「わえ、できることなら仲良くしたい」
「だったらやめてくれると助かるんだけど」
「式が見つかったら困る」
剣の前から動かないルルと、どうしたものかと様子を伺うフロレンス。
一触即発というか、もう戦いは始まっている。
ルルはあのドラゴンスレイヤーを破壊する気の筈だ。そしてフロレンスはそれを阻止したい。
両者の意見と目的は違え、どちらかを通すならどちらかが諦めなければならない。
「となれば決闘ね。いいわ、やりなさい」
「止めるって発想はないのかドラゴン娘ぇ!」
いやだって、そっちいきたくないもん。
「ドラスレパワーか!」
「そういうこと。ま、死なない程度によろしくどうぞ」
「茶化すのはだめだよ」
のんびり言ってるけど、ルルがこの発端だからね?
一瞬気の緩んだ瞬間を狙いフロレンスが駆ける。
腕を伸ばし、目的はドラスレの回収一択か。
「ヴィントシュトース!」
「どゎお!」
ルルが何事かを叫ぶと同時。
フロレンスの小さな身体が吹き飛んだ。
「魔法を使ったのね」
「しかも風系か、舐められたな!」
吹き飛びつつ空中で立て直したフロレンスは、氷の盾を展開しながら再度突撃する。
もう一度突風が吹き荒れ、盾が破壊された。
「っ!」
焦ったのはルルの方だ。
あの氷の盾は最初に見せた時と同じく、何か攻撃が当たるとそれに反応し破裂するようになっているらしい。
カウンターとして降り注ぐ氷柱を前にルルは対抗手段を持っておらず、また戦い慣れていないせいでなるべく身を小さくしつつ耐えるしかできていない。偶然か、それともフロレンスが当たらないよう図ったのかは分からないけど無傷な様子。
しかし足止めには充分であり、その隙に剣は──フロレンスの手にも、飾られていた台にもなかった。
「風は膨らんで、しぼむ」
「んー、賢いなわえちゃん。文字通り一本取られた」
剣はルルの手にある。
口ぶりからしてどうやら、風の魔法を使って手元に引き寄せたらしい。
けどそこからどうする気なんだろう。壊すにも手間がかかりそうだし……。
「わえちゃんじゃないよ。わえの名前、オル・ガ・ルヴァ」
「本名言っちゃったよ」
そういえば偽名ってまでしか知らなかったんだっけ。
まぁ、異邦人ってバレた時点でその内こっちの名前も知れてたか。
「それにしても、オル・ガね──」
フロレンスが吹き飛んだ。
どがぁんと壁に叩きつけられ、がらがらと崩れる瓦礫に潰されていく。
流石に不意打ちはひどいんじゃない?
「ねえ。これ壊したい」
「好きなようにすれば?」
「これが残ってると、後でとても困る事になる」
「だから好きなようにしなさいよ」
「わえ、壊せない」
紙を燃やすように、とはいかないか。剣だものね。
でもそんなこと言われても、私はそれとあんまり関わりたくないしな……。
「いてて……。おいお前ら、オレの心配はないわけ?」
「どうせ無事なんでしょ」
「だけどさぁ」
壁にぶつかる直前に上着のポケットへ手を入れる余裕を見せたんだしと心配せずにいたが、本当に無事だったとは。
結構痛がってるし回復魔法で手当てしてるし、私ほど頑丈な訳ではなさそうだけど。
「なあ、ルルさんや」
「んー?」
「オレと依頼主は別にその剣の解析をしたい訳じゃないし、むしろその逆だ。保護だよ」
「そうなの?」
それは初耳だ。
「どう保管、管理していくかは考えるとして一刻でもはやく回収したいからってんで今日来た訳」
「お父様が一刻も早くと指示するからには、何か理由があるのよね?」
「名前と肌で感じるそのなんかこう、感覚で分かるだろ? ドレゴンスレイヤーだからだよ」
ルルの目線が手元の剣へ向く。
あれはただの剣ではない。名前の通り、私が感じている通り、確実に竜を殺せる代物だ。
