ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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17 空に近付く

 

 

 

「遅い!」

 

 

 集合場所は以前にも飛行訓練を行った街外れの森で間違いないハズ。

 なのにも関わらず、だいぶのんびり向かった私を待ち受けたのは孤独だった。

 ルルのやつ! 人を勝手に予定へ組み込んでおいて! 遅刻とは!

 

 

「……沈んでたりしないでしょうね……」

 

 

 ふわーっと飛んで、付近にあるヒサ湖へ。

 アガの街で着水できるほどの水場といったらここしかない。

 

 

「あいつ、知らない内に何するか分かったもんじゃないからなぁ」

 

 

 勝手に飛んで、勝手に落ちて、勝手に溺れてたって不思議じゃない。

 計算尽くの複雑な式を構築できようが記憶と応用が凄まじかろうが関係なく、性格上突発的に行動してやらかしかねないのがルル・レヴニールことオル・ガ・ルヴァだ。

 入学以降ちまちまと絡まれ蓄積させてきたお前ゆるさんぞ録からそれは察せられる。

 

 上空で旋回し水面を観察するも目立った様子はなし。

 白鳥が名物のヒサ湖では今日も平和にマガモやホシハジロ、アヒル達が──カモばっかりじゃねぇか。

 

 

「もしかしてこっちにも来てない?」

 

 

 なんにせよ、鳥達を観察するに誰かが墜落したって感じもなさそうだ。

 

 

「じゃあどこに……」

 

 

 もしかして、あいつ忘れた?

 寮に荷物を置きに行って、猫にごはんあげて、のんびりしたら忘れた?

 

 

「ゆるさんぞマジで」

 

 

 そういうこともしかねないのがルル・レヴニールことオル・ガ・ルヴァだ。

 なんなん? マジでなんなん?

 もしかして勝手に服選びまくったの怒ってる?

 しょうがないじゃん。私服持ってないみたいなんだから。

 

 

「もうちょい待ってこなかったら帰ろ……」

 

 

 ふよふよ浮きながら鳥たちの観察をするのは嫌いじゃない。

 むしろそれなりに名前を憶えてる位には好き。

 待ってるついでに趣味の野鳥観察できるなんてなー。

 

 

「……」

 

 

 いや、帰ろ。

 なにやってんだ私。

 そこまでしてルルに付き合う必要なんかないんだし。

 万が一で沈んでたり墜落してたりしたら嫌だから野鳥探すついでにちょっと見渡してたとか、アホじゃん?

 

 

「じゃーねー、カモ共ー」

 

 

 くるっと回って一瞬沈み、反動つけて急上昇。

 

 

「とぉーう」

 

 

 ある高度を稼いで飛ぶのを止め、大きく翼を広げて風に乗る。

 高速だったり曲芸だったり飛ぶといっても様々な種類があるけど、これは滑空という緩やかな落下だ。

 私自身は翼の角度にだけ気を使い、魔力も何も使わず空中を滑り落ちていく。

 

 竜人は翼を持っていながら羽ばたいて飛ぶことはできない。

 空に近く、空に親しい身でありながら、魔力の補助なしに浮けもしないのだ。

 

 だからだろう。

 激しい興奮を求めて素早く鋭く飛ぶのも良いのだけど、たまにこうして自然に身を任せるのもリラックスになる。

 

 

「ふふ、このへん風強くていいね」

 

 

 乱気流に吹かれ煽られても変に力まず落ち着いて、風の赴くままくるくる身体が回転してもそれすら楽しむ。

 しばらくしたら強風も落ち着くので、翼をばさっと広げ直せばまた滑空の再開だ。

 

 

「ただ、落ちてく一方だからすーぐ地面ついちゃうのよねー」

 

 

 翼は竜のものなので飛ぶに最適、でも身体を構成してる主軸が人間なので滑空性能はガタ落ち。

 もうちょっと身体軽ければもっと飛べるかな。同年代の同性別で言えば大柄なのが悪いのかなぁ。

 好きでこうなったんじゃないんだけども。

 

 寮の屋根を超え、玄関近くの真上に来たので翼を畳んで着地。

 ずどんと足首まで埋まっちゃった。やべ。

 

 

「……もしかしてまた体重増えた?」

 

 

 そんなまさか。

 成長期で仕上がるのはいいんだけど、ああでも体重増えるの考えたらんんー!

