ハリー・ポッターと忌まわしき一族   作:深田ハス

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08: 獅子の中の蛇

 

「おはよう、レオノール」

「おはよう」

土曜の朝、レオノールは図書室でハーマイオニーに会った。

「今日一緒に宿題やらない?」

「いいよ」

「じゃあ、グリフィンドールの談話室で会いましょ。私が見てないと男子達がちっとも宿題に手を付けないのよ」

トロール騒動から数日後、遂にレオノールはハリーとロンに呼ばれて初めてグリフィンドール寮の談話室にお邪魔していた。しかし行ってみればハリーはおらず、談話室の隅でロンとハーマイオニーから男子二人がどうやってトロールをやっつけたか、ハーマイオニーがどう二人を庇ったかを聞くことになった。ハリーはといえば休日の朝一からクィディッチの練習に行っていたそうだ。なんでももうすぐスリザリンとの初戦が近いのだとか。

それから度々グリフィンドールの談話室に入り浸ることが増えた。

その日も一旦宿題の用具を取りにスリザリン寮に戻ってからグリフィンドールの談話室にお邪魔した。

案の定ハリーはクィディッチの練習でおらず、ロンとハーマイオニーとでテーブルを囲む。

窓の外は雨が降っていた。

最初はグリフィンドールに混じるスリザリン生を白い目で見る生徒も多かったが、案外みんなすぐに慣れるものらしい。ウィーズリーの双子がレオノールに構うのを見て睨んでくるのをやめる人も多かった。双子はグリフィンドールの人気者のようだ。

「もう勘弁してくれよ。明日やればいいじゃないか」

宿題の山を前にしてロンが口をへの字にする。ハリーが一番宿題を溜めていたが、ロンもそれと同じくらい溜めていた。ハリーは練習で忙しいなりには頑張ってやっているようだ。

「明日はハリーの練習を見に行くって話じゃない」

「だから練習を見終わったらやるって」

「嘘おっしゃい!絶対先に終わらせておけばよかったって言うことになるんだから」

ハーマイオニーがロンの反論をぴしゃりと跳ね除け、ほらほらと教科書を開かせる。

「レオノール、なんとか言ってやってよ」

しぶしぶ羽根ペンを手に持ったロンが言う。

「宿題は先にやったほうがいいよ」

レオノールはレポートから顔を上げずに言った。レオノールはこれが最後の宿題で後半部分に差し掛かっていた。しかし進度は一番早いが書くのが遅く、のろのろとしか進まない。

「くそぅ……レオノール、なんか元気ない?」

「そんなことないよ」

「そっか」

いやだあ、と言いながらロンは教科書をめくりだす。

レオノールはロンの横でテーブルに着いているふさふさの栗毛の女の子を横目でじいっと見た。ハーマイオニーとはホグワーツ特急と図書室で少し話したことがあるものの、それ以外これといって話したことがあるわけでもなかった。スリザリンの女の子ともほとんど交流がないレオノールは何を話しかけて良いのかもわからない。結果いつも以上に無口になることが増えた。レオノールはハーマイオニーに気づかれる前にそっと視線を外し、レポートを続けた。

お昼をまわった頃、びしょ濡れのハリー達が帰ってきた。

ハーマイオニーとレオノールが杖で熱風を出し、濡れたユニフォームを乾かしてやる。

「やっとウッドが諦めてくれたんだ」

「あいつ俺達を凍死させるつもりだぜ」

一緒に帰ってきたジョージとフレッドが口々に言う。

「おちびちゃん、俺達とチェスやろうぜ」

「おっけ」

既にレポートを終えたレオノールは暇つぶしに図書室で借りてきた本を読んでいるだけだったので快く承諾した。

「えー、ずるい」

「ロニー坊やは先に宿題を終わらせるんだな」

「あなた達は宿題終わらせたの?」

「俺達は要領が良いのさ」

ジョージがハーマイオニーにウィンクしてみせる。ジョージの言う”要領が良い”というのは宿題の進みが早いということではなく、宿題をしなくても授業についていけるという意味だとレオノールはわかるようになってきた。

「僕も宿題やるよ」

男子寮から戻ってきたハリーがロンの横に荷物を広げる。クィディッチの練習で忙しい分割り切って宿題に取り組んでいる。

それからハリーとロンはハーマイオニーの監視の下で宿題を進め、その隣でレオノールは双子とチェスに興じた。

チェスをするといってもレオノールはつい先週初めてチェスの駒に触れたくらいで、双子の片方を対戦相手にし、もう片方の指導の下で頭を傾げる程度だ。

「そこに置いたらすぐにルークを取られちまうぜ」

「ならこっち?」

「それもドボンだな」

「んー」

レオノールは頭を抱える。全然わからない。

「もう駒の動き方は覚えられたんだな」

「打ち方は何度も本で読んだから」

「じゃあなんで打てないんだ?」

「相手がいなかった」

「あ、そっか。悪い悪い」

フレッドがばつが悪そうに頭を掻いた。レオノールは特に気にしてない。

「チェス盤も駒もなかったしね」

レオノールが特別隠そうともしていなかったので、双子はなんとなくレオノールの特殊な生い立ちを悟っていた。が、二人ともレオノールを気遣ってそこから踏み込んでいくようなことはしないようにしていた。

