ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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12 戦い終わって日が暮れて

 

 

 

 地下迷宮を脱し数日後。

 お父様へ連絡を取りフロレンスの行動についての裏は取れたけど、それでも幾らか謎が残っている。

 

 

 まずあの迷宮について。

 私とルルはかなりの長距離を飛行し墜落したはずなのに、それと比べ短い距離を歩くだけで学園内の中庭へと脱出できたのが納得いってない。

 フロレンスは迷宮についてを「混沌の産物だからこういうのも当然」と評していたが、それにしたっておかしい。

 

 次に、なぜあの場に大量の魔物が出現したか。

 魔物の存在や出現理由についてはあの場で説明されたものの、なぜあの瞬間にわらわらと出て来たかについては説明がなかった。

 確か最深部でこういう事が起きるのは常識なんて言ってたっけ。どういう常識なのか分からない。

 

 更にいえばただのいち生徒たるフロレンスがどうしてそんな仕事を請け負っているのか、どうして資料の作られていない未踏の迷宮の奥にドラゴンスレイヤーが存在しているのを確信していたのか、とか……。

 

 

「問い詰めようにもあいつ、しばらく学園(ここ)に顔出さないし……」

「どうしたの?」

「ルルに言ったってしょうがないことよ。どっかいきなさい」

「そういうのひどいと思う。仲良しなのに」

 

 

 怒りを抑えながらぎぎぎ、と横を向く。

 相変わらず眠たげな黄緑色の瞳が真っ直ぐ私を見ていた。

 

 

「……なんて?」

「わえ達、仲良しなのにどっかいけはひどい」

 

 

 このあんぽんたんは何を言ってやがるんだ。

 という目で、睨み返してやった。

 紫色の癖っ毛をもふもふさせている。

 あんぽんたんを。

 

 

「……」

「ねー。ねーえー」

 

 

 うるせぇ。

 

 

「なんだか今日はつっけんどん」

 

 

 あんたがぐいぐい来るから距離開けようと思ったのよ。

 飛行練習に付き合ってやった程度で調子乗り過ぎ。

 もっと離れなさい。そんでどっか行きなさい。

 やかましいから。

 

 

「でもそれだと一人でかわいそう。一緒にいた方が楽しいよ?」

「ルルは楽しいでしょうね。私はひとり(こっち)の方が気楽なの」

「だったらわえから距離詰めるー」

 

 

 わたわたと両手を広げて抱き着こうとしてくる。

 尻尾でべしんと拒否の意をぶつけると、何とそのまま抱き着いてきやがった。

 ええいもう、離せっての!

 

 

「んふふ、(つか)めた。わわ、なしててっこがーんー」

 

 

 ぶんぶん振り回してもルルはめげず、どう言う訳かその細身にしてはな腕力でしがみ付いている。

 どうでもいい所で根性あるなコイツ。流石は兵器云々と一人で何とかしようとした気概のあるやつだ。

 そういう骨のある奴は大好きな部類に入るけど、いざ目の前でこうされるとただウザいだけじゃん。

 

 

「わぷ」

 

 

 流石にぶん回し過ぎるのも危ないので程々にし、ぴたっと止めると力尽きて落ちた。

 まるで夏の終わりのセミみたい。ほら、玄関先に落ちてるあの感じ。

 

 

「尻尾、おっきくなったりちっちゃくなったり……」

「ある程度は大きさ変えられるのよ。圧し潰してやりましょうか?」

「それは困るかも」

 

 

 翼と尻尾は大きさ自由自在だ。最小最大の幅はあるけど、それ以内であれば苦も無く変えられる。

 というかルルのやつ、今まで散々見て来たでしょうが。特にこの前なんかは最大サイズの翼で守ってやったりしたっていうのに。

 

 

「わえはどこもおっきくならないのに卑怯だと思う」

「知らないわよ」

「お母さんがくれたの、この厚底だけ」

 

 

 そんなの知らない……っていうか、あんたの普段はいてる靴って厚底だったの!?

