ラージャン 超攻撃的生物   作:貝細工

8 / 17
5話 Where Gods Fear to Tread

現在の森では、イビルジョーが食らい損ねた膨大な数の生物たちが身を潜めている。

 

最強の捕食者だったイビルジョーと森の主であるナルガクルガが離脱した結果、獲物を狙って各地から大量の捕食者が流れ込んだ。

捕食者たちはライバルを倒して頂点捕食者となり、この森の新たな頂点に君臨することを望んでいる。

 

ティガレックス、アンジャナフ、ジンオウガなどの各地の生態系の頂点に君臨するモンスターに混紛れて、この世ならざる怪物が地獄に身を置いていた。捕食者同士の熾烈な争いの結果、森に残った捕食者の数は二頭に減少。

 

金獅子と共に、最後に残されたのは──

 

〜森の外れ キャンプ

 

轟音と雷鳴が交互に響き渡る激闘から逃れてたどり着いたのは、ぬかるんだ沼地を超えた先にあるキャンプ地。普段は森を訪れたハンターが狩猟の支度を整えるために使っている。

 

「ここまで来れば追ってこないだろ」

 

狩人は掴まっていた翼竜から手を離し、抱えていた少女を下ろして汗を拭った。

モドリ玉。ドキドキノコを煙玉と調合して作ったアイテムで、色のついた煙を出して訓練された翼竜に合図を送るための道具だ。

モドリ玉で呼び出された翼竜に掴まることで、近くの安全地帯まで連れていってくれる。

危険な狩猟から生還するためには必須のアイテムである。

 

不満そうに頬を膨らませてその場に座った少女に対して、狩人はしゃがんで目線を合わせ、目的を尋ねた。

 

「なんで森の中にいたんだ?」

 

轟竜と金獅子。熟練の狩人でも身がすくんでしまう2種類の危険生物から逃げ切ったことで緊張が解けた少女は、少し涙を浮かべながら話し始めた。

 

「調べたいことがあったの」

 

少女はそういって、この森を訪れた経緯を説明した。どうやらギルドは時空を操作する方法を探しており、石碑と呼ばれる装置が謎の鍵を握っているらしい。

石碑の起動には莫大な電力が必要で、少女は雷を司るという古龍の《キリン》を探して森に立ち入ったのだという。

 

「子供だけで古龍の調査なんて...危険だ。

ギルドには説明したのか?」

 

狩人がそういうと、少女は悔しそうに首を横に振って答えた。

 

「私のお父さん、ギルドに殺されたの。石碑のことを知っていたから」

 

「俺はギルド所属のハンターだぞ」

 

「いいよ。私はただ知りたいだけ。どうしてお父さんが死ななければいけなかったのか。

本当に処刑に資する理由はあったのか」

 

「秘密を知っただけの民間人を殺していい理由なんてないだろ」

 

「だから話した」

 

黙って首を傾げた狩人に対して、少女は涙ぐんだまま眩しい笑顔で話を続ける。

 

「貴方って、そういう人でしょ。

その装備でティガレックスにもラージャンにも勝てるはずがないもの」

 

少女が食い気味でそういうと、狩人は複雑そうな顔で頭を掻いた。

 

「辛いことを思い出させてしまったな。その調査、俺にも協力させてくれ」

 

「いいの!?じゃあ早速依頼するよ。依頼の内容は──」

 

強力な雷の力を求めてキリンを追いかけても、キリンの角を狙うラージャンを倒さなければすぐに姿を消してしまう。

キリンに追いつき、石碑の真実を確かめるための方法はただ一つ。

 

「ラージャンの討伐」

 

「それは無理だ。お前だってさっきラージャンを見ただろ。あれに勝てる生物は存在しない。

俺たちは生きてるだけで奇跡なんだよ」

 

古龍やそれと同等の存在と遭遇した場合、フリーハンドは認められていない。

遭遇次第即撤退、それが命を守るための定石。

 

