明らかに魔法の性能がおかしい回復魔法使いと謎の女吸血鬼のマイペースな冒険生活   作:ジョク・カノサ

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22話 綺麗さっぱり

「掃除の基本は上から下!そして奥から手前!部屋がどれだけ広かろうとこの原則は変わらん!」

 

「ひいー!」

 

「ダラダラと続けるな!終わるモノも終わらん!少なくとも一部屋終わるまでは休憩は無しだ!」

 

「あひいーー!」

 

「貴様、いつまで廊下を掃除している!ある程度ゴミが集まったのならさっさと雑巾がけに移行しろ!」

 

「くっ、なんでコイツが……」

 

「口答えをするな!今日で二階の清掃は全て終わらせる!」

 

「うひいーーー!」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「酷い目に遭った……」

 

 僕は息も絶え絶えで自室の床で横になっていた。窓から見える景色はもう夕方だ。

 

 ――僕達が掃除にてこずっていることを知った後のアイスさんは凄かった。

 

 大蜘蛛退治の時にレイさんに怒ってた時にも負けないくらいの迫力があった。どうやら奇麗好きでこの建物の現状が見過ごせなかったらしい。

 

 口調は乱暴だったし、休ませてもくれなかったけどその甲斐はあった。僕が今居る部屋はもちろん、本当に二階の部屋の全ての掃除が終わりかけてるのは凄い。

 

 指示も的確で動きやすかったし、何より指示するだけじゃなく、アイスさん自身が僕ら以上に動いていたから文句なんてある筈もない。というか、僕達はお礼を言うべきだな。

 

「おい」

 

「あっ、どうでした?」

 

 開けっ放しにしていた部屋からアイスさんが入って来た。頭と口元を布で覆った掃除フォルムで腰の剣も外した姿だ。

 

 本当に掃除が出来ているかの最終チェックが終わったらしい。起き上がってあぐらをかく。

 

「……合格だ。清掃済みと言っても良い出来だろう」

 

 その言葉と同時に布が外される。掃除は終わりってことだ。

 

「良かったー!いやー、掃除ってこんなに大変なんですねー。あ、そういえばレイさんは」

 

「風呂を用意すると言って一階に行った」

 

 一刻も早く入りたいんだろうか。まあ気持ちは分かる。僕も結構汚れてるし、早く入ってみたい。いや、その前に。

 

「アイスさん、ありがとうございました。手伝って貰っちゃって。何かお礼とかした方が良いですかね」

 

「いや、私が勝手にやったことだ。それにこれは償い、でもある」

 

「償い?」

 

 なんか仰々しい言葉だけど、僕達なんかされたっけ。レイさんに斬りかかったこととか?

 

「なんというか……すまなかった」

 

「?」

 

「その……お前をお荷物と呼んだことだ」

 

 ? ……ああ、確かにそんなこと言われた記憶はあるけど、今の今まで忘れてたよ。凄い言いにくそうだったから身構えたのに。

 

「私が忌むのは厚顔で何の力も持たない者が、力を持つ者の負担になるようなことだ。だがお前は少なくとも、私には出来ないことが出来る。それどころかこの都市の回復魔法の使い手の誰もが及ばない力をお前は持ち、正しく使っている」

 

「そんなことない、と思いますけど……」

 

 僕の魔法ってなんか変だから否定も曖昧になってしまう。とはいえ僕と同じことが出来る人が一人も居ない、とは素直に思えないんだよね。

 

「ともかく私の評価は不当だった。これはその償いだ」

 

「なんというか……真面目なんですね、アイスさんって」

 

「そう、か?」

 

「そうですよ。レイさんを警戒してたのは騎士団の人だったら当たり前だと思うし、そんな状態でも捕まった人を助けるのに協力してくれたし、掃除を手伝ってくれたのもそうだし……それと、僕達を監視するってわざわざ言ってくれることもです。なんというか色々と」

 

「……私怨で動くような女がか」

 

「それも結局、僕達の言い分を聞いてくれたじゃないですか。あんなに怒ってたのに」

 

 アイスさんがなんで吸血鬼を憎んでいるのかは分からない。でもあの時に見た怒りの表情を見て、相当なことがあったんだろうっていうのは分かる。

 

 それでもそれを抑えてくれたんだから、話が通じる真面目で良い人なんだなあと素直に思う。

 

「ま、それはそれで……お疲れさまでした。これから多分、夕食を食べにいくと思うんですけどアイスさんも一緒にどうですか?あ、なんならお風呂使っていきます?レイさんが用意してるらしいですし、アイスさんが一番掃除を頑張ってましたから」

 

「いや……どちらも遠慮しておく」

 

「あ、はい」

 

 普通に断られちゃったよ。レイさん以外で初めてここで出来た知り合い?だから仲良くしていきたいんだけど、アイスさんは別にそう思ってない感じかな。

 

「――しばらくはこの近辺に住む。街中で会う事もあるだろう。食事は、その時にでも」

 

「……! はい!」

 

 やった、これはご近所づきあいをして貰えるということだろう。堂々とアイスさんは知り合いですと言っていいやつだろう。いや、社交辞令ってやつなのか?いや……。

 

「……ふ」

 

 そんな感じで考え込んでる僕を見てなのか、アイスさんが笑った。あんまり見たことない表情で、元々奇麗な人なのもあってちょっとドキっとした。

 

 アイスさんはそのまま部屋を出て行こうとして、途中で止まった。

 

「サンゴ」

 

 背中のまま名前を呼ばれる。そう言えば名前を呼ばれるのは初めてかもしれない。

 

「お前はなぜ、人を助ける」

 

 いきなりの質問だった。ちょっとの間考えた後、僕は返答する。

 

「あんまり考えたことないから分かんないです」

 

「……そうか。ではな」

 

 僕の返答に満足だったのか、今度こそアイスさんは部屋を出て行った。見送りは要らないのかな。

 

「――やっと帰ったか」

 

「うえっ!?レイさん!?」

 

 後ろから声がしたと思ったら、レイさんが開けっ放しになっていた窓の下からひょっこりと顔を出した。そのまま部屋に登って入って来る。

 

「何してるんですか」

 

「丁度外に出た時に話し声が聞こえたからな」

 

「そこから登ってくる理由になってますか、それ」

 

 なんで二階の窓から登ってこれるの、とかは聞くまでもないんだけど。レイさんだし。

 

「気にするな。それはそうと随分とあの騎士と打ち解けていたな」

 

「良い人ですから、あの人。というかレイさんも警戒するのは分かりますけど、仲良くしていきましょうよ。大事な知り合いですよ」

 

「どうだろうな。だが少なくとも私は汚くもないし、掃除が下手なわけでもないことはいつか理解させる必要がある」

 

 ……掃除中に言われたこと、気にしてるんだな。

 

「まあまあ……ってそういえば。お風呂の用意って出来たんですか?」

 

「いや、湯を張るあの道具の使い方が分からなかった」

 

 そう憮然と言い放つレイさん。まあ僕も騎士団の人から使い方を聞いただけでまだ使ったことはないんだけどさ、なんかさ……。

 

 レイさんって思ったより、茶目っ気があるんだな。

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