどこに行くつもりなんだ?」

ハリー達はどう誤魔化そうか困って顔を見合わせた。

こんなところで時間を食っている暇はない。

それにレオノールの姿が見えないのは偶然じゃないようなそんな予感がするのだ。

ハリーは腹を括ってマルフォイを見た。

「四階に行く。石が危険なんだ」

 

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