〜荒廃した森

 

あれに勝てる生物は存在しない。

 

絶対強者と呼ばれるティガレックスでさえも、金獅子ラージャンを倒すことは出来なかった。

遍く知られているが、誰も知らない。

樹上の村の見張り台に立って絶望を仰ぎ見た現地の村人は、金獅子にまつわる不吉な都市伝説を思い出していた。

 

「ついに...残りのモンスターは一頭のみですね」

 

男の後ろにはこの村の村長が立っている。

降雨。村人たちの不安を表すような空模様により天地が燻む。

爆雷針による電光と轟竜の咆哮。森の外まで届く爆音が導いた異世界の怪物。

雷を纏った拳によって砕かれた大地。

金獅子と対峙する荒天の使者。

 

「あのモンスターは...新種でしょうか?」

 

蛮竜 グレンゼブル。

 

メゼポルタギルドが管轄する高地と呼ばれる場所で独自の進化を遂げた巨大な飛竜種。

飛竜の中でも体が大きく、身体能力も高い。

 

草食種ではなくそれを狙って出没した捕食者を捕食するという独特な生態を持ち、ノコギリザメのような形状の鋭い角や刃が付いた翼を振り回して外敵を豪快に切り刻む。

巨大な肉体から繰り出す斬撃は獲物を周囲の地形ごと切り裂き、切断されて崩落する岩や木も脅威となる。

全身から生えている棘は爆雷針のように雷を引き寄せる性質があり、射出した棘に雷を誘導して相手を攻撃する一面もある。

 

「我々、勝った方に殺されちゃうんでしょうか」

 

「ラージャンが勝てばこの村の村人は皆殺しにされるが、あのモンスターが勝てば見逃してくれるかもしれない。勝者次第だ。」

 

金獅子対蛮竜。生息地の異なる強者が混ざり合う混沌の決戦。降雨による落雷の発生はグレンゼブルにとって決着のチャンスであり、荒天の間はグレンゼブルの攻撃性が増す。

 

凶暴な捕食者しか襲わないグレンゼブルが勝利すれば、近隣の村に平和が訪れることになる。

 

金獅子を前に咆哮したグレンゼブルに対し、金獅子が放った雷弾は吸い込まれるように着弾。

圧縮された雷属性エネルギーが炸裂し、雨水を蒸発させながら周囲を照らした。

 

「水蒸気で姿が見えない!ラージャンはどうなってるんだ!」

 

ラージャンに勝てる生物は存在しない。

これまでに数え切れないほどのハンター達が挑み、ほとんどのハンターが生還することすら出来なかったという最強の牙獣。

そんな金獅子の攻撃を食らった蛮竜は、全くの無傷だった。

 

雷を引き寄せる性質を持つ蛮竜は、電力によって傷つくことがない!

 

視界の悪い水蒸気の中でいきなり斬りつけられたラージャンの血飛沫が飛ぶ。

出血した金獅子は傷口を押さえてバックステップで距離を取り、角と翼による斬撃を回避しようとした。しかし、金獅子の予想とは裏腹にグレンゼブルは距離を詰めず、直後に水蒸気は晴れた。

 

蛮竜グレンゼブルのブレスが、深い霧を吹き飛ばしたのだ。

 

高圧で放出される液体による攻撃。霞龍オオナズチが得意としている攻撃だ。

金獅子ラージャンの反射神経があれば回避することができるはずだった攻撃。

しかし、水蒸気の中では見切ることが出来ず、気光ブレスで押し返すこともできない。

高圧水流によって金獅子の毛皮が貫かれる。

 

「ラージャンが流血しました!」

 

「なんだと!?」

 

降雨を利用して取り込んだ水分を高圧の水流として解き放つ。ガノトトスのブレスと似た攻撃だが、水流の太さと威力が桁違いだ。

雨が降り続ける限り、地上では凶悪な水の刃が放たれる。高圧水流を警戒したラージャンは、趾行の瞬発力によって一瞬で距離を詰めた。

 

