ラージャン 超攻撃的生物   作:貝細工

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4話 アルバトリオン

〜ギルデカラン

 

大陸の中央部。

広大な砂漠に存在する栄えた街。惨劇の舞台となった砂の町を管轄する巨大なギルドがある。

石作りの建造物が立ち並ぶ港に、任務を終えた導きの青い星が降り立つ。

出迎えたのは怪しげな赤衣の男たち。ハンターズギルドの上官たちだ。

 

英雄の凱旋とは思えない待遇。移動に使っていた翼竜から手を離して着地した導きの青い星は、いきなり周囲を大楯と槍を武装した兵士に囲まれた。兵士の奥から赤衣が話しかける。

 

「随分と早い凱旋だ。失敗したのか?」

 

「失敗って...僕が?まさかね。イビルジョーなら今頃あの森の外で獲物を探してるよ」

 

「逃したな、エリート」

 

赤衣の男がにやりと挑発的な笑みを浮かべると、導きの青い星は余裕の表情で答えた。

 

「ギルドの奴らは回りくどくて嫌だな。

君たちが僕の狩りを視察してたのを僕が知らないとでも思ってるのかい?

生かしてるんだよ。()()はこれから話を聞いてもらうためのカードだ」

 

「...砂漠の一件のことか。案内する。着いてこい」

 

〜ギルデカラン ハンターズギルド本部 地下

 

厳重な警備が敷かれている秘密の地下室。

机を挟み、向かい合って座る二人の人物。

余裕の笑みを浮かべた導きの青い星と緊張で顔がこわばった赤衣の男。部屋の中には二人のギルドナイトが潜伏している。

 

「3期団の期団長から聞いたよ。僕たち五期団が遭遇したアルバトリオンについての報告を揉み消そうとしたんだってね」

 

アルバトリオンの調査後、3期団の期団長が調査報告の船に乗る途中に現れた謎の権力者の正体。それはアルバトリオンという異常の力を認めたくないギルドの上官たちだった。

 

「我々の目的はモンスターの駆逐ではなくモンスターとの共存だ。

アルバトリオンのような危険な存在が民衆に知られればタカ派に支持が集まる。それは君も望んでいないはずだ」

 

ギルドではハト派の重鎮たちが禁忌のモンスターの存在を公表することに反対していたが、フィールドマスターの教えを守ろうとした導きの青い星の意向により、ギルドは禁忌のモンスターたちのことを学者や研究者たちに発表することになった。

御伽話の存在とされていたアルバトリオンやミラボレアスの存在は世界中に衝撃を与え、世界各国で禁忌のモンスターの研究が行われた。

 

「共存するなら無闇に情報を隠さず正しく恐れることだ。闇雲な恐れは無知から生じる。この時代には僕がいるだろ」

 

推薦組筆頭。

古龍の王ムフェトジーヴァ、最強の古龍アルバトリオン、そして黒龍ミラボレアスを討伐した史上最強のハンター。

束の間の沈黙の後、赤衣の男が語り始める。

 

「アルバトリオンの恐怖は超常的な属性エネルギーによる災害だけではない。

君も見ただろう。あの虹色の翼膜が時空を引き裂くところを」

 

「知ってるさ。五回対称性だろ。君たちが不朽体と呼ぶサンプルの翼膜に見られた高次元的構造。かつて紅龍ミラボレアスが出現した後、溶岩島から採取された準結晶。同じ状態が検知された煌黒龍の翼膜は尖っていた」

 

「塔の秘密...その中でも機能に関する情報を知る者はマスターランクのハンターの中でも限られている。新大陸の事件がなければ君にも公開するつもりのなかった機密情報だ」

 

「塔のことはいい。それより僕が話したいのは溶岩島で見つけた痕跡についての話だ」

 

「猛り爆ぜるブラキディオスのことか?」

 

「違う。アルバトリオンの話だ」

 

再び禁忌の名を聞いたことで赤衣の男の表情が変わる。背後に潜伏していた兵士が銃を構えたが、赤衣の男がそれを止めた。

 

