魔女様、ゆるやかに生きていく。   作:ニャル太郎

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旅もいいけど寄り道も大事です

 

 

いつも視界は暗かった。

 

埃臭い部屋に押し込められて、ずっと寒くて、ずっと息苦しくて。

 

食事も生ゴミや腐った果実、カビたパンだったりで。

 

聞こえてくる声はわたしを蔑む声や罵倒する声ばかりで。

 

その視線は化け物でも見るような目で、ずっと怖かった。

 

それでもわたしは我慢することしかできなくて、生きることをやめたくなくて、大好きだった魔法も諦めて、自分すら押し殺して。

 

何もない、空っぽの“イレーナ(完璧な人間)”を演じることしかできなかった。

それでわたしが救われるのなら、それでよかったから。

 

家を追い出されて途方に暮れていた時に、おばさまはわたしを連れて世界(そと)を見せてくれた。

 

“おまえは知らないことが多すぎる、よく見て、よく感じろ”

 

鮮やかな、色褪せることのない変化に満ちた世界を。

 

“あんなつまらん連中といたらこの世界は一生見られなかっただろう”

 

生まれたことを後悔しないように、と。

 

“だからおまえはおまえの、自分自身が一番やりたくて仕方がないことをしろ”

 

たくさんのことを教えてもらった。

 

“これからのおまえが後悔のない人生を送れるように”

 

今のわたしがいるのは、おばさまがいてくれたから。

変われるきっかけを、背中を押してくれたから。

 

わたしが生きてもいいということを証明(教え)してくれた。

 

 

 


 

 

 

「夢……かぁ……」

 

懐かしい記憶だったな、おばさま元気かな。

また玄関先で倒れてないか心配になる。

 

「……外……」

 

視界が眩しい。

 

美味しそうなお肉の匂いがする。

 

外から楽しそうな鳥の声が聞こえた。

 

「朝だ……」

 

青い空が、見える。

 

「……わあああああああ完全に寝過ごしてるぅうああぁああああ!!!」

 

いつの間にか馬車の中で寝てたみたいだけどゴードンさんが移動してくれのかな。

なんてゆっくりしてる場合じゃない、交代って言ったのにぐっすり寝てた自分が恥ずかしい。

 

朝支度を済ませて、髪を梳かして、いつもの魔法をかけて、脱ぎ散らかしてるブーツを履き直して。

 

「もうエボニ! なんで起こしっ────」

 

慌てて馬車の外に出ようとして、盛大に躓く。

あわや地面と接触、なんてことには起きず直前でエボニが受け止めてくれた。

 

〈落ち着けよ、まだ太陽が顔出したばっかだろ〉

「そうだけど! 交代するって言ったでしょ! ゴードンさんが寝不足になったらどうする……」

「あら、もう起きたんですかい」

 

けろっとした様子で肉を焼いてるゴードンさんがいた。

 

「おはようごぜえやす、あ、肉勝手に使わせてもらいやすけどいいですよね?」

「……眠くないんですか?」

「ん? あぁ、あっしエルフなんでこれくらいの徹夜なら全然平気ですぜ」

〈エルフが体力バカなの、あれ本当(マジ)だったんだ……〉

「いやいやこれでもあっしは体力ない方でしてね、今じゃ5徹が限界なんですぜ」

「5徹もできるなんて、いいなぁエルフの体」

 

わたしは3徹くらいしかできないからすごく羨ましい。

魔法の開発も薬学勉強も時間が足りなくて寝るのが勿体無いんだよね。

 

〈徹夜は体に悪いからダメだろ〉

「でも効率的に活動するなら徹夜(コレ)が一番最善なんだけどな」

「徹夜が効率的っていう人初めて見やした……あ、そろそろ肉が焼き終わるんで朝食にしやしょう」

「ほんと!? やったぁ!」

「旦那はレアがいいと思うんで、もう少しだけお待ちを」

〈ほぉう? わかってるじゃねえか〉

「あはは、それほどでも」

 

いつの間にか2人が仲良くなってる。

エボニも話し相手ができて嬉しいみたい。

 

「ささっ、お熱いうちにどうぞ」

「美味しそう〜! それじゃあいただきます!」

〈いただきますっと〉

 

