ラージャン 超攻撃的生物   作:貝細工

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6話 夢のほとり

紺碧の青空に憧れて、悲しくもないのに流れた涙と小刻みに震える体。爽快だった。

同じ衝動で狩人になった同士たちだった。

みんなそうだ。モンスターの恐ろしさを分かっていない。これまでに何人の仲間が俺の目の前で命を落とした。

ある男はチャナガブルに吸い込まれ、ある女はリオレウスに火炙りにされた。

 

「お前ら馬鹿だよ。俺はお前らと一緒に居るだけで良かったのに、先に逝っちまって」

 

最初に忘れたのは声だった。何十年も経って匂いも顔も、もう何も思い出せなくなった。

 

「仲間が大切じゃなかったのかよ」

 

『お前は生きろ』

 

離れ離れになりたくないから。

何かを成すために生きているのか、生きるために何かを成すのか。余った人生は追悼のための残火だ。弔意が毎日に充満している。

夢から離れて生きることを選んだ人間。

人間は孤高に耐えられない。

 

〜ギルデカラン

 

ラージャンとの死闘から帰還したモガの英雄を呼び出したのは、ギルドと交渉してモガの英雄を牢獄から解放した導きの青い星だった。

露天の近くでハートチュロスを美味しそうに頬張り、食べ歩きをしていたようだ。

かつて世界を救った二人のハンターは挨拶を交わし、活気あるギルデカランの街道を歩く。

 

「僕や君でも無敵(転身の装衣や最高のお面)がなければ古龍級以上の攻撃は防げない。ギルドの目的は無敵の防具の量産だ」

 

「俺を解放した理由はギルドの妨害か?」

 

導きの青い星は無神経にハートチュロスを咀嚼して、飲み込むまで返事をしなかった。

狭い歩幅で二人を必死に追いかけるオトモのチャチャブー達は画面の中でムスッとした表情を浮かべたが、モガの英雄は気にしていない。

 

「違うよ。後始末だ。ギルドは無敵の防具の開発のためにフォンロンの古塔を建造した古代人たちの技術に目をつけた。

僕の調査では既に古塔の起動によって異世界からモンスターを連れてきている。きっとディオレックスかゴウガルフを狙ったんだろうね」

 

ディオレックスとゴウガルフ。ギルドの調査対象になっている未確認のモンスターだ。古塔の壁画や文献にその名前が載っている。

ディオレックスはティガレックスの近縁種で、ゴウガルフはラージャンの近縁種だと考えられている。

 

「ラージャンと交戦した時に見たことのないモンスターがいた。あれのことか?」

 

「そのモンスターの名は蛮竜グレンゼブル。普段は優しくてとても良い子だよ。

ちゃんと治療してあげれば、あの村は彼が守ってくれるだろう」

 

モガのハンターがラージャンを撃退したことで、グレンゼブルは命拾いしていた。

自分を襲うモンスターしか攻撃しないグレンゼブルと自然を敬う樹上の民は相性が良かったようだ。

現在ではグレンゼブルが森の肉食竜を追い払い、安全な村の近くには温厚な性格のドボルベルクとガランゴルムが住み着いているという。

 

「...つまりあのモンスターは狩猟する必要がない」

 

導きの青い星は再びハートチュロスを齧って静かに頷き、真剣な面持ちで深刻な話を切り出した。それはギルドの研究と密接に繋がっている一連の事件のもう一つの原因だという。

 

「僕には倒せないモンスターが来ている。グレンゼブルより強い化け物だ」

 

「君は最強のハンターなんだろ?俺は君に倒せないモンスターと戦わなきゃいけないのか?」

 

「水棲のモンスターなんだよ。寒冷地帯に生息する水陸両用のイビルジョーみたいなモンスターだ。放置すれば氷海から孤島に渡ってモガの森も壊滅するだろう」

 

