「ルルのオリジナル料理、通したんだ」
「まだ本投入できるかは分からないけどね。それにほら、この子って浮いたところあるからこれを機にクラスへ馴染んでくれたら嬉しいし」
「別に気にしなくたっていいんじゃない?」
「学級委員長としての使命!」
「ああ、そう」
後日の学園祭準備。
夏休みまで時間があるとはいえ、作業のできる時間は限られている。
どうしたって学業の傍らになってしまうのでね。
行事ならばちゃんとした学園側が準備期間を用意するだろって?
……あんね、現実はね、色々な板挟みで作られてるの。
「分かる。お母さんもパラドックスを仕込むのが一番手っ取り早かったって言ってた」
「ルルちゃんのお母さんもかわいいんだろうなー。よーしよし」
「んふふふ」
学級委員長、ルルを可愛がるのはそこまでにしてもらってよいでしょうか。
「あらら。彼女が拗ねちゃった」
「わえをもふりたい? わえのもふもふはいつでもこの通り。お母さんの拘り」
「彼女じゃないしもじゃもじゃ癖っ毛はどうでもいい」
手近な所にある帽子をルルへ被せてみた。
三角形が縦に二つ並んで先っぽに丸い飾りの付いた、いかにも道化師ですって感じの帽子だ。
誰だこれ持ち込んだの。
「似てる? 似てる? わえの名その名はルルなりてー」
「きゃールルちゃんかわいいー!」
髪の毛を封印したらしたらで喧しい。
で。学級委員長、料理についてだけど。
「あーはいはい。これ見て」
ぺら、と一枚の紙を渡される考案しているメニュー表のようだ。
上から順に飲み物や軽食と普通なものが並んでおり、最後にルル枠と欄だけがある。
先程の言葉通りならここへ組み入れるらしいが……。
「ぽっぽ焼きは鉄板の大きさに見合った火元を用意できるかが難しくて、やわっこヨーグルトは衛生管理、笹団子は原材料確保と加工の手間がネックなの」
「ふーん……」
もう三枚紙が渡されたので目を通してみると、こちらはルル直筆の料理法のようだ。
相変わらず字が印刷物のような精度なことで羨ましい。
ちゃんと式を除いた正規の方法で書いてはあるが、なるほど……。
「学園側じゃなくって、衛生法的な部分で国側の許可が必要ってところか」
「でしょ? お店じゃなくってあくまで出し物としてだから、難しいところよねぇ」
「わえの案は全然だめー」
「ルルちゃんはかわいいから全然ヨシ!」
「そういう話じゃないと思う」
間接的には私の案もぽしゃってる訳だけども。
しかしやっぱりルルの用意してたものって式で大幅に簡略化してたんだなぁ。
ヨーグルトについても菌の管理が大変だと聞いたことあるのに、ルルはそこを式一つで簡単に解決できるわけだし。
400年前の勇者が白米に合う食品として死の間際まで追い求めた“納豆”なるものは、菌管理の頂点たる存在だという。
菌を育てるにあたって熱や湿度の管理が弱く繁殖が難しいとかの問題じゃない。
納豆菌が強すぎるのだ。
「──。──、──?」
「────。──」
「──!? ──、──……」
曰く納豆菌は全ての発酵物を破滅させるらしい。
醤油や酒といった繊細な現場へ不注意で菌を持ち込んでしまった場合、そこは製造を停止してしまうレベルの被害を受けるのだという。
その為に400年前の勇者は最期まで絶対的な隔離というものを確立できず、志半ばに書き残すしかできなかった。
ただ、そこまで言うのだ。よほどウマいものだったのだろう。私も口にしてみたかった……。
「──ちょっと、聞いてた?」
「ん? ああ、聞いてた。ルルがアホってことね」
「そんな話してない」
ごめんごめん。納豆のこと考えてた。
白米に合うものを思ったらねぇ。
「くいしんぼドラゴンめー」
「だっておいしいんだもーん」
うりうりと委員長が私を撫でる。
うむ。悪い気はしないな。
「わえ造る? 納豆。式を使えば──んむぐ」
「しき?」
おっと、セーフか? 委員長は私を撫でてて聞いてないよな?
確かにルルの式を使えば納豆を降臨させられるだろうけど、今言うな。
「さっきの話をまとめると、ルルちゃん監督でメニュー班の一部で一番現実的な笹団子を試作していく」
「わえ監修なり」
「だから衣装製作班からちょっと引き抜いちゃう。ってわけで、ごめんね?」
「いいよいいよ。どんどん貸してあげる」
「わえの所有権めちゃくちゃ」
ついでにアマデオもいらない?