手を合わせて、今日も食事ができることに感謝を込める。

 

澄み渡る空の下で充分に焼けたお肉を頬張るなんて幸せだ。

例のソースが使えないのが残念だけど毒が入ってるから仕方ないか。

 

〈うまい、やっぱ肉はこれくらいがちょうどいい〉

「お気に召したようで何より」

「ゴードンさん! おかわりください!」

「えぇ早……今焼くんで野菜でも食べててください、スティック状にしたんで食べやすいですよ」

「いらない」

「じゃあ肉はお預けってことで」

「わ、わかった食べる、食べるから!」

 

食べなくても体に影響はないと思うのにと思いながらもそもそと野菜を頬張った。

 

「そうそう、残りの調味料でドレッシングを作ってみやしたのでこれをどうぞ、あっ毒はないと思うんで大丈夫ですぜ」

〈ふむ、おおこれいいな、この味好きだ〉

「えっ旦那野菜もいけるんですか」

〈お前はおれをなんだと思ってんだ〉

 

……まあ、賑やかな朝食も久しぶりな気がするしたまにはいいかな。

 

 

 


 

旅もいいけど寄り道も大事です

 


 

 

 

朝食を終えて洗い物をしてる時にふと思い出した。

 

「そういえばゴードンさん、この後はどうするんですか?」

「この後?」

「収入源のことです、わたしが潰しちゃったようなものですし」

「あぁ〜、そういやなんも考えていなかったですねぇ」

 

生きていくにはお金が必要だ。

それは貴族王族冒険者のみに限らず、盗賊でも同じ。

 

昔よりも戦争は収まりつつあるも貧困層への募金や街の修繕費、防具強化、魔物の増加に魔族との交戦によって騎士団や兵士を鍛えるために軍資金を賄ったりと、とにかくお金が必要になってしまった。

 

「貯蓄はあるんですか? 今の時代貯蓄がないと生きていくのは大変ですから」

「銅貨2枚しか持ってねえ人が言っても説得力ないっすよそれ」

「わ、わたしはほら、冒険者だから」

「冒険者ってみんなこうなんですかね旦那」

〈大抵は金貨100枚くらい持ってるもんだ、少なくても金貨30枚くらいはある〉

「それで彼女の貯蓄はどれほどに」

〈ない、空っぽだ〉

 

冷めた目で見られてもないものはないんだから仕方ないじゃん。

 

「まあ貯蓄はともかく、金がねえのは困りもんですねえ」

〈また身売りか?〉

「それも手ですけど結構辛いんですよね、主に男ばっかで」

「なら冒険者はどうですか?」

「……え?」

 

ゴードンさんは豆鉄砲をくらったような声を出して吹き出すように笑い出した。

 

「いやいや、いやいやいやご冗談を、あっし盗賊ですぜ? 世間一般的には犯罪者の部類なんですわ」

「それが何か?」

「ほら、7人も殺してますし」

「わたしもたくさん人を殺してますよ」

「それは……そうなんですがその……」

〈なんだゴードン、知らないのか? 冒険者の3割は()()()だぞ〉

「……えぇえええ!?

 

よほど衝撃的な事実だったのかせっかく洗い終わった調理器具が手から滑り落ちていき、土まみれになってしまった。

 

驚かないのも無理な話か、盗賊が冒険者をするなんてあまりいいことに思えないだろう。

しかし時代は変わりゆくもので、最近になって冒険者の基準が少し変わったのだ。

 

「盗賊って言ってしまえば戦闘が得意な人が多いでしょう? そういう人達って魔物討伐や護衛に向いていて結構重宝される人材なんです」

「盗賊が重宝される時代……」

〈最初は毛嫌いされるがちゃんと功績を残せばそれなりの報酬はくれるし何より護衛っていう合法的な人殺しも許されるからな、元盗賊の人間には願ったり叶ったりだろ〉

「合法的な人殺し……」

 

合法的ではないんだけど、と補足(ツッコミ)を入れつつ落ちた調理器具を拾い上げて洗い直しながら話を続けた。

 

