魔女様、ゆるやかに生きていく。   作:ニャル太郎

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少しだけ昔話を聞かせよう

 

 

今よりはるか昔の数千年前、()()()が主流だった。

 

錬金術とは鉄、鉛、銅などの卑金属を黄金に変えたり病気を治したり不老不死にしたり人間を神のような存在に変える神の術。

 

エーテルと呼ばれる異なる物質を結合する力を用いて「火、水、風、土」の4つの元素を操りそれらを錬成する素材操術。

 

万能薬や賢者の石、さらに人造人間(ホムンクルス)を作り出したりと多くの錬金術師が神たる存在に手を伸ばそうと必死に研究し続けていた。

 

当然、錬金術という複雑で高度な技術が扱えない人もいる。

そういった者達は皆迫害され、生きる価値がないと判断され、容易く命を奪われ実験の材料にされていく。

 

多くの人々がその錬金術の犠牲になり無惨に命を散らすことが当たり前になった時代に、突如アリスト・オルディールという最初の魔女、のちの“古代の大魔女”が現れた。

 

魔力という名の非物質的エネルギー、その可能性を研究し続けていた変人。

錬金術を基盤に“魔法”を開発した天才で、真操魔法と生命魔法、さらに7つの属性を操る事に成功し“魔法”の時代の始まりの発端の人物でもある。

 

彼女が歴史の表舞台に現れたことにより、錬金術が価値観が大きく変わり錬金術師達が魔法使いによって大量に()()()()

 

そう、錬金術より“魔法”の方が()()()()()()()()()()()()()()

加えて生命魔法の治癒により錬金術師の目標である賢者の石の必要性が失われ、次第に錬金術を使う者は減り、現在では王宮や貴族くらいしかこの術を使う者はいない。

 

瞬く間に魔法は世界中に広がり数多の魔法使いが増えていく一方で、魔法には致命的な()()があった。

 

それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

錬金術の時代に研究で産み落とされた者達、突然変異した者達など体質によって魔法が扱えない者も出てくるようになっていた。

魔法によって力を得た者が力無き者を狩り殺し、命を物のように弄び捨てられる。

 

その問題を解決したのが“創出の大魔女”、ガードレッド・ルザフィス。

 

魔力を利用しエネルギーに変える“魔導技術”。

それによる剣、槍、斧、槌、刀、弓、銃器と言った多種多様な種類の魔導武器を開発し魔法に抵抗できる“武技”を生み出した。

 

魔法を使えない者でも戦えるようになった事により魔物の対処が誰でもできるようになり、今では冒険者の大半が魔導武器を扱うのが主流になった。

もちろん魔法との組み合わせで絶大な力を出すことも可能になり戦術は数知れず。

 

しかし、扱いを間違えれば国一つは滅ぼしてしまう膨大な力。

ある一国の王が“魔導技術”に興味を示し“創出の大魔女”に他国に戦争を仕掛けるための戦力を作って欲しいと頼まれる。

 

これにガードレッドは了承、魔導戦闘機の設計図()()を大量生産して他国にも売り飛ばした。

 

その結果、一瞬にして世界は“魔導研究”の時代へと幕を開け、人類はより質の高い“魔導技術”を組み込んだ戦闘機や魔導研究に取り憑かれるようになっていく。

 

生物の尊き命は石ころのように扱われ、人造人間(ホムンクルス)等の人工的に作られた命はただの実験道具や貴族のための性玩具の価値に成り下がった。

 

魔導研究によって“魔素”という汚染物質が各地に広がり土地に深く根付いた結果、怨念等の悪しき力が溜まり呪力と呼ばれるものが発生。

 

その力をある錬金術師が術式を組み直し、その名の通り呪いを自在に操ることができる“呪術”を生み出した。

 

新たな力の源だと研究者達は口々にし、己が先だと言わんばかりに研究にのめり込み、取り憑かれていき、“(ソレ)”に取り憑かれた者は皆は全員体中から黒い結晶のが生え理性を失い、ただ殺戮だけを目的とした“魔族”になる。

 

魔素によって無理やり体を動かされている“魔族”は死ぬことができずにただ争いのみでしか生きる意味を見出せない存在。

 

それらが国と秩序を作り人間のように社会性を持つようになり、“魔族”こそがこの地を統べるべきだと戯言を言い出し人間に戦争を仕掛けた。

 

いわば、“戦争”の時代の幕開けである。

 

紅き血が大地を潤い、人々の死骸で土地を造り、強者のみが生きることを許され、弱者は死を受け入れろと言わんばかりのまさに地獄の時代。

 

そんな暗黒期に彗星の如く現れた()()()()()使()()によって戦争が激化。

 

魔族の大量虐殺、加えて人間の国同士の戦争での乱入、さらに霊獣等の貴重な生物を手当たり次第殺害していった。

 

彼女がひとたび姿を出せば戦争が起き、姿を消せばぷつりと戦争が終わり、再び姿を現せば戦争が起きる。

 

その魔法使い、またの異名は“戦争の大魔女”。

 

人間の力では押し切られてしまう魔法や武技といった物理・魔法攻撃を防ぐ防御魔法を開発し、魔物に対しても農作物などが荒らされないように罠等の補助魔法を作り出し街や国の人々に教え込んだ。

 

“戦争の大魔女”は魔法以外の知識にも長けており、神の声を聞き祈りを捧げる事によって力を得る術“祈祷”を広めた。

 

その甲斐あってか“呪術”にも対抗できるようになり、“魔族”の数を多く減らした功績を残した記録が存在する。

 

