明らかに魔法の性能がおかしい回復魔法使いと謎の女吸血鬼のマイペースな冒険生活   作:ジョク・カノサ

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12話 蜘蛛

「では、件の魔獣に関して現時点で我々が得た情報を伝えておこう。チェリエッタ君」

 

「はい」

 

 クエストを受けると決めた後、僕達は討伐対象の魔獣についての説明を受けていた。チェリエッタと呼ばれる女の子はいつからか手に持っていた紙を片手に、それまでと同じように淡々と読み上げる。

 

「とは言っても伝えられる事はシンプルです。今回被害にあった探索隊の報告から推測するのであれば、それが何を示すかは非常に分かりやすい。その魔獣最大の特徴は尻の先から発射される粘着性の糸。それを使い獲物の捕獲や自身の巣の形成を行う。――そう、気が付けばいつのまにか部屋の壁に張り付いてるあのクソキモイ虫、蜘蛛です」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「デカ……!」

 

 思わずそう呟いてしまった。茂みから静かに這い出てきたのは紛れもなく蜘蛛。細い八本の脚を折り曲げて黒い身体を支えているあのフォルム。どう見たって蜘蛛。

 

 が、デカい!僕の膝下くらいはある。そのせいで真っ黒で真ん丸な目が幾つも付いた顔も良く見える。僕が住んでた村じゃ別に蜘蛛なんて珍しくなかった分、その見た目には慣れてるとは思ってたけど、流石にこれはぞわっとする。

 

「あっ、アイスさん!」

 

 僕の前方、つまり蜘蛛が出て来た位置に近い場所に居たのがアイスさんだ。蜘蛛は明らかにアイスさんを狙って動き出している。

 

 危ない。そう言おうとした瞬間、既にアイスさんは腰元の剣――二本ある内の一本を抜いていた。

 

()()を使う。……下がれ。巻き込まれたいのであれば勝手にしろ」

 

 憑剣と呼ばれた白い剣は明らかに僕が知っている剣とは違う点があった。白いもやもや……冷気?が剣を中心に発生していて、剣自身も所々が凍り付いてるようだった。

 

 アイスさんはそのまま剣をスッ、と振る。剣の振りとは思えないゆっくりとした速さ。それに蜘蛛との距離はまだある。距離的にそれが当たる事は無い。

 

 でも冷気は違う。振られた勢いで吸い込まれるように前に流れていき、それを受けた蜘蛛は急激に動きを鈍くしていく。

 

 やがて、蜘蛛は完全に動かなくなった。周囲の巻き込まれた草や地面に付いた霜がキラキラと光っている。

 

「凍った……え、もしかして終わり?というかレイさん、あの剣なんですか?」

 

「分からん」

 

「え!?レイさんでも分からないことってあるんですか!?」

 

「そこまで驚くような事か?私だって知らないモノぐらいはある。まあ、もう片方の剣については大体の見当が付くが」

 

 滅茶苦茶物知りだし長生きだしほとんど無いと思ってた……。ていうか、使ってない方の剣は分かるんだ。

 

「ちっ、コイツは……おい」

 

 そうしてレイさんとこそこそ話をしてると冷たい声が飛んでくる。アイスさんは凍った蜘蛛に近づき、何かに気づいたようで表情を歪ませていた。

 

「流石に分かってるだろうがコイツは討伐対象じゃない。ただの()だ」

 

 ああ成程……って子供でこの大きさ?じゃあ少なくとも親はこれ以上に大きいのか。

 

「それに加えて斥候のような役割を持っているらしい。見ろ」

 

 促されるままに恐る恐る凍った蜘蛛に近づく。すると蜘蛛の後方から僕達の向かっている方へ、木や草に絡まりながらも白い糸がピンと伸びていた。少なくとも目で見える範囲ではどこかで途切れてるような様子は無い。

 

「親のかコイツ自身のかは知らんが、恐らくこれは巣から伸びている。そして被害に遭った探索隊の証言では子と接敵した後、間を置かず親とも接敵している。ならばこれは」

 

「斥候の異常を感知する為の糸、か。何かあれば巣に伝わるような細工だろう」

 

「へえー」

 

 蜘蛛なのに頭良いんだなあ。やっぱり魔獣って呼ばれるくらいになると頭も良くなるのかな。……って。

 

「レイさん、もしかして」

 

「糸自体はまだ繋がってはいるが……それまで動き回っていた子の反応が突如として止まったのは、向こうにとっては異常だったようだな」

 

「来るぞ」

 

 アイスさんの冷たい声。ざわざわと周囲の木々が揺れている。風で揺れてるワケじゃない。その証拠に僕らを囲む緑の隙間から何匹もの黒がのっそりと這い出て来ていた。

 

 しかも全部さっきのと同じような大きさだ。中々に気味の悪い光景に思わず変な声が出そうになる。

 

「数が多い。おい貴様ら、戦う気が無いなら――」

 

「戦うさ」

 

「!それは……」

 

 アイスさんと並ぶように前に出たレイさん。その手にはいつものような血の粒――ではなく、アイスさんが持つ剣の白さに対抗するように燃える赤だった。

 

「炎か」

 

 そう、あれはどう見ても炎だ。レイさんそんな事も出来るんだ……ってそうか。普段みたいに血を使って戦ってたらすぐに吸血鬼だってバレるからか。

 

「『焼葬(しょうそう)』」

 

 そう呟くと共に、レイさんの手の上で燃えていた炎は分散し、それぞれが一人でに動き始めた。

 

 一匹につき一つ。小さな粒のようになった炎は現れた蜘蛛達に向かっていく。

 

 そして、それが触れた瞬間。押さえ込んでいた分を解放するように粒は巨大な炎に変わり、蜘蛛を丸ごと包み込んだ。

 

 さっきは聞かなかった奇妙な音。多分これは悲鳴だ。一斉に燃え始めた蜘蛛達の。

 

「こんなものか」

 

 やがてそれも収まり、それぞれの炎の勢いが落ちた頃には新しく現れた蜘蛛達はもう一匹も動いていなかった。全滅したらしい。

 

 ……流石レイさんだなあ。

 

「来たのは親ではなかったな。様子見の増援か、もしくは自身が巣から動けない理由でもあるか」

 

「……理解出来ん。それほどの魔法の腕を持ちながら、わざわざ足手まといを抱えて探索者になるとは」

 

 レイさんの魔法?を目の当たりにしたアイスさんは結構驚いた感じだった。血じゃない方法で攻撃したからかレイさんに対する疑いの視線も弱まってる気がする。

 

 あと、それはごもっともです。役立たずですいません。

 

「貴様には関係の無い話だ。それより、見極めは済んだか」

 

「……先を急ぐぞ。もうここで足踏みしている暇は無い」

 

 レイさんの問いには答えず、アイスさんは剣を構えたままずんずん前へと進んでいく。確かに相手に見つかっちゃった以上、休憩なんてしてられない。

 

「結局大した休憩は出来なかったな。いけるか?サンゴ」

 

 いつも通り、魔獣を倒した事で疲れてる感じも全然無く、ベール越しでも分かるくらいに純粋な配慮だけが浮かんだ表情でレイさんはそう聞いて来る。

 

 流石にここで疲れたなんて言ってられない。二人共凄い強いし、回復魔法が必要になる事が無さそうな以上、僕に出来るのは極力二人の邪魔にならない事だけ。

 

 若干情けなさを感じながらも、僕は気合を込めて答えた。

 

「もちろん。アイスさんに遅れないよう僕達も行きましょう」

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