「でも冒険者になるには色々と審査とかがあるし、誰もでなれるってわけじゃないんだけどね」

「そんなものがあるんですかい」

〈あるぞ、指名手配犯とか色々な〉

「そのへんゴードンさんは大丈夫だと思ってるよ、有名って聞いてたけど全然知らなかったし」

「…………」

 

視線を逸らして下唇を噛み締めた。変なものにでも当たったのかな。

 

〈イレーナ、時には言わない優しさもあるってことをそろそろ覚えろ〉

「え? どういうこと?」

〈……いやいい、とにかくそういうこった〉

「はは……なるほど……まあ、はい」

「だ、大丈夫ですか? なんか涙出てますよ」

「お気になさらず、はい、ええ」

 

どうしたんだろうと心配になるけど本人が気にするなというなら大丈夫か。

 

〈それでどうする、ゴードン?〉

「……百聞は一見に如かず、と言いますし行くだけ行くのもありでしょう」

「そうと決まれば一番近い街に行きましょうか! ここからだと……」

「デュランダっていう都市ですかね」

〈知ってるのか〉

「ええ、たまに買い出しに言ったりしてたので道は知ってますよ」

「なら案内お願いします! ゴードンさんは疲れているでしょうから運転ならわたしがやりますね!」

 

不安げなゴードンさんの顔を吹き飛ばすような勢いで胸を張って言い放った。

 

手際よく片付けと焚き火の後始末を済まして馬車の運転席に乗り込む。

馬車を運転するなんて久々だから上手くできるか不安だけど、きっといけるはず。

 

〈ゴードン、ひとつ面白い話をしてやろう〉

「……なんですかい?」

〈イレーナが運転する馬車や魔導車はな、全部原因不明の爆発を起こすんだぜ〉

運転ならあっしがするんで!!! 今すぐそこから退いてくだせえ!!!

 

半ば強引に引き摺り下ろされて荷台に詰め込まれた。

 

 

 


 

 

 

城塞都市デュランダ、中央諸国の中では2番目に大きな都市。

魔物の侵入を防ぐための円状に第一城壁で囲み、内側に第二城壁を建ててその中に街並みが広がっている。

 

街には冒険者ギルドや学校、魔法協会などといった様々な施設があり、警備隊の他に魔法省の支部が存在しており治安としてはかなり安定で街の評判もかなり良好。

 

そして何より、色んな魔道書店があるとおばさまが言っていたのだ。

 

「ふふっ、どんな魔導書があるのか楽しみだなぁ」

「もうすでに目的を忘れていやせんかね」

〈いつもこんなんだぞ〉

「自由でいいんですねぇ」

 

ハッと我に返り、当初の予定を思い出す。

誘惑に負けたらダメだ、そもそも今はお金がないから何も買えない。

 

「お、見えてきやしたよ」

 

なんて思ってる間にあっという間についた、意外と近かったみたいだ。

 

身を乗り出すように外を見ると、大きな城壁が目に入った。

戦争の名残なのか所々が崩れ落ちており、舗装工事のための足場がちらほらと見える。

 

「流石城塞都市、初めて見るけど大きいなぁ」

「ここら辺は戦争などが多発してやしたからね、1000年前に建てられたにも関わらず一度も突破されたことはないって噂の都市ですから」

〈へぇ、いい場所に都市を建ててるな、地脈の魔力の流れをうまく使って籠城戦などをしていたんだろう〉

「えっ旦那そういうのわかるんですかい?」

〈わかるぞ、だが時代の流れは早いな、今じゃもうそんな機能はとっくに失われてる〉

 

エボニはそう寂しそうに呟いた。

彼は時折おかしなことを言い出す、まるで大昔から生きていたように。

 

〈そうだゴードン、街に着いたらこの馬車は売り飛ばすぞ〉

「ん? あぁ了解です旦那」

「えっなんで? 勿体無いじゃん」

〈なんでって、盗んだ馬車なんだし足はつかないほうがいいに決まってんだろ〉

「そうですよ、近頃じゃ盗難馬車の届出も出るようになったんでね」

「へえ、知らなかった」

 

世の中は知らないことだらけだぁ、と考えてるうちに城門が見えてきた。

 

城門の前には2人の門番さんが立っている、通してもらえるか少し不安になっているとあちら声をかけてくれた。

 

