ハリー・ポッターと忌まわしき一族   作:深田ハス

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更新が遅れてしまいすみません。
やっと1巻完結しました。ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。


17: You know nothing, yet

 

ハリーは鏡の前で気を失ってから三日後に医務室で目を覚ました。

クィレルが石を持っていると慌てるハリーを宥めたダンブルドアは、クィレルは死んでしまったこと、石は失われてしまったことを告げた。

失われてしまった?

思わずハリーは聞き返してしまった。

だって、間違いなく石はハリーのポケットの中にあって、それを守るためにハリーは死に物狂いでクィレルにしがみついていたのだ。

でもハリーが気を失った直後にダンブルドアが部屋に辿り着いた時にはもう石はなかったらしい。

ダンブルドア曰く鏡が気を変えたのだろうという。

ダンブルドアは、石を見つけたい者だけが–––使いたい者ではなく見つけたい者というところがミソなんだとか––––手に入れることができるように石を鏡に預けた。そしてその通りに鏡はハリーに石を渡した。でも、ハリーがクィレルを倒して気を失ったあとどうしてか鏡が石を取り戻してしまったらしい。最終的には石を壊すつもりだったというダンブルドアが鏡の前に立ってみたが、再び鏡が石を渡すことはなかった。

ハリーが鏡の中にレオノールそっくりの女性が見えたことを話している間、ダンブルドアは真剣な眼差しで耳を傾けていた。そしてあの鏡はレオノールの祖先に当たる人が作ったということを教えてくれた。

それからハリーはマダム・ポンフリーが打ち切りに来るまで次々とダンブルドアに質問を浴びせかけた。

答えてくれない質問もあったがダンブルドアはできる限りをハリーに教えてくれた。

ダンブルドアがマダム・ポンフリーに追い出されてしまい、ハリーが暇を持て余していたところに隣のベッドとの間のカーテンが勢いよく開けられた。

「ハーイ、ハリー」

軽快な声と共に顔を出した黒い髪に青緑の瞳の女の子にハリーはびっくりしてしまった。

「レオノール!」

相変わらず色白だが、鏡の前に倒れていた時と比べたらずいぶん血色が良かった。

「どうしたの?」

ハリーは思わず聞いてしまった。

レオノールはまるで憑き物が落ちたみたいに()()()ハリーを見ていた。

レオノールはちょっとバツが悪そうに笑って頬を指で掻いた。

「んーっとね、ちょっと懐かしい夢を見たの」

そう言ってレオノールはハリーのベッドの端に腰掛けた。

「ハリー、ごめんね。私が捕まっちゃったからみんな私を助けようとして危ない目に遭ったって」

今度はしおっとしてハリーに頭を下げて謝る。

「いいよ。僕が同じ目に遭ってたらレオノールだってきっと助けに来てくれてたでしょ。それにレオノールが捕まっていなかったとしても僕は行っていたと思う」

「もー、そこは嘘でも私のためだったって言ってよ」

二人が声をあげてけらけら笑ったものだから途端にマダム・ポンフリーが駆けつけてきた。

「ミス・ペベンシー!あなたは自分のベッドで寝ていなさいな。死んでもおかしくなかったくらい出血していたんですよ。大人しく造血ジュースを飲んで寝ていなさい」

「そんな心配しなくても大丈夫ですって。ここにはターバンを巻いた人はいないですし、それにほら、ジュースを持って大人しくベッドに座ってるでしょ?」

レオノールは自分のベッドの傍に置いてあったコップを持ってハリーのベッドの端に座り直した。

マダム・ポンフリーは呆れたというように目を回して戻っていった。

「それなに?」

レオノールの持つコップの中には赤銅色の液体がなみなみと入っている。

「造血ジュースだって」

一口飲んだレオノールは不味そうに顔を顰める。

「身体は何ともないの?」

「ばっちり貧血だよ。でもそれ以外はなんともないかな。ハリーは?」

「動かすと頭痛いかも」

「話してて平気?」

「今のところ」

「そっか」

レオノールはまたコップからちびちびとジュースを飲んでいた。

ジュースのついたところだけ唇が赤く染まっていた。

レオノールとハリーはベッドの足元に積み上げられた見舞いのお菓子を片手に、お互いの身に起きたことを話し合った。

といってもレオノールが話せたのは図書室を出たところでクィレルに失神させられたこととチェスの間で血を取られたことぐらいだった。

ハリーはドラコと合流してからフラッフィーの足元の扉から降りたら悪魔の罠に締め殺さそうになったこと、数千羽の中から鍵を見つけたこと、チェスでロンが奮闘したこと、ハーマイオニーが謎々を解いて炎の中を通れる飲み薬を見つけたこと、そしてみぞの鏡の中に現れたレオノールそっくりの女性がハリーに石をくれたことなどを話した。

