明らかに魔法の性能がおかしい回復魔法使いと謎の女吸血鬼のマイペースな冒険生活   作:ジョク・カノサ

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6話 奇襲と決着

「うわ、でっかい鳥だなあ」

 

 眉間を打ち抜かれて目の前に落下した鳥に恐る恐る近づく。異様に大きなクチバシに加えて具体的に何色か形容出来ないぐらいのカラフルさだった。

 

「それも金になるんじゃないか」

 

 そしてそれを打ち抜いた本人、レイさんが道の邪魔になる植物をサクサクと切り落としながら返事をしてきた。物凄い速さでいきなり突っ込んできたこの鳥に反応するのもそうだけど、サラッとやってるけど凄いよね。

 

「そうですね。こんな羽根の色見た事ないですし、持って帰りましょう。血抜きとかした方がいいのかな」

 

「血を抜くのか?……これで良いだろう」

 

「え、傷口から……一瞬だ。レイさんのその魔法?ほんと便利ですよね」

 

「ある程度、それも操れるのは血液に限る。そう便利なモノでもないよ」

 

 血の抜かれたカラフル鳥の足を出発前に買っておいたロープで括り背中のカゴに放り込む。昨日の採集量を踏まえてかなり大きめのカゴを買ったからまだまだ余裕だ。

 

「それにしても、結構進みましたね」

 

 昨日の到達地点と比べると明らかに周囲の植物の密度が高い。枝葉に日の光が遮られている薄暗い場所も多くなってきた。

 

「手を出してくる魔物の数が明らかに多くなってきている。休憩が必要か?」

 

「まだまだ行けますよ。体力には結構自信あるんです」

 

「なら良い。といっても空に雲が多くなってきた。雨が降り出してもおかしくない。それに戻る時間を考慮するならそろそろ引き返した方が良いと――っ!」

 

「えっ」

 

 その瞬間、目の前からレイさんが消える。だけど僕が驚いていたのは束の間。レイさんはただ僕の横に素早く移動していただけだった。

 

 そしてなぜ移動したのか。それはすぐに分かった。

 

「えっ!?」

 

 振り向くと、僕の視界を遮るように伸ばされた手。そこに大きな木の杭が突き刺さり、手の平を貫通している。

 

「何者かの攻撃だ。それも人間の。どうやら、私達はつけられていたらしい」

 

 レイさんはそれを躊躇なく引き抜きながら冷静にそう告げた。

 

「ちょっ、け、怪我!治さないと!」

 

「問題無い。この程度に回復魔法は不要だ。……サンゴ、カゴを降ろせ」

 

「は、はい」

 

「飛ぶぞ」

 

「え」

 

 その意味を聞こうとした時にはもう僕はレイさんに抱えられて宙を浮いていた。どこまでも広がる木々が、僕の足元にある。凄まじい光景。

 

「あああああ……!」

 

「――あそこだな」

 

「おわああああ!!」

 

 上空で動きが止まったのは一瞬だった。次の瞬間には景色が上に流れていき、僕達は地上へと着地する。

 

「大丈夫か?」

 

「……あ、はい」

 

 レイさんは僕を地面に降ろし、申し訳なさそうな顔をした。

 

「開けた場所に行きたかった。あの場は私達にとって不利すぎる。手荒で済まない」

 

「いやあ、全然」

 

 確かに着地した場所は木の生えていない空き地のような場所、その中心だった。いやそれよりも、あの高さまでジャンプしたこととか着地の衝撃が全く無かったことが気になる。

 

 ……いやそれも違う。今考えるべきはレイさんにあの杭を飛ばしてきた相手だ。

 

「このまま逃げるっていうのは」

 

「あまり良い選択だとは思わない。恐らく相手は私の追手だ。逃げたとて追跡は続く」

 

「ああ……」

 

「私の正体を勘付かれた以上、ここで追跡を断ち切るのが最善だと私は思う。……おい、聞こえているか」

 

 レイさんが周囲の木々と茂みに向かって、語り掛けるように声を上げる。

 

「お前達が吸血鬼を忌避するのは分かるが、私は人間に敵対心を持っていない。ただ静かに暮らしたいだけだ。お前達風に言うのであれば……ライサンドリアに誓ってな。この少年もただの協力者だ。私が危害を加えることは断じて無い。だからこれ以上、私を追うのは止めて欲しい」

 

 僕には間違いなく誤魔化しのない本音に聞こえた。それに対して返って来たのは草木が風に揺れる音と、僕達の前方の茂みから放たれた二本の杭だった。

 

「うわっ!」

 

「……聞く耳持たずか」

 

 その内の一本は外れたけど、またしてもレイさんが僕を庇う為に伸ばした手に杭が刺さってしまう。

 

 やばい、完全に足手まといになってる。

 

「レイさん」

 

「気にするな。元はと言えば私が原因。それに……私が戦い、お前が報酬を払う」

 