「悪い、そこでちょっと止まってくれないか」

 

物腰は丁寧で優しい口調、それでいて大きな斧を携えている。もう1人は大槌。

戦闘力は高めでどちらの武器にも魔物の襲撃を阻止したであろう傷跡が残されていた。

強い門番さん達だ、と思いつつ馬車から降りて話を聞くことに。

 

「すまんな、街に入る前に荷台を確認させてもらいたい」

「問題ないですよ、あっ魔物の素材がありますけど大丈夫ですか?」

「ふむ、一応見せてもらってもいいか?」

 

こくりと頷き、早速検問が始まった。

どうやら1人が馬車の中を隅々まで調べてる間に先程話していた門番さんがわたし達にいくつか質問をするシステムのようだ。

 

「2人はどういった関係で?」

「ええと、旅先でばったり?」

「彼女が道に迷ってたんであっしの馬車に乗せたんですよ」

「ほほう……いや怪しんで悪いな、最近馭者を名乗る不届者が出たと報告があって検問を厳しくしてるとこなんだ」

「なんと、それはとんでもねえ不届者ですねぇ」

 

それはお前のことだろ、と言いたげなエボニに目配せをした。

言いたい気持ちはわかるけど街に入るためには少しだけ静かにしててほしい。

 

「馬車も特に届出が出てる物じゃなさそうだし、素材にも怪しい点はないぜ」

「こっちも問題はなさそうだ、お〜い門を開けろ〜!」

 

検問はあっさりと終わり門が開いた。

お礼を言って門番さん達に別れを告げて再び馬車に乗り込み門を潜る。

 

門番さんが見えなくなったあたりでゴードンさんの方を向くとホッとした様子で胸を撫で下ろしていた。

 

「盗難馬車ってばれませんでしたね」

「商人の馬車ってのはその人の所有物だとわかるようにエンブレムが飾られているんですよ、稀に魔法陣が刻まれてることがありやすがいずれも消してしまえばただの馬車ですから」

〈あの門番、腕はかなり強いが目は節穴だな〉

脳筋(アホ)の門番で助かったですねぇ」

 

辛辣評価星3つ、と言ったところだろう。

そうこうしている内に綺麗な街並みが見えてきた。

 

「話には聞いていたけど、本当に大きな街だなぁ」

 

赤やオレンジを基調とした屋根に白い壁、いくつもの屋台並ぶ市場に目移りしてしまいそうな雑貨屋、先進都市の象徴とも言える夜の街道を照らしてくれる魔導街灯が並んでおりこの街のシンボルの時計塔がわたし達見下ろしていた。

 

しばらくはここでお金を稼ぐことになる。

ある程度長居することになるから住居を確保するのと仕事のスケジュール、魔道書店だったり魔法協会などにも顔を出したいからそこら辺のことも考慮しなきゃ。

 

〈なぁゴードン、いくつか寄りたいところがあるんだがいいか?〉

「いいですけど、どこに向かうつもりで?」

〈まずは肉屋、次に薬などの売ってる雑貨屋、防具屋で最後が商人ギルドだな〉

「結構回りやすねえ」

〈素材はそこに見合った場所で売るのが適切だ、ギルドでも引き取ってくれるが専門店の方が高値で取り合ってくれるんだよ〉

「へえ〜、それは知らなかったですわ」

「ギルドの方が一括でまとめてくれるからそっちの方が楽なんだけどなぁ」

〈ただでさえ金がねえんだから、少しは臨時収入しとかねえとダメだろ〉

 

ごもっともな意見をぶつけられて何も言い返せない。悔しい。

 

〈その後に冒険者ギルドで登録ってところか〉

「随分と物知り、というか手際がいいですねえ」

〈イレーナが金銭管理が下手くそなせいでクソババアから教え込まれたんだよ、ただでさえ散財癖が酷いから金があってもすぐ無くなる〉

「だって気がついたら本買っちゃうの」

〈似たような本ばっか買うなっつってんだよ! あのババアから何十冊も貰ってるしいいだろ!〉

「まだ持ってない魔導書とかもあるし……その街でしか手に入らない本もあるからつい、ね?」

〈ついじゃねえよ! これだから魔法オタクは……〉

 