「その人が石を隠しちゃったの?」

「ダンブルドアが言うにはそうみたい」

「どうして気が変わったのかな」

「わかんないや。本当にレオノールは覚えてないんだね」

「うん。床に倒れてたのは何となく思い出せるんだけど」

レオノールはみぞの鏡の前で起こったことをほとんど覚えていなかった。

 

翌日、マダム・ポンフリーに再三頼み込んでようやく許可を勝ち取ったロンとハーマイオニーが訪ねてきた。

二人とも声をあげて笑うレオノールを見てびっくりしていた。

ハリーが鏡の前であったことを話し、他の二人は助けを呼びに行ってからのことを話した。

鍵を捕まえたところで助けを呼びに戻ったドラコは職員室にいた先生達に助けを訴えたが、ハリーの想像したように、本当のことを言っていると信じてもらえなかったらしい。あと少しで罰則に連れて行かれそうになったところを逃げ出し、スネイプ先生の研究室に駆け込んだのだという。

スネイプ先生はドラコの話を聞くやいなやダンブルドアに連絡を送った。

そしてハーマイオニーが送ったヘドウィグと行き違いになる形でダンブルドアが学校に戻ってきたのだ。

ミッションを完遂できなかったヘドウィグは傷心気味で、たまに腹いせにロンとハーマイオニーの朝ごはんを邪魔しに来るらしい。

ハリーは医務室から復帰できたらヘドウィグをいっぱいかまってやろうと決めた。

ドラコはロンとハーマイオニーが帰ってしばらくしてから一人でやってきた。

レオノールの見舞いに来たのだが、レオノールが自分のベッドを抜け出してハリーのベッドに居座っていたものだからハリーとも顔を合わせることになった。以前のように顔を合わせた瞬間に険悪なムードになることはなかったが何だか二人ともギクシャクして気まずそうだった。

ドラコもガラリと雰囲気の変わったレオノールに驚いていた。

レオノールにはみんなが何にそんなに驚いているのかわからなかった。

 

結局レオノールとハリーは学年度末パーティ当日まで医務室で過ごした。 

簡単に許可が出るとは思わなかったがダンブルドアが話をつけてくれていたみたいで、マダム・ポンフリーは不服そうにしていたもののパーティが始まるより少し前に渋々二人を送り出してくれた。

大広間についた二人は主にグリフィンドール生から盛大に迎えられた。

レオノールは便座を送ってくれた(没収されてしまったのでレオノールがお目にかかることはなかった)双子に礼を言って、それから大人しくスリザリンの席に着いた。スリザリン生からも何ともいえない視線を向けられたが今更レオノールが気にすることはなかった。

寮対抗杯はハリー達に駆け込みの追加点があったことでグリフィンドールの優勝となった。グリフィンドールのテーブルからは爆発するような歓声が溢れ、ネビルなんかは喜びで咽び泣いていた。

ドラコにも加点されたお陰でスリザリンは二位だった。グリフィンドールとは僅差だったので、ダンブルドアがペベンシーにも加点してくれていれば、なんて声が聞こえてもきたが、レオノールは自分が加点されなくても何とも思わなかった。加点されていたら逆にもやもやしていただろう。そもそも自分が夜遅くまで図書室にいたからクィレルに捕まることになったのだし、一連の事件でレオノールが何かの役に立ったとは思えない。鏡の前でハリーを助太刀したのが本当に自分だったのかも怪しい。隣にいたドラコもスリザリンがグリフィンドールに負けたのに意外に清々しい顔をしていた。

そんなこんなでスリザリンのテーブルはお祝いムードではなかったが、ご馳走はちゃんと美味しかった。

医務室ではハリーがいたのでしばらくちゃんと話していなかったドラコや、そもそも顔も合わせていなかったセオドールと料理を頬張りながら他愛もない話に花を咲かせる。

そんな様子を向いに座っていたパンジーは目をぱちくりさせてまじまじと見てきた。

「あんた、、」

「ん?」

珍しく女子寮以外でパンジーに話しかけられて顔を向けたが、パンジーがなにも言おうとしないのでレオノールは首をかしげた。

「どうしたの?」

「いや、、、やっぱり何でもないわ」

「そ」

レオノールはいっぱいお喋りしながらたらふく食べた。

ホグワーツに来てから一番喋った夜だった。

 

ようやく学年末試験の結果が発表され、レオノールはドラコと成績を見せ合った。ドラコは学年一位ではなかったもののトップレベルの成績だった。レオノールは科目によってムラがあって、変身術と呪文学はトップ並み、それ以外の主に座学は平均かそれより少し上くらいの成績だった。よく教科書は読んでいるがだからといってよく覚えているわけではないんだなとドラコは思った。

