ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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10 宝剣ドラゴンスレイヤー

 

 

 

「……思ったより地味なビームだったな……」

「本気で撃っても良かったのよ」

「そいつぁ、うん。ルルちが砕けちまうか」

 

 

 脆い連中に合わせて細く収束させピンポイントで撃ち抜いたり薙ぎ払ったりと考慮したのになんて言い草だ。

 流石に全力でブチかませば、逃げ場のない熱と衝撃が狭い通路を駆け巡ってルルもフロレンスも消し飛んでしまうのは目に見えてる。

 てかフロレンスは耐えられる算段あるんだ。さっきの氷の盾でも抑えられないと思うよ。別名無慈悲砲だし。

 

 

「試してみる? 私の本気ブレス」

「怖いからやらんよ」

 

 

 ブレス攻撃は竜の象徴であり特権である。

 人間ベースのシルエットをしている竜人だと口から発射するそれはちょっと……な感じするけど、力の誇示するっていうのはそういうものだ。

 

 

「だめだよ」

 

 

 廊下の隅でぷるぷるしてるだけだったルルが立ち上がり、そっと私の服をつまみながら首を振った。

 冗談よ。こんなやつ相手に私の本気を見せるわけないじゃない。

 

 

「仲良くしたい。だから戦争はだめ。わえ、嫌だから」

「安心しろわえちゃん。今の世界でそうそう戦争は起きんよ」

「だからなの。戦いはだめ」

「参ったな……」

 

 

 おーおーフロレンスが困ってる。

 私達を困らせたんだからそれくらいの報いは受けて貰おうか。

 あとひと段落したしさっきの魔物ってやつの説明をして欲しい所だ。

 

 

「んあ? ああ、一般的じゃないのか」

「思い当たる節としては魔界関連ね。どうなの?」

「ん-。そうだねぇ」

 

 

 魔物といえば、魔界が侵攻を開始した頃より各地を困らせている文字通り魔の物だ。

 400年前の勇者が打ち倒してからは残党が時々報告される程度のものだったはずなのに、地下のこんな所でしかもわらわら出てくるなんてどういう事なんだろう。

 

 フロレンスは明かりで壁を見て、メモを取り、何かを調べながら口を動かす。

 なんか学者っぽい振る舞いが似合ってて腹立つな。

 

 

「まず魔界って前提が違うな。そもそも魔界なんてもん存在しない」

「それは大きく出たわね」

「あんま支持されとらん説だし」

 

 

 それじゃあ今までの魔界だの侵攻だのっていうのはどうなっちゃうんだ。

 ルルは式に絡まない学だとさほど興味が湧かないのか、それよりもフロレンスが明かりにしている道具の方が気になるらしい。頭の横を浮きながら光っているそれをじっと眺めている。

 

 

「魔力は感情を帯びるってのに心当たりはない?」

「……激情に駆られた方が攻撃魔法の威力が上がる、というのは昔からの定番ね」

「そうそういうの。で、そんな感じで負に傾いた魔力は再利用が難しく、大抵がばら撒かれたまんまになっちまう」

 

 

 空気、酸素と同じようなものって説か。

 世界に存在する魔力の総量は一定でってやつ。

 

 

「そうやって溜まっていった恨みつらみ、嘆き怒りの魔力が具現化したものが魔界や魔物の正体ってワケだ」

「それならさっき見た骸骨や鎧っていうのには悪い事をしたかも」

「といいますと?」

「まだ生きたいと悲しんで、更にそこから倒されるなんてかわいそうじゃない」

「……優しい子だな」

 

 

 人としての思い遣りに優しいもなにもないわよ。

 ただ死んだ後にまで苦しむのはかわいそうと思っただけ。

 

 

「じゃあ、魔物は魔力の塊? 壊すと霧散するの?」

 

 

 意外にも話を聞いていたルルが首を傾げた。

 

 

「まぁそうね。オレは自然な状態へ還してやるのがしてやれる事と思ってるけど」

「フロレンスなりに信念があってのことなのね。いいと思う」

「……ヴェオ」

「おん?」「は?」

 

 

 なんでここでヴェオなの。

 詳しい信条とかは知らないけど、ヴェオは霧でしょ?

