明らかに魔法の性能がおかしい回復魔法使いと謎の女吸血鬼のマイペースな冒険生活   作:ジョク・カノサ

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25話 ピルカ

「この先だ。勝手に離れるなよ」

 

「は、はい」

 

 僕達に声をかけてきた人……ウェインさんの言う通りに僕達は後を追う。人が多い場所に差し掛かったからか周囲からの視線が痛い。というか怖い。

 

 ――あの後、聞かれた通りに僕は目的を答えた。セイレーンと呼ばれる獣人の人に会いたいと。

 

 するとウェインさんはしばらく考え込んだ後、刺々しい雰囲気を抑えて名乗り、僕達を案内すると言ってくれた、というのがさっきの出来事だ。最初はどうなることかと思ったけど、優しい人で良かった。

 

「ここだ」

 

 大通りを抜けて小道を通り、ウェインさんが立ち止まったのは大きな建物の前だった。部屋がいくつもありそうな感じで探索寮っぽい。外から見ても分かるくらいには改造されてるけど。

 

「探索隊の人なんですか?」

 

「ああ。全くもって探索に意欲的ではないが。……この時間はあそこだな」

 

 ウェインさんは建物の中には入らず、その横にある大きく広がった庭っぽい場所へと歩き出した。

 

 庭といっても僕達が貰った屋敷にあるような感じじゃなくて、木が沢山生えた小さな林のようになっている場所だ。その真ん中辺りまで進んだ後、ウェインさんは大声をあげた。

 

「お前に客だ!ピルカ!寝ているのならさっさと起きろ!」

 

「――起きとるっちゅーねん」

 

 その声に答えるように、人影が木の上から降りてきた。散った葉っぱが落ちて来るみたいにゆっくりと、両手にある薄緑の()を小さくはばたかせながら。

 

「まあさっき起きたんやけど」

 

 柔らかそうな髪の毛は同じく薄緑。僕をめんどくさそうに見る目の中の瞳は空を思い出すような透き通った青で、何かを覗かれている、というように思ってしまう。

 

 そして、その人は腕と一体化したように生えた翼だけじゃなく、太ももから下の足も鳥のようになっていた。

 

「……で、知らん顔やけどウチに何の用なん?お二人さんは」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「セイレーンの歌、ねえ。そやなあ……」

 

 木と木の間に用意されたハンモック。僕達が探していたセイレーンことピルカさんはそこに寝転んでゴロゴロし始めていた。僕達はその横で切り株に座りながら話をしてる感じである。

 

「出来るってことは否定せんよ」

 

「本当ですか?」

 

「ホンマホンマ。あ、通じてるコレ?」

 

「似たような喋り方をする人を知ってるので、大丈夫です」

 

「そっちの別嬪さんは?」

 

「意味ぐらいは読み取れる」

 

「じゃあ遠慮なく。――ウチらの歌でそういうことが出来るのはホンマの話や。傷の度合いとか性質にもよるから一概には言えんけど、どんだけ重症でもマシにはなると思うで」

 

 どうやらピオーネさんが教えてくれた噂は本当だったらしい。心を癒すセイレーンの歌。これならあの人を治せるかも。

 

「つってもなあ、セイレーンやったらみんながみんな出来るって話でもないねん。歌っちゅうからには上手い下手があるやろ。で、下手なヤツの歌にはそんな効果はない。あっても上手いヤツに比べたら微々たるもんや」

 

 ピルカさんは寝転んだまま僕達の方に顔を向け、残念、と言う風に頭を振る。

 

「え、じゃあピルカさんの歌じゃ……」

 

「せやなあ、ウチの歌の腕前じゃ精々――聞いた瞬間に飛び起きるくらいにしかならんな。自慢やけどウチ、セイレーンの中でも上から数えた方が早いくらいには歌上手かってん。アンタら運がええわ」

 

 にやっと笑いながらピルカさんはハンモックを揺らした。釣られて僕も笑顔になる。後はピルカさんもあの人の元まで案内するだけ。

 

 と、思ってたんだけど。流石にタダでやってくれるというわけじゃないようだった。

 

「とはいえガチでやろうとしたら疲れるんよ。喉も痛なるしぃ?やってくれ言われて気安くやるもんちゃうで。アンタらとは知り合いでもなんでもないし、貸し借りがあるわけでもないしな」

 

「……お金だったら出来る限りは」

 

「おい、サンゴ」

 

「うーん、財布のヒモが緩いのは気前のええことやけど、今は金って気分ちゃうな。……そや、これにしよ。ウェイン、後はウチがやっとくわ。アンタはどっか行っとき」

 

「……問題は起こすなよ」

 

「大丈夫やって、さっさと出て行くし」

 

 そんなやり取りを経て、お礼を言う暇も無くウェインさんはさっさと林から居なくなってしまった。

 

「ちょっとこっち来て」

 

 そう言って困惑する僕に向かって手招きをするピルカさん。

 

 僕はおずおずと腰を上げて顔を近づけると、さっきよりもお互いの距離が縮まった状態でピルカさんはイタズラっ子みたいな笑顔を浮かべた。

 

「アンタ、ウチとデートしよか」

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