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1 竜人と異邦人の邂逅
ドラゴン。
あるいは、シンプルな言葉で竜。
それは無限とも言える寿命と溢れ出る力、人間達の前へはめったに姿を現さないその神秘性から神と同等に扱われることを許された地上で唯一の生物。
人間は竜を畏れ、竜もまた自身の立場を理解し、故に世界の平穏は保たれていた。
魔界からの侵略者が現れるまでは──
「──力ある竜は立ち向かい、人間は祈りました」
地上奪還を目指した竜と侵攻を続ける魔界勢力の戦いは多大な被害が各地へもたらしていく。
人間達の目にそれは神話の戦争程度と映っていたようだけど、無関係でいられたのはほんの数年程度だった。
戦いは対等ではなく、圧倒的な竜の劣勢であったのだ。
それもそのはず。魔界の勢力は何の策もなく地上侵攻へ踏み切った訳ではない。
竜が自身の翼に誇りを持ち、空を支配していることは知られていた。
故に対策されていて、誇り故に竜はそれでも飛んで立ち向かい死んでいく。
そんなある時、竜の中から人間へ声を掛けるものが出た。
このままでは全てが終わってしまうと、協力しないといけないと申し出たのだ。
「敵を打ち倒すには地から敵領土へと乗り込み、根源を討つしかない。しかしそれができる身体の人間は弱い」
傷ついた竜と追い詰められた人間の導き出した答えは一つ。
それは血を混じり、魔を討てる存在を生み出すこと。
「侵攻を抑え、成長を待ち、力を蓄え……」
竜の如き力を持った人間、竜人による人類史最大の作戦が決行されようとしたその時。
どこからか現れた勇者と呼ばれる存在が勢力図を引っくり返してしまった。
あれよあれよという間に今までが何だったのかと言うほど簡単に、かつ簡潔に、勇者は戦いを終わらせた。
その者は神に遣わされた真の勇者であったのだ。
「勇者は国を築き、崩壊した政権を立て直し、天寿を全うされた。我々はかの者の意を継ぐ義務がある──」
エチゴ国はアガの街。ここに王立ミズノハラ学園がある。
ヘンな名前に思えるけど、400年前の勇者がそう命名してしまったんだから仕方がない。
名前はさておき、現在でも清き意志が引き継がれ整備されているのだから素晴らしい事だ。
新年新学期、とすれば様々な行事があり。
家庭の事情で高等部からの参加となった私だが、ようやく受けられたわくわくの初授業はなんというかしかしつまらないものだった。
授業開始初日のウォーミングアップみたいなものとはいえ、とっくに聞き飽きた絵本の話を聞くのはとにかく詰まらない。
大真面目に話をしてくれている教員には失礼だけど、きっとみんなが思っている事だ。
足並みを揃える、世界を救ってくれた勇者様への感謝を広めるって信仰的な意味なのは分かるんだけどさ。
鐘がなってすぐバラけていく教室の中、教科書を眺めたまま動かない隣の席が目についた。
あー……、そういえばそうか。
こんな話でも目新しく感じて興味を引かれるやつがそこにいたか。
「ルル。そんなに戦争のことが気になるの?」
声をかけてから一拍置いて、ぱたんと教科書を閉じたルルは伸びてから私を見る。
始めて会った時からずっとこう。なんともマイペースな奴。
のんびりとした黄緑色の眠たげな瞳がこっちへ向いた。
「……勇者は、竜人と仲良くできたのかな」
こてん、と首を傾げながら質問返し。
薄い紫の癖っ毛がもふりと揺れた。
「さぁ? 少なくとも──」
──私はあなたが気にいらない。
そう告げると、ルルは特段驚いた様子もなくにへらと笑った。
どこが笑えるんだろ。嫌われてると正面から言われて嬉しがるなし。
「あ、鐘鳴った」
「……次は実習よ。さっさと準備なさい」
「はーい。んふふふ」
ルル。本名は“オル・ガ・ルヴァ”。
正直に言えばとても変わった名前だけど、
こんなのでも400年前の勇者と同じ、別世界からの来訪者。
そして私は、当時に世界を救う筈だった竜人達の子孫。
「行くわよ」
「まってー」
歴史的な溝のある私達が仲良くなんて、できる訳がない。