モガの村は海上で栄えた村だ。

水に囲まれたモガの村で育ったハンターは水中戦を得意としている。

地上で行う狩りの腕前は導きの青い星が最強といわれているが、水中ではモガの英雄が最強のハンターだ。

 

導きの青い星はギルドから依頼を受けて新大陸から現大陸に渡航するまでの間、水中から強烈なエネルギーを感じとっていた。

 

「モガの森にはイビルジョーがいるだろ」

 

「そのイビルジョーは僕と戦って負傷中だ」

 

「それ、君の後始末じゃないか」

 

「君だってラージャンを負傷させたんだからお互い様だろ。それにアルバトリオンやミラボレアスが出たら僕が狩ることになってる。こんな所で怪我をしたら、世界が滅んじゃうよ?」

 

同時期に王は座して、波打つ海を見ていた。

詩句では語らない海中。深淵と呼ばれる光の届かない世界。海から空へと登る雷。

光る渦をみた漁師は、その現象を海凶と呼んで恐れた。それは、海洋の生態系の頂点に立つ海の捕食者《ラギアクルス》が狩りをしている痕跡なのだ。

 

縄張り争い。それは生ける大地で繰り広げられるプライドと生存を賭けた戦い。

 

深淵より出でて全てを飲み込む激流。

冥府の王は黒い稲妻を司り、古龍の去ったその日以降から海底遺跡に住み着いている。

かつて人類が煉黒龍と戦争を行い、膨大な犠牲を払いながら勝利した忌むべき海域。

冥府へと沈んだ大海の王は、新たな黒龍の一柱となって復活の時を待ち侘びている。

 

対するは、氷の監獄の暴君。

 

再び始まる最強対最強。水で満たされた戦場は地上より広い。豊かかで不可思議な生命の母は誕生と死滅の循環を優しく包み込む。

揺籠の中で赤子が泣くように、食うか食われるかもがき続ける生命ある者たち。

これは故郷を守る純粋な縄張り争いである。

二つの王者には、玉座が足りない。

 

これは、メイルシュトロームの惨劇。

世界を巡る縄張り争いのサドンデスである。

 

〜海底遺跡

 

海中で蜷局を巻いている巨大な影の周りでは、空間が消失したかのように暗闇と同じ色の光がキラキラと瞬いていた。

古文書には激流の渦を以て万物を喰らうとされている冥府の王の正体。

それは、長い年月をかけて強大に成長したことで地上に出ることが出来なくなったかつての大海の王である。

 

冥海竜 ラギアクルス希少種。

 

青白く照らされた異様な深海を縄張りとするこのモンスターは、数十年に一度だけ呼吸のために海面近くに現れる。

その際に、その巨体が発生させる過剰な力によって地表を押し流す荒波が発生する。

高所に逃れた当時の人々は、遠方で海水を煮立たす暗黒の雷を海神と名付けた。

 

ラージャンの暴力によるオオナズチの死。

それは海溝と接続された地脈に大量のエネルギーを流し込み、深淵を泳ぐ冥海竜を惑わせた。

電気力を含む肉を好むラージャンは冥海竜の存在に気づいていたが、水中を縄張りとしているラギアクルス希少種には手が出せない。

冥海竜もラージャンの存在には気づいていたが、体が大きくなったことで自重を支えられなくなり、地上に出られなかった。

 

殺戮と激流の共鳴。

 

もしラギアクルス希少種が息継ぎのために海面近くに現れた場合、ラージャン以上の規模の災害が発生することになる。

超災害級の古龍級生物二頭が同時に暴れた場合、被害の規模はシャガルマガラ事件を上回る。

 

さらに導きの青い星が発見していた怪物が、この災害に乱入する。

 

〜深淵の海域

 

大海に潜む生物達を殺し尽くし、暗黒の雷が降る海中を訪問した凶悪な捕食者。

かつてオストガロアがアルバトリオンと交戦したとき、時空を切り裂く翼によってこの世界に招かれた貪食の暴君。

 

