明らかに魔法の性能がおかしい回復魔法使いと謎の女吸血鬼のマイペースな冒険生活   作:ジョク・カノサ

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2話 利害一致

「――という訳なんです」

 

 今現在、僕達は大きな切り株へと腰を下ろしている。話をするに少しは落ち着きたいと、近場の木に向かって彼女が無造作に手を振るう事で出来た切り株だ。横には丈夫そうな太い木が倒れている。

 

 正直、足の震えが止まりません。

 

「つまり私に施したのは本当に回復魔法だと、お前は言いたい訳か?」

 

「は、はい」

 

 迷子中にイノシシと遭遇して今こうなってます。回復魔法は村で覚えました。話と言っても僕が話したのはこれくらいだ。

 

 ただ、何故か彼女はこうして回復魔法について疑ってくる。ちゃんと治ったのに、何がダメなんだろう。

 

「それはあり得ない」

 

「へ?」

 

「察してはいるだろうが、私は人ではない。今は吸血鬼と呼ばれている」

 

 人じゃないのは知ってました。でも吸血鬼ってなんですか。あとなんでさっきはあった翼が無くなってるんですか。

 

「そして、吸血鬼に回復魔法は効かん。むしろ害として作用する可能性さえある。だからさっきお前が回復魔法を使うと言った時、止めろと言おうとしたんだ」

 

「そう言われましても、治ってませんか?」

 

「確かにこの上なく体調が良い。だがこれは……」

 

 そのまま彼女は考え込むような仕草を取った。その様子を直視しているとなんだか変な気分になってきたので半目で見る。

 

「いや、良い。この姿を取り戻せたという事実だけをひとまず受け取ろう。……ああ、私の姿は人間にとっては毒だ。あまり見ない方が良い」

 

「は、はい」

 

「……逃げないのか?」

 

 彼女は不思議そうにそう聞いてきた。

 

「いや、僕としては何がなんだか……」

 

「吸血鬼を知らないのか?人間達の間では厄災と呼ばれているはずだが」

 

「田舎者なので……」

 

「……そうか。だとしても、私が化物である事は理解出来るだろう。何故そこまで悠長にしていられる」

 

「あの、さっきも言いましたけど迷子なんです……道が分からなくて……」

 

「……」

 

「……」

 

 あと、足が震えて動けません。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「十年程前の事だ。とある吸血鬼が人間達の大国に戦を仕掛けたのは」

 

 彼女は迷う事無く前へ進んでいく。進路先に生い茂る邪魔な葉は彼女の手で払われて散っていくので後ろを歩く僕はかなり快適だ。

 

「人間に大層な恨みを持っていた者が居たそうだ。そいつは自分と同じような考えを持つ同志と協力する事で数を揃えた」

 

 そう話す様はどこか他人事のようだった。前を進む彼女の肩に落ちてきた巨大な毛虫が、その肌に触れる事無く一人でに切断され地面に落ちる。

 

「結果、人間達は多大な被害を被り、吸血鬼を厄災と呼び根絶やしにしようと躍起になった。戦後に吸血鬼である事が露見して執拗に追われ続けている私が良い例だ」

 

 何でも、彼女は自分を殺そうと追ってくる人達から逃げ続けここに辿り着いたらしい。あれだけボロボロだったのはそれが理由だと。

 

「あの、じゃあ貴女も――」

 

「私は人間を敵に回す気は無い。さっきまでの無様な姿も、ある時から人間の血を飲んでいなかったからだ」

 

 それを聞いて思ったのは何故?の一言だった。素人目に見ても彼女がとんでもない強さを持っているのは分かる。人間に対して無抵抗でいる必要なんて無いのではないかと思うくらいには。

 

 こうしてる今も、側面の木から彼女へと飛びかかろうとした蛇が真っ二つに割れて地面に落ちた。どうやってるんだろうこれ。

 

「私としては、人の世の片隅でひっそりと暮らせていればそれで良かったんだがな。住む場所も定期的に変えてはいたが、戦の影響もあって遂には大々的に露見してしまった」

 

 どこか、腰の痛みを訴えてくる近所のお爺さんのような哀愁を感じる。なのに綺麗なお姉さんとしか言いようがない見た目なのはあれかな、やっぱり寿命が長いのかな。十年前の戦争というのも実際にその場に居たっぽいし。

 

 とか何とか考えていると、見覚えのある場所に出てきた。

 

「お前が言っていた裏道というのはここだろう。この先を進めば都市の中へと戻れる筈だ」

 

「……ありがとうございます。助かりました」

 

「先に救われたのはこちらだ、気にするな。それとその案内人とやらは意図的にお前を置いて行ったのだと思う。そうやって何も分からない駆け出しを言いくるめて、金だけを掠め取る連中は実際に居る。というより十中八九そういう輩だ」

 

「ああ……」

 

 なんとなく、そんな感じがしてた。よくよく考えたら僕を前に行かせたのも逃げやすくするためだったんだろうなって。

 

 都会の洗礼を早速浴びてしまった。これからは気をつけないと。

 