蛮竜の甲殻から生えた棘は雷を引き寄せるだけではなく近寄るものを傷つける武器にもなる。

金獅子は甲殻に覆われていない腹部を狙って、雷を纏った拳を打ち込んだ。

しかし、蛮竜は古龍級生物から放たれた強烈なボディブローをものともせず、パンチを放ったばかりの腕に噛みついて投げ飛ばした。

 

「相手の攻撃によって皮と甲殻を使い分けているのか!」

 

蛮竜の腹皮は鱗や甲殻と違って弾性を持ち、打撃による衝撃を吸収する。

空中に投げ飛ばされた金獅子の眼前で、再びグレンゼブルの顎門が開かれた。

 

《高圧水流》

 

衝撃を吸収する腹皮、棘に覆われた甲殻。

そして轟竜や迅竜を上回る重量。

暴風雨の中に聳え立つ要塞のように、金獅子の猛攻を防いで強かな反撃を加えている。

牙獣の王にとって、このモンスターは蛮顎竜や轟竜を上回る脅威。

 

「ラージャンの様子が...?」

 

血で濡れた体毛の中を電流が流れる。

 

勇壮。

ひたすら恐ろしいだけだったラージャンの肉体が神々しさを感じさせる黄金色に変色する。

その姿は悪魔や死神のようだった漆黒の獣とはがらりと変わり、王者の気品を漂わせる。

暴虐の限りを尽くすこの獣を、人々が王と呼ぶ理由。それは強さだけではない。

金獅子ラージャンは、美しかったのだ。

 

闘争本能の極致。

 

金獅子ラージャン 《闘気化》

 

電気エネルギーを糧に活動を続けられるラージャン。体内の電気エネルギーを放出して全身の体毛に帯電するこの状態は消耗が激しい。

しかし人々に感動すら抱かせる黄金の姿を解放したラージャンは、古の龍さえも凌駕する。

 

「これは...ラージャンが本気を出したということでしょうか?」

 

「名前の通り金色になった。まさか生きているうちに見ることになるとは...」

 

村長たちはその力強い姿をみて沈黙した。

まだ電気の通っていない漆黒の体毛が残っている金獅子の体には、虎のような縞模様が浮かび上がった。

 

金獅子の体毛から電気が放たれ、グレンゼブルに引き寄せられる。

グレンゼブルは黄金の獅子となったラージャンの電撃を浴びても傷を負っていない。

しかし、電撃によって再び発生した水蒸気の中から電光石火のラッシュが叩き込まれる。

今度は腹部ではなく甲殻を狙った連続攻撃だ。

全身に電気力を漲らせる闘気化の効果は、雷属性エネルギーを強化するだけではない。

全身に力がみなぎり、身体能力が向上する。

 

グレンゼブルは体当たりを繰り出してラージャンを吹っ飛ばしたが、ラージャンは吹っ飛ばされた先で木を蹴って跳躍し、再接近した。

 

「速い!!」

 

電気の混ざった衝撃波が金色の旋風となって森の中を吹き荒れ、その衝撃波よりも速くラージャンがグレンゼブルの目の前に到達する。

 

「読み勝った!パンチは効かない!」

 

蛮竜の腹皮は弾性を持ち、打撃による衝撃を吸収する。

 

拳を振り翳した金獅子に対して、蛮竜は頭をもたげて腹で拳を受け止めようとした。

しかし、ラージャンの拳は開かれた。

 

貫手。

 

金獅子の爪は、どんなものでも切り裂けるといわれているほど鋭利である。

拳による攻撃を得意とするラージャンが爪を使って相手を斬りつけることは少ない。

金獅子と生息地が異なるグレンゼブルは、この攻撃を見切って防ぐことができなかった。

金獅子の爪が蛮竜の腹皮を貫き、内臓に到達して傷をつける。

 