暴鋸竜 アノルパティス

 

グレンゼブルのように鼻先に鋸を持つ大型の飛竜種。極海の帝王の異名を持ち、あのベルキュロスやエスピナスと肩を並べる特級の危険生物である。

 

現大陸の中でも寒冷群島やアクラ地方のモンスターは体温を維持するために大量のエネルギーを必要とすることから食料への執念が強く、凶暴になることが多い。

寒冷地では食料が少ないため、狙った獲物は確実に捕食しなければいけない。

そのため、寒冷地に生息するアノルパティスはエスピナスやベルキュロスより遥かに獰猛で、ありとあらゆる生物に襲いかかる。

 

アノルパティスの最大の特徴はあらゆる環境に適応できる機動力である。

リオレウスやセルレギオスと同等の飛行能力を持ち、ガノトトスに匹敵する速度で水中を泳ぐこともできる。さらに鼻先の鋸はグレンゼブルより鋭く長大で、ディアブロスのように地中を掘り進むこともできる。

全ての環境で動きが速いため、イビルジョーとは別方向の環境適応力の高さを持つ。

 

アノルパティスが最も恐ろしいのは、食料の乏しい寒冷地で暴食の果てに古龍をも揺るがす力を蓄えたポテンシャルである。

長年かけて古龍エネルギーを蓄積したことで強大なモンスターとなったラギアクルス希少種はその異質さに気付いていた。

 

暗い海底を青白く照らす、蜷局を巻いた竜。

長大な体を持つ生物が蜷局を巻くのは、あらゆる角度から迫る外敵に対して瞬時に反撃することができるからだ。モンスターが蜷局を巻いているということは外敵に対して警戒態勢に入っているということである。

 

海水で満たされた遺跡の中、暴鋸竜の鋭牙が冥海竜を襲う。古代鮫の歯のように薄く鋭い剥き出しの牙は、厚鱗ごと冥海竜を斬りつける。

高速にして強烈。暴鋸竜が肉を抉り取って嚥下する脅威的な咬筋の力を見せつけた時。

冥海竜も同じように暴鋸竜の肉を噛みちぎり、飲み込んでいた。

 

食うか食われるか。

海洋の生態系の頂点に立つ海竜種のプライド。

肉食竜に抵抗する草食竜ではなく、獲物を狙う捕食者として暴鋸竜を齧る。

 

蜷局を巻いた状態から繰り出されるカウンターは全ての方向に素早く放たれる。

先手を取られたという事実は──

 

──この竜は、冥海竜より速い。

 

大海の王の御前、凶漢が神速を披露する。

 

飛竜が水中で水竜ガノトトスと同等かそれ以上の速度を出している。

そして並大抵の攻撃では傷一つ付かない冥海竜の鱗を貫通する鋭牙。

攻撃の殺傷能力は大海龍ナバルデウスを上回る特級の危険生物。

 

水の抵抗を減らす鮫のような体から大型飛竜の筋力で放たれる攻撃。

これほどまでに強力なモンスターが食料の少ない寒冷地に住んでいるのは、何かそうしなければいけなかった理由があるはずだ。

冥海竜が地上に上がれないように、暴鋸竜が寒帯の牢獄から出られない理由。

 

冥海竜の蜷局が解かれ、黒い雷光が深い海中を青白く照らす。海竜種は筋肉の収縮によって活性化した発電細胞によって発電し、背中の背電殻に蓄電するという生態を持つ。

通常の海竜種は活性化した発電細胞から背電殻に電気を溜め込むことで一時的に《帯電状態》となる。

帯電状態は蓄電殻の雷属性エネルギーを使い果たすまで解除されず、帯電状態のラギアクルスが生み出す雷属性エネルギーは超帯電状態の雷狼竜ジンオウガに匹敵する。

 

