ツンデレドラゴン娘と空を飛ぶ話。   作:親友気取り。

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有給取れたから匿名を解除するの巻(旧名:ユウキュウガ…ホシイ…!)


23 剣道(空戦)

 

 

 

「せいっ」

「おっと」

 

 

 先に動いたのはルル。

 ブレまくる重心に振り回される危なっかしい太刀筋だけど、さっき私へ向かって斬りかかってきた時よりも姿勢が安定してきたような気がする。

 色々アレだが学習力はあるんだよな。こういう実践的な部分に関しては。

 

 

「ふむ……」

 

 

 対するフロレンスは慌てず、腰に据えた剣を抜く訳でもなく羽織ったジャージのポケットに手を突っ込んだまま避けている。

 身を逸らし、ステップを踏み、跳んで、あらゆる方法で回避しまくる。

 やる気がない訳ではなくどうやら見定めているようだ。

 

 

「流石は《三英雄(さんえいゆう)》を名乗るだけあるな」

「むむぅ」

 

 

 その称号は自称だけどね。

 ルルの語る三英雄について知らないフロレンスは様子見の方向性を変え、隙をついては蹴り返すようになった。

 ちょっかいを出す程度の、お遊びもいいところ。地下迷宮(ダンジョン)攻略で戦闘に自信があるんだろうけど、それにしたって余裕しゃくしゃくなのがうざったらしい。

 

 

「流石におちょくるのは可哀想じゃないの?」

「そういう訳じゃないさ。見ろ──」

 

 

 中段蹴りの先に刃が置かれ、危うく自傷する寸前で足が止まった。

 

 

「な?」

 

 

 自身から攻撃を当てられないならカウンターを仕掛ける、というのは理にかなっているけど……。

 アホ面しながらやる事が中々えぐい。

 私ならともかく、普通の人間がこれをやられたら次から攻撃を躊躇ってしまいそうだ。

 

 

「禁止されてないことはできる。考えるのは得意だから」

「わかれ」

 

 

 唐突に斬りかかる奇襲や背後からの不意打ち等、そういえばこいつは二回とも躊躇わなかった。

 名乗りから始まる剣道(ケンドー)なのに。

 ──いやルール無視してんじゃん。禁止されてんじゃんそれ。何言ってんだコイツ。

 

 

「んゆ? 挨拶したよ?」

「まさかルルち、一方的にこっそり挨拶とか別タイミングの挨拶を指して言ってるんじゃなかろうな」

「だめ?」

「んんー……。アウトかなぁ……」

 

 

 こ、こいつ、そんな脆弁(きべん)で斬りかかりやがったのか……っ!

 

 

「じゃあ改めて、わえはルル・レヴニール」

 

 

 いやさっきちゃんと“わかれ”から挨拶したよな?

 させたよな?

 もしかして“わかれ”したらそこからやり直しだと覚えちゃったの?

 

 

「理由は何にせよ挨拶は挨拶だ。オレはフロ──」

「──ちぇせうと!」

 

 

 両手を合わせ腰を曲げ、きちっと挨拶をしたフロレンスの頭頂に剣が振り下ろされた。

 がごん。といい音がして場が固まる。

 

 

「かち? 勝った? わえの勝ち?」

 

 

 致命傷とあれば。

 どうかしらフロレンス・バタイユ。

 

 

「……挨拶は神聖不可侵の行為。と、勇者は剣道を広めるにあたってそうしっかり書き残したハズなんだがなぁ……」

 

 

 挨拶中の姿勢のまま、フロレンスが呟く。

 

 

「んゆ? 挨拶、さっきしたからこれは誘うための文句」

「理由は何にせよな……」

 

 

 俯いたままだから表情は分からないけど、これバチクソにキレてるわ。

 とりあえず一旦謝っとけルル。

 

 

「わわ、やめる?」

「そこまでやる気なら乗ってやるぜ。来いよ」

 

 

 姿勢を直した姿にダメージは見受けられない。よって試合続行。

 刃の潰されてない本当の剣ならとは言われそうだけど、それを言うなら私もさっき角で云々した所をやられた判定にされてしまう。

 