「ここからならビショップをこっちに動かすと良いね」

「相手のルークの軌道から外れるから?」

「それもあるけど、自分のクィーンが動けるようになるだろ」

レオノールは大きく眉間に皺を寄せた。

結局レオノールが惨敗し、今度は双子の対戦を横で見守ることになった。

 

「ねえ、レオノール」

借りたい本がある、と言ってハーマイオニーが談話室を出て行ったところでハリーが話しかけてきた。

「ん?」

ハリーは一旦ロンと顔を見合せる。ちょいちょいと手招きされ、レオノールは顔を近づけた。

「レオノールがどんなとこで育ってきたのか教えてくれってハーマイオニーが何度も聞いてくるんだけど、教えても大丈夫かな?勝手に話したら悪いかと思って何も言ってないんだけど、しつこいくらいずっと言われてて…」

「全然構わないよ。別に隠してないし」

二人とも深刻そうな顔をしているから何かと思えばなんだそんなことかとレオノールは拍子抜けした。双子の対戦を見に戻ろうとしたとこでふと思った。

「君のお兄さん達は?」

「兄貴達にも何も言ってないよ。あの二人はイタズラばっかりしてるけどそういうことには勘が働くんだ」

「そう。知ってると思ってた」

その後、この二人気遣い上手なのか、などと思いながら再び双子の対戦を眺めた。チェスは全くわからなかった。

ジョージがフレッドに僅差で勝ち、ハーマイオニーの制止を押し切って宿題そっちのけでチェスに参戦したロンがハリーをこてんぱんに打ち負かしたところでレオノールはグリフィンドールの談話室からお暇した。

廊下は思ったよりも寒く、地下の寮に着くとほっとした。

「レオノール!」

入ってすぐドラコがレオノールを見つける。険しい顔をしてずんずん近づいてくる。

「どこ行ってたんだ?」

「…図書室」

「さっき行ったけどいなかっただろ」

レオノールは片方の眉を吊り上げた。

「じゃあ他のどこかだね」

「おい、ふざけるなよ。グリフィンドールの奴らと一緒にいたんだろ。周りが君のことなんて言ってるのか知らないのか」

ドラコは怒っているような、拗ねているような顔をしている。

「知らないし、気にしない」

「君がスリザリンのクィディッチチームのスパイをしてるって言われてるんだぞ」

「私が?」

レオノールは思わず鼻で笑ってしまった。スリザリンのチームをスパイするどころかそもそもチームのメンバーすら知らないのに。

「とにかく疑われたくなかったらグリフィンドールの奴らとつるむのはよせよ。代わりに僕らといれば良い」

レオノールはちらっとドラコの後ろのソファを見た。

スリザリンの女の子達がドラコに話しかけられるレオノールを見て顔を顰めていた。ドラコがレオノールに構うのを見ると女の子達は好い顔をしない。また荷物にちょっかい出されそうだ。

「ありがとう。でも好きなように出歩けるの初めてなんだ。だから止めないで」

レオノールはドラコに向き直ってそれだけ言うと、急いでドラコの元を離れた。

 

 

 

 

ハリーのクィディッチの初戦の日は素晴らしいほどの快晴だった。

グリフィンドールの観客席にいるハーマイオニーの隣には、ハーマイオニーとロンで誘ったレオノールもいる。ハーマイオニーの計らいで今日は変に目立たないようにハリーから借りたグリフィンドールのネクタイをしていた。赤も案外似合ってる、とハーマイオニーは思う。

ハーマイオニーは、表情の乏しさや一般常識の無さからレオノールがかなり普通じゃない環境で育ってきたことはなんとなくわかってきていた。それが異常に体力がないことや同世代より一回り小柄なことにも繋がっている気もしていた。双子に聞いても詳しくは知らないと言われ、ハリーとロンには毎回言葉を濁されていたが、この間やっと教えてくれた。

なんでも孤児院から引き取った家族に四年間も幽閉されていたというじゃないか。

最初は腹が立ってレオノールに詳しく話を聞こうとしたが、ハリーとロンに全力で止められた。ハリー曰く、本人は隠すつもりはないと言っているしあまり気にしていないようだけれど、自分から昔の話をすることはないから下手に聞き出すのは良くないと。確かにレオノールにとって良い思い出ではない出来事を思い出させるのは酷かとしぶしぶ納得した。

ハーマイオニーは隣にいる小柄なスリザリン生を見た。

レオノールは落ち着かなそうにきょろきょろと周囲の騒ぎに目を向けていた。本人は気付いていないようだが、頭が軽く前後に揺れ片方のほっぺを膨らませている。かなり緊張しているみたいだ。

