ギルドに入った途端、賑やかな音が一層大きくなった。
楽しそうに歌う冒険者、酒を飲み交わす人達、奥の個室に入っていく人、おそらく情報交換をしあうだろうといろんな人が入り乱れた光景。
誰もが笑っていて温かな空間がこの場を満たしていた。
その一番奥のテーブルで、一際異様な雰囲気を漂わせてる者がいた。
目が合った途端、視線は切れてしまうがその尋常ならざる存在に一瞬だけ気圧される。
強大な全身を頑丈な鎧で身に纏い、静かに鎮座している。
自身よりも一回り大きい盾を見るに
「おぉ〜! ここが冒険者ギルド、初めて入りましたけどすごいところですねえ」
「ふふっ、そうでしょう? ここのギルドは治安がいいっておばさま言ってたんだぁ、ええと確か登録は……」
「冒険者ギルドへようこそ! 仕事ニ食事、パーティ募集なんでもござレ!」
この騒がしい声にかき消されることなくまっすぐな声が聞こえた。
声の方を振り向くと黒髪のツインテールに可愛らしいウェイター服に身を包んだ女性がわたし達を歓迎しているようだ。
「こんにちハ! 初めてノ方ですネ! 冒険者ギルドハ誰でも大歓迎ですのでごゆるりとお寛ぎくださイまセ!」
明るい口調で話す彼女だがそこにあるべきはずの
そもそも彼女自体、
仮面のような真っ白な輪郭、瞳孔はなく結膜が水色に光っている。
関節部分は全て古めかしい義手のようになっていた。
人の形をした
「えっ、と、あの」
「すみません、登録をしたいのですが」
「登録ですネ! でしたらあちらのカウンターで登録手続きをしてくださイまセ! 何かわからないことがありましたら当ギルドのスタッフかこの機体、ツェータが対応しまス!」
ツェータと名乗った女性は斜め45度ピッタリのお辞儀をして手を振りながら、テーブル席へと滑るように向かっていくの見送った。
「やっぱりいたね」
〈しかも旧型だな、喋り方がぎこちねえ〉
「なんですかあれ!?」
わたしと後ろ姿のツェータさんを交互に見ながら驚きと困惑が入り混じった表情を向けてくるが、気にせずカウンターまで歩いていき呼び鈴を鳴らした。
「なんか人間じゃないのがいましたが……」
「人間じゃないからね、さっ登録登録」
「いやせめて説明してくだせえ」
「説明も何も、あの人は人間じゃないだけだよ」
「あっしの言い方が悪かったですね、もっと詳しい説明をくださいって言いたいんですよ」
〈いちいちめんどくせえやつだな、どうせそのうちわかるからいいだろ〉
エボニが鬱陶しそうに呟くとちょうど受付の人が歩いてきた。
卯の花のような色の長い髪、人間というにはあまりにも異質で奇麗な顔立ち、立ち振る舞いから高位の生まれのような雰囲気を漂わせる女性がカウンターまでやってくると斜め45度のお辞儀をし口を開く。
「初めまして未来ある冒険者様、冒険者ギルドのデュランダ支部へようこそおいでくださいました、本日はどのようなご用件でしょうか?」
ツェータさんとは裏腹にまるで人間と同じ音質で言葉を発する彼女に、ゴードンさんはひたすら困惑をしてわたしの方を見てきた。
「ええと、彼が冒険者登録をしたいと言っていまして」
「では早速登録を」
「待て待て待て待てい! 明らかに人間じゃないですが!」
「人間ではありませんのでご安心ください」
「何を安心すればいいんですかね?」
冷静を取り戻したゴードンさんは改めて彼女をまじまじと見始める。
最初の通り顔だけ見れば誰もが奇麗な人間の女性と思うだろう、だが彼女の首から下は金属の肌が見えていた。
何よりこちらの視線を釘付けにするのはその両腕、白い金属が光沢を放ち関節部分からいくつもの小さな歯車が稼働しまるで人間のような動きを再現している。
手の甲には魔石で繊細な装飾が埋め込まれており、指の1つ1つに血管のように魔力が流れ込んでいた。
「もしかして、
「え、あのなんて?」
「魔導の人形と書いて
「あーらま、初めての単語にあっし困惑ですわ」
「そう云うことでしたか、では僭越ながら
再び深深くお辞儀し、受付嬢さんは話し始めた。
様々な魔導知識に加え、科学技術に錬金術、更に戦闘機能が備わっており歴史上最も古い知識の結晶とも言われ、貴重な研究対象でそれらは全て魔法省の管理下に置かれていた。
機体自体に問題がなければ冒険者ギルドや魔法協会等の施設に職員として派遣され、人間と同じように仕事をこなし給料を与えられて生活をしている。
現在確認されている総数は全部で46機。
それぞれ旧型が27機、改良型が11機、最新型が8機が存在する。
“創出の大魔女”以外製作不可能と言われるほどの高度で難解な魔導技術で製作されており、今だ誰1人として製造できていない失われた魔導技術の一つともして後世に語られていた。