 刃が無かろうが剣は剣。鉄の棒。

 この見ため子供なチビっ子フロレンスが悶絶一つせずどう耐えたのかは分からないが、それでも一切ふらつくことなくそこに立っているのは確かだ。

 

 

 

「っ!」

 

 

 にやりと口を歪ませたフロレンスが再びジャージのポケットに手を入れた瞬間、ルルは目を見開きすぐさま後方へ飛び退いた。

 立っていた一瞬後のそこには黒い光線が走り、地面を抉る。魔法で攻撃したらしい。

 破裂する氷の壁以外にも魔法を使えたのか。

 

 

「よく見切れたな」

「……なんか計器がおかしかった」

 

 

 フロレンスが「よっと」と小さく呟くと空中に黒い魔力の球体現れ、真下へ向けて光線を放つ。

 何がどうやって攻撃したかのネタバラシをしているが、さっきの一撃は不意打ちの仕返しだろう。

 だけど、もしかして──

 

 

「どんどん行くぜ?」

「計器は頼れない……」

 

 

 頭上にばら撒かれた球体からは次々と光線が撃ち落とされ、それを掻い潜りながら剣を片手にルルは迫る。

 よく見れば単調な攻撃だ。なんせ球体の真下にしか光線は放たれないし、発射される直前には一瞬とはいえ分かりやすく()()がある。

 冷静に対処すれば当たらないが、今のルルのように相手だけを見て突撃する場合は視野が狭く余裕もないから回避が難しい。

 

 ──やっぱりだ。

 怒った風に見せかけて絶妙な手加減をしてる。

 

 

「せい!」

「当たらんよ」

 

 

 腰を落としたルルの突きは、ふわりと地面を滑ったフロレンスを捉えることは無かった。

 身体を浮かせて地面を軽く蹴り、自然に着地するまで制御はしない。

 これも冷静になれば着地を追える程度の回避だね。

 

 

「それ」

「ひゃっ!」

 

 

 お返しにとフロレンスはステップを踏み距離を詰め、蹴り返す。

 ぎりぎり視界へ捉えることが間に合ったルルは身をよじって何とか回避に成功したようだ。

 

 

「ヴィントシュトース!」

「また風か!」

 

 

 以前にも使用した風の魔法が双方を吹き飛ばし、距離が開く。

 

 

「シュトゥルムヴィント!」

 

 

 すかさずルルが唱えたのは、今まで扱っていた風をより強力にした暴風と言うべき魔法。

 制御ができるのか一瞬不安に思えるほどの膨大な圧力が地面と空気を歪ませながら解き放たれる。

 

 しかしそれはフロレンスを攻撃するためのものではない。

 まるで竜巻が発生したかのように地を揺らすそれは、ルルの身を宙へ射出するためのものだった。

 

 

「地対空は苦手なんだよなぁ……」

 

 

 いつも余裕なフロレンスの焦った声が耳に届く。

 その言葉が本当なら、現在空を飛んでいるルルは大変有利だろう。

 

 

「ヴェオよ!」

 

 

 両腕に風を纏い、低速で空を行くルルが吠える。

 

 

「ドラゴン娘。気が付いたか?」

「ええ、これはもう剣道(ケンドー)じゃないわね」

「そっちじゃねぇよ」

「冗談」

 

 

 線を引き旋回したルルが手帳の切れ端を二つ落とす。

 それらは魔力を帯び、そして鋭く加速しながらフロレンスへ迫った。

 

 

「降りてこいルルち! 一旦やめだ!」

 

 

 手帳の切れ端はフロレンスの頬を掠らせ、地面へ到達すると同時に小さな爆発を起こす。

 

 

「あいつ、闘争心を抑えられてないわね」

「恐慌ってワケじゃないな。もっと根本的な、何らかの意思で動いてる」

「……意志?」

 

 

