明らかに魔法の性能がおかしい回復魔法使いと謎の女吸血鬼のマイペースな冒険生活   作:ジョク・カノサ

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9話 クエスト

「昨日、四人組のある探索隊がライオット大森林の一角へと探索に向かい、被害を受けて帰還した」

 

「被害?」

 

「魔獣だよ。戻って来たのは憔悴した三人のみ。残る一人は行方不明、もしくは取り残された形になる」

 

 突然の物々しい話題に思わず息を呑む。そうだ、普通なら探索は命がけ。みんな危険を背負って冒険してるんだ。その帰ってこなかった人っていうのも多分……。

 

「まあこれくらいなら日常茶飯事なのだが、この魔獣とやらが厄介な存在だ。同じような被害を同じような場所で受けた探索隊が他にも幾つかある。どうやら特定の範囲内で縄張りを形成し、かなりの速度で拡げているみたいでね。それが分かった以上はもう放置出来ないと判断した」

 

「その討伐を私達に頼みたい、とでも?」

 

「そういう事になる。もちろん働きに見合った報酬は用意しよう。承諾してもらえるなら管理所を通して正式なクエストとして成立させるつもりだ」

 

「……クエスト?」

 

「人物や団体が条件に合う希望者、もしくは特定の人物を対象にする頼み事だ。指定の探索物の採取や今回のような魔獣の討伐等々が主な内容だね。報酬の支払いや成果物の譲渡の際に管理所が仲介に入るから口約束に比べるとトラブルが格段に少なくなる。探索隊としてこの場所でやっていくなら覚えておいて損は無いシステムだよ」

 

「へー……」

 

「他にもクエストの達成はその探索隊の確かな実績となる。騎士団(我々)はクエストを受ける事はあっても依頼する側に回る事はあまり無い。そんな我々の頼み事を成し遂げたとなれば、それは君達の実績として大きなものとなる筈。報酬も含め、君達が得られるものを考えれば悪くない取引だとは思うが」

 

 グレイグさんの視線はレイさんではなく僕の方に向けられていた。

 

 うーん、それが本当なら確かに引き受けても良いかもしれない。でも報酬、報酬かあ……。

 

 あ。

 

「あのー、その報酬って僕達が欲しいものを選んだり出来ますかね」

 

「基本的には金銭を想定しているが……何か欲しいものが?」

 

「僕達の拠点です。今は宿暮らしなのでちゃんとした場所が欲しいと思ってたところなんですよ」

 

「おい、サンゴ」

 

 レイさんが小声で僕の名前を呼ぶ。本当に引き受けるのか?と聞かれてるのが目線で分かった。

 

「言ってみただけですよ。流石にそんなものを報酬には――」

 

「分かった。それでも良いだろう」

 

「え?」

 

 あれ?良いの?

 

「チェリエッタ君」

 

「はい。ちょうど今は使っていない私達の探索寮があったはずです。団員向けに抑えたは良いものの、立地的にそこから勤務するには向いてなさすぎて引越しが続出した悲しい物件ですね。といっても、そうなっても手放すのを惜しむくらいには色々と整った物件だったとは思います」

 

「お互いに渡りに船か。なら報酬はその物件の提供、という事でどうかな?」

 

 え、えー。何となくの要求が通っちゃったし、しかも報酬が凄い魅力的に聞こえる。こんな立派な探索隊の人達が使ってた建物でしょ?僕達がそんな場所を拠点にするなんて普通にやってたらいつになるか……。

 

「……レイさん」

 

「私は反対だ。これ以上関わるべきじゃない」

 

 レイさんは毅然とした声音だった。まあそうだよね。自分を追っかけ回してる相手の頼みだし。

 

 なんかグレイグさん(あの人)は僕に選択権があると思ってるみたいだけど、これを引き受けるかどうかはレイさん次第だろう。実際に魔獣と戦うのはレイさんで、多分僕は何も出来ないんだから。

 

 うーん、でもなあ。成功すれば今すぐに落ち着いて住める場所が手に入るのって凄いチャンスだと思うんだけどなあ。ううん、しょうがないかなあ。

 

「そこまで拠点が欲しいのか?」

 

 唸る僕にレイさんが問いかける。

 

「欲しいですね。僕もそうですけど、レイさんが落ち着いて居られる場所が必要だと思って」

 

 この二日間、レイさんは僕の頼みを聞いて宿に泊まってるけど、常に周囲を警戒してる感じでリラックス出来てるようには見えなかった。

 

 宿といっても僕達以外に客は居るし、今まで逃亡生活をしていたことを考えると注意深くなるのは当たり前なんだろう。

 

 でも、知ってる人しか居ない屋内ならそれも少しはマシになるんじゃないか。安心して過ごせるんじゃないか。それが僕の考えだった。

 

「……」

 

「それに頼み事を聞いて欲しいモノを貰うっていうのは別に悪い事じゃないなあと。人の役にも立てますし。でも、実際に戦うレイさんが嫌なのであれば僕は――」

 

「分かった」

 

「あれ」

 

 あれえ?いいんですか?困惑する僕を置いてレイさんは正面へと向き直る。

 

「だがその前に件の物件の下見と報酬内容の詳細な決定が先になる」

 

「それは当然の要求として受け取ろう」

 

「そしてそのクエストとやらについて。お前達がこの都市内で大きな力を持っているのは見て取れる。もし仮に、その管理所とやらとお前達が結託し、その取り決めを少しでも破るようなのであれば……」

 

「貴様ぁ!我らが約束を違うというのかぁっ!!!」

 

 グレイグさんを睨むように見つめるレイさん。そしてその言葉が気に入らなかったのか横に立っている騎士の人が怒ってきた。他にも声は上げてなくてもこっちを睨んでる人が結構居る。

 

 場がどんどん剣呑になってるのに対して僕があわあわしていると、グレイグさんが真面目な表情で片手を上げた。

 

「止めろ」

 

 重い静止の声。それに合わせて横の人達は元の体勢にサッと戻る。さっきまでの雰囲気はもう無くなっていた。

 

「君が懸念を抱くのは理解出来る。吸血鬼だと疑われた矢先の話だからね。だが私は、私達は約束を決して違わない。君達が私達の敵ではなく、この都市の住人で居るかぎり、私達にとって君達は守るべき民なのだから。これに関してはもう信じてもらう他無い。君達がクエストを達成し確かな報酬を受け取るまでは」

 

「……だそうだ、サンゴ」

 

「え」

 

「決めるのはお前だ。私はお前の選択に付いて行く」

 

 どうやらそういう事らしい。うーーーん、色々考えたけどこうしてグレイグさんも約束は違わないって言ってるし、ここは。

 

「分かりました、引き受けます」

 

 人助けして気持ちよく拠点をゲットしよう!レイさん頼りだけど!

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