闘気硬化。絶望を超えた先の絶望。
スチームブレイクを食らって尚、金獅子の膂力は限界など存在しないかのように向上し続けている。
まさに、モンスター。
まずは周囲のモンスターを破壊する。
燃え盛る日輪のような赤い瞳が、グレンゼブルを捕捉した。
跳躍。気光によって加速した金獅子は瞬く間に蛮竜の懐に潜り込み、鋭い爪で腹皮を切り裂く。
(ラージャンの攻撃が正確性を取り戻した!霞龍の肉に含まれる
金獅子は電気力を含む肉を好む。
硬化した筋肉は蛮竜が振り下ろした角を弾き、反動で仰け反った蛮竜の腹に稲妻を纏った拳が突き刺さる。
蛮竜は吐血の勢いを利用して水流のブレスを吐き出したが、金獅子は片手でブレスを防ぎ、蛮竜の顎を掴んで捩じ伏せた。
闘気硬化を解除するためには、金獅子の感情を制御する器官である尻尾を攻撃して怯ませなければならない。
しかし暴風雨のような金獅子の攻撃を掻い潜って尻尾を攻撃するのは至難の業だ。
それでも、立ち向かわなければ殺される。
(ガランゴルムが勇気をくれた!)
幸福のために戦うのなら、日々の鍛錬に価値はない。狩猟をしなくても幸せになることはできるはずだ。
血みどろになってでも戦うことを選んだのはモンスターハンターになりたかったからだ。
強い装備に頼りたくなかったわけじゃない。
持たざる者には希望が必要だった。
『優しさなんて何もない人でも持てるんだよ』
知っている。
「それでも、俺はハンターだ」
殺風景になった森を言葉が扇ぎ、風が吹く。
暴れる蛮竜を抑えつけながら叫ぶ金獅子は、狩人を叱りつけているようにみえた。
棍で地面を突いて息を整える。
「白のエキスを取ってこい!」
ラージャンは狩人が放ったシナトオオモミジの突進を回避して雷弾を放った。
威力が増した雷弾が地面を砕き、土煙の中から飛び出したラージャンが狩人に飛びかかる。
青と金色の光が混ざる。
《絶対防御》
再発動。
《絶対防御》
再び相打ち。金獅子はアヌビスの斬撃を浴びて出血したが、怯まず体毛の先端から電流を流して追撃した。
電流は眩い光を放ちながら大地を引き裂く。
(バリアを剥がそうとしたのか!)
シナトオオモミジが採取した白のエキスを受け取った狩人は金獅子の追撃をバックステップで躱した。
白はスピードの強化。狩場の機動力では双剣や太刀を上回る。更に赤による肉体強化とシンクロすることで効果が重複し、更なる殺傷力を手に入れる。
別人のような身体能力によって、驚くほどの速度で戦場を制圧する。
狩人が金獅子の目に向かって印弾を飛ばすと金獅子は顔を背けて印弾を躱した。
追い打ちをかけようと前身した狩人に対して、金獅子は手を開いて掴みかかる。
「ヴォオオオ・・・」
不気味な鳴き声を聞いた金獅子はサイドステップで狩人から離れたが、顔面に火球を食らった。
れうすのお面。
奇面族に様々な効果を与えるお面の一つ。
火竜リオレウスの素材で作られた《れうすのお面》は鳴き袋と火炎袋を搭載しており、火竜の咆哮と火球を再現することができる。
カヤンバに向かって気光ブレスを放とうとしたラージャンはシナトオオモミジの粉塵を吸い込み、口内が爆発して怯んだ隙に操虫棍による斬撃を浴びた。
その直後、電気刺激によって赤黒く膨張していたラージャンの前腕が赤い光と水蒸気を放つ。
逞しく発達したラージャンの腕は、恐暴竜イビルジョーの顎を力づくでこじ開けるほどの強い筋力を持つ。
電気エネルギーによって体毛を金色に染めたまるで我々とは違う力動的空間にいるかのように振る舞い、既知の物理法則では測ることのできない挙動を実現する。
(何が起きる!?)
古龍種のエネルギーを感知した導蟲は青く輝くことで狩人の目印になっているが、危険を察知すると赤い光を放つことで知られている。
導きの青い星が吉兆なら、赤く輝く凶星こそが凶兆である。
筋肉膨張状態のイビルジョーや赤熱化状態のバゼルギウスは赤い光を放つ。
闘気硬化により神々を超えた力を得たことで、金獅子ラージャンも凶兆になった。
飛行能力を用いず空中で方向転換を行い、古龍のブレスすらものともせず筋力で突破する。
そんな超自然的ともいえる荒技をこなすラージャンの肉体が破壊という目的をもって一つの行動を実行する。
上空高くまで跳躍し、赤い光と共に地上へと降る金色超巨星。
金獅子ラージャン 『闘気撃砕』
(なんだ!?いきなり電磁バリアが壊された!