 地下迷宮(ダンジョン)での戦いの際、魔物の群れを相手にしたルルは非常時にも関わらず縮こまるしかできていなかった。

 その時の言い訳は、戦いたくないや戦争は嫌いといったモノ。

 

 だけど今のあいつの様子はどうだろう。

 勝つためになら手を尽くす、有利な状態から一方的に攻撃をするなんて、戦争屋のすることじゃないか。

 

 いいや、それよりも。

 

 

「あいつ自身、敵を倒すためのバクゲキキとして攻撃してる」

「……戦闘、戦争は回避したい。回避しなければいけない、あいつがそうしていたのはこれが理由か」

「どういうこと?」

 

 

 呟いたフロレンスが両手をついにポケットから引き抜き、空中高くを旋回するルルへ手のひらを向ける。

 

 

「きっとあいつ、勝利するって目的を達する為に最善を尽くし続けるらしいな」

「まさか」

 

 

 両手から大量の光の束が放たれる。物量と追尾性能を両立した魔法も使えるのか、便利だな。

 ──飛行の続行が困難と判断したルルが徐々に高度を落としていき、やがて、私達の目の前に降り立つ。

 

 

「そうだろうルルち。お前、最善を尽くして暴走するから戦いたくなかったんだろ」

「暴走、ねぇ……」

 

 

 指摘されたルルは見て分かる程に動揺して、差し向ける剣の切っ先が震える。

 いや、動揺して震えてるんじゃない。葛藤だ。

 剣をぶつけろ、斬りかかれという行動に対して理性が止めている。

 

 

「スポーツだから楽しめる、と踏んでやってみたら歯止めが効かなくなった。ってところね」

(くだん)の兵器開発も同じ原理で止められなかったんだろうよ」

 

 

 どうなのルル。

 答えてみなさい。

 

 

「……わえは矛盾。パラドックスを内包し、立って思考しここにいる。お母さんがそうした」

「そう」

 

 

 そこも母親か。

 こういうの、声掛けにくいんだよな……。

 

 

「あー、ま。とりあえずもう授業時間も終わるし飯食って帰ろうぜ」

「ねこのごはん──」

 

 

 ルルの状態を察したのが嘘のように口下手な締め方をしたフロレンスが背を向けた瞬間。

 爆発と、悲鳴が轟いた。

 

 

「な、なんだぁ……?」

「ぼんやりしてる暇はない!」

 

 

 フロレンスの腕を掴んで上昇、状況を見る。

 今私達がいる中庭周辺では動揺の騒めきが広がっているだけだけど、ただ事じゃない予感がする。

 というか、爆発音や何かが崩れる音は鳴りやんでいないんだ。緊急事態に違いない。

 

 

「あそこ!」

「おいおいおい、なんだぁ、ありゃあ……」

 

 

 学園の玄関付近で土煙が上がっており、見間違いじゃなければ半壊していた。

 何者かの攻撃か、あるいは事故か。なんにせよ。

 

 

「いってこぉい!」

「助かるけどさぁ!」

 

 

 フロレンス、射出。

 普段からルルをぶん投げているお陰で真っ直ぐ現場へ向かってくれた。

 続いて私しもそれを追いかけ飛ぶ。

 土煙の向こう側、大きな黒い影が見えた。

 

 

「なっ」

 

 

 次に見えたのは巨大な手。

 飛んできた私を捉えんと広げられたその手のひらを殴って止めて、一旦様子を見る為に着地する。

 

 

「なんだこいつ……」

 

 

 鉄の巨体、建物のような大きさの黒豆に手足が生えたような──魔物?

 何でこんなもんが学園へ、このアガの街へ襲撃を仕掛けてきた?

 

 

「推理は後だドラゴン娘! 時間を稼げ!」

「フロレンス!」

「避難が終わるまでだ! 下手に刺激すんなよ!」

「……おーけぃ」

 

 

 なぜこんなのが現れたのかは分からないけど、すべきは分かる。

 鉄の巨体、ルルの見せてくれた鉄の鳥に似た存在。

 

 こいつの興味を引き、竜の血を引く者として守るだけだ。

 

 

 

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