どうしてルルの扱う文字が刻まれているのかとかどうしてこんなところにだとかの疑問は残るけれど、そんなものが野放しになっているのは確かに危険かもしれない。
こういう遺跡というのは時折盗掘や宝探しの標的になるのだ。
「持ってるだけで竜を威嚇し、振るえば殺せる。そんなパワーバランスのぶっ壊れた剣が世に出てみろ。そんであまつさえ竜殺しの方法が解析と公開されてみろ。どうなる?」
「今までの竜と人との関り方がひっくり返る」
「そういうこと」
それなら回収とさっきの“処分”って言い方も納得だ。
少し言葉が悪いけど、目の届くところにしておきたい。
「それが分かっているなら……」
「ん?」
「どうして、わえの事を否定するの」
否定って。
「わえの時代、誰でも使える武器のせいで終わっちゃった。誰でもボタン一つで戦えるせいで……」
「……質量兵器のご登場で終末戦争か。だからこういう兵器を破棄して回りたいわけ」
「うん」
驚きはない。かつて400年前の勇者はテッポーなる兵器を考案したらしいが、将来を案じ詳細を残さず資料を全て破棄したという。
それに乗っかって言うならルルのことも理解できる。
ルルの扱う文字、式は誰でも魔力を流せば同じ状態の魔法を発生させられるものだ。
子供でも王宮魔導士の魔法をぽんと出せたりすれば、ドラゴンスレイヤーが広まるのと同様に世界はひっくり返ってしまう。
戦争だって起きるかもしれない。
「──それだけじゃないぞドラゴンガール。その混乱であちこちから負の意志が増えれば魔物やなんかもそれに応じて増える。そうなりゃ全土が混沌に沈むぞ」
「だから!」
ルルが珍しく声を荒げた。
子供が癇癪を起すように、手に持った剣を思いっきり地面へ叩きつける。
「こんなもの、作らなきゃ!」
けれどドラゴンスレイヤーは刃の一つも欠ける事無く、地面を転がってフロレンスの下へ行く。
ポケットに手を入れたままのフロレンスは蹴り上げると、器用にそのまま剣を背負った。
どうやらなんやかんやと言いつつ回収は任せるつもりになったようだ。
「ヴェオは見てるだけ。でもわえは式を答えた。解を求められたから」
ルルの高い計算力、見せてくれた記憶力や応用力。そして、得意とするそれらを嫌悪する姿勢。
過去を語らないのはきっと、兵器開発に携わってしまったんだろう。見た目はともかくこんな性格で。
……いや、こんな性格だからか。母親へ認められたい一心の。
「それでルルちゃん。オレにこの剣を持たせてくれたってことは?」
「分かっているなら、きっとわえよりも賢く立ち回れそう。わえは、聞かれたら答えちゃうから」
「フロレンスさんは化粧品の営業やってるからな。任せろよ」
営業経験に全部の信頼寄せ過ぎでしょ。
しかも本当か怪しいし。
「ドラゴンガールもこのルルっちの話に乗るってことでいいな?」
「そうね。流石に私の代で混沌は見たくない」
ルルの事情なんかどうでもいいのよ。
私は私なりに竜人として平和を考えてるだけ。
「の割にはさっきの戦い、結構ほっとかれた気がするんだけど」
「なんのこと?」
「いやだってさ、ドラスレが怖いのは分かるけど動けない訳ではなかったろ?」
……へ?
いや、結構その剣が存在してるってだけでできることなら寄りたくなかっただけだけど。
「ルルとオレの実力測りたいにしろ、もっと状況があんだろ。つか、オレはこんな子相手に本気で戦えないし」
「むぅ。すぐわえのこと知りたがる」
「なー卑怯だよなー。自分が強キャラだからってさー」
いやだから、その剣が嫌だから説得する方法探してちょっと様子見てたっていうか。
「んじゃ、帰るか」
うわぁこっちくんな!
「え、ひどい……」