ちくちく小言を言うエボニがうるさいので荷台の奥へと投げ捨てる。

欲しいものを買って何が悪いんだ。

 

「ええと、とりあえず肉屋から行きましょうか」

〈場所はそのまま真っ直ぐ行った所にある、屋台が並んでるところだからわかりやすいはずだ〉

「えらい詳しいですねえ、以前来たことでもあるんですかい?」

〈……色々とな〉

 

浮遊しながらわたしの手元に戻って来たエボニは濁すように言葉を吐いた。

 

おばさまからこの街のことを聞いていたからそれで詳しいのかもとは思ってたけど、ちょっと引っかかる言い方だ。

 

「……あ! 見てゴードンさん! 焼き鳥の屋台がありますよ!」

「あれだけ食ったのにまだ食べるんですかいこの大食い娘」

 

人は空腹には逆らえないのだ、なけなしの銅貨2枚を支払って焼き鳥を購入。

 

その後はエボニが言った通り各店舗に素材を売った結果、大量の金貨を得ることができた。

 

〈しばらくは飯に困る心配はないな〉

「これならたくさん本が買えちゃうね!」

〈買わねえぞ〉

「えー! ケチ!」

 

エボニは溜息をつきながら金貨が入った袋を取り上げるとトランクの中に仕舞い込んだ。

少しくらい散財してもいいじゃんかと睨むけどそんなことではエボニは怯まない。

 

「……それはそうとこんなに山分けしてもらっても良かったんですかね?」

 

袋いっぱいの金貨を抱えたゴードンさんが不意にそんなことを聞いてきた。

 

「え? だってあのワイルドボアはゴードンさんが解体してくれたものですし、馬車も元はと言えばゴードンさんのものですから」

「馬車は実際は違いやすけど、まあいいか」

 

ゴードンさんはそう呟くと満足げな顔で懐に金貨が入った袋を仕舞った。

 

〈あらかた用事は済ませたしさっさと冒険者ギルドに向かうか、ここから少し歩いて中央広場に行くぞ〉

 

エボニの案内を頼りに屋台通りを歩いていく。

時計の針がはちょうど12時に重なったと同時に大きな鐘の音が街中に拡がった。

 

「もうこんな時間ですかい、どっかで昼飯でも済ませやしょうか?」

〈先に冒険者ギルドだ、飯はその後でもいいだろ〉

「こっち見ながら言わないでよ、それくらい我慢できるってば」

 

屋台で買ったし多少は……と思ってたらお腹空いてきちゃった。

 

「にしても旦那、やたらギルドに行きたがりやすね?」

〈当たりめェだろ、言っとくがこれはお前のためでもあるんだぞゴードン〉

「えっ、それはどういう……」

 

珍しくエボニが他人に助言をしている。

普段人と関わるのが少ないから余計にびっくりした。

 

〈昨晩、おれはお前の適性は魔法じゃねえって言ったのを覚えてるか?〉

「あぁはい、覚えていやすが」

〈逆を言えばお前は別の才能があるってことだ〉

「……そうなんですかい?」

「うん、わたしはそう思ってるけど」

「はぁ……別の才能……」

 

不思議そうに呟いてゴードンさんは自分の手を眺めて、直後に街灯に頭をぶつけた。

 

〈……魔法以外にも戦闘技能があるのは知ってるか〉

「待って、ちょっとそれどころじゃないんですが、うわ鼻血出てきた」

「あわわわ、大丈夫ですか」

〈ほんとに何してんだお前……〉

 

人様の邪魔にならないように路地裏に移動して、生命魔法をかける。

 

「これで大丈夫なはず……」

「いやあすいやせん、突然そんなことを言われたもんでちょっと考え事をしてしまったといういか」

〈そんなに考え込むものか?〉

「旦那にはわからんでしょうけど、魔法しか知らないあっしにとっては結構衝撃的な話なんですがね?」

 

全身を傾げて考え込むエボニ。

数分だけ思考をしたのち、溜息を吐いた。

 

〈なるほどな、なら少しだけ歴史の話をしてやろう〉

 

エボニはふわりと浮き、楽しそうに話し始めた。

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