「皆殺される!この村は終わりだ!」

 

「まだだ」

 

じっと戦いを観ていた村長は、金獅子が歯を食いしばったことに気付いた。

蛮竜の翼を貫いた金獅子の腕を、今度は蛮竜の翼が斬りつけている。

 

(あの飛竜が勝てば見逃してくれるかもしれない。でもラージャンが勝ったらまず間違いなくこの村の住人は全員死ぬ)

 

村長に言われた言葉を噛み締めながら、腹部から血を流して悶えるグレンゼブルを見た。

見張り台の村人が唾を飲む。

 

「いいんですか」

 

村長は黙って二頭を見ている。

 

「何もしなくて」

 

「今ならまだ間に合うかも」

 

村長は黙って俯いている。

目は泳ぎ、小さな声でブツブツと恐怖を抑え込んでいるようだった。

 

「村長だって昔ハンターだったんですよね。

だったらこういうことも乗り越えたんじゃないんですか?」

 

「...俺は行きます。あのモンスターが勝てば、みんなが助かるかもしれないんだ」

 

「待て」

 

見張り台の村人は、村長を振り切って樹上から降りていった。取り残された村長は、膠着状態の二頭のモンスターをみて考えこんだ。

資料に名前が記されていない謎の飛竜が勝ったところで、村人達が助かる保証はない。

森を荒らすモンスター達を殺してラージャンの元まで辿り着いたということは、凶暴なモンスターである可能性が高い。

そもそも、ラージャンに対して戦いを仕掛けたのはあの飛竜だ。

 

狩人をやめた理由。

 

勝てないモンスターの存在を知ったから。

直面してしまった。報われない努力がある。

人間には限界がある。

 

古龍。

それは過ぎ去るのを待つことしかできないこの世界の上位存在。

人類が生まれる前からこの世界に存在して、人類が滅んだ後も生き続ける存在。

そんな神々が移動の際に一度この村を通った。

全焼だった。炎王龍テオ・テスカトル。

ハンターとして依頼をこなし村を留守にしていたとき、村の上空を炎王龍が通過した。

それだけで婚約者を失った。

吐き出せない怒りを抱えたまま村に戻り、灰になった家屋をみて唖然とした。

泣き喚いて何日も村を歩いた。

それでも、犠牲者が多すぎて恋人の遺体は見つけられなかった。

 

これは、神罰なんだ。

 

(なぜ立ち向かう)

 

(若い奴はみんなそうだ。モンスターの恐ろしさを分かっていない。これまでに何人の仲間が俺の目の前で命を落としたと思っている。

ある男はチャナガブルに吸い込まれ、ある女はリオレウスに火炙りにされた)

 

(全員、手遅れになってからこっちに手を伸ばしたんだ)

 

足が動かない俺だけが、生き残った。

 

地上。

 

鮮血の垂れる戦場。角笛を片手に古龍級生物の前に降り立った無謀な青年。

緊張の心音を感じ取りながら震える吐息で金獅子の注意を引きつける。

金獅子の電撃で焦げた植物の匂いが血の匂いと混ざって吐き気を催す異臭になっている。

 

(失敗して死んでも、何もやらないより良い!)

 

アプトノスの鳴き声のような太い音色が絶望の大地にこだまする。やまびこの代わりに飛んできた返報、それは稲妻よりも疾く龍鱗を打ち砕く黄金の拳。

常人の反射神経では目で追うことすらできないそのスピードから逃れるために、ただ走った。

趾行性で素早い動きを得意とするラージャンの追跡から人間が逃れることはできない。

極刑を言い渡された罪人が自らギロチンに首を差し出すようなものだ。

 

腹部から腕が抜き取られたグレンゼブルはぐったりと倒れて、その真下では地面に大量の血液が染み込んで雨水に流されている。

もう死んでいるかもしれない。それでも、少しでも回復の時間を稼いで、復帰する可能性に賭けるしかない。

 