「止めなくてもいい。そっちの戦力はギルドナイト二人だけ。どうせ僕を制圧することはできない。

イビルジョーの狩猟に僕を向かわせたのは失敗だったね。おかげで特殊痕跡が手に入った」

 

ギルドナイトの実力は、単騎で王家直属の騎士団に匹敵する戦力と目されている。

そんな精鋭を前にしても導きの青い星は呑気に話を続けた。

 

「ミラボレアスの事件のあと、手が空いていた僕をラージャンの狩猟に行かせなかったな」

 

「お前のおびき出しでラージャンを呼び出されたらそれこそ国家の崩壊だ」

 

「君たちはイビルジョーをラージャンと同等の危険生物に指定している」

 

通称古龍級生物。

存在そのものが災害といわれている古龍種に匹敵する強さを持つ生物の総称。

世界には多種多様なモンスターが生息しているが、ギルドが古龍級生物に指定しているモンスターは一握りしかいない。

ラージャンとイビルジョーは共に古龍級生物に分類されている数少ないモンスターである。

 

「...村に、優秀な若いハンターがいた。お前を行かせていなければ、イビルジョーに挑んで死んでいただろう」

 

古龍種やそれに匹敵する生物の出現は災害として処理されるが、稀に古龍と渡り合うことのできるハンターが誕生することがある。

現在ではヘルブラザーズや筆頭ハンター、そして最強のハンターである導きの青い星が古龍に対抗できる戦力とされている。

近年では、ゼノ・ジーヴァによる古龍渡りやシャガルマガラによる狂竜化の影響でハンターの数が減っている。

特命騎士はハンターズギルドに所属するハンターではなく、ヘルブラザーズも既に全盛期を過ぎている。

ゼノ・ジーヴァの出現以降、年々増えている古龍災害から人々を守るためには次の戦力を輩出する必要があった。

 

『俺はナルガクルガを狩猟する』

 

導きの青い星は森で出会ったハンターのことを思い出してニコニコ笑うと、目の前に座る赤衣の男に囁くように伝えた。

 

「君の選択、正解だったよ」

 

〜渦中の森

 

ラージャンは俺を殺さなかった。

 

この天災は、溶岩洞の脈動の続きである。

アン・イシュワルダが新大陸を巡り淵源の孤島へと行き着くように、現大陸を舞台に地脈を流れて回転する力の海流。

金獅子が古龍を追い、古龍の築き上げた生態系のバランスが乱れることでイビルジョーやマガイマガドといった捕食者が牙を剥く。

混沌が地上を這い回り、古龍が目覚める地上。

 

導きの青い星とイビルジョーの戦闘によって木々はへし折られて草花は潰れ、周辺の景観は破壊され尽くしている。

人間とは思えないほどの怪物が化け物と戦った跡地。何かが残されているようには見えない。

ハンターと呼ぶにはあまりにも圧倒的な英雄の実力。

 

長年追いかけた標的、ナルガクルガを失い、茫然自失として災害の跡地を彷徨う一人の狩人。

涙を溜めてフラフラと歩いている時、ありえないことに気付いた。まだこの近くに人がいる。

 

「おい嬢ちゃん、ここは立入禁止区域に指定されているはずだぞ」

 

少女は、渦中に立っていた。

 

「貴様こそ帰還しろ。

私はここでやることがある」

 

「おい、ギルドの許可は──」

 

冷たく一言を言い放って去ろうとした少女の前に、循環の輪に加わった新たな怪物が出現してしまう。木が倒されて見晴らしが良くなった森の中に姿を現した飛竜。

 

絶対強者、ティガレックス。

 

古今東西、各地のハンターやモンスターに恐れられている大型飛竜種。

非常に凶暴な性質で、衝撃波と化して地形すら消し飛ばしてしまう声量の咆哮を放つことから《轟竜》とも呼ばれる。

強靭な前脚の脚力を利用した突進も強烈で、特徴的な青と黄色のストライプ柄は恐怖の象徴として狩人の間で噂になっている。

特定の縄張りを持たないが森林地帯の環境を好み、主に草食種のタマゴを求めるクルルヤックなどを捕食する。

 

(どうする...?)