ラージャンの攻撃は食らっていないはず!)
(あぁ、そうか...こいつは──)
──惑星そのものを殴りつけたんだ!!
振動と衝撃波だけで攻撃が成立する打撃。
カヤンバとハンターは空高く吹っ飛ばされ、金色に煌めく土砂と共に地上に落下した。
狩人は《絶対防御》の電磁バリアを展開しながら地面に向かって真っ逆様に落ちていく最中に、金獅子を見た。
「あれが...神?」
気光によって黄金に染まった空と大地が、牙獣の王を祝福している。
帯電して煌めく塵が漂う幻想的な光景の中で、ラージャンは空に向かって吠えていた。
仇敵というべきを神と呟くほどの神々しさ。
暴力によって構成された一枚の絵画だ。
(あまりにも強い...それにも増して美しい...きっと目撃者たちは生還してこの光景を誰かに伝えたかったに違いない)
ディスプレイになるのは容姿だけじゃない。
非道な殺戮を繰り返しても世界中で憧れられている強烈な魅力。
金獅子の蛮力によって隆起した岩盤こそが、狩人たちの夢の墓標なのだ。
(そっか。殺されたんだよな。みんな)
こんなに綺麗なのに。
古龍級生物との対峙はハンターにとって過酷な仕事だが、人生を賭けた晴れ舞台でもある。
夢現で金色の終焉を眺める。
闘気硬化した金獅子の前脚と、スキルによって強化されたアヌビスが激しくぶつかり合った。
アヌビスは《力の解放》によって黒い稲妻を放ちながら、闘気硬化した前脚を侵食する。
筋力はラージャンの方が遥かに強い。
狩人はブレイブスタイルのような動きで金獅子のパンチをいなし、猟虫のエキスによって上昇した身体能力で金獅子のスピードに対抗した。
(闘気撃砕の影響で足場が脆くなっている...!気を抜いたらフットワークが乱れるぞ!)
雷を纏った右ストレートを躱し、顎を切り付ける。アヌビスは再び黒い稲妻を発生させた。
速度は雷。上体を反らしてラージャンの右フックを回避し、胸が上を向いた力の入らない体勢から棍を振って首を切り付ける。
さらに、体勢を戻してステップで側面に回り込みながら棍を突き刺し、体内に龍属性エネルギーを注ぎ込む。
(カウンターの左フック...!?)
金獅子はスチームブレイクの直撃によって傷ついていた左腕で狩人を殴り、バリアを突き破った。更に無敵の防具を身につけていたはずの狩人の胸と腰は稲妻によって切り裂かれた。
パンチの直撃と同時に毛先から稲妻を放つことで《絶対防御》の効果が再発動する前に電撃を浴びせたのだ。
バリアを再展開する間も無く、金獅子の口内が光り出す。
気光ブレスだ。
カヤンバの火球も間に合わない。
「耳、塞いで!!」
ブレスを放とうとしたラージャンに対して少女が使用したのは轟竜の大鳴き袋だ。
轟竜が放つ咆哮は強力な衝撃波となり、岩や氷さえも粉砕する。
大地を抉るほどの爆音を食らった金獅子は、フラフラとよろめいてダウンした。
電撃を食らって大量の血を流しながら倒れていた狩人に秘薬を持った少女が駆け寄る。
狩人たちに余裕はない。しかし、回復は間に合う。
ラージャンは霞龍オオナズチの神経毒によって五感が鈍り、拳による攻撃を当てにくくなっている。
闘気化前のラージャンがパンチを使わず、雷弾による範囲攻撃に相手を巻き込もうとしていたのはそのためである。
闘気化によって全身に電気エネルギーを漲らせたラージャンは、神経を流れる電気信号をコントロールすることで五感の情報伝達を復旧させていた。
(轟竜の咆哮で聴覚にダメージを与えた!これで攻撃の正確性が下がるはずだ!)