「駄目で元々!」

 

体が意思に反して小刻みに震えている。長く生きたいという欲求を必死に沈めて、死を受容する決意を全身に漲らせた。

これは現実で、相手は自然だ。ハッピーエンドの温情など望むべくもない弱肉強食の世界。

理不尽だった。人という種族の弱さに抗おうとしたことは一度もなかった。

 

決して命を賭けて何かを守らずに死を受け入れること。それは古龍やそれに匹敵する生物が出現した際の鉄の掟だ。

モンスターよりも弱い人間に必要なのは、困難に立ち向かう勇気ではなく自然を受け入れる適応力だった。

 

(そうだ。村長が正しい)

 

「でも今は間違えさせろ!ラージャン!」

 

あれに勝てる生物は存在しない。

弱く生き延びる自分を認められなかった。

ぬかるんだ地面を踏むたびに跳ねる泥水を浴びて、残された時間を確かめるように振り向く。

生命を無慈悲に引き裂く金獅子の尖爪は目の前まで迫っていた。

 

死。牙獣の王に命を捧げる人身供養。

力を持たない青年の淡い革命は、少しずつ絶望的な戦況を動かしていた。

荒天の下で金色が煌めく。翼竜の鳴き声。

怪物たちに荒らされてもしぶとく囀る生命の息吹を感じられたならば、最期に聞く音は希望に満ちていると信じられた。

 

黄金の旋風に金が差し込む。

 

まだ、死んでいない。

 

(奇面族の子供...?)

 

ラージャンとは違う黄金色の仮面をつけた小さな獣人が金獅子の攻撃を防いでくれたようだ。

金獅子の爪がお面の触れた時に放たれた金色の光は、導きの青い星の装衣と同じ色だ。

奇面族に伝わる伝説のお面《最高のお面》。

その能力は、全ての攻撃の無効化である。

 

「オレチャマを呼ぶとはオマエは運がいいっチャ!救難信号を出したハンターに感謝するっチャ!」

 

ガキィィン!

 

鋭い爪の一撃を弾かれて驚いたラージャン。

さらに直後に顔面の前で巨大な爆発が起こり、視界が塞がっている間に目の前から村の青年の姿はなくなっていた。

自分が生き残った理由が分からず、呆然としていた青年はいつの間にかパチンコを背負った男に抱えられていた。

 

雨の中、青年をそっとおろして金獅子を睨みつけるワイルドな男。

轟竜の襲撃の際、天空に向けて祈るように放たれた救難信号。その光に導かれて金獅子の前に降下したのは、かつて大海龍の災厄からモガの村を救った英雄。

 

「武器も持たずにラージャンと戦うとは、無茶だな。だが、その無限ともいえる君の勇気こそが君たちを救ったんだよ」

 

青年に話しかけている英雄の視線は金獅子の顔の方を向いている。

構えたのは、ハンター用の武器としては滅多に作られることがないパチンコ。

《鹿角の弾弓》。ケルビの角を使って作られた強力なスリングショットだ。

 

工房の遊び心によって生み出された弾弓は、弓矢の代わりに特製の鉄球を飛ばす異質さから由緒を重んじるギルドナイトや王国騎士には使用者が少ない。

しかし、手軽に色々なものを飛ばして攻撃できる拡張性から新大陸調査団にはスリンガーとしてスリングショットが採用されている。

 

青年の目を引いたのは特殊な構造の弓だけではない。青年がオトモアイルーではなく奇面族を連れていることだ。

現大陸に生息する奇面族《チャチャブー》は、人間に友好的な個体が少なくハンターとは敵対的な生物として知られている。

そんなチャチャブーの子供を引き連れて狩りな同行させるハンターは一人しか存在しない。

 

「オレチャマがオオナズチの仇を取ってやるっチャ!」

 

