ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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18 鉄の鳥

 

 

 

 ──せっかく飛ぶのだから練習場所まで飛んでいこう。

 

 そう告げるとルルが両手を広げて背筋を伸ばした。

 あのがらがらうるさい台車を使わず自分で離陸できるようになってたんだ。

 なんだ、光る無意味な装飾の翼を追加しただけの進化じゃないじゃん。

 

 

「……」

「……」

 

 

 で、どう飛ぶの?

 いつものやり方ならそこから垂直に?

 

 

「……」

「……」

 

 

 道端でお互い足を止めたまま無言の睨み合い。

 

 

「……」

「……」

 

 

 ……。

 …………。

 

 

「飛ばないの?」

「飛ばないの?」

 

 

 同時に声が出る。

 こ、こいつ。

 

 まさか……っ!

 

 私に、投げられるのを待ってた……!?

 

 

「ここから無理やりできなくないけど、でもそういう力業は効率悪いから」

「魔力に不安があるなら鍛えなさい」

「そんなこといわれてもー」

 

 

 魔法を使う為のエネルギー、魔力は筋肉と同じだ。

 鍛えれば鍛えるほどムキムキになる。

 細々としたことができないならパワーで押し切れ。

 力こそパワー。

 

 

「知ってる。脳筋ってやつ」

「握り潰してやりましょうか」

「こわい」

 

 

 冗談冗談。

 握り潰したらシミになっちゃう。

 やるなら一片も証拠の残らない超火力で無慈悲に消さないと。

 

 

「ひえー」

 

 

 戯れはさておき、時間が掛かるようならさっさとぶん投げよう。

 そもそもは義賊云々を紛らわせる為に飛ばすんだ。

 てか私だってあの老猫の行く末を考えてちょっと悲しくなっちゃってるし。

 

 両手を広げたままなので、後ろから両脇を掴んで持つ。

 そして、浮く。

 

 

「よっしゃきた……って、あれ。いつもと違う」

「さっさと感覚掴みなさい。自分で飛べるように」

「ねぇちょっと待っ──」

 

 

 ばびゅーん!

 誰もいない直線の道をちょっと浮きながら加速して、徐々に高度を上げていく。

 ルルが台車を使って地面を走ってから空へ向かったのと同じような速度と角度のはずだ。

 この速度を低空で行くと中々にスリリングだね。

 

 

「一気に上げるわよ!」

「わぁーっ!」

 

 

 民家の屋根を掠めないギリギリを通り抜け、一気に上空へ飛び出る。

 

 

「ようこそ。()達の空へ」

 

 

 私を拒む事のない空。

 出迎えるかのように身体を打つ風。

 雲を突き抜けたそこには、地上では見られない眩い太陽の光と空平線が待っていた。

 

 

「どうルル。久しぶりに空を舞う気持ちは」

「酸素が薄い」

「折角案内したのにどんな感想よ」

 

 

 投げ捨てるわよ。今ここで。

 

 

「……」

「あら、今度は沈黙?」

「嫌な気持ちかも知れない」

「散々焦がれた憧れの空でしょうに。もっと喜びなさいよ」

 

 

 とは言ってみたけど、私が見てる限りルルが飛んで遊んでいたのはその辺の樹木を縦に数本分くらいの高さまでだ。

 望みとはいえ、一般人が急に雲の上までくるのは肉体的にキツイのかも知れない。

 しまったな。私はそういう経験なしに空で遊んでたから加減が分からなかった。

 どうするんだっけ。一気に下げるのも危ないって聞いた気がする。

 

 

「わえ、今爆弾の気分」

「でしょうね。頭上から吐しゃ物をまき散らすのは一種のテロよ」

「わえの望みじゃなかったの。重たいものを運ぶのはそういう為じゃないのに」

「何の話?」

 

 

 えぇーっと、酸素欠乏、高山病、症状はー……。

 頭痛と吐き気、重症化すると錯乱や昏睡?

 おいおいおいおい、やべぇ。ルルならいいやって雑に運び過ぎた。

 

 とにかくゆっくり地上へ向かおう。

 そして回復系の魔法使えないから使える奴を探すか医者の元へ行こう。

 認めたくないけどフロレンスが結構高度なレベルで回復使えるから、あいつが見つかればいいんだけど……。

 

 

「空は好き。わえの憧れ。カブトムシがかっこよかったから」

「黙りなさい。酸素無くなって死ぬわよ」

「わえなら大丈夫。でも、嫌なこと思い出したの」

「はぁ?」

 

 

 大丈夫って……まさかなんともないの?