あいつやる気あるから役立つよ。
「アマデオはねー。変態だからいらないかな」
「いらないー」
ちくしょう。
「あの変態の相手させられるのか……」
「はは……。でも彼、仕事は早いから……」
耐えろってかよぉ。
「わたしもドラゴンとメイドのかっこかわいい組み合わせ、期待してるからさ!」
「しなくていいよぉ」
だいたいみんなかっこいい程度で済ませてるけどさ、怖いでしょこの尻尾も翼も。
尻尾を動かし、背中側にいる委員長を捕まえて持ち上げる。
あんまり器用な真似は出来ないけど、人間サイズの幅ならこうできるのだ。
そして、ここから締め付けることも。
「温かいなぁ! そんですべすべ!」
「あーっ! 次わえ! わえもやる!」
「怖いものなしかお前ら……」
振り回してみる。
空中で離してキャッチ、地面すれすれまで叩きつけるフリ。
「ぐえ。ちょっと酔うわこれ……」
「ん。次、交代して、わえもやりたい」
「怖いものなしかお前ら……」
死へ恐怖とかそういうのないわけ?
「だって本気でやらないでしょ?」
「わえー! わえー!」
「そりゃまぁ、そうだけどさ」
「根が優しい子だから自分の力を恐れてる。それだけだよ」
「わえも! わえもやってー!」
……うるさいっ!
委員長を切り離し、ルルを捕まえ天井付近をぐるぐる回す。
歓喜の声がうざったらしい。窓から放り投げようかな。
「だからさ、ちゃんと名前覚えて欲しいな」
「はあ?」
「わはーっ! むぎゅっ」
うるさいので尻尾の先でルルの口を塞ぐ。途端に大人しくなってくれた。
「わたしの名前呼んでないでしょ」
「そりゃ、まぁ。その、覚えてなかったから……」
「アマデオは覚えてくれてたのに、ひどい」
あいつはほら、仲良くする気はないけど印象深かったしさ。
「仲良くする気ない、ねー」
急に何さ。
「竜人様だからって遠慮せず、もっとみんなと仲良くしてってこと」
「……仲良くした所ですぐ死んじゃうでしょ。みんな」
尻込みしていると言えば、その通りだ。
未だ経験したことがないとはいえ、別れは惜しいのは分かっている。
だからこそ、その時を最低限にしておきたい。
「あのねー。
え。
「まさか名前覚えたみんなの一生を追いかけようと思ったわけ?」
「そりゃあ、そういう訳にもいかないけど……」
尻尾伝いにルルが降りてきて肩に乗る。
邪魔なのでどかし、顔を見て、思い浮かんだのは黒猫の顔だ。
地域の猫全てを把握して、死を悲しむことはできない。
その中でも仲良くなれたほんの一握り、自身の元にいてくれるひとつの為なら。
自身と対象、双方で認め合えた間柄ならば、悲しんでやりたい。
「それじゃあレッスンワン。わたしの名前はなんでしょう」
「なんでしょー」
そっちの喧しいのはルル・レヴニール。
そして学級委員長、あんたの名前は……。
「……」
頭の中を学園へ来てからの思い出が駆け巡る。
入学式、挨拶、地域の集まり、その他にも色々色々──。
「どう。わかった?」
「わかったー」
ふ、ふふ。ふははは。
おーけー分かった。
「それではお答えください、どうぞ!」
「どうぞー!」
学級委員長。
お前の名前は、そう!
「フロレンス・バタイユ!」
「ちっがーうっ!」
記憶の中を探り、学園で知り得たルル以外の名前を思い出してみたんだが……。
どうやら、間違っていたらしい──
「したり顔してないで分かんないならそう言いなさいよ。ねえルルちゃん」
「ねー。わえの名前は覚えて呼んでくれるのに」
それで。
覚えたげるから言いなさいよ。なんていうの?
「では改めまして、わたしはリヴィア。よろしくね」
「わえはルル!」
学級委員長改めリヴィアね。
よし、覚えた。
「アマデオのが先に名前覚えられてたの、悔しいなぁ……」
「悪名の方が覚えやすいからね」
あの変態は悪だ悪。
闇の化身だよ。魔物だ魔物。
フロレンス
「なんか名前を叫ばれた気がする」