「ちなみにこのカルパは改良型で先ほどお会いになられたツェータは旧型です」
「なるほど、だからあんなぎこちない話し方だったんですねい」
旧型であるツェータさんは初期の段階で造られた機体で言語を話すのと食材などをの物資を運ぶのが基本、つまりウェイターにうってつけということだ。
カルパさんのような改良型は書類管理などのタスクに特化しており、冒険者ギルドや図書館等の司書に抜擢されることが多い。
最新型はこれらを組み合わせた高度な人工知能に加えて魔導技術等の研究を得意とする機体が多く、
「以上が
ひとしきり説明し終えたカルパさんは再び深深くお辞儀した、その動作に思わずわたしとゴードンさんは自然と拍手を送っていた。
満足そうな表情を浮かべて咳払いのような仕草をした後、彼女が口を開く。
「では改めまして、冒険者登録等の手続きをしましょうか」
「あっ、よろしくお願いしやす」
早速本題に入った彼女はいくつかの資料を手元に出す。
ギルドの使い方や給料の支払い方法など、基本的な書類ばかりで軽く目を通しているとカルパさんは1枚の紙と羽ペンをゴードンさんに渡した。
「それでは貴方様の名前、年齢、種族、前職について教えてください」
「えっ、前職もですかい?」
「必要事項ですので」
「んえぇ……」
「もしかしてですが筆記は難しいですか?」
「いやそれはできるんですがぁ……」
渋い顔しながらこっちを向いてきたけどわたしにはどうすることもできないのでとりあえず笑顔を返してみると、避けられないとわかったのか大人しく書類に手をつけた。
「名前はゴードン、年齢は540歳、種族はエルフで前職は盗賊っと……これでいいですかね」
「エルフ族のゴードン様、年齢540歳、前職盗賊、それでは認証プロセスを開始します」
「なん、えっなんて?」
ゴードンさんの問いかけに答えることなくカルパさんは目を瞑り、中の機械が動き回る音が数秒間響き終わると再び目を開けた。
「認証プロセスが終わりました、ゴードン様は現在指名手配されている盗賊ではありませんので冒険者名簿に登録いたします」
「ほんとにそれだけで冒険者になれるんですねい」
「元盗賊と仰っていたので実践経験も問題ないと判断しています」
「えっと、あっし人殺めているんですがそれは……」
「対人経験もお有りとは、とても優秀な方です」
「それを優秀という言葉で片付けていいんですかねぇ」
疑問を抱きつつもゴードンさんは手を休めることなく順序よく書類手続きを進めていき、大体の記入が終わったあたりでカルパさんはギルドの仕組みについて説明し始めた。
簡潔にまとめると。
・冒険者の仕事はギルド内に掲げられている掲示板からクエストを探して受付に提出、もし掲示板にやりたいクエストがなかった場合は受付担当に聞くとギルドから仕事を提供する場合がある。
・討伐、捕獲、護衛、採取と様々な仕事があるが職業によって適切な仕事を持ってきてくれることもある。さらに職業適正補償というものが冒険者ギルドにはあり、成功報酬に加えその補償金が上乗せされる。なおクエストが失敗した場合は罰金が科される。
・クエスト中に怪我や欠損に至った場合はギルドが一部負担し、復帰までのサポートをして同じ事故が起きないよう武器や装備の新調を提供。
こんな感じだろう、何かあった場合は基本的に冒険者ギルドが負担してくれる仕組みで初めての冒険者にも良心的なシステム。
「ここまで質問等はございますでしょうか?」
「て、手厚いサポートすぎる……」
「当たり前だよ、最近じゃ冒険者の数は減る一方なんだから」
「えっ、そうなんですかい?」
「近年は魔物の増加や魔族による進軍行為で優秀な冒険者は騎士団にスカウトされていき街や村などの依頼をこなしてくれる人材が減少しているんです、そのため盗賊の方でも無理矢理──失礼、勧誘せざる負えなくなっているんです」
「必死さが伝わってくるなぁ……」
昔は冒険者の方が数が多かったが時代の流れで年々数は減っていき、さらに国は戦争や進軍阻止をするため騎士団の方に力を入れるようになりギルドの方は手付かず。
もちろん領主などが補助金を出してくれるが、いざ国が危機に陥ったらそちらを優先するように言われているので資金不足も問題点。
騎士団も国のためにとギルドの仕事を手伝うことができなくなる、かといって戦闘経験が未熟な者を戦場に出す訳にもいかずと人手不足に陥り泣く泣く冒険者から実践経験がある者を抜擢し騎士団に入団させている。
正直な話、冒険者ギルドより騎士団の方がお給金は天と地の差がある。
だが信頼と実績がなければなれないし罰則も厳しい。
そのため盗賊といった多彩な技術を持った人材は冒険者ギルドにとっては喉から手が出るほど欲しい存在でもあるのだ。