 背中越しで表情が見えないので一瞬手を離してくるっと回し、持ち直す。

 目の前にいつも通りの眠たげな黄緑色の瞳があった。

 ぜんぜん平気じゃん……。

 

 

「みんなも空が好きかなって考えたの。それで作ってみた」

「何を?」

「飛行機。魔法が使えなくたって空を飛べる、魔法みたいな乗り物」

 

 

 以前にルルは「空を飛びたくて色々作った」と言っていた。

 そしてその言葉は「空を飛んでみたかった。乗れなかったけど」と続いている。

 直接本人の口から聞いた訳ではないが、ルルの持つ高度な計算能力が利用され兵器の開発をしてしまったらしい過去も合わせて考えてみよう。

 

 

「ルルはヒコーキを作った。人を乗せる為に」

「うん」

「しかし自身の想いとは裏腹に、人類はそれを武器として使い始めた」

「……わえ、こうして風を浴びて自由な空をみんなに感じて欲しかっただけなのに」

 

 

 つくづく可哀想なやつだ。

 利用されるだけ利用されるなんてね。

 

 

「ドラゴンスレイヤーと一緒。わえの話、分かってくれるなら見せる」

「は?」

 

 

 いや兵器開発だとかの危うい話は確かに反対だけどさ。

 見せるって何?

 

 

「式はそう、わえが得意」

「あ、ちょっ」

 

 

 支えるだけだった私の腕からするっと抜けて、ルルが落下しながら指を振るう。

 普段のぼーっとした雰囲気からは想像できない程に素早く指先を動かし、宙に複雑な線を描いていく。

 落下していく姿を追いながら観察してたけど、ねぇちょっと。これってまさか──。

 

 

「仕上げはわえの言葉。していのきろくをさいせい

 

 

 ──聞いた事のない未知の言語。

 それをルルが口にした途端、周囲の景色が変わった。

 

 

「これは……」

「分かりやすいシーン。わえの嫌いな空」

 

 

 夕焼けのように赤い空と黒い雲。

 しかし、その赤は同じ火でも地面が燃えているせいだった。

 

 

「あれは爆撃機。わえの作った荷物を運ぶ飛行機に爆弾を沢山積んだひどいやつ」

 

 

 ルルの指差す先、そこには鉄でできた樽を幾つも落としていく翼を広げたまま飛ぶ不気味な影があった。

 あれがヒコーキであり、バクゲキキという名の乗り物なんだろう。

 鉄の樽が地面へ当たればそこが弾け、町が、田畑が、そして……人間が焼かれていく。

 命が、散っていく。

 

 

「ひどいよね」

「……ええ。ひどいわね」

「作っちゃったんだ」

 

 

 周囲の景色は変わらないが、私達を打つ風や音は変わらず耳に届く。

 ……まさか、これって……。

 

 

「わ」

「これ、幻影ね。さっさと消しなさい」

 

 

 ルルを捕まえ、自由落下を終わる。

 

 

「流石に気付くわ。落ちてる感覚はすれど、上下の距離が変わらない」

さいせいのていし。──最初に言っておけばよかったかも」

 

 

 頭にある記憶の再生か……。

 中々便利というか、これはこれで世の中ひっくり返る技術というか。

 

 

「怒る?」

 

 

 何を?

 

 

「わえ、あれ作っちゃったの」

 

 

 ……ああ、さっきの「ひどいよね」って、自分に対してか。

 答えにくいな。こいつ自身が()どう言われたいのかなんて察せないし。

 

 

「あんたの信じる神様は、ヴェオはなんて言ってたかしら?」

 

 

 だから逃げる。

 自分のした事には自分で向き合えとか、持って生まれた立場や力とは責任を伴うものだとか。

 そういうの色々言いたいけど、そういう正面から殴り倒す言葉はもっとふさわしい場面がある。

 今はヴェオ(これ)で濁しておこう。

 

 

「ヴェオは……」

 

 

 滑空のように翼を広げ、少しずつ高度を下げていく。

 穏やかな風に混じり、ルルの小さな声が耳に届く。

 小さすぎて答えが聞こえなかった。

 

 

「ったく。気を紛らわせるために飛んだっていうのに」

「そうだね。そうだったっけ」

「義賊も過去も、今はどうだっていいのよ。空はいつでもそこにある」

「それはそう」

 

 

 だから、気の済むまでまずは飛んでらっしゃい。

 着地したのち、がしっと掴み直して持ち上げる。

 やっぱ下手なことせずこのやり方だけしとけば間違いなかったんだ。

 

 

「ねえ。この流れでそれはひどいんじゃ──」

「いってらっしゃーい」

 

 

 ぶん投げ。

 広い空に広がった光の翼はお昼の青空で少し見えずらかったけど、十分に綺麗な翼を象っていた。

 

 

 

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