冥海竜の発電細胞から生み出される雷属性エネルギーの力は金獅子や雷神龍を上回り、《闇の雷》と称される。

特に雷魂と呼ばれる強力な発電細胞は無尽蔵の雷属性エネルギーを生み出すため、冥海竜が死ぬまで帯電状態が解除されることはない。

無限の発電量と膨大な蓄電量から放たれる電撃は周囲の水を加熱し、空間そのものを死者の楽園へと作りかえる。

 

寒冷地の環境に特化したアノルパティスは熱や電気による攻撃に耐性がない。

つまり、体内の雷属性エネルギーを解放する海竜種の大技《大放電》の結果によってこの決闘の勝敗が決まる。

 

全長四十メートルを超える巨躯。

ラギアクルス希少種が猛進する。

 

コンマ数秒遅れて突進したアノルパティス。

 

極海の帝王と冥府の王の正面衝突を制したのはラギアクルス希少種だった。

長い体をくねらせて動くラギアクルス希少種は筋肉の収縮距離が長く、筋肉量も多い。

しかし、冥海竜より棘の多い暴鋸竜の肉体は、ぶつかるだけで鱗を貫き肉を抉る凶器だった。

 

龍をも超える二頭の竜は水面に向かいながら交わることなく蛇行し、何度も衝突を繰り返して激流を起こしながら上へと昇る。

 

突進の衝突で吹っ飛ばされた暴鋸竜は頭部に強い衝撃が加わったことで軽い目眩を起こしつつも、水中を染める鮮血の芳香によって冥海竜の出血を確信していた。

 

一方の冥海竜は激しい運動により発電器官が活性化し、無尽蔵に作り出される電力を背電殻に溜め続けている。

 

闇の雷が輝いて海中を青白く照らす中、暴鋸竜は激突の度に関節から水分を噴射することで加速を続けた。加速のたびに激突までの時間が縮み、蛇行の間隔が変わる。

暴鋸竜はまるで小刻みに振動するような速度で冥海竜にぶつかり、その度に角や甲殻を激しく擦り付けることで冥海竜を傷つける。

 

超災害級の二頭の化け物が凄まじい速度で上昇し、水面に到達する直前。

起伏する波の間から、爆発的な勢いで水蒸気が溢れ出した。

 

一度目の雷撃。闇の雷が放たれた。

 

滝を登る鯉のように暴鋸竜めがけて直進した電流は、鱗に触れると同時に焼き切り、筋膜を焦がして骨まで到達した。

 

骸龍オストガロアすら退けることもあるという海中で最強の放電。

海上を飛ぶ海鳥達が水蒸気を浴びた瞬間に茹であがり、絶命して水中に落下する。

まさにキングストローム。海の王の一撃。

 

遂に辿り着いた水面。

海が沸騰している。

 

落ちてきた海鳥達を吸い込んだアノルパティスはたまらず水中から空中へと飛び出した。

電撃による痛みだけではない。

水温の上昇によって海中は既に生物が生存できない環境に作り変えられている。

危険地帯となった海中から抜け出したアノルパティスは、空の王リオレウスに匹敵する飛行能力で空を飛んだ。

 

ラギアクルス希少種は大海の王。

無尽蔵の発電量から繰り出される無数の電撃と水中に特化した海竜種最強の肉体。

水中戦において、冥海竜の右に出るものはいない。

 

しかし、暴鋸竜の戦場は水中だけではない。

暴鋸竜には空中から獲物を探し、発見した獲物を角で串刺しにするという生態がある。

極海で獲物を狩る時のように、空中から水中の標的を睨みつけるアノルパティス。

 

静寂。呼吸、そして波の音。

 

海から空へと撃ちあがる闇の雷。

身を翻して回避した暴鋸竜の目の前を二発目の電流が通過する。直撃は避けたが、連続で放たれる電撃は止まることを知らない。

水蒸気が視界を遮り、海中から放たれた闇の稲妻が次々と空中を迸った。

 