 そういう約束だろう。

 

 その一言と同時にレイさんは杭を抜き捨て、その身体の周りに幾つかの血の玉が現れる。レイさんが攻撃する時にいつも飛ばしているヤツだ。

 

「退かないのであれば反撃はさせてもらう」

 

 多分、相手は音を立てずに茂みの中を移動し続けている。だけど杭が放たれる瞬間ならある程度の場所は掴めそうだ。そこで反撃するつもりなんだろう。

 

 ただ、次に飛んで来たのは杭ではなかった。

 

「……そう来るか」

 

「うわっ、冷たっ!!」

 

 一直線に飛んで来たのは大量の水。レイさんは無抵抗で被り、僕も少し浴びてしまう。

 

「ただの水だ。毒物の類は混じっていない」

 

 慌てた僕に対してびしょ濡れになったレイさんはまるで動じていない。ただ、水を被る前には浮いてた血の玉が残らず消えていた。

 

 そして、ついに今まで僕達を攻撃してきた相手が姿を現す。

 

「――ふ、ふふふ」

 

 茂みの中から気味の悪い笑い声と共に現れたのはヒゲを生やした銀髪のお爺さんだった。手には杭。そしてお爺さんの周囲には大量の水がうねりながら宙を浮いている。

 

「よおく知っているぞ。貴様らが好んで使う血の魔法は」

 

「姿を現したのなら話を聞いてくれないか」

 

「現出させた血に他の液体が混じることにより制御を失うのもな」

 

「私達が争ったところで何の意味も無い」

 

「私が生涯をかけて練り上げた『洗血霊水(パプテスマ)』。無尽蔵の水を手足、いやそれ以上の精度で扱う。貴様らを封殺する為の魔法よ。私の前で血を操れると思うな」

 

 ダメだ。なんか物凄く気持ちよさそうな顔で一人で喋ってる。話が通じてない。

 

「詰みだ。このままそのガキごと、魔力が切れその美しい肉体の修復が出来なくなるまで削ってやろう」

 

 お爺さんは杭を懐から取り出しニタリと笑う。それを見たレイさんは何も言わず、一度だけ溜息を吐いた。

 

「仕方ない。……気づかないか?」

 

「ぬ?」

 

「上だ」

 

 レイさんはそう言って空を指差した。釣られて僕も上を見る。すると。

 

「えっ」

 

 巨大な血の槍が空に浮かんでいた。

 

「ぬう!?」

 

 お爺さんも上を見たのか、慌てて自分の周りに漂っていた水の一部を上に射出する。だけど、槍の形は水が触れても一切変わらなかった。

 

「既に凝固は終わっている。それでは精々表面しか削れないだろう」

 

「あ、ありえん!!この距離から血の現出と状態を変化させるなど!見たことが――」

 

「もう分かっただろう。お前では私を殺せない」

 

 目を見開いて驚くお爺さんに対し、レイさんは淡々とそう告げた。

 

 凄い。なんか流れるようにこっちが有利になってる。

 

「国へ戻りお前の上の人間に伝えてくれないか。追っていた吸血鬼は殺したと。そうすればこの場は……」

 

「っ!」

 

「あっ」

 

 再び投げられた一本の杭。僕の方に向かってくるそれはレイさんの手によって横から弾き飛ばされる。

 

 ただ、その隙にお爺さんは再び森の中に飛び込んでしまった。

 

「逃げちゃいましたね」

 

「……私が追って話をつけてこよう」

 

「放っておく……わけにもいかないんですかね」

 

「ああ。あの手の人間がこれで諦めるとは思えない。こちらの停戦の提案も無下にされた。これ以上付きまとわれない為にはここで()()()()()話を付ける必要がある」

 

 レイさんは珍しく怒っているようだった。国に追われていると身の上を話してくれた時は怒りというより諦めているように見えたけど。

 

 まあ当然か。元気な身体を取り戻して心機一転、って感じだったのにこんな場所にまで追いかけてくるんだから。僕だって怒るかもな、そりゃ。

 

「だから、サンゴにはここで待っていてほしい」

 

 一変してレイさんは少し申し訳なさそうな表情で僕を見る。追いかけるのに僕は邪魔だって事かな。別に足手まといなのは事実だから申し訳なさそうにしなくても良いと思うんだけど。

 

「分かりました。待ってますね」

 

「ああ、すぐに戻る。――『血界』」

 

「うわっ」

 

 レイさんがそう呟いた瞬間、僕をすっぽりと覆うように赤い血が壁となって動き始めた。レイさんの顔や付近の景色が壁に阻まれていく。

 

「魔獣対策だ。暗いだろうが我慢してくれ」

 

「ああ成程……ってほんとに暗い!怖いのでなるべく早くお願いします!」

 

 何も見えない。が、レイさんの柔らかい口調の返事が聞こえた。

 

「ん……分かっている。そう時間はかからない」

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