「私から見ても、探索都市は他の国や街とは比較にならん程の熱がある。そういう場所では騙し騙され、蹴落とし合うというのは良くある話だ。用心する事だな」

 

「そういえば、貴女はこれからどうするんですか?」

 

 物凄く気になっていた事だ。追われているという彼女はこれからどうするのだろう。

 

「……それを聞いてどうするつもりだ」

 

「い、いや、単純に気になったので」

 

 目の色が変わった。ヤバイ、真っ二つは嫌だ。

 

「追手に告げ口でもするつもりか?」

 

「しませんよ。命の恩人なんですから」

 

「……」

 

 そこからしばらく、彼女は僕をジッと見つめていた。

 

 僕は本当に何もする気はありません、貴女には感謝の気持ちしかありません、だから真っ二つはやめてください。伝わってくれこの気持ち。

 

「……嘘は言っていない、か」

 

 そう言って彼女は眼力を緩めた。

 良かった、僕まだ生きてる。

 

「この姿に戻れたのであればやりようは色々とある。当分は姿を変えて都市内に潜伏するつもりだ。今なら上手く隠し通す自信もある」

 

「なるほど」

 

「それで、これを聞いてどうする」

 

「何か手伝える事はないかなあと」

 

「……正気か?」

 

「はい」

 

 正直この人は得体が知れないしかなり怖い。だけどこうして話してみて基本的には穏和な人であるというのは伝わってきた。それに今回で探索都市の怖さを思い知ったのも確か。

 

 信用できる知り合いが欲しい。この人も危険かもしれないけど田舎者がたった一人で居る事の危険度も高いと思うんだ。

 

「意図を話せ」

 

「今回の事で自分の無知さと危うさを知りました。頼りになる知り合いの方が居ればなと」

 

「再三言うが私は吸血鬼だ。見かけは人間だが、その実お前達との作りはまるで違う」

 

「こうして話が出来るのであれば大丈夫だと思います」

 

 僕、普通に人見知りだからな。話が出来る相手は貴重なんだ。

 

「…………分かった」

 

 長考の末、彼女は僕の申し出を受け入れてくれた。

 

「こちらとしてもお前の回復魔法とやらの存在は有り難い」

 

「え、どういう意味ですか?」

 

「この姿を維持するには人間の血を吸わねばならないが、私にその気は無い。だがお前の魔法があればその必要もなくなる」

 

「なるほど」

 

 確かにそれなら彼女としても僕と知り合い関係を結ぶ理由にはなる。

 

 というか、血を飲まないとなれない姿に僕の回復魔法でなっちゃったのか。

 

 ……確かにおかしいな。普通の怪我を治すのが僕が習得しようとした回復魔法なのに。なんでそんな事になったんだろう。

 

 ――ま、良いか。考えても分かんなそうだ。

 

「私としてはこれは非常に助かる話だ。よって定期的に魔法を私に使用してくれるのであれば、お前の要求にもある程度は応えてやるべきだと考えている」

 

「大丈夫です。回復が必要であれば遠慮無く言って貰えれば」

 

 魔法って日によって使える回数が限られるとかなんとか聞いた事あるけど、僕は別にそんな事ないんだよね。流石に何回も使うと疲れてくるけど軽い怪我くらいなら何回でも治せると思うし。

 

「分かった。ならお前の要求を聞こうか」

 

 そう言って、彼女はまた僕に真っ直ぐな視線を送り始めた。直視するなと言われているので僕の方は顔を若干横にした状態だ。

 

 それにしても要求、要求か。僕としては本当に軽い知り合い関係的なものを想像してたんだけど。

 

 ……あ、一つ思いついた。

 

「じゃあ、僕と探索をしてくれませんか?」

 

「そんな事で良いのか?」

 

「は、はい」

 

「ふむ、分かった。これでも腕に覚えはあるつもりだ。ある程度の露払いくらいは出来るだろう」

 

 やった。これで本格的な探索が目に見えてきた。この人絶対めちゃくちゃ強いし、僕みたいな足でまといと二人でも何とかなりそうだ。

 

「……そんなに嬉しいのか?」

 

「はい!嬉しいです!」

 

 探索、探索、探索。冒険、冒険、冒険。

 

 未知を求め、歩き進む。僕はようやくその最初の一歩を踏み出せるのかもしれない。

 

「なら、良い。お前は私の平穏の為に、私はお前が望む探索の為に。それで良いな」

 

「はい」

 

 よろしく、の意味を込めて僕は手を差し出した。

 

「なんだその手は」

 

「握手ですけど」

 

「……そうか」

 

 遅れて彼女は手を出し、僕の手を握った。ひんやりとして冷たかった。

 

「よろしくお願いします……あ」

 

「どうした」

 

「お互いに名乗ってなくないですか?」

 

「……そういえば、そうだな」

 

「僕はサンゴです」

 

「私は……レイ。そう呼んでくれ」

 

「分かりました、レイさん」

 

 握り合ったお互いの手が強くなる。

 

 こうしてなんだかんだあって僕は探索者になる為の大きな一歩、一人目の仲間を作る事に成功した。

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