回避を諦めて突進した暴鋸竜に、狙い澄ました電撃が直撃する。痛みに耐えながら竜の一矢のように突進する暴鋸竜の角は冥海竜の背電殻に突き刺さった。

 

悲鳴をあげて怯んだ冥海竜と電撃を浴びて体が焦がされていく暴鋸竜。

 

早期決着。二頭の思惑が交錯する。

 

暴鋸竜の口元に再び黒い稲妻が走る。

 

長大な体を利用して暴鋸竜に巻きつこうとした冥海竜。再び空中から冥海竜の体を突き刺そうとした暴鋸竜。

 

動きを止めるために脚に齧り付いた冥海竜を海上に引き摺り出した暴鋸竜は、このチャンスを見逃さずに冥海竜を地上に引き摺り出した。

ラギアクルス希少種の正体は巨大化して地上で生活することができなくなったラギアクルスだといわれている。

体が大きすぎるため、地上では自重を支えきれないのだ。

 

そして暴鋸竜は水中と空中だけではなく、地上でも戦うことができる飛竜種。

周囲の環境はアノルパティスに味方している。

しかし暴鋸竜は脚に力が入らず転倒した。

好敵手の目の前で意識が遠のいている。

 

目眩。

 

暴鋸竜は海面を目指して泳いでいた時に何度も冥海竜とぶつかりあっている。

筋力と体格で勝る冥海竜は衝突の度に暴鋸竜の頭部に強い衝撃を与えていた。

 

雷属性の攻撃は生物の気絶率を上昇させる。

 

暴鋸竜アノルパティスの巨体が地に伏す。

冥海竜の体を傷つけるために何度も繰り出した体当たり。そして海中で浴びた二度の電撃。

闇の雷に込められた雷属性エネルギーの量は雷狼竜ジンオウガや雷竜ライゼクスの電流を凌駕する。

 

冥海竜が地上に上がれないように、暴鋸竜が寒帯の牢獄から出られない理由。

 

寒冷地の環境に特化したアノルパティスは熱や電気による攻撃に耐性がない。

つまり、体内の雷属性エネルギーを解放する海竜種の大技《大放電》の結果によってこの決闘の勝敗が決まる。

 

海上を目指して蛇行しながらぶつかり合っている間に運動量によって活性化した発電細胞。

無尽蔵の電撃を放つことができるほどの電力を全て消費することで周囲の生物を焼き払う海竜の大技《大放電》は、地上でも放つことができる。

 

白海竜ラギアクルス亜種は、地上で放った大放電によってモガの村の村長にハンターを引退するほどの怪我を負わせた。

目眩で立ち上がることもできないアノルパティスは《大放電》の範囲から逃れられない。

昏倒している極海の帝王は、青い光を放つ背電殻を見上げた。

 

── 深淵から出で、激流の渦を以って万物を喰らう。

 

万物を喰らいつくす漆黒の稲妻は、砂や石を溶かして水を煮立たせ、黒龍伝説を蘇らせる。

心は祈り。声は叫び。

極海の帝王を襲う避けられぬ死。

天と地を覆い尽くすほどの災害が放たれ、海水が沸騰して周囲には水蒸気が立ち込める。

死んだ魚たちが水面に浮かぶ。

 

冥海竜ラギアクルス 『大放電』

 

天空を斬り裂く電撃の亀裂。

漆黒の竜が放った闇の雷は太陽よりも明るい。

海洋の生態系の頂点に立つ捕食者を、地元の船乗りや漁師達は海凶と呼んで恐れた。

 

強者の背景を勝手に美化し、弱者の背景を汚して蔑む。

 

快い英雄と醜い罪人。ツィツィヤックの巣に貼り付けられた無数の貝殻。

ディスプレイになるのは容姿だけじゃない。

海の頂点に立つ竜は、いつしか海に愛されるようになっていた。

海に愛され、深海に幽閉された海竜はその強大な力のあまり近寄る者を鏖殺。

死骸が浮かぶ深海は瞬く間に冥府と化し、海竜は冥海竜になった。

 

