最近ルルの飛行に付き合ったり地下迷宮でやべーもん見つけたり黒猫義賊の死期を悟って悲しくなったり……。
──ああそうだ、後はルルの過去が思ったより深く暗いものだったりも。
とにかく色々あったけど、これまだルル・レヴニールこと本名オル・ガ・ルヴァと関わり始めてから一ヶ月も経ってない内の出来事なのよね。
こいつと本格的に話したのも入学後からだし。
ルルが発見されたのは半年前。
保護してからはお父様の所というか私の実家というか、そこにいたけど私は会ってない。
色々と立て込んでて丁度その時期は帰ってなかったのよねー。
「何か意見があるひとー!」
「はい!」
頬杖をつきながらぼーっと教室で行われている議論の行く末を見守る。
王立ミズノハラ学園では夏休みの期間中に学生主体で催しものを開催するのだ。
その名も学園祭。アガの街の観光資源が一つ。
「はいルルさんどうぞ!」
「スモークしたい。色の雲、曲芸しながら出したら綺麗だと思う」
「……えっと、劇とかそんな感じ?」
「天気が悪いと困るかも」
「んんー。まぁ一応加えておくか」
ま、そんなもんで学園祭の議論があるから私とルルの関係はいっか。
どうせ竜人と異邦人の立場故、歴史的な観点から仲良くしたってうんぬんかんぬん。
過去を知ろうがどうだろうがそこに揺らぎはない。
「劇は舞台の都合がつくかどうか怪しいから、候補としてね」
「はーい」
「教室で出来ることで何かある人はー?」
他人面してないで私も意見出せって?
いやいや。他のクラスメイト達は初等部から通しで今の高等部まで来てるから行事に慣れてるけど、私は高等部からの参加でまだこの学園に来てから一ヶ月なのよ。
だから様子見ってわけ。
え。
分かんなくともルルみたいに積極的に手を上げろ?
……正直に言えば、例が提示されてないから出せる意見もないの。
「学級委員長、このクラスには他のクラスに無い強みがあります」
「といいますと?」
私の斜め前の男子が立ち上がり、ばっと私を指差す。
躊躇いなく人に指差すとは中々面白い奴だ。
「この教室には、地域で唯一の竜人がいます! 折角だから全面に推し出すべきです!」
学級委員長がてくてく歩いてきた。
ドヤ顔している男子のその指をべぎっとへし折る。
「ちょっと考え直して」
「ぐうぉぉお……っ!」
うわひっでぇ。
人差し指が手の甲にべったりくっついちゃってる。
「……あの、私は別に竜人であることを隠してないし自由にしてもらって……」
「竜人がいるってだけで付加価値があるのに、そこから無意味にやり過ぎるのはナシ」
「そういうもんかぁ」
「竜人が偶々クラスにいて運がよかった、なんて恨み妬みされてもみんな納得しないだろうからね」
どこまでがやっていい基準かが分からないし意見もそこそこにしておこう。
そうだよねぇ。竜人ってだけでレアリティが凄まじいものねぇ。
力を持つ竜人は基本的に各地域にばらけて住まうこととなっている。
理由は単純で、人間じゃ太刀打ちできない存在が群れるとそれだけで各国に緊張を生むからだ。
だから私も年齢を皮切りに地元を離れこうして寮ありの学園へ通い始めたってわけ。
「くそぅっ、だが俺は諦めないぜ……。ドラゴンメイドカフェ……っ!」
呻いている男子の手元にはメイド服を着た私らしき絵があった。
なぜか細かく翼の大きさや尻尾の太さまで指定されており、なんというか、その。
……きっしょっ……。
「やめてっ、そんな目でみないで、なんか目覚めちゃう……っ!」
こいつ指だけじゃなくって全身へし折った方がいいんじゃない?
学級委員長。
……あれ、学級委員長?
「…………メイド服、アリね」
「うそでしょ……」
本来従者が着るような服を竜人たる私ガー、みたいな話ではなく。
そのやべー性癖の詰まったモンを参考にするのが、さ!