「なんだか世知辛い世の中ですねい」
「仕方ないよ、騎士団にもやらないといけない仕事があるし」
「それはそうですが、というか街とかの設備提供も冒険者が負担するんですね」
「設備提供といいましても主に素材や木材を調達してもらっています、力に自信がある冒険者様には時折手伝っていただけるように申し込んでおります、もちろんこれにも報酬が発生するので是非!」
これでもかと完全無欠の営業スマイルをわたしとゴードンさんに向けてきた。
そういえば外周の壁が崩れ落ちてたからその募集なのかな。
「わたしは力仕事がダメなので遠慮しておきます」
「あっしもそこまで筋力はないのでちょっとスルーさせていただきますわ」
「そうですか、いつでも募集はしていますので気が向いたら是非」
ス、と輝かしい笑顔が消えいつもの無表情に戻るとカルパさんは説明の続きをした。
冒険者にはランクというものが存在する。
ランクとは、冒険者内の評価を表しており全部で6つ。
一番下からビギナー→ブロンズ→シルバー→ゴールド→ダイヤ→マスターと割り振られており、上がるごとに報酬も多くなる。
中でもマスターランクは数十年、あるいは数百年の月日を得てようやく辿り着く頂点。
まさに
「ゴードン様はこの一番下のランクのビギナーからのスタートとなります、このランクは厳密には
「厳密では、冒険者ではない?」
「その名の通り初心者なのでまずは特定のクエストをクリアすることでブロンズに昇格、ここで初めて一人前の冒険者様になるというシステムになっております」
「要は試験のようなものという認識でいいんですかね?」
「仰る通りです、人手不足ではありますが素質がなければ意味がありません、ですのでこちらが提示するクエストを達成できなければなりません」
冒険者は常に死と隣り合わせの職業。
その素質と覚悟がなければ、この手厚いサポートを受けられないのだ。
特定のクエストの内容は主に地域によって内容は違うこともあるが主に2つ。
・亜人系の魔物3体の討伐、討伐証拠として眼球を持ってくること。
・回復薬の素材になる薬草10本の採取、または魔石系の鉱石の採取。
この上記の2つを達成することで
「ちゃんと基準が定められている上にちゃんとした実力はないとダメ……しかも昇格したらちゃんと給料が増える……すげえや……」
「そうかな? 割と普通だと思うけど」
「規定が変わったのは50年ほど前ですので、常識だと思われるのですが」
「あぁ〜ちょっと前まで引きこもりしてましてね〜」
「そうでしたか、もしよろしければお近くの図書館で再確認することをお勧めします」
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」
お互いに頭を下げあった後、カルパさんが一段と真剣な表情で再び口を開けた。
「では早速ゴードン様には特定クエストに行ってもらいます、内容は先程話した通りの内容で期限は1週間となります」
「おや随分と余裕がありやすね」
「貴方様は準備もせずに仕事に向かうのですか?」
「急に辛辣……」
「道具等は雑貨屋やギルド内にある売店で購入すると良いでしょう」
「売店あるんですね、最近のギルドはすげえや」
魔物の目撃情報や薬草の生息地をあらかた聞いた後、ゴードンさんは特定クエストを受けることとなった。
「そういえば、アンタはどうすんですかい?」
「へっわたし? わたしは平気だよ」
「そうですかい、ではあっしらはここらでお暇させていただだきやすね」
「はい、クエスト達成の帰還、何より5体満足での帰還をお待ちしております」
礼儀正しいお辞儀に見送られながらわたし達は一旦ギルドを後にした。
外に出るとお日様はすでに真上よりちょっとズレた位置にいる。
この時間帯で討伐に行くと夕方か最悪夜になるだろうから今日のうちはやめておこう。
〈うあぁあ……ようやく終わったのか、おはよ〉
「おはようエボニ、待たせてごめんね」
〈んで? 登録は終わったのか?〉
「それが特定のクエストをクリアしないといけなさそうで」
〈……ハァッ!? なんだそれ知らねえぞ! 昔は金さえ払えばできただろ!〉
「何言ってるの? それもうずっと前の話だって、もしかしておばさまの話と混ざってるんじゃない?」
〈ア゛ッ!? ……アァ? あぁそうかもな〉
でもお金払えばって話よく知ってるなぁ、もうずっと100年も前の話だったような。
「ところで、アンタのランクはいくつなんですかね?」
「わたし? わたし登録してないよ」
「……それするためにここにきたんじゃねえんですか!?」
鈍器で殴ったような怒号にも近いゴードンさんの声が、清々しい空へと吸い込まれていった。