“魔法” “武技” “呪術” “祈祷”の組み合わせにより数十万の戦術を編み出し世界中に戦略家としての名を広げ、再び彗星の如く姿を消した。

 

こうして“戦争”の時代に大きな傷跡を残して、今もその傷跡を抉ろうとする者が後が絶たずにいる。

 

 

〈……これが大まかな歴史の話だ〉

 

学校の先生のように話し終えたエボニは満足そうに腕を組んでいた。

 

「……えっとつまり、魔法、武技、呪術、祈祷の攻撃手段があるってことでいいんでやすかね?」

〈厳密には攻撃手段は魔法と武技だけだ、祈祷は能力上昇(バフ)で呪術は相手の弱体化(デバフ)がメインになる〉

「は、はぁ、なるほど」

 

なんとなく理解したように頷くゴードンさんにエボニは説教するように近づいて頬を突っつき回した。

 

〈大体お前の体の魔力回路は欠陥だらけでまともに動いてねえ、補助魔法ですら使えてるのが奇跡ってレベルだぜ〉

「そ、そうなんですかい? でも結構使えますし」

〈あぁ、それでも補助魔法が扱えたのはお前の適性が()()()だからだよ〉

「……はい?」

 

小首を傾げるゴードンさんに畳み掛けるようにエボニは口を開いた。

 

〈そもそも錬金術ってのは物質や自然の力を操り新たな物質を作る術だ、お前の使っていた補助魔法もそれに近い、というよりお前は無意識に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()

「は、はあ?」

〈錬金術ってのは古代の術であり神の技で相当な鍛錬と技術を積まなきゃ使えねえ代物だ、だが罠を仕掛けた時(あの時)のお前はいとも簡単に土という物質から砂鉄を取り出し鉄を作り出した、ズブの素人ができる芸当じゃねえよ〉

「え、えっそうだったんですかいあっし!?」

 

驚いて自分に指を指すゴードンさんに向かってエボニは大きな溜息を吐き捨てた。

 

〈なんだお前、本気で気づいていなかったのか〉

「え、だって錬金術って今じゃ使われてないんじゃ……?」

〈使う奴が極端に少ないってだけで使われてないワケじゃねえぞ、実際王宮とかの黄金装飾には錬金術が使われてんだよ〉

「えぇ何それ知らんのですが、というかホントに物知りですねぇ」

〈フン、当たりめェだろ〉

 

自慢げに胸を張ってゴードンさんの腕を小突く、褒められたのが嬉しかったみたい。

 

〈お前の実力なら余裕で錬金術師になれる、それくらいの才能がお前にはあんだよゴードン〉

「はぁ、あっしの適性が錬金術……」

 

静かに自身の手を眺めたまましばらく沈黙。

ひとしきり伝えたいことを言って満足したのかまた腕を組み頷くような素振りを見せた。

 

「はなひはおあった?」

お前はお前で何飯食ってんだ

 

両手にいい匂いがする串焼きを持ち歩いているわたしに気づいたのかエボニがすっ飛んできた。

 

〈おれが歴史の話をしてるのにお前は屋台で飯漁ってんだよこせそれェ〉

「だってお腹すいちゃったし……はいこれゴードンさんの分ね」

「あ、ありがとうごぜえやす」

 

片手に持っていた串焼きを2人に渡してひとまず腹拵えを済ませた。

 

「それで自分の適性は見つかりそうですか?」

「えぇまあ、一通り聞いてどうやらあっしは錬金術が得意だそうで」

「錬金術!? 古代の技術のひとつと言われてる錬金術が扱えるんですか!? いいな錬金術〜!」

「いやあっしも自覚なくて……」

「わたしも使えるようになりたかったけど魔法以外はてんでダメでして」

「あらそれは意外、割となんでもできる方なのかと」

「そんなことないですよ、本を読むのと実際にやるのとは全然感覚が違いますから」

 

おばさまに一応教え込まれたけどやっぱりダメだったんだよなぁ。

魔法以外は何ひとつとして使えなかったけど、わたしとしては魔法(コレ)だけで充分。

 

「よし、ご飯も食べたし! 早速ギルドに行きますか!」

「それもそうですね、宿代とかも集めないとですし」

〈……あぁ宿、それがあったか〉

「えっ? 何がです?」

〈いやなんでもない、こっちの話だ〉

 

頭にはてなを浮かべるゴードンさんを無視してエボニはわたしの手元に戻った。

 

〈確かこの街のギルドはここ抜けた先にあったはずだ〉

「ここを抜けた先、あっ! あれかも!」

 

路地裏を抜けた先に大きな建物が見えてきた。

真新しい石造りの屋敷で色とりどりの花壇で装飾されて冒険者や街の人々が賑わう憩いの場になっているようだ。

 

「随分と豪勢な屋敷ですねえ」

〈2番目に大きな都市だからな、外見にも拘ってんだろ〉

「ちょうどお昼だから、みんなご飯食べにきてるのかも」

「アンタじゃねえんですから、というかまだ食べるおつもりなんですね……」

〈イレーナだけで食費金貨24枚も持っていくからな〉

「食費だけで金貨24……」

 

今とてつもなく引かれた声がしたけど、適当に流して足早にギルドに向かう。

 

「あ、そうだゴードンさん」

「なんです? 食事なら登録の後でお願いしたいのですが」

「やった! じゃないや、もしかしたらちょっと驚くことがあるかもだけど、まあ大丈夫だから安心してね」

「ん? それはどういう?」

()()()の話だが、これは見てもらった方がいいな〉

「えっなんですか怖いんですが」

 

不安げな彼を勇気づけるように、ギルドの扉を開けた。

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