巨大竜の絶命により、伝説は完結する。

 

大海の王者が陸で雄叫びを上げる。

冥府の王が現世で咆哮する。

蛇行して激突を繰り返した時に体に付けられた無数の傷がこの戦いの壮絶さを物語っていた。

冥海竜は電撃の熱によってガラス化した砂の上を歩き、広大な海に戻っていく。

 

──龍属性はあらゆる属性の持つ侵攻力を抑制する。

 

怪物が羽ばたく音に気づいた時には、既に冥海竜の背電殻を鋭い角が切り裂いていた。

 

導きの青い星が恐れていた結末。

 

暴鋸竜は体温を維持するために大量の獲物を捕食する必要がある。そんな暴鋸竜が寒帯の牢獄から出られない理由。

それは運動によって上がりすぎた体温を冷却するためである。

普段は関節から蒸気を噴射することで体温を調整するアノルパティスだが、海中では常に水によって体を冷却出来るため体温を調整する必要がない。

そのため、アノルパティスは冥海竜が電撃で水温を上昇させても空中に逃げられるように水面を目指したのだ。

 

そして大量の獲物を喰らうアノルパティスはイビルジョーやマガイマガドのように体内に大量の龍属性エネルギーを溜め込んでいる。

アノルパティスは冥海竜の大放電に合わせて捕食によって蓄積した龍属性を放出した。

属性の侵攻力を抑制する龍属性は大放電の電力を打ち消し、地上には力を使い果たした冥海竜と龍属性を使い果たした暴鋸竜が残っていた。

暴鋸竜は海から発生した水蒸気に身を潜めて、攻撃の機会を窺っていたのだ。

 

龍属性の稲妻を解放し、暴鋸竜が跳躍する。

背電殻を斬られた冥海竜は蓄電能力が低下するため、放電の威力が低下する。

暴鋸竜の周囲を迸る龍属性の嵐は威力が低下した放電を打ち消した。

沸騰する海。闇の雷と黒い稲妻が交わり、陸地で勝敗が着く。

 

冥府を砕くは暴鋸の角。

冥海竜の心臓を貫き、血塗れの死闘を制した極海の帝王が勝鬨をあげる。

それは新たな大海の王者の産声だった。

 

〜ギルデカラン

 

「本当に来ないのか?」

 

二匹のチャチャブーを連れたモガの英雄が訪ねる。導きの青い星は珍しく真剣な顔で沈黙し、しばらく二人で歩き続けた。

 

「実は僕が現大陸(こっち)に来た理由はラージャンの狩猟じゃない。別の用事があるんだ」

 

「アノルパティスやラージャンの出現は国家存続の危機だ。

政府から君に声が掛かっているだろ」

 

「イコールドラゴンウェポン。溶岩島で煌黒龍と対峙した君なら分かるだろ。

新大陸を調査した結果、龍結晶の地の向こう側に異世界と接続できるポータルがある」

 

「異世界か...にわかには信じがたいが、グレンゼブルやアノルパティスが出たということは事実なんだろう」

 

「エオルゼアから来訪した魔獣を討伐したのは僕だ。あれはアン・イシュワルダやゼノ・ジーヴァと並ぶ程の脅威だった。

今回の調査で僕が死んだら後を頼むよ」

 

「...君は不安か?」

 

「やれることは全部やったさ。金獅子討伐の作戦会議には君やバハリが参加するし、アノルパティスは君が討伐する。

僕は地脈の秘密を突き止めてミラボレアスの発生を阻止する」

 

「死が怖くないのか?」

 

「最後まで足掻こう。それが命のあるべき姿だからだ」

 

導きの青い星は優しく微笑んで、モンスター達の縄張り争いを思い出した。

黒龍ミラボレアスとは、龍が火を吹き全てを滅ぼす現象の名前である。

 

生命ある者より。

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