 うわよく見たら本当だ。通りで細身な癖して目線が高いと思った。

 

 

「ちょっと歩きにくい」

「……ルルの足元なんて気にしたことなかったけど、それ抜きにするとフロレンス程ではないにしろ小さいわねあんた」

「お母さんそこは頑張らなくてよかった」

 

 

 厚底の靴を脱いでルルが立ったので並んでみる。

 いつもは目線の下辺りに頭頂のもふもふがあるのに、靴を脱いだだけで肩辺りをもふもふするようになった。

 

 

「……こっちが小さいんじゃなくて、そっちがおっきい気がする」

「そう? まぁ、確かに……」

 

 

 現在授業合間の隙間時間。騒めき立つ教室を見渡し、自分と同程度の身長を探す。

 いて男子生徒くらいかなぁ。同じ女生徒だと……うーん、いるにはいるっぽいけどあんまいないね。

 私今身長幾つだっけ。最後計った時は170に乗ったくらいだったような。

 

 

「ちゃーんす」

 

 

 ぼふ、と胸元にルルが抱き着いてきた。

 こ、こいつ油断を誘ってこれが目的か……ッ!

 

 

「んふふふ。やわらかい。あったかい」

「離れろ」

「やってみろー。わえ壊れちゃうぞー」

 

 

 肩を掴んで引き剥がそうとするも、さっき尻尾へ掴まっていた時と同じく離れない。

 むしろ本人の言う通り、力を込めて無理やり外そうとすればそのまま怪我をさせそうだ。

 ふざけんなこいつ。

 だが調子に乗り過ぎると痛い目見るぞ。

 

 

「ぶっ」

 

 

 私の胸ですりすりしまくって静電気を発生させていた紫のもふもふが、ふいにのけ反った。

 状況が理解できなかったのかもう一度試して、不思議な顔をしながら私を見上げる。

 

 

「かちかち」

「まずは離れなさいよ」

「あ! もしかして鱗!」

「離れろっての」

 

 

 隙ができたのでぐいっと持ち上げ、尻尾に乗せ、弾いて距離を取る。

 

 

「むむ」

 

 

 ざざざっと着地したルルは再び距離を詰めようと動き、全然諦める様子を見せない。

 どうやら好奇心が新たな原動力となりその身を動かしているらしい。

 

 

「こないだもちょっと見た気がする。空を飛ぶにふさわしい、軽くて頑丈な素材」

「人の鱗を素材呼びすんなし」

 

 

 竜人にも竜と同じく鱗がある。

 鱗は魔力を蓄える器であり、身を守る鎧であり、頑強な武器である。

 ただどうしたって人間社会での生活で見せびらかすのは悪目立ちするため、普段は目立たないよう透明化させているのだ。

 

 透明化している時の鱗はそのままだと鎧としての役目を全く果たせず、なんなら先ほどルルが抱き着いてきた時のような軽い物理干渉は素通りさせてしまう。

 しかしある一定以上の衝撃に対しては自動で透明化を解除し、元の鎧としての役目を果たしてくれるというのだから便利なものだ。

 

 

「あんたは調子に乗って強く抱きしめ過ぎたのよ」

「じゃあゆっくり抱き着けばいい」

「やってみなさい」

 

 

 じり。

 じりじり。

 

 

「空を飛ぶにはどうするか、空を飛ぶものを観察することが第一」

「鱗どころか翼も尻尾もないのによくいう」

「無ければ作る! わえのため!」

 

 

 その研究を悪用される危険は?

 

 

「……あ。う、危ないところ……」

「諦めることね。どうせルルが私に及ぶことは無いわ」

 

 

 ルルの真っ直ぐ力押しでの飛行は未来性が無さすぎる。

 もっと速く飛ぶくらいしか発展の余地がないんじゃないかしら。

 それに比べてまだまだ成長期の私はもっと速く、もっと複雑に、もっと美しく飛べる。

 

 わえわえ言ってるうちにどんどん引き剥がされていくわよ。

 せいぜい足掻いてみることね。

 

 

「なんで急に悪役になったの?」

「あんたと距離を置くって言ってるでしょうが」

「そうだったっけ」

 

 

 それがなに抱き着いてきてるわけ?

 背比べする為にならんだからって──いや背比べするって仲良しかっての。

 

 

「あ。鐘鳴った。数学だー」

 

 

 いつも思うけど、切り替え早いなぁ。

 ほら、さっさと席つきなさい。

 

 

 

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