ラージャンが成人の儀式として幻獣キリンの角を折って食らうように、奇面族の間では成人の儀式としてオオナズチの鱗を集落に持ち帰るという文化がある。

ラージャンに殺害されたオオナズチは、チャチャブー達に取って所縁のある生き物なのだ。

 

(こいつが噂の古龍を殺した牙獣か。確かにアオアシラやラングロトラとは動きのキレが全く違う)

 

「チャチャ、こいつはヤバい。村人の避難を優先するぞ」

 

スリングショットから放たれた大量の鉄球を瞬時に見切り、雷弾で対抗したラージャン。

後脚の腱を狙ったチャチャの斬撃を察知して回避。ラージャンを着地した隙を狙ってモガのハンターが大量の鉄球を降り注がせる。

着弾した鉄球は全ての球が爆発し、熱と爆風によって金獅子を傷つける。

 

弾幕の厚さから全ての鉄球を避け切ることは不可能と判断したラージャンに向かって、見たことのない弾が一発だけ放たれた。

 

「こやし玉だ。お引き取り願えるかな?」

 

モンスターのフンを使って作られたこやし玉は、着弾した瞬間に異臭を放つことでモンスターの戦意を喪失させる威嚇用の道具だ。

ほとんどのモンスターはこやし玉を浴びると怯み、臭いから逃げるために退散する。

任務の成功を確信したモガのハンターだったが、その慢心から生まれたミスをすぐに察知したのは、奇面族のチャチャだった。

 

「危ないっチャ!」

 

ガキン!!

 

金獅子の拳が炸裂する。

ハンターとの間に割り込んだチャチャのお面から金色の閃光が発生し、殴られたチャチャは飛行するバルファルクのような勢いで後方に吹っ飛ばされた。

 

(なんて威力のパンチだ!それにラージャンにはこやし玉が効かないのか!

それに──)

 

──鉄球の爆発があまり効いていない!!

 

炎王龍の吐く炎にも耐えるという漆黒の毛皮が鉄球が放つ爆炎のダメージを軽減している。

まるで煉獄龍グランミラオスのように、爆発そのものに対して強い耐性があるようだ。

 

「チャチャ!怪我はないか!?」

 

「なんだか急用を思い出しそうっチャ!」

 

(ラージャンでも最高のお面の絶対防御は崩せないのか。それなら祭壇の呪いが発動するまで時間は稼げる。村人の避難が終わるまで俺とチャチャの連携で時間を稼ごう)

 

最高のお面の絶対防御は無敵ではない。

絶対防御が一定回数発動するとお面が回転して装着者のエネルギーを燃料として吸い取り、一定時間活動出来ない状態にしてしまう。

エネルギーの吸収によって奇面族が死に至ることはないが、戦力としては役に立たなくなる。

この現象は、奇面族の間では伝説のお面の呪いとして知られている。

 

金獅子の追撃がチャチャを襲う。体毛の先端から稲妻が流れて周囲の樹木を貫き、再び黄金の閃光がチャチャを守る。モガのハンターは鉄球を放って金獅子の尻尾を攻撃した。

 

金獅子の視線がチャチャからモガのハンターに移る。

 

金獅子の顔面に向けて放たれた弾は、鉄球ではなくハジケくるみ。衝撃を加えると炸裂する硬い木の実だ。モガのハンターは、この森に自生していた植物を採取して利用したのだ。

怯んだラージャンの腹をチャチャが斬りつける。グレンゼブルに付けられた傷跡から再び血液が噴き出た。

 

チャチャブーは凶暴な性格を持つため、オトモとしてハンターと協力することはないといわれている。しかし、ハンターのオトモとして活躍しているアイルーやガルクより筋力は強いため、モンスターに与えるダメージは大きい。

 

腹を斬られたラージャンは凄まじい筋力でチャチャを掴み、地面に叩きつけて最高のお面から光を発生させた。

金獅子の口腔に稲妻が収束し、口内で圧縮されて眩い光が狩場を照らす。

 

凶兆。

 

(絶対防御の突破方法を模索しているのか!?)