 

ティガレックスの受注条件はナルガクルガと同じ。フリーハントでも狩猟許可は出る。

しかし、万全の状態の轟竜に対してこちらは迅竜のためにアイテムや装備を揃えている。

 

(アドリブで倒せる相手じゃない!)

 

突進する轟竜の速度は時速約50キロメートル。

さらに鋭い嗅覚や聴力も兼ね備えている優秀な捕食者だ。狩猟を諦めたとしても、人間の足で逃げ切ることは難しい。

少女は息を殺して木の影に隠れたが、獲物を探す能力に長けたティガレックスにはすぐに見つかってしまうだろう。

 

近辺にはまだラージャンもいると思われる危険地帯、イビルジョーの位置も不明だ。

救助を呼んだとしても時間がかかる。

汗が滴り、緊張でヒューヒューと息を吐く。

 

(凌げるか...?)

 

(轟竜を...?)

 

迷っていられる時間は短い。目の前にいるモンスターは気まぐれで少女を殺すことができる凶暴な化け物だ。見殺しにして逃すか、勇気を出して立ち向かうか。

 

(こんな時、青い星ならどうする?)

 

気づいた時には、スリンガーから轟竜の背後の木に向かってはじけクルミを射出していた。

音に気を取られて振り返ったティガレックスの頭部目掛けてクラッチクローを射出。

血の気が引くような自らの行動に怯えながらも頭は冷静なままだった。

 

(失望したよ)

 

(俺は英雄になれる勇敢な狩人なんかじゃない)

 

自己肯定ができない弱者救済。

人命の価値が上がったわけではない。生死の優先順位が落ちている。

何者かになれたはずの人間。それが青い星の導きによって自信を失い、平凡な狩人へと成り下がった。恐怖で大きくなる心音が心地良い。

 

救難信号を発信。轟竜と戦う覚悟を決めた。

 

(俺は特別な狩人なんかじゃない。だから雑念を捨てて狩猟に専念できる)

 

射出したクラッチクローを巻き取り、轟竜に急接近している最中、突如放たれたとてつもない殺気が狩人を襲う。

思わずワイヤーを切断して接近を中止した狩人の目の前で轟竜の顎門が閉じ、ガチンと金属をぶつけたような音が鳴り響いた。

不意に繰り出された攻撃にもギロチンのような殺傷能力が込められている。

迅竜ほどのスピードはないが、パワーは轟竜の方が明らかに上だ。

 

(クラッチクローは買い替えないとな)

 

仕切り直し。轟竜は頭部に付いたままのクラッチクローを頭ごと地面に擦り付けて砕くと、敵意を持っている狩人の方を向いて息を吸った。

 

「耳を塞げ!!死ぬぞ!!」

 

木の裏に隠れて姿の見えない少女に向かって警告すると、自分も耳を塞いで轟竜の正面から離れる。それが命を分けることは、ハンターの間ではよく知られていることだ。

 

轟竜 ティガレックス 『咆哮』

 

前方に強い指向性を持つ咆哮は、ズッシリとした鉛のおもりが落下したかのような衝撃を広範囲に轟かせる。

荒れ狂う二頭の怪物の激突によって荒れた地形を更地として作り変える二度目の衝撃。

その威力は大タルいっぱいに敷き詰められた爆薬を遥かに超える。

轟竜の咆哮の際、正面に立っていられる者は存在しない。

 

轟竜の正面──

 

──咆哮の標的にされた狩人が立っていた地面が、衝撃によって跡形もなく崩れ去る。

飛竜の中でも屈指の巨躯を誇る轟竜の数倍ほどの面積が崩壊。

 

主に乾燥地帯に生息している轟竜は生息地が被る角竜ディアブロスと戦いを繰り広げる。

砂漠の暴君と呼ばれる角竜は重殻竜下目に分類される堅牢な甲殻に覆われたモンスターだ。しかし、轟竜の咆哮が直撃すれば角竜にも重傷を負わせることができる。

つまり、威力と範囲の両方が対戦車擲弾の直撃を凌駕するということである。

 

圧巻。近辺にはあのラージャンもいるというのに物怖じする様子がない大音量の咆哮。

飛竜の王と呼ばれるリオレウスにも決して頭を下げないといわれる轟竜の胆力の賜物である。

 

(そうだ!ナルガクルガだってイビルジョーが形態変化するまでは渡り合えていた!