ドラコとの見せ合いっこに満足したレオノールはグリフィンドール寮に遊びに行く。ドラコはなにも言ってこなかった。

もちろんハーマイオニーは学年トップだった。その次に成績が良いのがレオノールで、ロンとハリーも全体の成績は悪くなかったが二人とも魔法史の成績が芳しくなかった。

ネビルとも成績を見せ合ったり、フレッドとジョージの成績を覗かせてもらったりもした。

散々お喋りしてからグリフィンドール寮を後にし、地下寮へと向かう廊下の途中でレオノールは足を止めた。そして踵を返し、普段は通らない廊下を進む。

クリスマスの夜にハリー達と忍び込んだ部屋の前に着くと、ゆっくり扉を開けた。

本当にあるとはあまり思っていなかったのだが、部屋の真ん中にはあのみぞの鏡があった。

レオノールはそっと鏡面に近づく。

前ほどガラスは怖くなかった。

鏡に映るレオノールの両隣にはマリオットとアビーがいる。

レオノールは朝寮を出るときにしまってきた縫い針を取り出して指先に刺した。いつかの変身術でマッチから変身させたやつだ。

指の腹をぐっと押すとぷくうっと赤い雫ができた。

その手で鏡の木枠に触れる。

指先に滲んだ血がすうっと吸い込まれていくのがわかった。

「やっと来た」

どこからか声がした。

いつの間にか鏡面からマリオットとアビーは消え、詰襟の黒いワンピースを着た女の人がレオノールの横に立っていた。

ハリーの言う通り、少女と女性の中間くらいの年頃の、レオノールにそっくりな人だった。

「あなたはだれ?」

鏡の中の女の人は面白そうにレオノールを眺めた。

「君は本当になにも知らないね」

変に大人びた顔立ちも、血色のない顔色も、親戚とか親子というレベルではなくそのまんまレオノールだった。

背丈と髪だけは違って、背は頭ひとつ分くらい高く、レオノールに比べて少し明るめの黒髪は鎖骨くらいの長さだ。

「なにを?」

「一族のこと。()()のこと。色々なこと」

話し方はとても大人びていて、でも逆にとても若々しく感じられる。

例えるなら、大人にはちょっと反抗的な歳の離れた近所のお兄さんみたいな雰囲気だ。

「孤児院にいたから」

「みたいだね。でも君だけでは死んでいた」

レオノールはじっとその人を見上げた。

「禁じられた森で呪文を放ったのも、この鏡に血を与えたのも、君ではない」

レオノールが襲ってきたマントに向かって無意識に放った呪文。あれは盾の呪文だった。上級生になると習う呪文の一つだが、レオノールは今までに見たことも聞いたこともなかったはずの呪文だった。

「だれがやったの?」

()()だよ」

外見は同じなのに、見惚れるほど歪で美しい。

「君はなにも知らない。まだね」

「…あなたの名前は?」

「パルマ」

「あなたは私の祖先?」

「直系ではないけどね。私は選ばれなかった」

「選ばれるとどうなる?」

女性は微笑んだが質問には答えなかった。

「おかしな感じがするよ。()()の顔をしているのにこんなにも知らない。()()のことも、力の使い方も」

「どうしたら知れるの?」

「もう知っているはずだ」

それ以上女性は教えてくれなかった。

「あなたが石を持っている?」

パルマはレオノールの顔を見たままワンピースのポケットに手を入れ、赤い石を覗かせた。

「どうして盗ったの?」

「彼らは扱いきれない」

そのまま赤い石をポケットに戻す。

それ以上女性が何か教えてくれることはなかった。

 

 

ホグワーツ特急は勢いよく走り、車窓の外の景色がびゅんびゅん後ろへ飛んでいく。

レオノールはコンパートメントでドラコと車内販売のお菓子を頬張りながらチェスをしていた。チェスでドラコに勝てたことはまだないが、だいぶ上手にできるようになった。

「本当になにがあったんだい?」

ましな味が残っていないかと百味ビーンズの箱を傾けて揺すっていたとき、ふとドラコが聞いてきた。

そういえばドラコはレオノールが笑うようになったことについて一度も踏み込んで聞いてきたことはなかった。

「んー、」

レオノールはビーンズの箱を傾けたまま、なんて言おうか考える。

「もう私はあの部屋から出られたんだって気づいたのかも」

「今さら?」

「今さら」

レオノールはビーンズの箱を傍にやって、蛙チョコレートに手を伸ばした。

「ドラコ、」

「ん?」

「入学したての時、君が話しかけてきてくれて良かったよ」

顔を見ずに言ったが、ドラコが少し固まっているのがわかった。

「…それは、どういたしまして」

ドラコはちょっと気取った言い方で、にやっと笑った。

レオノールもにやっと笑った。そしてチェスの駒を進めた。

 

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