「みんな尻尾つける? 翼はいると思う。わえもやってみたい!」
「ルルさんも乗り気ね!」
あと皆さん頭の角の事も思い出してあげてください。
この側頭部から生えて大きく外周回って頬の横に来てる全く無意味な角のことを。
邪魔なんですよコレ。どうせ偽ドラゴンするならこの邪魔さを味わうがいい。
「結果的に竜人を前面に押し出す事になっちゃったけどいいかな?」
クラス中から拍手が巻き起こる。
口笛は歌い、紙吹雪は飛び、男子は涙した。
きみ指曲がったまんまだけど大丈夫なのそれ。
「竜人&メイドをテーマに喫茶店。ただの喫茶店とは差別化できてるし、強みの塊ね!」
かっかっかと黒板にでかでかと超ドラゴンメイド喫茶と書かれた。
なんか追加されてるんですけども。
「じゃあメニュー班と衣装製作班に別れましょう!」
まとめ方はまともなだけにまともじゃねぇ内容が浮いてるなぁ。
「ん! わえ翼を作る。わえは設計得意だから」
「ルルちゃん計算得意だしメニューやってみて欲しいんだけど、……まぁいっか!」
「やった」
「お、俺もメイド服のデザインをさせてください!」
こいつきしょいから私としては断りたいんだけど、でもこいつじゃないとデザインをできないんだろうなっていうのがひでー現実。
「ではアマデオがそちらのまとめ役をよろしく」
「いよっしゃぁあああああああああああああ!!!」
「うるさい」
「ぐぁあああああああ!!!!」
学級委員長怒りの関節技。
男子ことアマデオの右腕はめちゃくちゃな事になった。
うわきっしょ……人の形をしてない……。
「といわけで、本日はここまで! 解散。きりーつ」
今は春。まだまだ夏休みまでは時間がある。
なのでまだまだのんびりできるけど、いやー、今から思いやられるなぁ。
「そういえばわえの案、通らなかった気がする」
「そりゃそうでしょ」
その後の食堂でいつも通り謎屋台を出店したルルはしょんぼりしていた。
案っていうのは、最初に手を上げた時に言ってた話か。
「自分の発言を思い返してみなさいよ。意味わかんないから」
スモークがどうの、色付きがどうの……。
そのうえ委員長に聞かれてもまともな返答してなかったし、無理に決まってんでしょ。
この一ヶ月で鍛えられた私ですら理解できなかったんだから委員長にだって無理よ。
「平和利用できるって証明なのに」
「なにが?」
そもそもルル。今のその出店はなんなのよ。
なにその、腐った牛乳みたいなどろどろの物体。
「やわっこヨーグルトの試作。お母さんの友達が好きだったんだって」
「ふーん?」
「よくわかんないけど、それっぽいの考えてみた」
「い゛」
よ、よく分かってないしそれっぽいて……。
「発酵、菌の管理、植え継ぎ。式で簡略化して作ってできたもの」
「式の秘匿を考えたら人目に触れるぽっぽ焼きの鉄板よりかはマシね。確かに」
「聞かれても式を用いない正規の製造法を答えられる。すごい作戦」
ことんと目の前へやわっこヨーグルトなるモノが置かれた。
白い液体の上にちょっと白い塊浮いてるし、若干濁った感じするし、大丈夫なのこれ。
「一番最初の一号機。世代を重ねるとだんだんもっと良くなる」
「ふーん」
飲んでみるか。
ごくりごくり。
「──はず」
「ぶっ」
はず、じゃないのよ!
完成してから飲ませなさいよっていうか、やっぱ腐った味するし!
雑味が凄い! まずい!
「初代様だからしょうがない」
「言い訳になんないのよ、それは……ッ!」
生焼けぽっぽ焼きの時もそうだけど、まずは試食しろっての!
──あ。
「んゆ?」
というかあんた、作り方知ってるならそれでいいじゃん。
「なにが?」
「学園祭の出し物。他のクラスと絶対被らないわよ。こういうの」
ルルが今までご紹介してくださった憎しみの三品。
ぽっぽ焼きに笹団子にやわっこヨーグルト。
いずれも食えたものじゃなかったけれど、それでもオリジナリティがある。
口に出来ないレベルなのはひとえにルルが料理下手なだけのせいなだけで作り方自体は知っているのだし、喫茶店のメニューへ加える品として今から提案と研究を重ねてみるの、いいんじゃない?
「お祭りには人が来る。目立ちすぎるのもよくない」
「全部似たようなのがこの世界にもあるわ。学生がそれらを発展させた創作料理として紹介すれば角も立たない」
ルルの正体が異邦人オル・ガ・ルヴァなのは秘密だ。
ただ、こうして食堂で時折出店を開いてる以上はこれらを隠し通すのは少し不自然となってしまう。
私なりのフォローだよこれは。感謝しろ。
「……さっきの会議で案出さなかったの、気にしてる?」
「なんのことかな」
しょーがないじゃん。なにも思いつかなかったんだから。
「考える事いっぱいだなー」
笹団子が実現するかはともかく、ぽっぽ焼きは鉄板の過熱方法を炭かなんか使っての物理にすればいい。
やわっこヨーグルト……。うーん。さっき言ってた世代を重ねるっていうのを裏でやって、形になってきたら表へ出す?
みんなには式を使わない方法を開示しておけばいいってのはさっき伝えた通り。
「おぉー。たのしそう」
「材料の手配とかもあるから夏休み手前には完成させられとけばいい。ルルにできるかしら」
「演算中……。……たぶん?」
決まったならさっさと伝えてきなさい。
あの委員長なら上手い事まとめてくれるから。
「なら聞いてくる!」
とたたた、と駆けていく。
さて。
「これであいつと同じ班は避けられたわね……」
目論見通りならメニュー係へ移動するはず。委員長も計算に強いルルを欲しがってたし。
「あ! 竜人の君、共に食事をよろしいでしょうか!!」
あとはこのやべやべやべぇアマデオをどうにか葬るだけなんだけど。
ぅぉああーっ、誰か助けてっ!