 

「なんだかとってもまずいっチャ!」

 

《気光ブレス》

 

とめどない黄金の奔流の正体は金獅子の体内で圧縮された膨大な雷属性エネルギーである。

活動の糧にしているエネルギーを口内の一点に収束させ、電荷を帯びた粒子を加速させて発射することで亜光速の破壊光線を撃ち出す。

標的に命中しても勢いが止まず、溢れ出した絶大なエネルギーが地殻を貫き、旋風を巻き起こして全てを薙ぎ払う。

過剰なエネルギーによって電光が地表を駆け巡り、その電気ショックを浴びたグレンゼブルの意識が戻る。

 

加速した粒子の衝突が最高のお面に備わる絶対防御を発動させ、一瞬にして呪いの発動する回数を満たした。

回転し、煙を出して冷却を始めた最高のお面を見て、モガのハンターが冷や汗を流す。

 

(予定より呪いの発動が早い!このままでは村人たちの避難が間に合わない!)

 

気光ブレスの終了後、奇跡の復活を遂げたグレンゼブルが腹から血を流して顎門を開く。

お面に体内のエネルギーを吸収され、奇面族の生存本能を刺激されて荒ぶるチャチャ。

一度この状態になると、エネルギーが枯渇して気を失うまでモガのハンターの指示を聞くことができない。

 

殺戮が大詰めを迎えたことで、金獅子は気光ブレスで失ったエネルギーを取り戻すように全身にエネルギーを漲らせる。

グレンゼブルが吐き出した水弾、そしてモガのハンターが射出した鉄球を押し返す風圧。

周囲に衝撃波と黄金の光を放ちながら、雨雲から落雷を呼び寄せて雷神が完成する。

怒髪天を衝く。

 

この日初めての──

 

──『闘気硬化』

 

大量の筋肉に覆われていた強靭な前脚は赤黒く膨張し、どんな業物の刃も通さないほどの硬度を手に入れる。電気刺激による肉質の硬化。

怒張した拳は、一発でグレンゼブルの甲殻を打ち砕いた。まさに超攻撃的生物。二発目の拳が蛮竜の頭蓋を打ち据える。

 

昏倒。しかし勝利を喜ぶ暇もなく次の挑戦者がラージャンに飛びかかる。

 

最高のお面に残存するエネルギーを使い果たすかのように向かってきたチャチャも、もはや闘気硬化を遂げた金獅子の脅威ではない。

最高のお面が発動させた絶対防御ごと殴りつけ、暴力によって吹っ飛ばす。

内部を破壊せずとも、周囲の地形ごと殴りつけることで腕力によって無敵を制する。

殴りつけられたチャチャは硬い地面に埋まって身動きが取れない。

 

蛮竜と無敵の奇面族をノックアウトしたラージャンが雄叫びをあげる。

 

(腕力が際限なく成長している!)

 

モガの狩人は高くジャンプして金獅子の背中に張り付き、そのまま剥ぎ取り用のナイフで何度も金獅子を斬りつけた。

バルバレのキャラバンに所属したという伝説のハンターが好んで利用したという乗り攻撃。

金獅子は興奮しつつも冷静にモガのハンターを引き剥がし、力づくで地面に叩きつけた。

 

金獅子の口腔に雷属性エネルギーが収束する。

モガのハンターが吐血しながら微笑み、命の危機を間近に声を張り上げる。

順調に外敵たちを蹂躙していた金獅子の戦略を乱す動揺。モガの英雄が引き連れているチャチャブーの数は二匹。

つまり、まだ姿を見せていない伏兵がいる。

 

「やれ!カヤンバ!」

 

金獅子の真後ろで、《大砲のお面》を被った奇面族が砲口をラージャンの尻尾に向けていた。

 

