明らかに魔法の性能がおかしい回復魔法使いと謎の女吸血鬼のマイペースな冒険生活   作:ジョク・カノサ

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19話 ある探索隊の現実

「はあぁぁ……」

 

 探索管理所に併設された食堂。そこでジョッキを片手に、その男――バンダナを巻いた男は溜息をついた。その表情には疲れと陰りがある。

 

「探索、行かねえのか」

 

 丸テーブルを挟み、バンダナ男の右斜めに位置する帽子を被った男がぶっきらぼうに言う。バンダナ男は嫌々といった表情でそれを聞いていた。

 

「分かってるっての。……もう一杯頼むか」

 

「飲みすぎだろ」

 

「気合入るから良いんだよ。ここで使った分は取り返す、ってな」

 

「酒入れながら、探索行くの、お前だけ」

 

「お前に言われたくねえよ。毎度毎度アホみたいに食いやがってよお」

 

 そして左斜めに位置する巨漢、横幅も縦幅も広い男は既に食事を二人に対し未だに大口を開けていた。

 

「俺が、一番稼いでる」

 

「ちっ、分かってるっての。食う量にさえ目を瞑れば優秀だよなお前は。なんでそのナリで荷物まで運んでるのに移動も速いし小回りも効くんだよ」

 

「才能」

 

「ははっ、間違いない。俺らが誇る希望の星だよお前は」

 

「才能……才能かあ」

 

 おどけるように手を叩く帽子男に対し、バンダナ男はそう呟きながらテーブルに突っ伏した。

 

「なーんか一つはあると思ってたんだけどなぁ」

 

 自分の掌を見つめながら、バンダナ男は探索都市に来た当初の自分を思い返していた。

 

 探索都市。そこは才能が集まる場所。金が、物が、未知が。あらゆるヒトを呼び集める混沌の場所。

 

 だからこそ、自分にも何かがあると思ってしまった。特別が集まる場所であれば、自分も特別になれる。

 

 そんな夢見る男だった自分を、バンダナ男は笑う。

 

「魔法も剣も商売も、何もねえや」

 

「悪だくみならありそうじゃねえか?」

 

「ねーよ。それに、ここでんな事するヤツはよっぽどのやり手かアホだけだ。中途半端なヤツはいつか同業に潰されるか、騎士団にしょっぴかれるかだな」

 

「悪いことなんてするもんじゃねーってか。日々探索に精を出してる俺らは真っ当にやってるってことだな。すげえすげえ」

 

「虚しくなるから止めろ」

 

 夢見る男はいつしか上を目指すことを止め、同じような程度の人間と肩を組み、その日暮らしが出来るだけの安全で最低限の探索だけを行っていた。

 

 それでも他所に比べれば良い暮らしを送れるのがこの都市の美点であるが、それは同時に停滞を生むことを意味している。

 

 この暮らしが続くならもうそれで良い、と。

 

「なあ、そういえばさ。この前ウチに応募してきたガキ居たじゃん」

 

 帽子男が繰り出した話題は、バンダナ男にとっても記憶に新しいモノだった。

 

「自称回復魔法使い、な」

 

「そうそう。俺はさあ、やっぱアイツを入れるべきだったと思うんだよ」

 

「今更言ってもしゃーねえだろ。それに()()()()じゃねえから信用出来ねえって、三人で話し合ったことだ」

 

 回復魔法。その有用性をバンダナ男は身を以て知っていた。

 

 自分達のような凡才にとっては、たとえ馴染みのある大森林での探索であっても負傷は付き物であり、どこまで稼げるかはそのリスクとの付き合い方によって決まる。

 

 だが、回復魔法があればある程度の負傷は解消できる。そうすればその分稼ぎが増える。

 

 回復魔法での治療自体は都市に戻れば治療院で格安で受けられる。探索中に回復魔法を受けたいのあれば、使い手を隊に入れるしかないが、それは難しい。

 

 信頼できる回復魔法の使い手は少なく、需要も高い。だからこそ、最初この三人はその応募に大いに喜んだ。

 

 しかし、応募してきたのは信頼できない使い手だった。

 

「でもよ、ちゃんと傷は治ったぜ。なんか妙な感覚だったけど」

 

「それが怖いんだよ。俺達の命を預けるんだぞ?得体の知れない、治療院のお墨付きもないガキに任せたくねえよ」

 

「ま、そうだよな。……でも」

 

 帽子男はその先を言わなかったが、バンダナ男はその続きを何となく察していた。

 

 たとえ怪しくても、回復魔法の使い手さえ居れば、日々の暮らしは良くなったんじゃないのかと。

 

 そして。

 

『冒険がしたいんです!精一杯頑張るので、どうかよろしくお願いします!』

 

 かつての自分達が持っていた輝きを目に宿したあの少年さえ居れば、自分達も少しは前向きになれたんじゃないかと。

 

 バンダナ男自身がそう感じていたからこそ、帽子男の悔やむような感情が伝わっていた。

 

「おかわり、お願いします」

 

 二人が話している最中も夢中で口を動かしていた幅広男が店員を呼び止め、追加を注文する。

 

「はあぁぁぁ……」

 

 その声を聞いて、バンダナ男は再び深いため息をついた。

 

 

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