「スポーツ観戦は初めて?」

ハーマイオニーはそっと聞いた。レオノールは頷く。

「お祭りみたいだね」

「ほとんどそんなもんよ」

ハーマイオニーはネビルやシェーマス、ディーンと一緒に夢中になって旗を振るロンを見て少し呆れながら同調した。”ポッターを大統領に”という旗を作るのにはハーマイオニーも一役買ったが、他の子のようにまではクィディッチに夢中になれなかった。今回もハリーが選手じゃなかったらこんなにも興味は持てなかったかもしれない。

ハーマイオニーがそんなことを考えているうちに、会場が沸き立ち、選手が入場してきた。その後数分もしないうちにハーマイオニーも会場の熱狂に加わっていた。

 

競技場の中で赤と緑のユニフォームを着た選手達が飛び回り、その間をいくつかのボールが飛び交う。途中からハグリッドがやってきてその隣で押し潰されそうになっているレオノールは目紛しく変化する試合の状況についていくのがやっとで声援を送る暇もなかった。レオノールはクィディッチのルールをほとんど知らなかったのだが、自ら選手に突っ込んでいくボールと自分からは動かないボールがあることはなんとなく理解できた。

「今度はスリザリン側の攻撃です。スリザリンのチェイサーはブラッジャーをかわし、双子のウィーズリーをかわして、ものすごい勢いで……ちょっと待ってください–––––ハリーがスニッチを見つけたようです!」

歓声の中で双子の仲間のリー・ジョーダンの解説が鳴り響く。

ハリーはレオノールには見えない何かを全速力で追っていた。

「くそっ!」

スリザリンの選手に体当たりされたハリーが体勢を崩して軌道から外れた。

ロンの悪態とグリフィンドール側のブーイングからスリザリンが悪質な手を使ったことがわかる。

中立に試合解説をするはずのリー・ジョーダンも悪態をつこうとしてマクゴナガルに何度も注意されている。

グリフィンドールのペナルティー・シュートが決まった後、スリザリン生がハリーめがけて黒いボールを狙い撃ちしたのを見てロンが声を荒げる。

ハリーは空中で宙返りをしてボールを華麗に避けたが、その直後から様子がおかしくなった。

ハリーの乗っている箒が上下左右に揺れ出し、まるで暴れ馬みたいにハリーを振り落とそうとし出した。

「ハリー?」

レオノールの不安げな声にハーマイオニーがはっと競技場を見上げる。

「なにか変よ!」

「本当だ!箒が言うことを聞かなくなってる!」

「スリザリン生がなんかしたのか?」

隣でハグリッドが震えていた。

「チビどもなんぞにそんな手出しはできん。できるとしたら–––––」

「強力な闇の魔術!」

何かに気づいたハーマイオニーはハグリッドから双眼鏡をひったくると観客席を見回した。

「ほら、いた!スネイプよ!」

ロンもハーマイオニーからもぎ取った双眼鏡を覗き、呻き声を上げる。

「どうするんだよ…」

「私に任せて」

「待っ–––––」

レオノールが声をかける間も無くハーマイオニーは立ち上がり、僕も行く、とロンもその後を付いて行ってしまった。

レオノールは二人が置いて行ったハグリッドの双眼鏡を覗いた。急いで教員用の観客席を見渡す。

目的の人物はすぐに見つかった。

ハーマイオニーが見たスネイプと同じようにクィレルがハリーの箒を凝視して何か呟いていた。

ハーマイオニー達は犯人がスネイプだと確信していたが、レオノールの知る限りではクィレルの方が怪しい。クィレルが犯人だとすれば、スネイプが唱えているのは反対呪文か何かだ。

どうしよう。

間違いなくここから落ちたらハリーはただじゃすまない。

もう一度双眼鏡を覗く。スネイプの足元でハーマイオニーの十八番のリンドウ色の火が上がる。火に気づいたスネイプが慌て出すが、クィレルは箒を凝視したままだ。そしてハリーを見つめる観客のはらはらは止まらない。

レオノールは腹を括った。

大きく深呼吸して、右手を前に突き出す。拳を握ってぐいっと手前に引いた。

バキッと木が折れる感触がし、双眼鏡の向こうでクィレルが脚の折れた観客席から転がり落ちた。

クィレルが席から転がり落ちたことを確認してから、レオノールは急いで空中を振り返った。

「ハリーは!?」

「大丈夫だ!元に戻ったよ!」

レオノールは気づいたらグリフィンドールの男の子に抱きしめられていた。確かシェーマスとかいう名前だったが、よっぽどハリーのことが心配だったみたいでレオノールに回した手がぶるぶる震えていた。

お陰で観客がもう一度どよめいたとき、なにが起きたのか全く見えていなかった。

しばらくの沈黙の後。

 

「取ったぞ!ハリーがスニッチを取った!」

 

その後、戻ってきたハーマイオニーとロンが救出してくれるまでレオノールはグリフィンドールの男の子にもみくちゃにされた。

 

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