生態系の頂点に君臨するのはそういうレベルのモンスター達だ!ティガレックスの爪牙もそこに届いている!)

 

(俺はそういう化け物と戦う道を選んだ!)

 

自然界を牛耳る圧倒的な強者への挑戦。

轟竜相手に扱う得物はクルルブレード。

クルルヤックの素材を使った操虫棍だ。

右腕に宿る英雄は《ドスヘラクレス》。樹上で発展した小さな村の一族に伝わる古の操術により、世界最強といわれている虫を操ることができる。

 

掻鳥クルルヤックの素材は破壊力では他の大型モンスターの甲殻に劣るが、薄く丈夫な材質のためどんな狩人も身軽に動ける。

猟虫ではないドスヘラクレスはエキスを採取して狩人を強化することが出来ないが、猟虫とは桁違いのスピードで強烈な攻撃を放つ。

 

(あれは...)

 

(猟虫...?)

 

ティガレックスから隠れていた少女もドスヘラクレスの登場に驚きを隠せない。

 

世界で一番強いといわれている虫。

その速度は獣人族のアイルーでさえ視認できないほどであり、迅竜や惨爪竜の敏速性を凌駕する。

 

ハンターの武器でも傷一つつかない外殻を持ち、銃弾のようなスピードで飛び回る危険生物である。人里離れた森林地帯の樹木に止まって樹液を啜るという生態から人里に被害が出ることは少なく、ギルドから狩猟対象に指定されたことはない。

しかし、きわめて高い戦闘能力を持つため、ギルドはハンターがこの虫に素手で触れることを禁止している。

 

いつしか、酒場のジョークや子供の駄弁で語られるようになった都市伝説がある。

 

《ドスヘラクレスは古龍よりも強い》

 

民間人の所有を禁じられているドスヘラクレスだが、そのあまりの強さに狩場から遠く離れた都市部までその強さが知れ渡っている。

虫の中では巨大とはいえランゴスタやカンタロスより明らかに小さな昆虫が、ドスエルドラーンやシナトオオモミジといった最上級の猟虫をも超える生物だといわれているのだ。

夜の帷が落ちると同時に発揮されるその本領は自然に生きるハンター達でさえ見たことがない。つまり、全くの未知数。

 

「これは秘伝の操術なんだ」

 

絶対強者対最強の虫。

暗雲を衝く雷のように突進した甲虫は、轟竜の甲殻を貫いた。血が流れ、狩猟が開始する。

轟竜の強さが最も危険性を増すのは轟竜の正面の直線上。時速約50キロメートルにも到達する突進と破壊力抜群の咆哮の射程内である。

音を衝撃として利用する轟竜の咆哮は不可視にして音速。一瞬のミスで死亡が確定する。

 

(ドスヘラクレスとは反対の方向から攻める)

 

操虫棍の最大の長所ともいえるエキスによる肉体強化が出来ない中、狩人はドスヘラクレスの圧倒的な戦闘能力によってその弱点を補って轟竜を撹乱した。

発達した前足で薙ぎ払って地上に立つ外敵を消し去ろうとする轟竜の動きを見切り、棍を利用したジャンプ攻撃で傷を負わせる。

少しでもダメージを与えて注意を引きつけなければ抵抗しない少女が轟竜に狙われてしまう。

狩人は着地と同時に棍を回転させ、駆け出しながら轟竜の腕を斬りつけた。

 

突進を回避し、折り返して襲いかかる筋骨隆々の前脚を躱し、側頭部を掠めただけで血液が飛散する戦場。使命感に駆られて立つ。

大型飛竜の中でも特に攻撃力の高い轟竜の猛攻を凌ぎ切り、この惨劇の中で少女を守り抜く。

それが宿敵を失った男に残された使命。

突進と咆哮も当たらない背後から、巧みな棒術で飛びかかった狩人の腹部を轟竜の尾が打ち据えた。あばら骨が折れて口から血が垂れる。

 

(体を高速でスピンさせて全方位を攻撃出来るのか!側面をとっても油断できない!)