 飛ぶために軽くなりたい。でも変なダイエットとかはしたくない。

 まぁいっか。通常の飛行に支障が出たら考えよう。

 

 

「ただいま寮長さん」

「あ、おかえりなさい……えっと……」

 

 

 玄関を通って挨拶したんだけど、なんだか歯切れが悪い。

 一体寮長さんどうしちゃったのさ。

 

 

「そうだ。ルル見てない? あいつ、私と待ち合わせしたのに来なくって」

「……それなら、ここに……」

 

 

 受付の窓から中を覗いてみると、部屋の隅の壁際に黄緑色の服が見えた。

 どうやら早速私の買ってあげた服を着てくれているようだけど、そんなところで何をしているんだろう?

 

 

「来てみて」

 

 

 横の扉を指されたのでお邪魔し歩み寄る。

 寮長としての仕事の資料が雑多に置かれた棚の一番下、わざわざ少し開けられたスペース。

 ルルが覗き込んでいるそこには、黒猫がクッションやタオルに囲まれ寝息を立てていた。

 時折もぞもぞと動いている。

 

 

「知ってるかな? うちで飼ってる黒猫の義賊ちゃん。かわいいでしょ」

「……いや寮長、まさかルルのやつ、猫の寝姿に気を取られて……?」

「それもあるんだけどね」

 

 

 寮長の視線がルルの隣を向く。

 近くに小さなお皿が置かれており、その上には猫用のペースト食が沢山乗っかったままとなっている。

 

 

「お年寄りだからもうそんなに食べられないって言ってるのに、心配なのかしらね」

 

 

 小皿の横には秘密が詰まった自身の手帳が落ちており、見えるページには恐ろしいほどの綺麗な文字で義賊の観察記録が残されていた。

 どの食事をどれくらい食べたのか、水をどれくらい飲んだのか、排泄は、睡眠時間は……等々。

 とてつもない執着というか、執念というか、そういった狂気を感じるほどに読み取れるそれは細々と書かれている。

 流石に普段接してる範囲での記録だとは思いたい……。

 

 

「ルル。飛行は?」

「飛ぶの? 飛びたい。わえ、空が好きだから」

「じゃあまず義賊から離れましょ」

「……そうかも」

 

 

 立ち上がって、手帳を仕舞い、小皿を寝ている義賊の近くに寄せる。

 なんだか少し寂し気な雰囲気だ。

 

 

「寮長、こいつ少し借りていきます」

「うーん。うちのかわいいマスコットなんだけど、いいよ!」

「いつの間にわえの所有権移ったの?」

 

 

 そのままの言葉で受け取るな、そのままの言葉で。

 

 

「今日はちょっと飛びなさい。気分転換になるわ」

「んふふ。見過ぎてたけど、そういう日もあるってお母さん言ってた」

 

 

 引っ張って歩き、表へ出た所でルルは手帳を取り出す。

 そして、先ほどまで開いていた超詳細な観察記録をそのまま見せてくれた。

 

 内容が狂気な程に細かいのはさっき見たけど、いやそれにしたって字がすげぇ綺麗。

 まるで教科書の文章みたいに、一文字一文字がはっきり等間隔で並んでいるから読みやすい。

 

 

「お母さん、こういうのいっぱい書いてた。造るには資料と実験と記録が必要だったんだって」

 

 

 研究熱心なお母さんだ。ルルの事だから家にそういうものしか読むものなかったとかありそう。

 ……というか、それだと義賊がなんかの実験されてるみたいじゃん。

 

 

「義賊もお母さんと一緒で式がそろそろ来るらしいから。だからいっぱい書いてお手伝いするの」

「お手伝い? その記録が?」

「うん。わえ、ちょっと役に立ちたい。いっぱい書けるから書いてあげる」

「ふーん」

 

 

 そもそも根本的に単語を履き違えてることについて、いつ言ったものかな……。

 

 

「何書いたらいいのか知らないから、見えること全部書くの」

「……それにしたって、細かすぎない?」

「お母さん全然教えてくれなかったからなー」

 

 

 

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