 

 

「ヴェオは深き森と深き霧、狼の遠吠えと畏敬の念。見守る者。ヴェオは、恐れで成り立つ。ヴェオは──」

 

 

 ああ、自分の信仰対象が魔物だったかも知れないってことか。

 

 

「魔物と一口に言っても全部が全部悪いもんじゃないさ。ここでの歴史で言えば人と竜との関係性も畏れだし」

「ちょっと、それだと私達が魔物みたいなんだけど」

「似たようなもんだろ。邪悪か否かってだけで」

「竜は無敵なだけでちゃんと自然に存在する生物よ」

 

 

 畏怖も敬意も全くなく、堂々とフロレンスはそんなことを言ってのける。

 いつか信心深いやつらに刺されるから気を付けた方が良いわよ本当に。

 

 

「ま、ひと口にまとめると魔物は魔力の塊。倒すと霧散してハッピー。おけ?」

「……でも、お母さん、素材にしておっきい虫作ってた」

「おっきい虫だぁ?」

 

 

 でかい虫か……。

 なんかやな感じね……。

 

 

合成虫(ごうせいちゅう)はかっこいいの! カブトムシ!」

「わーわー。分かった分かったうるっさいな」

「オレはザリガニのが好きかな……」

「どういう反論よ」

 

 

 話を聞いてみると、どうもルルの世界の魔物は死んでも形が残るらしい。

 ルルの母親は消費しきれない素材の数々を何とか利用できないかと考え、死体の合成技術に手を付けたという。

 剥製にするならともかく、死体を組み合わせてわざわざ虫に仕立て上げるなんて中々いい趣味してる。

 

 悪びれもせず喋る辺り、向こうの世界だとそんなのが倫理的に受け入れられているの? どう考えたって死体に鞭打つ以上の冒涜としか言えない。

 子供を捨てて去るような母なのだし、人間性もたかが知れているんだろうか。

 

 

「さり気なく言ってるけど、わえちゃんはやっぱり異邦人なの?」

「あ、やべ」

 

 

 他に人いないし、やるか?

 さようならフロレンス……。

 

 

「やめてよぅ。ルルが偽名って時点でだいたい察してるからぁ」

 

 

 え、そうなの?

 ルル。あんた漏らした?

 

 

「お漏らしはないよ?」

「そんな話はしてないのよ」

「ええー」

 

 

 で、フロレンス。

 どこまで知っているの?

 

 

「どこまでと言われても、今名乗ってるルル・レヴニールが偽名って程度以外には特に」

 

 

 最低限ではあるけど、うーん。

 セーフか?

 でも偽名だとバレてる時点で……。

 

 

「ふふん。フロレンスさんは化粧品の営業やってるからな」

「どこで知ったの? 情報漏洩なら手を回さないといけないから教えて」

「お前のパパさんだよ。ここに眠るドラスレの回収依頼したのも同じ」

「え、そうなの?」

「そそ。こうみえて頼りにされるんだ」

 

 

 それなら、まぁ、いいか。

 お父様の考えだし何かそうする理由があるはず。

 

 フロレンスが調べていた壁を指でなぞり、しばらくするとガラガラと音がして扉が現れる。

 隠し通路があるというのは本当らしい。

 

 

「ま、じゃあルルについてはいいわよ。ところでそのドラスレって?」

「その名の通りのもんだよ。今回探索したのも、先んじて回収したいから──」

 

 

 「あ!」とルルが声を上げて走る。

 目線の先、薄暗くて分かりにくいが祭壇のような所に剣が飾られているのが見えた。

 もしかしてアレが“ドラスレ”ってやつなんだろうか。

 

 

 

「ドラゴンスレイヤー、縮めてドラスレ。名前の通り、ドラゴン系相手に絶大な効力を発する武器だよ」

 

 

 

 こんな地下奥深くに安置されていたとは思えない程に、その剣は綺麗だった。

 王宮に飾られる宝剣と言えるほどの輝きを持つ細身のそれは、美しく、そして私に竜の血があるからなのか、とても恐ろしく感じる。

 ルルやフロレンスはそういった恐れはないのか、この剣を警戒する事無くまじまじと観察できていた。

 

 

「なんか思ってたのと違うな」

「そうなの?」

「オレの知ってるドラゴンスレイヤーはもっとこう、なんか黒っぽくて生々しい感じのだから」

 

 

 ふーん。で、これどうするの?

 

 

「ひとまずは回収。そっからどう処分するかは持ち帰ってから相談。んじゃ──」

 

 

 背伸びをしながら祭壇に手を出したフロレンスが、横に吹き飛んだ。

 魔物の気配はない。とすれば……ルル。

 

 

「おい、わえちゃんどういうつもりだ?」

 

 

 フロレンスの語気に今までのあっけらかんとした様子がない。

 それもそのはずで、ついさっきまで戦争は嫌だ戦いは駄目といって丸まってたのに、ルルは手帳を片手にして明らかに臨戦態勢へと移行しているのだから。

 

 性格からしてお宝の独り占めって線は無いはず。

 けどきっかけとしてはドラゴンスレイヤーくらいしかないし……。

 ん? ドラゴンスレイヤー?

 

 

「なるほどね」

 

 

 綺麗さに見とれていたけど、その柄や刃に刻まれている紋様には見覚えがある。

 意味は分かったけど理解はできないでお馴染み、ルルの扱う“文字”だ。

 ルルはこれを見て、これを回収すると言われ、阻止しようとしている。

 

 

「わえ、できることならきっかけは与えたくない。空が飛べればいいの」

 

 

 どうしようかな。

 

 

 

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