金獅子ラージャンの弱点は感情を制御する尻尾だ。特に闘気硬化中は腕に力を集中させることで下半身の肉質が軟化する。

さらに闘気化中は興奮を抑えるために尻尾がデリケートになる。

モガのハンターは、尻尾を射撃したときにそのことを確信していた。

 

「しゃらくせぇ!スーパーエリートのワガハイに任せやがれンバ!」

 

《大砲のお面》は二匹以上のチャチャブーがペアになることでその能力を発動する。

お面を被ったチャチャブーが、相方となるチャチャブーをお面から射出するのだ。

その威力は大タル爆弾Gすら凌駕し、青熊獣アオアシラすら一発で仕留めることができる。

射出された方のチャチャブーは体力を使い切り、一定時間戦闘不能になってしまう。

しかし、《最高のお面》の呪いで戦闘不能になるまでエネルギーを吸われるチャチャを射出すればデメリットはない。

 

本来はお面の呪いで興奮して指示を聞けない状態だったチャチャも金獅子の攻撃によって倒されていたことでエネルギーが枯渇し指示を聞けるほど落ち着いていた。

機敏に動き回るラージャンに大砲を当てるのは至難の業だが、隙の大きい気光ブレスを使わせることで動きを止めた。

 

追い詰めた。

 

あのラージャンが、避けきれない。

 

着弾。衝撃波でモガのハンターが吹っ飛び、土砂が巻き上げられてラージャンの姿が見えなくなる。反動で吹っ飛ばされたカヤンバがグレンゼブルにぶつかり、叱るように吠えられた。

 

「最強の攻撃力を持つ大砲のお面と最強の防御力を持つ最高のお面。

俺たち人類が武具や兵器を発展させてきたように、獣人族だって古龍やそれに匹敵するモンスターに対抗する術を持っているんだ」

 

かつて煉黒龍グラン・ミラオスがタンジアの港を襲った際は人間と獣人が協力して戦争を繰り広げたという。現代では最も栄えている種族は人間だが、獣人族が研鑽してきた技術も古龍を脅かすことがある。

 

(チャチャとカヤンバは戦闘不能、あの飛竜ももう動けないだろう)

 

動けなくなったチャチャとカヤンバを両脇に抱えて帰還の準備をしていたモガのハンターが、大きな異変に気づいた。

 

「まさか...生きて...」

 

土煙の中から現れたのは、大砲のお面による砲撃を受けてもほぼ無傷のラージャンだった。

 

「直撃すればアオアシラも倒せる砲撃だぞ。どんな体してんだよ」

 

しかし長時間に渡る闘気化や闘気硬化によってエネルギーを使い果たし、更に感情を制御する役割を持つ尻尾を傷つけられたことで闘気化が解除されている。

戦火の消えた狩場に、取り残された二つの影。

ゆっくりと土煙の中から出てきた金獅子はハンター達に敬意を示すように咆哮すると、鹿角の弾弓を構えたモガのハンターの前から立ち去った。

 

「疲れた!ギルドに戻って休もう。

こんなモンスターと戦ってたら命がいくつあっても足りない」

 

〜ギルド 兵器研究所

 

ギルデカランの地下にある巨大な研究所に、森で回収されたばかりのティガレックスの亡骸が運び込まれた。

机の上には古塔で発見された壁画についての資料が並んでいた。オレンジ色の粉が詰められたガラスの瓶には青鉤爪と書かれている。

細かく砕かれた鉄が入った瓶の横には綺麗なビスマス結晶と、表紙にディオレックスと書かれた分厚い資料が置かれている。

 

轟竜の亡骸と一緒に研究所に運び込まれた金獅子の体毛は、ゴウガルフと書かれた資料の横に保管された。その近くには最高のお面や転身の装衣のレプリカが並べられている。

リルスシリーズの開発から続いているニアイコールドラゴンウェポンの開発。

それは先の大戦以降、禁じられた技術の復活によって劫火の発生に対抗するための希望。

つまり、神への挑戦である。

 

指令。

 

金獅子を狩って参れ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。