 

指示を送るタイミングを誤れば、ドスヘラクレスが轟竜の攻撃に巻き込まれて砕け散る。

これまで戦ってきたどのモンスターよりも強い圧倒的なプレッシャーに直面している。

巨大な爪が地面を抉り、土を飛ばしながら捕食者の眼が狩人を捉える。

その目玉に向かって棍を突き出して串刺しにしようとしたところ、突然轟竜の腕が振り上げられた。

五体が凶器となる轟竜の一撃から逃れるためにバックステップで距離をとった狩人は、轟竜と対峙することの意味を思い知らされる。

 

(爪で地面を刻んで岩を飛ばした!見かけによらず器用なやつだ!)

 

被弾。防ぎきれない。

震撼。不都合な柔と剛。

クラッチクローは壊された。スリンガーでは威力が足りない。

クルルヤックの武器では頼りない。

ドスヘラクレスを突進させて回復の時間を稼ぎ、吐血と緊張で回復薬を吐き出しそうになりながら必死に喉に流し込む。

防具を着ていなければ体を抉られて死んでいたほどのダメージ。これが絶対強者の蛮力。

 

(毛皮で受け流す迅竜と違い、轟竜は甲殻で弾く。武器の扱い方次第で攻撃が通るのか...?)

 

生態系の頂点から人類を見下す獣牙。

ストライプの飛竜が堂々と吠える。

戦う前から分かっていた。絶望に瀕していた自分を見逃した金獅子のように勝者は常に猛々しく、弱者は虐げられるのが運命だった。

 

『お前のことなんて誰が好きになるの?』

 

狩人を震え上がらせるかつての記憶。

民衆は強者の背景を美化し、弱者の背景を汚して蔑む。快い英雄と醜い罪人。

少数民族の生まれの自分は、後者だった。

生まれる前から変わらず、死んだ後にも残るもの。それが人の性だ。

 

勝利を確信した轟竜が息を吸い込む。

救難信号は届いているが、金獅子ラージャンの出没している地域に足を踏み入れることができるハンターは少ない。

 

(落ち着け)

 

(俺に残されている手札はなんだ?)

 

クラッチクローは壊された。スリンガーと棍はティガレックスの装甲に傷をつけられない。

まだ戦いが始まってから5分も経っていないのに、凄まじいプレッシャーでスタミナが削られている。

 

(金獅子ラージャンは俺を殺さなかった)

 

『こういう狩場では私語は厳禁だ。モンスターに居場所が分かってしまうよ』

 

(轟竜は既に咆哮を使っている...つまり金獅子に位置がバレているはず!何故来ない!?)

 

(何が足りない?)

 

モンスターに人間が唯一勝てる分野がある。

それは知識だ。

ティガレックスではなくナルガクルガと戦うはずだった狩人は、この状況を打開するために轟竜と迅竜の共通点を探していた。

 

翼を前脚のように使うティガレックスはナルガクルガやベリオロスと姿が似ているが、前翼脚竜上科のモンスターではない。

原始的な種族であるティガレックスは、ナルガクルガやベリオロスといった前翼脚竜上科のモンスターより龍属性による影響を受けやすいという特徴がある。

 

(龍属性ならイビルジョーの痕跡を漁るか?)

 

ティガレックスと同等の危険度が指定されているナルガクルガを屠ったイビルジョーならティガレックスに勝てるはずだ。

導きの青い星のおびき出しを真似して、イビルジョーをここに呼び出せればティガレックスを倒せるかもしれない。

 

(駄目だ!間に合わない!)