闘気化を解除すると電気信号のコントロールができなくなるため、再び五感が鈍る。
しかし、闘気化は生体エネルギーを急激に消費するため、ラージャン自身への負担が大きい。
勝負を終わらせるために、再び毛先から電流を放とうとした金獅子。
その剛腕を最強の昆虫が切り裂いた。
「ドスヘラクレス!来てくれたのか!」
ドスヘラクレスが参戦したことで、狩人は二匹の虫を操る操虫棍使いとなる。
更にシナトオオモミジがラージャンの胴体から橙のエキスを回収。
橙のエキスはハンターの皮膚に岩のような硬度を与えることで防御力を高める。
ラージャンはドスヘラクレスによる突撃とシナトオオモミジによる斬撃をものともせずに狩人に飛びかかった。
ディオレシリーズが青く輝く。
《絶対防御》の発動と解除による無敵の防御力が金獅子の連続攻撃を防ぎ切り、狩人は金獅子と真正面から攻撃を撃ち合った。
橙のエキスによって防御性能が増した狩人は、咆哮や振動を受けても動きが止まらない。
壮絶。最強の牙獣種との死闘。
金獅子の赤い眼が虫に向けられる。
(エキスの効果を止めるつもりか!)
金獅子はシナトオオモミジを庇おうとした狩人を掴んで握りしめた。
ドスヘラクレスとシナトオオモミジが何度も突撃したが、金獅子は怯まない。
金剛というレベルを凌駕する体幹と気迫。
(なんて握力だ!防具ごと握り潰される!)
金獅子が顎門を開き、気光ブレスを放とうとすると、シナトオオモミジの粉塵が反応して気光が爆発した。それでもラージャンは紅蓮に染まった手で狩人を掴んだまま離さない。
そして、再び金獅子の口腔に圧縮された雷属性エネルギーが溜め込まれる。
絶望の雷光。思わず目を瞑った狩人が再び目を開けた時、衝撃的な光景を目にした。
シナトオオモミジは気光ブレスを放とうとしたラージャンの口内に自ら飛び込み、自爆することで狩人を気光ブレスから守ったのだ。
装甲の薄いシナトオオモミジは気光のエネルギーを耐えることができない。
爆発によって砕け散ったシナトオオモミジを見た狩人は激怒したが、金獅子の拘束を解くことができない。
時間切れだ。
三発目の気光の直前に、闘気硬化が解除された。短期間に三度も気光ブレスを吐いたことで体内の電気エネルギーのコントロールが乱れたのだ。膨張していた前脚の筋肉が収縮し、狩人が金獅子の手中から開放される。
(スチームブレイクで腕を破壊された影響で闘気硬化を維持できないのか!)
金獅子の闘気化を解除する方法。
それは感情を制御するリミッターの役割を持つ尾を破壊することだ。
また、腕に傷をつけることで血管を傷つければ電気刺激による血流の増加が出血を悪化させるため、闘気硬化の時間が短縮される。
「尻尾を狙うンバ!」
狩人に指示を出したカヤンバに、雷のような鉄槌が降り注ぐ。
金獅子の拳はれうすのお面を地形ごと破壊し、カヤンバは地中に退却した。
(後ろに回り込めない!!)
「特殊痕跡、解析完了!おびき出し──」
それは、導きの青い星が使っていた技の名前。
狩人とラージャンは少女をみた。
少女の瞳は共鳴を起こした龍人族の瞳のように青く光っている。
少女を雷弾で殺そうとしたラージャンの顔面にカヤンバの火球が着弾した。
「暴鋸竜 アノルパティス!!」
もう一つの古龍級生物。
骸龍オストガロアと暴鋸竜アノルパティスの戦闘の痕跡。
煌黒龍の翼膜。時空を切り裂き、世界を消滅させるという恐ろしい素材。
絆石の生成には大量の古龍エネルギーが必要となる。そのため、絆石は煌黒龍が生息する火山の火口付近や海底などの環境に生成されることが多い。
海の生物を喰らい尽くして膨大なエネルギーを蓄えた骸龍が絆原石の近くで眠る煌黒龍に挑戦。
骸龍との戦闘によって煌黒龍が時空を切り裂いたことで異世界のモンスター達が迷い込んだ。
ほとんどのモンスターは骸龍に捕食されたが、煌黒龍に敗れて傷を負っていた骸龍は暴鋸竜の捕食に失敗した。
その時に破壊された絆原石の破片こそが、少女に父親が託した
二度のおびき出しによって地中から姿を現したアノルパティスは、既に闘気硬化状態となっているラージャンに向かって吠えた。
「もう到着したのか!!」
極海の帝王vs牙獣の王、開幕。