明らかに魔法の性能がおかしい回復魔法使いと謎の女吸血鬼のマイペースな冒険生活   作:ジョク・カノサ

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16話 人助け

 吸血鬼は困惑していた。それはそうだろう。吐き気に喘ぎ胃液で口を汚し、息も絶え絶えな人間が言う言葉じゃない。

 

 それでもヤツは諦める気がないようだった。たじろぐ吸血鬼に対して仕切りに次を求め、渋りながらも吸血鬼はそれに応じる。後はさっきと同じような光景と反応だ。

 

 なぜそんな事をする?こうなった以上、残りの繭も同じような結果になるのは知れているというのに。

 

 執念?いや違う。コイツにはある種狂気にも似た、鬼気迫る何かは無い。

 

 信念?それも違う。コイツは最早形を成していない、人間だったものに対する嫌悪を隠し切れていない。

 

 何がそうさせている?何故そこまでする。

 

 ふと、いつか聞いた兄の言葉が頭を過ぎる。

 

『どんな道を歩んでもいい。その先で、誰かを救える人間になってくれ』

 

 目の前でヤツらが繭を開いていく中、私は何もできなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 酷い気分だ。昔、食べちゃいけない木の実を食べてしばらく吐き気が収まらなかったけど、その時よりも酷い。

 

 一つ目の繭を開けた後、僕は残りの繭も同じように開け始めた。僕っていうかレイさんに開けて貰ってるんだけど。

 

 結果はどれも一個目と何一つ変わらない。二個目、三個目、四個目……全部同じだ。

 

「サンゴ、もう……」

 

 繭の数が減っていく度にレイさんは僕を心配して止めようとしてきた。それでも僕は残る繭の中を見る為に開けてくださいと頼み、レイさんはそれを聞き入れてくれた。

 

 自分でも、なんで止められないのか分からない。中を見ても結果は変わらない、捕まった人はもう全員死んでしまってるだろうと、そう思ってる自分は確かにいるのに。

 

 なんでなんだろう?そんな感じでえづいたり吐いたりして、途中から朦朧としてきた頭で考えながら、僕は最後の繭の中を見ることになる。そしてその瞬間、ぼやけていた頭が一気に冷めた。

 

 そこにあったのは、今までとは違う光景だったから。

 

「レイさん、この人……!」

 

「ああ……他よりも幾分かマシだ」

 

 繭を開けた瞬間に溢れ出してくる液体。それは他と同じ。違うのは中に居る人が、ちゃんと人の姿を保っていること。

 

「それに――()()()()()()()

 

「馬鹿な!」

 

 レイさんのその言葉に反応したのは、繭を開ける僕達を一歩引いた場所で見ていたアイスさんだった。

 

 アイスさんは僕達の間を通りしゃがみ込み、その人の胸の辺りをジッと見つめた後、小さな声で告げる。

 

「……確かに生きてはいる。生きてはいるが、これはもう……」

 

 助からない。言葉には出さなかったけど、出していたらそう続いていたのは分かった。

 

「恐らく、彼女は最も直近で被害に遭った探索者だ。だから閉じ込められてまだ日が浅い。衣服の質が良かったのも幸いしたのだろう。だから胴体は――」

 

「アイスさん、ちょっと」

 

 ()()が終わった。正直集中してたから今の話は聞けてない。僕はアイスさんに場所を開けてもらい、膝立ちになった。

 

「おい、何をする気だ」

 

「助けます」

 

「! まさか回復魔法か?それこそ無駄だ。このレベルの肉体の損傷には、どれだけ腕が良くとも焼石に水なのは使い手ならば分かるだろう」

 

「…………」

 

「聞いてるのか!そもそも仮に延命出来たとして、その後どうなる!?()()()()()()()()()()()()でまともに動けるどうかも分からない!そうなるとしても生かす意味があるのか!?彼女がそれを望んでいるのか!?」

 

 良し、いける。そう確信して僕は魔法を使う。

 

 治す。全部治す。この人がこの中で失ったものを、全部。そうイメージを込めて。

 

「退け!私が介錯を――」

 

「退くのはお前だ」

 

「っ!貴様!」

 

「黙って見ていろ。……少なくとも、悪い結果にはならない筈だ」

 

 そうして僕は魔法を使った。これまで何度か自分や知り合いの軽い怪我で試してきたけど、ここまで大きな怪我を治すのは初めてだ。でもきっと大丈夫。

 

『魔法が使いたい?なら……とっておきを教えよう。使えるようになればきっと役に立つし、お前も気に入る筈だ』

 

 ありがとうじいちゃん。めっちゃ役に立ってるよ。

 

 魔法をかけ続けていくにつれ、この人が本来持っていたんだろうモノが戻っていく。やがて怪我も汚れも無い、元通りになったと言えるような見た目になったところで、僕はほっとした気持ちで魔法を止める。

 

 と、同時に強い眠気のようなものが襲ってきた。身体の力が勝手に抜けて倒れそうになるところを、いつの間にか横に居たレイさんが支えてくれる。

 

「安心して休め。後は任せろ」

 

 はい、そうさせてもらいます。それを言葉にする前に僕は気を失った。

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