 

しかしイビルジョーは導きの青い星との戦いの後にこの地を離れてしまった。まだこの辺りに残っているのはラージャンだけだ。

目撃した者を鏖殺して姿を消す超攻撃的生物。

しかし、ラージャンは狩人を殺さなかった。

もし殺されなかったことに意味があるなら、再び遭遇しても殺されないはずだ。

 

(ならばラージャンの──)

 

時間切れだ。

二度目の咆哮。岩石や氷壁を粉々にしてしまう轟竜の必殺の一撃が放たれた。

隠れていた少女が木の影から顔を出し、既に狩人が立っていないことを知って悲鳴をあげる。

優れた聴力で音に反応した轟竜の背後で轟いたのは、狩人が見つけ出した突破口。

迅竜ナルガクルガと轟竜ティガレックスは近縁種ではないが、弱点属性は共通している。

 

それは雷属性だ。

 

狩人は迅竜を討伐するために、迅竜の苦手とする雷属性で攻撃するための道具を持っていた。

都市部とは離れた土地にある樹上の村に残されていたのは、現代ではほとんど市場に出回っていない猟具《爆雷針》だった。

地面に突き立てることで雷を引き寄せ、モンスターに電撃を浴びせる猟具である。

高い木々の立ち並ぶ森の中では木が雷を遮ってしまうため爆雷針を利用して攻撃することは困難だった。しかし、恐暴竜の戦闘によって木々が薙ぎ倒されたことで爆雷針が雷を引き寄せるための条件が揃った。

 

雷属性を苦手とする轟竜は落雷を恐れる。

目の前に悲鳴をあげている無防備な獲物が居たとしても体が落雷を回避するために動くのだ。

そして咄嗟に振り向いた轟竜の鼻腔を満たす血の香り。捕食者としての本能が食欲を掻き立て、轟竜は涎を垂らしながら血の匂いを辿る。

 

その先にいたのは、穴の空いた腹部から血を流しながら倒れている狩人だった。

轟竜が咆哮を放つ直前にドスヘラクレスに指示を出して自身に向かって突進させ、自ら突き飛ばされることで咆哮の攻撃範囲から抜け出したのだ。

 

(俺がハンターじゃなければ致命傷...《秘薬》を用意しておいて良かった!)

 

秘薬。扱いを間違えれば死に至るという危険な菌類《マンドラゴラ》を栄養薬グレートと調合することで作成できる貴重な薬だ。

飲み込むと即座に傷が塞がって瀕死の状態から一気に復活することができるが、原料となるマンドラゴラがあまりにも危険なため、同時に持ち運ぶことができる量は限られている。

 

秘薬を使用して回復しても、轟竜の咆哮を食らえばハンターは即死する。

しかし、狩人が爆雷針を設置した目的は轟竜を驚かせることではなかった。

再び勝利を確信して息を吸い込んだ飛竜の遥か上空。翼を持たず、脚力のみで天に到達した金色の獣が閃光を放っていた。

 

金獅子は電気力を含む肉を好む。

 

牙獣の王ラージャンの再臨である。

雷鎚ミルニョルのように轟竜の頭を殴りつけた牙獣の王が咆哮する。怒髪は黄金の翼と化し、荒ぶる力は電流となって大地を引き裂く。

 

「クエストクリアってことでいいんだよな」

 

絶対強者と超攻撃的生物の邂逅を見届けたハンターは、少女を抱えて森から逃走した。

 

〜ギルデカラン ハンターズギルド本部 地下

 

数年前、紅龍が去った後の溶岩島を訪れた導きの青い星は煌黒龍の聖遺物を発見したという。

そしてその体は、人間の武器によって傷つけられていた。

 

「溶岩島の痕跡をみて確信したよ。

アルバトリオンと戦って生還したハンターは僕だけじゃない」

 

「恐れ入った。ハンターの君がそこまで調査していたとはな」

 

タンジアのナバルデウス、ロックラックのジエン・モーランを撃退したもう一人の英雄は、ジエン・モーランの撃退後にロックラックで姿を消したという。そして砂漠で発生した時空の歪みと砂の町の惨劇。導きの青い星は、既に事件の元凶を突き止めていた。

 

「モガの英雄を解放しろ」

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